脊髄損傷
脊髄損傷は受傷後半年間で障害の程度がほぼ確定すると言われている。その後も障害が少しずつ改善される事はあるけれど、大きな変化を望むとすれば半年以内が勝負だ。
脊髄の受傷の具合によっては、歩けるようになったり、障害がどんどん改善される場合もあるが、勝も唯も完全損傷で、失われた機能が回復する事はまず無い。
勝に関してはヘソから下は全く動かないし、感覚も無い。
唯に関しては胸から下。腕の動きにも制限があるし、指は少し動くけれど常に軽く曲がっている状態で握る事も開く事も上手く出来ない。
自分の意志ではなく勝手に手や足が痙攣のように動いてしまう「痙性」というものにも苦しめられている。
リハビリは動きに改善が期待出来る箇所に関してはどんどん刺激を与えていくが、動く可能性がゼロに近い部位に時間をかけるよりも、残された機能を最大限に使って、より良い生活が出来るようにする事に重点が置かれる。
外から見える障害以上に2人を悩ませているのが、傍目から見えない障害だ。
排泄障害を初め、感覚神経がやられているので体温調節も上手く出来ないし、二次障害を起こしやすい。
唯は勝よりも障害の程度が重いので、同じ病室で唯が苦しんでいる姿を勝はずっと見てきた。
高熱を出す事もしばしばあった。
勝はそんな唯を見守りながら、時々声をかけた。
「唯、オレが出来る事があったら何でも言ってくれよ。」
唯は気丈だった。
「オレ、曲がりなりにも医者になる為の勉強少ししてきたから、色々覚悟は出来てるんです。
合併症とか。
目に見える障害よりも、目に見えない障害の方がよっぽど怖い。
何も知らずにこんな感じになったら怖くてしょうがなかったと思うけど、覚悟出来てたから大丈夫です。
結局医者になる為の勉強なんて何の役にも立たなかったと思ってたけど、こんな所に活きてくるなんて人生上手く出来てるもんです。
未来に怯えたってしょうがない。なるようになるし、なったらそれを乗り越えていくだけです。」
しかし、「どんなに辛い事も笑顔で乗り越えて行こう」と決めていた唯だったが、障害を負って生きていく現実は厳しいものだった。




