if的転換点《2》
端的に言うと白黒写真のような公園だ。
鬼ごっこには窮屈で、ピクニックには最適という広さ、錆びた遊具が四方に散らばり、公園の外周には背の高い雑草が疎らに伸びている。誰にも使われていないのか、手入れもされていない。中央に聳える欅の木さえ、明白に廃れたという空気を影に落としていた。
公園で約束といえば、当然遊びの誘いだ。俺は運動が苦手なのでもともと気乗りはしていなかったが、加えてこの寒々しさ。先の商業施設で遊んだ方がまだマシに思えるが……。
「今日は逆上がりで勝負しよっ!」
どうにも確固たるアクティブチャレンジ精神は揺るぎそうにない。
「えー、嫌だよ。運動は苦手だって言ってるだろ」
「はぁ、それでも男の子?いい?小さいうちから運動してないと、病気になって死んじゃうんだからね!」
やれやれといった表情で立ち止まったあいつは、俺の目先に指を突きつけてこう説き伏せた。
今日鉄棒をしなくたって死ぬわけないだろうに。
内心毒づきづつも、口には出さない。あいつに歯向かっても、巧みに言いくるめられるか、更なるお小言が飛んでくるか……概してロクなことにならない。
「わかったよ、やる、やるから」
そう言ってぼろぼろのベンチにランドセルを下ろす、と、勢い余って落ちかけた。慌ててどうにか引き寄せ一息つく。
手荷物を下ろすと、腕にできた紐のあとが綺麗なY字を描いているのに気がついた。不思議なこともあるものだなと指でなぞりながらしばらく開放感に浸る。
俺が背伸びをしていると、低い鈴の音が耳に届いた。見ると青とピンクのランドセルが肩を並べている。
「それじゃあ私からね。失敗した方が負けでいい?」
「いいよ」
「いいの?それじゃあ缶ジュースはいただきだ」
「おい待て、缶ジュースは知らんぞ。勝手に奢らそうとするな」
「負けは罰があってこそでしょ?」
「……負けも決まってない」
悪びれもせず、笑いながら鉄棒を握る青葉。
体を慣らすこともなく、持ち前の運動神経でさらりと一回転して見せた。静かな着地、肩まである髪が遅れて滑らかな終着を見せる。
ジュースは奢らないからな。
「次、どうぞ」と言って、ベンチに座るあいつを尻目に、俺は鉄棒に手を掛けた。
近づいて気がついたが、この鉄棒、俺の身長で丁度の高さだ。青葉の身の丈なら隣の低い鉄棒がベストだろうに、どうしてわざわざやりづらい方で回ったのだろうか。
体の動きを再確認しながら、片手間に考えてみる。
……なるほど。俺が苦手だから、言わずして自分にハンデをつけてたのか。気づきたくなかったぞ、その優しさは。
俺の運動不足具合は、女の子に気を使わせるらしい。確かに、俺の逆上がり成功率は調子が良くて二割だ。青葉曰く、身体の引きつけが弱いせいで、回りきっていないらしい。
それに加え、コンディションの問題もある。いつかの開放感などとうに消え去った体は、凝り固まったインドアのそれである。
だからこそ練習するべきだが、一発成功の女の子に言い出せるほど、俺の羞恥心は失われてなどいない。ま、失敗しても体裁は悪い訳だが。
「それじゃ、いくぞー」
「頑張れー!」
今更ながら、自分が柄にもなくやる気になっていることに気がついた。今日は一段とあいつの策略にはまってしまったらしい。…………いやいや。適度な運動も偶には必要だろう。言われなくたって逆上がりしてたさ。
微かな意地と対抗心を原動力に大きく踏み込む。勢いそのまま、何も考えずに流れに身を任せた。
そして俺はーー。