表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
松風に願いを  作者: ひかげ
1/3

プロローグ




 人間のおおよそ無意識に行われる行動は、概して生産性の追求を理念に作用していると思う。


 例えば呼吸ひとつとっても、最適化されたプロセスで生命維持に必要なエネルギーを取り出している。当然、無意識下の活動であって、「今日忙しくて呼吸に疲れたんだよな」「私の特技は呼吸です」なんて話はないわけだ。皆一様になんの疑問も持たず、それでいて極限の運動を日々繰り返している。実に生産的な作業ではないだろうか。



 そこでふと思った。生産性の追求=無意識として概念化した場合、『夢』とはいささかイレギュラーな存在ではないだろうか。



 夢を見る、という行為が何を生み出すのか。吉夢悪夢、見るものによって効果も変わるだろうが、それ自体、睡眠の質を下げる災いのように思うのだ。休息の最中、否応なく望まない世界へと引き込まれるわけで、そのトリップが煩わしくて仕方がない。


 

 ここで、夢の生産性を否定するのは主観的過ぎるかなと思った。午後10時をまわり、既に瞼も半分落ちかけている。しかし、一応の決着はつけたいので、旧友の森本真人(もりもとまなと)にその旨をメッセージで送った。



 これだけ生産云々と思考を巡らせているが、していることは実に非生産的だと思う。さりとて、俺は疑問に思ったことはそのままにしておけない(たち)なのだ。先延ばしにするのも面倒なので、こうして見識の広い友人に助けを求めている。



 幸いなことに、30秒足らずで返信が返ってきた。検索途中のタブを閉じ、手早く文字を打つ。今日も、他愛無い討論が幕を開けたのだった。


 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━



○ やいやい!

  いつもの、ふと思ったんだけどゲームか?



● 変に呼称するな!

  ……ま、そうだけど。それで、どう思う?



○ 今日のは一段と難しいぜ……。

  多少弱いけど、どうにか2つあるぞ。



● 流石真人、早速聞かせてくれ。



○ じゃあひとつめな。夢が自律神経の乱れから生じる危

  険信号だという説がある。目に見えない体内状態を知ら

  せてくれるわけだから回復の促進という点では生産的と

  いえるかもしれねー。



● なるほど……。

  確かに、その警告に準じて生活を改善すれば早期治療も

  可能だな。



○ そゆこと。

  夢を見て寝不足なんてのが典型的な例だが、一見害を成

  しているようで、不調を手早く発見させて、その先数日

  の治療効率を上げてるわけだな。



● でも生活を改めるかどうかってその人の選択次第だし、

  生産性が追求されてるとまではいえないかもな笑



○ まあ、こじつけだけどよ。

  体の不調は怪我だったり熱だったり、痛みや倦怠感を伴

  って発覚する場合が多いけど、夢は即日安らかに提示し

  てくれるから追求された形なのかもなーってな。



● そういう見方もあるか……。

  天才かよ。



○ よせやい笑

  そんじゃふたつめ行くぜー。



● おー。



○ 突飛だが、夢が、神や悪魔といった超自然的存在からの

  お告げって説がある。



● ……俺は神も悪魔も信じてないぞ。



○ そう悲観的になるなよ。

  これはロマン的な回答だぜ、まあ聞けって。



● ……あいよ。



○ 正夢って聞いたことあるだろ?事実と一致してたり、将

  来、それが現実になる夢な。そんなの危険信号でも何で

  もないだろ?



● ま、そうだな……。

  先の説では説明つかない。



○ 神とはいわずとも、何か非科学の影が見えるとは思わね

  ーか?死者の霊とか、宇宙人とか。



● 死者の霊……ねえ。



○ 相変わらず夢がねーなあ。

  もっと面白い考え方を持てやい。



● うるせー。

  にしてもタメになった、ありがとな。



○ おう!

  あ、明日いつもんとこで待ってるぞ。早く来いよー。



● へいへい、おやすみ。



○ おやすみー。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 滑らかに決着がついた。幾分晴れた気分で寝る準備に取り掛かる。歯磨きを終えると、やりとり半ばで電池残量20%の通知が来ていたのを思い出した。自室に戻り、スマホをコネクタに接続する。そのままの流れでベッドに横になった。



 危険信号……超自然のお告げ……。


 真人の話を振り返りながら、目覚ましのアラームをセットする。


 朝が弱いことに関しては誰にも負けないと自負しているため、入念に2分刻みに設定した。音量の確認も済み、明日からの新しい学校生活に嘆息を漏らしつつ、静かに瞼を閉じた。



 おやすみ。



 その後、もともと眠気を我慢していた俺が意識を失うのに、さして時間はかからなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ