表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28

09 覚醒の儀

 ――残り時間4:42


 二人の詠唱が終わると、魔法陣に描かれた白線が光り出した。

 その中、リスティアは魔法陣へと歩み入り、フェニックスへと向かう。


「さあ、フーちゃん、ちょっとがんばろっかー」


 怯え気味のフェニックスを小脇に抱えたリスティアは、赤い宝玉を手に取ると、フェニックスの口元にそれを運んだ。


「はい、あーん」


 宝玉はフェニックスの身体半分くらいの大きさだ。

 明らかに、その小さな口には入りきらないサイズ。

 だが、しかし、覚悟を決めたらしきフェニックスは懸命に口を開く。

 リスティアが躊躇なく押し込むと、宝玉はスルリとフェニックスの体内に消えていった。


 質量保存の法則とか、そこら辺の物理法則を一切無視した、摩訶不思議な現象を目の当たりにし、「まあ、異世界だしなー」とオレがスルーしているうちに、フェニックスは2つ、3つと立て続けに宝玉を飲み込んでいく――。


 このまま何事もなく最後までいくのかと思っていたが、4個目の宝玉を飲み下したところでフェニックスに異変が生じた。


「きゅぃぃぃ」


 力ない声を上げ、ぐったりとしている。

 食い過ぎで動けなくなかったメタボ中年みたいなだらしない格好。

 さっきまでの愛くるしい姿が嘘のようだ。

 端から見ているオレにまでそのツラさが伝わってくる。


 だけど、リスティアさんには一切の容赦がないようだ。


「フーちゃんのーちょっといいとこーみてみたいー」


 無慈悲にも紫の宝玉をフェニックスの口元に近づけていく。


 もうやめて! フェニックス死んじゃうよ!


 フェニックスも必死に首を小さく横に振り、「ムリムリムリ」と自らの限界を懸命にアピールするが――。


「あれー、わたしのー言うことー聞けないのかなー?」


 満面の笑みのリスティアさん――怖いっす。怖すぎっす。


「べつにいいんだよー。してもしなくてー。フーちゃんの自由だからねー。どっちでも好きな方選んでねー」


 その言葉にフェニックスの顔が絶望に染まる。

 そして――すべてを諦めた抜け殻のような死んだ表情で、フェニックスは機械仕掛けみたく口を開いた。


「それー、いっきいっきー」


 リスティアは嬉しそうにフェニックスの口に宝玉を押し込んでいく。

 なんかスゲー生き生きしてませんか、リスティアさん?

 死にかけてるフェニックスとの立場の差が残酷すぎる……。


 なんとか根性を見せて、フェニックスは宝玉を飲み干した。


 フェニックスは頑張った。限界を超えて頑張った。

 赤くフサフサだった毛並みは、くたっと萎れ、両目からはハイライトが失われ、口からは「うぷぅ」とリバース3秒前な状態だ。


 ――もういいよ。オマエはよくやった。後はゆっくり休んでいろ。


 そう声をかけてやりたくなるが――悲しきかな、現実は残酷である。


「ほーら、最後のいっこだよー。フーちゃん、がんばー」


 リスティアが最後に残った銀色の宝玉をフェニックスの顔の前でチラチラと振ってみせる。


 無情な死刑宣告はフェニックスの耳に届いただろうか?

 力尽きぐったりとしているフェニックスはリスティアの言葉になんの反応も示さない。

 しかし、リスティアは言葉を続ける。


「あれー? がんばんないのー? ギブしちゃう? ギブしちゃってもいいよー。ギブしちゃおっかー?」


 フェニックスの身体が反射のようにピクリと震えた。


「でもー、フーちゃん、覚えているよねー。この前ギブしたときのことー」


 それを聞いたフェニックスは勢いよく飛び起きた。

 顔は死んだままだったけど……。


「あれー? いけるのー?」


 全力で首を縦にガクンガクンさせるフェニックスがそこにいた。

 目は虚ろなままだったけど……。


「そっかー、残念だなー」


 いやいやいやいや。

 全然残念じゃないっすよ、リスティアさん。

 当初の予定通りじゃないっすか。

 フェニックスもメチャ頑張ってるじゃないっすか。

 なに、「ギブした方が面白かったのに……」みたいな態度なんすか。

 つーか、ギブするとどうなるんすか?

 めっちゃ気になるけど、怖すぎて聞きたくないっす。

 いや、マジ、リスティアさん、怖すぎっす。


 ――と思わず敬語になっちゃうくらいだった。


「でもさ――」


 そこで言葉を区切ったリスティアは怒りの形相でフェニックスを睨みつける。

 その視線に射すくめられたフェニックスは、この世の終わりみたいな顔してる。

 あっ、やべ……。オレも少しちびっちゃった……。


 そして、リスティアは急に表情を変える。

 慈愛に満ちた、すべてを赦すような笑みだ。

 ワンタッチお着替えのときみたいに、般若から聖女へと瞬時の変身だった。


「わたしにー、手間かけさせたからー、ちょっとオシオキが必要だよねー」


 リスティアさん、笑顔でそのセリフはマジでやめて下さい。

 怒り顔のままで言われる方がよっぽどマシです。

 いや、ほんと、第三者のオレまでガクブル状態って、どんだけですか?

 ほら、実際、当事者のフェニックスなんか口から魂抜け出しかけちゃってるし……。ご愁傷さま。なむ。


「じゃあ、ちょっとキツめのヤツ、一発いっちゃおうかー」


 リスティアは手に持っていた最後の宝玉を大きく振りかぶってから、フェニックスの口に渾身の勢いで叩き込んだ。


「ぎゅい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」


 聞いているこちらの胸が苦しくなる、断末魔のようなフェニックスの悲痛な哭き声が響き渡った。

 フェニックスが無事なのか、どうか……。

 少なくとも、メンタルはバッキバキだろう。

 だが、ともかく、フェニックスはすべての宝玉を飲み尽くした。


 漢だ。ホンモノの漢だ。

 いや、性別知らんけど。

 モフらせてくれなかった恨みで、ちょっとざまあとか思っててスマンかった。

 今では、本気でフェニックスに同情しているぞ。


 つーか、よくよく考えてみれば、あそこでフェニックスに絶望を与えたの、オレのヒロイン役なんだよな……。

 明日は我が身か……。


 知られざるリスティアの新たな一面を知って、オレは戦慄に震え上がった。


「あの調子で躾けたんですよ」


 オレの隣りで黙って成り行きを見ていたイーヴァがボソッとつぶやいた。


「フェニックスは姉上には絶対服従です。聖獣相手にそんなことをするなんて、我が姉ながら本当にアタマオカシイとしか言いようがないです」


 激しく同意だ。

 さっき言われたときは「そこまでか?」と思っていたけど、今なら自信持って断言できる。


 リスティアさん、まぢヤヴァイ!


「じゃあ、最後の仕上げ行くよー」


 リスティアは魔法陣の中央にフェニックスを置くと、魔法陣の外に出る。

 さっきまでとは雰囲気も変わり、真剣な表情だ。


 そして、リスティアは流れるような詠唱を始める。

 イーヴァもそれに合わせて詠唱を行う。


 厳かな雰囲気の中、覚醒の儀式は最後の段階へと至る――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


「――汝、真の姿を取り戻し、盟友として力を発揮なされよ」

「――発揮なされよ」


 二人の詠唱が終わった。

 瞬間、魔法陣を包み込むように浮かび上がった六色の光が遥か高く天空まで立ち上る――。


 一分ほどの短い時間だっただろうか。

 その間、オレは幻想的な光景に見とれ、棒立ちのまま言葉もなく呆けていた。


 やがて――光が収まる。


 そこに現れたのは、直径10メートルほどの魔法陣ギリギリに巨大化したフェニックスだった。

 あの愛くるしいモコモコ姿の面影は、その赤い色くらいしか残されていない。

 大きな翼と長い尾。全身は赤く艷やかな流れるような長毛に覆われている。

 そして、その瞳からは高い知性が感じられた。


 聖獣フェニックス――その名に恥じない神々しい風格だった。


 覚醒したフェニックスは、その翼を大きく広げ、二、三度バサつかせた。

 たったそれだけで、オレはノまれてしまった。


 イーヴァが言っていた「聖獣は人間よりも遥かに格上の存在」――その言葉の意味を、オレはようやく理解した。頭ではなく、本能で。

 さっき自分が気軽にモフろうとしていたなんて、とても信じられない。

 覚醒したフェニックスの真の姿を前に、オレは畏怖のあまり立ち尽くすことしかできなかった――。


 ――ミッション3クリア――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ