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08 屋上

 ――残り時間4:48


 イーヴァが屋上への扉を開けると、眩しい光が差し込んできた。

 暗がりにいたオレはしばし目を細める――やがて目が慣れてきた。


 最初に目についたのは、石床に描かれた大きな魔法陣だ。

 地下の『転移の間』にあったのと同様に白い線で描かれたものだが、サイズは桁違いだった。

 その大きさは直径10メートルほど、線自体も地下にあったものよりも遥かに太い。

 地下の魔法陣はその精緻さに目を奪われたが、こちらはその壮大さに心を奪われる。


「さあ、行こ〜、勇者さま〜〜〜」


 魔法陣に見とれていると、リスティアがオレの手を掴み前に歩き出した。

 今まで先頭にいたイーヴァはオレとリスティアに道を譲り、そっと横に避ける。


「あれ、行かないの?」

「いえ……私はここで……」


 これまでのイーヴァらしからぬ歯切れの悪い物言いだった。

 心なしか顔色もあまり良くなさそう。


「大丈夫か?」

「平気……です…………お気遣いなく……」


 やはり声が震えている。


「いや、全然大丈夫じゃないだろ。どっかで休むか?」

「問題……ありません。それに……時間もありませんので」


 気丈に振る舞うイーヴァだったが、その様子は明らかに尋常じゃない。

 どうしたものかと心配していると、リスティアに強く手を引っぱられた。


「大丈夫だよ〜。イーちゃんは〜フーちゃんが〜ちょっと苦手なだけだよ〜〜」

「お、おう」


 「ちょっと苦手」ってレベルじゃなさそうなんだが……。

 でも、オレの手を引くリスティアの力は思いの外に強く、オレは引きずられるようにして彼女について行った。

 あっ、手のひら暖かくてやわらけー。にぎにぎにぎにぎ。

 たまらん握り心地ですな。


 魔法陣に気を取られて発見が遅れたけど、屋上には他にも小さな石造りの直方体の建物があった。

 リスティアはオレを連れ、その建物に向かってズンズンと歩いて行く。

 建物の正面には金属で補強された木扉があり、丸太くらいの大きな金属製のカンヌキで厳重に閉められていた。

 リスティアはそのカンヌキを軽々とスライドさせ、木扉をためらいなく開いた。


「フーちゃん、出ておいでー」


 その声につられて飛び出てきたのは、ひと抱えの大きさの赤いモフモフだった。

 モフモフはそのまま、リスティアの胸に飛び込んだ。


「きゅいきゅい」

「フーちゃん、いいこいいこー」


 リスティアが優しくナデナデすると、それに反応してモフモフは目を細め、可愛らしい鳴き声をあげる。

 フェニックスを愛でる彼女の緩やかな桃髪が風になびき――とても絵になる光景だった。

 イーヴァの怯える様子から、どんな凶悪なバケモノが出てくるのかと内心ビビっていたけど、なんだよ、かわいいモフモフじゃねーか。


「よしよし」


 オレもモフらせてもらおうかと手を伸ばすと、フェニックスは「ギュイ」と鋭い声を上げて威嚇してきた。


「うおっ」


 咬みついてきそうな勢いのフェニックスのせいで、オレは手元を狂わせ――リスティアのおっぱいをワシ掴みしてしまった……。


「あっ…………」


 リスティアと目線が合う。

 思わぬ事態に固まってしまう。


「ゴメン、わざとじゃ……」

「きゃ〜、勇者さまのえっち〜〜〜〜〜〜〜」


 ハッとしたオレは、慌てて手を離す。

 リスティアはワザとらしく大声をあげたが、これっぽっちも嫌がっている様子がない。

 というか、むしろ、反対の胸を突き出して、こっちも触れとばかりにアピールしてくる。


 自称処女なビッチとピュアなNTR野郎を両親に持つ、どっかのエラいおっさんが「右のおっぱいを揉んだら、左のおっぱいも揉んでおけ」的なことを言っていた記憶があるので、それでは、こっちのおっぱいも失礼しますよ。ちゃんと両方かわいがってあげないとね。えこひいきはよくないもんね。そして、仕上げにふたつとも寄せて両成敗じゃー。

 とオレは反対のおっぱいにも手を伸ばし、じっくりと揉みつくす――そんな根性はオレにあるわけもない。


 さっきみたいな()()()()()()()()ならともかく、自発的に「いただきまーす」てのは、いくら誘われていても、オレにはちょっとムリだ。ヘタレですまん。


 つーか、今までの経験からすると、そろそろ「時間がありません」って冷静なツッコミが入るところなんだけど……。

 相変わらずイーヴァはさっきの場所で縮こまっている。

 オレも触ろうとして威嚇されたけど、基本かわいらしいモフモフなのになあ。

 なにをそんなに怖がっているんだろう。

 以前モフろうとして咬みつかれたトラウマとかかな?

 リスティアには完全に懐ききっているのにな。


 そんな感じでツッコミ役が戦力外状態なので、オレがちゃんとしないと話が進まなそうだ。


「覚醒させるんじゃないのか?」

「え〜勇者さまもっと〜〜〜〜」

「時間がありませんので」


 イーヴァのセリフを真似して無表情で告げてみたら、リスティアは「ぷっ」と吹き出した。

 どうやら、諦めて納得してくれたようだ。オレのモノマネ、結構いけるじゃん!


「じゃあ、フーちゃんちょっと頑張ろうかー」

「きゅ」


 にこやかに微笑むリスティアとは対照的に、その言葉を聞いたフェニックスはリスティアの腕の中で震えだした。


「怖がってんじゃねーか」

「へーきだよねー、フーちゃん?」

「…………きゅ」


 消え去りそうな声で、諦めたかのようにフェニックスが返事を返した。

 どうやら完全に調教済みなのか、リスティアには絶対服従のようだ。


「危ないから〜勇者さまは〜あっちに下がって、見ててね〜〜」


 リスティアはイーヴァがいる階段付近を指差す。


「ああ、任せた。フェニックスも頑張れよっ!!」


 オレは笑顔とともに、フェニックスに向けてサムズアップ。

 これから根性見せなきゃならんのかもしれんが、オレに咬みつこうとしたヤツだ。

 同情はせん。まあ、ガンバレ。


「イーちゃんはコッチおいでー」


 リスティアが手招きするが、イーヴァはフルフルと首を横に振って拒否する。


「私はここで結構です」

「もー、しょうがないなー。まあ、そこでもできるから、いいかー」


 それ以上強く説得する気がないのか、リスティアはさっさと見切りをつけたようだ。

 魔法陣に向かい、小声で呪文かなにかをつぶやき始めた。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 イーヴァの隣まで移動したオレは、彼女に声をかける。


「怖いのか?」

「はい、怖いです」

「あんなに可愛いのに」

「覚醒前ゆえ、あのような姿ですが、フェニックスは聖獣――神の遣いとみなされる神聖な存在です。その気になれば、容易くこの国を消し去るくらいの力を持った存在です」

「そんなおっかねえヤツだったのか……」

「まあ、こちらから約定を破らなければ、そのようなことは起こらないでしょうが」

「約定?」

「建国王と聖獣の間に交わされた契約です。この世界に危機が訪れたとき、聖獣は覚醒し真の力を取り戻す。この契約を代々受け継ぎ、いざというときに覚醒の儀式を執り行うこと。それこそが、我々王家の者に課された使命なのです」

「なるほど。それで、リスティアは今、それの準備の最中と」

「はい、そうです。儀式の直前に手を加えなければならない部分もありますので」


 オレとイーヴァが話している中、リスティアは黙々と魔法陣に白い線やら文字っぽいものを描き加えている。

 道具も塗料もつかっていない。リスティアの指先が白く光り、彼女が指を動かす度に、白い模様が追加されていく。魔法的ななにかだろう。かっけー。


 やはり、こういう場面では、リスティアは真剣な表情をしている。

 ふわぽよもいいが、こっちのキリッってのもいいな。

 一粒で二度美味しいリスティアさんだ。


 そんなことを考えていたら、「3つの顔」っていう教訓話を思い出した。

 どんな話かっていうと――。


 女には3つの顔がある。

 昼は純粋無垢な少女の顔。

 夜は淫らな大人の女の顔。

 翌朝に起きて見るのは、ブサイクなすっぴん顔。


 詐欺メイクには気をつけろ、って話だ。


 まあ、リスティアはほとんどメイクもしていないようだし、メイクうんぬんとか、そういう次元じゃない美人さんだし、そんな心配は必要ないだろう。

 ただ、気になるのは、ふわぽよモードとキリッモード、他に3つめのリスティアの顔があるとしたら、それはどんな顔なのか……。

 それを見てみたいような、見たくないような…………。


 考えに夢中になって黙りこんでしまったオレを、イーヴァが黙って見上げている。

 ああ、話の途中だったな。


「でも、話を聞く限りじゃあ、フェニックスはワリといいヤツっぽいじゃん。だったら、そんなに怖がる必要ないんじゃない?」

「そういう話ではありません。いくら頭では理解していても、本能的恐怖はどうしようもありません。聖獣というのは、我々人間よりも遥かに格上の存在なのです。それを平気で飼い慣らしている姉上がアタマオカシイだけです」

「そういうもんなのか……」


 かわいいモフモフなのになあ。

 つーか、イーヴァの認識だと、ほんとリスティアはただのガイキチキャラだな。

 そういえば、「その人のことを一番よく知っているのは、その人の兄弟」ってどこかで聞いたことがある。

 オレはひとりっ子だからいまいち実感できないけど、イーヴァの言う通りなのかな……。


「他人事のように言ってますが、シズク様もですよ」

「へっ!? オレ?」

「普通はフェニックスを撫でようなんてしませんよ。と言いますか、そもそも、フェニックスがあの距離まで姉上以外の人間を近づけるということが信じられません。やはり、勇者というのは特別な存在なのですね」


 オレまで変人認定されちゃった……。


「つーか、そんなに怖いんだったら、ムリしてついて来なかったほうがよかったんじゃない?」

「いえ、これも私の役目ですので」


 王女としての強い決意があるようだ。イーヴァは前をじっと見据えている。


「描き終わったよー。イーちゃん、そこでいいからスタンバイよろしくねー」


 二人ともワンタッチお着替え。今度は揃ってローブ姿に変身だ。

 イーヴァはドラゴン戦時と同じ地味な白ローブ姿。

 一方のリスティアは、黒地に金糸の刺繡が入っていて、やたらゴージャスだ。ギャルっぽい。ストリベリーブロンドで白ギャルなリスティアはやっぱりカワイかった。


「じゃあ、始めるよー」


 着替え終えたリスティアはフェニックスを魔法陣の中央にそっと降ろし、6つの宝玉をその周囲に等間隔で置いていく。

 それを済ませたリスティアは魔法陣の外へ出て、縁ギリギリに立った。

 その表情がキリッと引き締まる。


 ピンと空気が張り詰める中、厳かな口調でリスティアが唱え始める――。


「キングダム王国第49代目国王ユイチ・キングダムが長女、リスティア・キングダム。我、第一の鍵なり。時は来たり。(いにしえ)の約定に従い、ここに聖獣覚醒の儀を行わん」


 その透き通る凛とした声に、イーヴァの詠唱が重なる――。


「キングダム王国第49代目国王ユイチ・キングダムが次女、イーヴァ・キングダム。我、第二の鍵なり。機は熟せり。古の約定に従い、ここに聖獣覚醒の儀を行わん」

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