06 初戦闘
――残り時間5:12
遥か上空から巨大な竜――アイスドラゴンが急降下でこちらに迫って来る。
最初は小さかったその姿は徐々に大きくなっていき――余裕たっぷりの二人の姫様たちとは対照的に、オレはアイスドラゴンの威容にすっかりビビりあがる。
いくら安全と言われていても、こえーモンはこえーよ。
やべー、ちょーこえー。
ドラゴン、まじやべーよ。
いや、ムリっしょー。
完全にこっちが食べられる側っしょー。
こんなんを相手にするとか、マジムリっしょー。
コレと戦えとか言われんで、ホントよかったよ。
アイスドラゴンは突撃ってレベルの速さで降下しながら、こちらに向かって叩きつけるように白い氷雪のブレスを放ってきた。
リスティアは早々と横に跳躍し、その攻撃範囲から逃れたが、立ち尽くしているオレとイーヴァにはブレスが襲いかかる。
イーヴァから「動くな」と言われていたけど、そんなこと言われなくても、ビビって動けない状態だった。
氷弾を大量に含んだ冷気の塊は、しかし――イーヴァが設置したバリアによって完全に無効化され、中にいるオレとイーヴァにはなにも届かなかった。
「すげーな、おい」
「当然の結果です」
感心するオレだったが、イーヴァは表情を変えすらしなかった。
威嚇するように両翼を大きく広げ、アイスドラゴンはこちらに迫ってくる。
その巨体は優に10メートル以上はある。
明らかに終盤ボスな貫禄が漂う巨躯に向かい、リスティアは躊躇うことなく助走をつけて飛躍する。
数メートルも飛び上がったリスティアは全身を引き絞り、手に持った炎槍を勢いよくアイスドラゴンの胴体に叩きつけた。
槍がアイスドラゴンの身体奥深くまで突き刺さる。
――ギャアアアア。
アイスドラゴンは切なげな哭き声をあげると、糸が切れたように力を失い、そのまま墜落し息絶えた。
「一撃かよ…………」
いとも簡単にアイスドラゴンを屠ったリスティアは、そのまま空中でひらりと一回転。軽やかに着地を決めた。
彼女がひと言唱えると槍と兜は消失し、リスティアは戦闘前の姿へと戻った。
「いえい」
こちらに突き出したVサインとともに、「ひと仕事おえたぜ」みたいな満面の笑みをこちらに向けてくる。カワイイな、おい。
オレがリスティアに見とれているうちに、ブレスからオレたちを守ってくれたバリアが消え去った。
イーヴァが呪文を唱え、バリアを解除したようだ。
バリアさん、マジ感謝。
――とその時、突如、視界前方にステータス・ウィンドウが浮かび上がった。
どうやら、立っていただけのオレもパーティーメンバー扱いだったらしく、アイスドラゴン討伐の経験値によってレベルアップしたようだ。
◇◆◇◆◇◆◇
シズク・サクマ
勇者 LV135
HP 1560
MP 1545
STR 272
DEF 280(+1)
AGI 281(+1)
DEX 224
INT 267
EQUIP
・布の服(DEF+1)
・布の靴(AGI+1)
・勇者の指輪
◇◆◇◆◇◆◇
「って、いきなりレベル135だよ!?」
レベル1からいろいろすっとばして、まさかの3桁レベル。
ひと桁が並んでいたステータスも軒並み3桁だし、HP・MPに至っては4桁だ。
ステータスと装備が全然釣り合っていない。
パワーレベリングってどころじゃねーな。しかも、立っているだけの簡単なお仕事だし。
ここまでくるとチートって言われても文句言えないな。
けど、まあ、イージーモードだし。しゃーないよね。
よし、もう気にしない。
などと自分を納得させていると、いつの間にかアイスドラゴンの屍体は消え去っていて、その場所には大きな宝箱が現れていた。
「さーて、お楽しみのドロップ品チェックの時間だー」
ゲームやってて一番ワクワクする瞬間だよね。
ちなみに、二番目は新しいスキルや装備品の性能を試すとき。
異論は認める。
開き直ったオレは、どうせならイージーモードを楽しみ尽くしてやろうと、自ら率先して宝箱に歩み寄り、いそいそとその箱に手をかけた。
最初に視界に入ってきたのは立派な兜だった。
「おお、キタコレ」
「『勇者の兜』――シズク様専用の装備品です」
「勇者さま、かぶって〜」
リスティアからのリクエストがなくても、ハナからそうするつもりだ。
異世界に来て、初めての勇者らしい装備アイテム。
オレの個人的な好みとしては、できれば最初は剣とかの方がよかったけど、まあ、ゼータク言っても始まらん。この兜自体は十分にカッコいいし、なんの文句もない。
いやあ、テンションあがるなあ。
そう思いつつ、手に取った兜を頭に被せ――その重みに耐え切れずに、オレは地面に倒れこんだ。
「残念ですが、まだ装備可能レベルに達しておりません」
「どんまい、勇者さま〜」
――どうやら、オレの勇姿をお見せする機会は、しばらく先延ばしのようだ。
さて、気を取り直していこう。
宝箱の中には兜の他にも、手のひらサイズの青く透明な宝石のような、クリスタルのようなものが入っていた。
「これは?」
オレはそれを手に取り、イーヴァに尋ねる。
見た目よりはずいぶんと軽かったが。状況的に重要なイベントアイテムだろうな。
「青の宝玉です。後のイベントで使用しますが、今は詳しく説明している時間がありません。シズク様が度々盛大なボケをかまして、無駄な時間がかかっておりますので」
イーヴァが無表情かつ平坦な口調で、オレのハートを抉ってきた。地味に傷つく。
はいはい、氷で滑ってコケたり、兜かぶってコケたり、足引っ張ってるばかりですみませんね。
なにせ、こちとら、勇者になってからまだ一時間もたってないから、いまだにパンピー気分が抜けてないんすよ。
カッコいいところなくて、ごめんなさいね。
きっと魔王と戦う頃には、勇者の貫禄とかビンビンなはずだから、乞うご期待で。
予定では5時間後くらいらしいけど、大丈夫か、ほんと…………。
そんな感じで落ち込みながらも、イーヴァにうながされ、青の宝玉とやらをリスティアに手渡した。
受け取った宝玉を胸の前で大事そうに抱えたリスティアは「きゃ〜、勇者さまからのプレゼント〜」と嬉しそうに浮かれている。
ホント、この子はブレないな……。
出会った当初からオレへの好感度MAXで。
オレがなにやってもべた褒めで。
今まで誰かからこんなに好かれたことがなかったから、どう接したらいいのか戸惑ってしまう。
でも…………。
リスティアが好きなのは、オレなんだろうか?
それとも『勇者』なんだろうか?
まあ、旅を続けていくうちにそれもはっきりするだろう。
魔王討伐後にどうするかは、それが分かってから決めればいいさ。
今のうちはゲームみたいなもんだと思って、割りきって目一杯楽しんでやる。
そんなふうに思いながら、オレたち三人は王城へと戻っていった。
そして――残りの3匹のドラゴンも同じ様に、リスティアが一撃でサクッとやっつけちゃいました。
もちろんオレも「立っているだけ」の八面六臂な大活躍だった。
――ミッション2クリア――
◇◆◇◆◇◆◇
――残り時間4:57
というわけで、2つめのミッションをクリアしたオレたちは王城地下にある『転移の間』に帰ってきた。
「ドラゴンっつーから最初はビビってたけど、案外たいしたことなかったな。実は見掛け倒しのショボいヤツらなんか?」
「そんなことはありません。彼らドラゴンはこの世界でも上から数番目という強さの存在です。ただ、姉上がそれ以上に強すぎるというだけなのです」
「いえい」
当の世界ランカーはドヤ顔Vサインだ。
まあ、あんだけ強ければドヤりたくなる気持ちも分かる。
オレだったら絶対に調子に乗ってるな。
「姉上は2ジョブカンストという頭のオカシイ、もとい、ケタ外れの存在なのです。間違いなく人類最強です」
今の言い間違え、絶対にワザとだよね。
ドヤッとしてるリスティアにイラッときてるよね。
表情には出していないけど、隠しきれてないよね。
「勇者さまのために〜レベル上げ頑張ったよ〜〜」
「褒めて褒めて」と世界チャンピオンがこっちに擦り寄ってくる。
その姿が肩書きにまったく似つかわしくないほどカワイかったので、オレはその頭をナデナデ。
つーか、ホントさらさらふわふわで極上の触り心地だ。いつまでも触っていたくなる。
こんな小さくて細くてカワイイ女の子が人類最強とか、まさに異世界ならではだな。
「それにしても完勝だったよな。むしろ噛ませ犬だったドラゴンたちに同情したいくらいだったな」
「今までいっぱい倒したからね〜」
「そうですね」
「いっぱい倒した?」
頭ナデナデでご機嫌中のリスティアが発した言葉に違和感を覚えたので、オレは問いかけてみた。
「彼らドラゴンは――火・水・風・土――四属性の守護者という概念的存在なのです。一時的に倒すことは可能ですが、その存在を殺しきることは不可能なのです」
「そうだよ〜。だから、倒しても次の日には復活しちゃうんだよね〜」
「その性質を利用して、トライアル&エラーで最速攻略法を確立したのです」
「だから、こんなスムースにいったのか」
オレは納得とともに感心した。
「ふたりで考えたんだよね〜」
「いいえ、ほとんど姉上の独力です」
今までリスティアのことは、アホの子だと思っていた。
だけど、今の話といい、戦闘中は別人になることといい――。
「もしかして、リスティアは戦闘に関しては天才とか?」
「いいえ――」
だが、イーヴァはオレの言葉を否定した。
「天才などではありません。姉上はこう見えて、努力の人なのです。それも、とびっきりの。そうでないと、2ジョブカンストなんてアタマオカシイこと出来るわけありません。しいて言うのであれば、努力の天才と呼ぶのが適切でしょう」
「そうか、頑張ったんだな」
あ、ついにアタマオカシイって認めちゃったよ。
でも、まあ、オレのために努力してくれたのか。
オレは手に力を込め、リスティアの細い髪をワシャワシャにする。
柔らかい桃髪は心地よく手に絡みついてきた。
その行為にリスティアは「あはは」と照れたようにモジモジとしてる。
ええい、カワイイわ。ついでに、ほっぺもツンツンだ。ほっぺ柔らけえ〜〜。
「それだけではありません。姉上は最近は忙しい合間を縫って、毎日一人でドラゴン狩りをしていたのです。なので、本来なら姉上一人でも十分なくらいなのです。私は万が一のためについて行っただけです」
オレはあらためて感心した。
今の会話でリスティアの印象がだいぶ変わった。
どうやら、見た目通りのただの「ふわぽよ」ってわけじゃなさそうだ。
勇者への好感度MAXで、そのために努力する頑張り屋さんなのか……。
世界を救うために献身を厭わない聖女なのか……。
それとも――。
「姉上はそれくらい本気なのです――」
熱のこもった視線を向けるイーヴァは、少し長めの間を空けてから続けた。
「シズク様、どうか姉上の気持ちを理解してあげて下さい。そして――救っていただけないでしょうか」
「ああ、わかったよ」
リスティアの頭をナデ続けながら、オレは深く考えずに返事した。
だけど、イーヴァの言葉の本当の意味をオレが理解したのは、すべてが終わった後だったのだ……。




