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03 初仕事

 二人の姫様に先導されたオレは、謁見の間を離れ、城内の廊下を歩く。

 そういえば、王様と王妃様には挨拶すらしていなかったな。

 二人ともオレと姫様たちのやり取りに口を挟んでくることもなく、穏やかな微笑みとともに暖かく見守っている感じだったし、オレのことは娘達に任せきっているんだろう。

 勇者とか、魔王とか、国の一大事だと思うんだけど、それでいいのか?

 まあ、情報がほとんどない現時点では、考えてもムダか。


 ちなみに、王妃様はリスティアと同じ桃色がかったウェービーな金髪で、顔のつくりもリスティアにそっくりだったが、ふわゆるぽわーんな娘とは対照的にしっとりと落ち着いた熟年の色気を身にまとっていた。


 そんなことを考えながらしばらく歩き、たどり着いたのは十畳ほどの小部屋だった。


「お待ちしておりました。準備はそちらに整っております」


 口を開いたのは室内に控えていた騎士っぽい格好の女性だ。

 立派な鎧に全身を包み、腰には剣を佩いている。

 ショートの赤髪とシャープな顔立ちが凛々しい、オレより少し年上くらいの美人なお姉さんだった。この世界顔面偏差値高すぎる。


「ご苦労です」

「ラーちゃん、おつー」

「では、小官は任務に復帰させていただきます」

「頼みます」

「いてらー」

「勇者殿、失礼致す」


 一礼とともに颯爽と立ち去っていった女性騎士の通称ラーちゃん。

 いかにも武人な立ち居振る舞いがカッケーなあと彼女の後ろ姿に見惚れていたら、頬を柔らかい指でキツく摘まれた。


「も〜、浮気はダメだよ〜」

「いや、そんなんじゃないって」

「いいわけむよ〜」


 浮気もなにもあったもんじゃないだろ、と思ったけど、頬が痛いからとりあえず謝っておこう。

 まあ、リスティアもほっぺをぷくっと膨らませて怒ってますポーズを取ってはいるけど、本気で怒っているわけではなさそうだ。


「ごめんごめん」

「も〜、ダメだからね〜」

「はいはい、気をつけます」


 案の定、リスティアは簡単に許してくれた。

 なんか、こんなやり取りもイチャイチャしてるみたいで、オレとしては結構楽しい。


「姉上、時間がありません」

「あー、そーだったねー」


 だが、そんな楽しい時間も、イーヴァのひと声で中断された。


「シズク様。早速ですが、勇者としての初仕事です」


 おっ、いよいよかと思い、オレはゴクリとつばを飲みこんだ。

 我ながら結構緊張しているようだ。

 さて、なにから始まるんだろうか。


「それでは〜、お待ちかねの〜、勇者さまの〜、おっきがっえタ〜イム〜〜〜〜〜」

「へっ?」


 気の抜けるような口調で告げられ、脱力したオレは思わず情けない声を上げてしまった。

 あっけにとられるオレを余所に、四本の細い手が伸びてくる。


「ちょ、まっ」

「イーちゃんだめだよー、わたしが全部やるんだからー」

「時間がありませんので」


 嬉々としてセクハラ気味なボディタッチでせまるリスティアと、淡々と事務的に攻めてくるイーヴァ。

 対照的な二人によって、Tシャツ&デニムパンツ姿だったオレは、あっという間にひん剥かれてしまった。

 ちなみに、オレの必死な抵抗によってトランクスだけはなんとか勘弁してもらえた。

 オレのトランクスを狙うリスティアの目が、完全にエモノを前にした肉食獣のソレだったから、ちょっと怖かったよ。


 そういえば、着ていた服装と思い出せる記憶から判断するに、オレの召喚が行われたのは、どうやら古本屋でのバイト中、いつものようにカウンターでうたた寝をしてた際のようだ。

 古本屋の店員はオレだけ。店長のジジイは店をオレにぶん投げて恒例のパチ屋通いだ。

 今頃あの店どうなってんだろ?

 まあ、客なんてほとんど来ないから、きっと大丈夫だろ。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 というわけで、初仕事は無事完了いたしました。

 まさか、異世界に来て勇者としての初仕事がこんなんだとは、想像もしていなかったよ!


 ちなみに、今着ているのは女騎士ラーちゃんが用意してくれていたもので、ファンタジーRPGの初期装備みたいな布の服だ。


 いや、オカシイだろ?

 オレ、勇者だよ?

 これから魔王を倒しに行くんだよ?

 どう考えても対スライム用装備だろ、コレ!!


「なあ、もっとちゃんとした装備ないのか?」

「大丈夫だよ〜。その格好も似合っているよ〜。勇者さまカッコいい〜〜〜」

「時間がありませんので」


 リスティアは気にしてるところがズレているし、イーヴァにはお馴染みの言葉で流された。

 はあ、言うだけムダか……。


「シズク様の所持品はこちらで厳重に保管いたしますので、ご安心ください」

「ああ、任せた」


 所持品っていっても、バイト中に召喚されたから、ポケットに入っていたスマホ、財布、家の鍵くらいだ。

 貴重品っちゃー貴重品だけど、こっちの世界じゃ全く使い途がないから、帰るときに返してもらえればなんの問題もない。

 むしろ、途中でうっかり落とすなんてマヌケなことになるよりは、厳重警備な城の中で保管しておいてもらった方がよっぽど安全だろう。


 そう思って任せたのだが……。


 リスティアさん、オレが着ていた服に顔をうずめてクンカクンカしながら蕩けたような表情で「えへへ、勇者さまのにおいだあ〜〜〜」とかつぶやくの、恥ずかしいからマジでやめてもらえませんかねえ。全然安心できないんだけどっ!!!


「次はこれです」

「あー、だめー」


 イーヴァが取り出した銀色に輝くソレに、リスティアが飛びついて奪いとった。


「それはわたしの役目なんだからー。はい、勇者さま、左手出して〜」


 言うやいなや、オレの手を取ったリスティアは、オレの左手薬指にソレ――指輪を嵌めた。


「きゃ〜、やっちゃいました〜〜〜」


 止める間もなくつけられちゃったけど、もしやこれって……。


「『勇者の指輪』です。それを装着することによって、シズク様は勇者の能力を発揮できるようになるのです」


 そうだよな!

 RPGの装備アイテム的なモノだよな!

 嵌められた場所が場所だけに、そういう意味かとちょっと焦ったけど、たまたまだったんだよな。


 うん。安心した――――って、リスティアの方を見たら、「あとは、勇者さまがわたしに……」とかブツブツつぶやきながら蕩け顔でトリップ中。


 全然安心できねえ!


 ……まあ、深く考えるとアレなんで、ここはスルーの方向で。


「でも、その割にはなにも変わったようには思えないけど……」


 『勇者の指輪』と言われても、急にチカラが漲ってきたとか、そんな風に強くなった感じはまったくしない。


「まだレベル1ですから」


 イーヴァがカードサイズのプレートを差し出してきた。

 薄い金属でできていて頑丈そうな、そのカードを受け取る。

 眺めてみると、先ほどの契約書にあったような見慣れぬ文字でなにか書かれている。


「これは?」

「『勇者カード』です。シズク様のステータスが記載されております」

「…………読めないんだけど」

「後で詳しく説明いたします。今は――時間がありませんので」


 すげー気になるところだけど、またもや、お約束の言葉で却下された。


「そして、最後にこちらを」


 手渡されたのは小冊子だった。

 その小冊子はA4サイズのコピー用紙をホッチキスで止めた薄いもので、その表紙には


『勇者さま専用攻略ガイド Vol.1 ―地上世界編―』


 と可愛らしい手書き文字で書かれていた。

 なぜオレにもそれが読めたかというと、日本語で書かれていたからだ。


 この世界には違和感バリバリのその存在にオレが戸惑っていると、いつの間にか復活したリスティアが得意顔で横から覗き込んできた。


「わたしが作ったんだよ〜、これ〜」


 犯人はオマエかー、と心の中でツッコみつつ、ため息をついて気分一新。


「この『攻略ガイド』に従って、魔王を封印していただきます。所要時間は6時間もかかりません。というか、6時間以内に封印しないと世界は滅亡してしまいます」


 いきなりシリアスなことを伝えられ、オレはゴクリと唾を飲んだ。


「とはいえ、難所はこちらでクリアしておきましたので、特に困難もないかと思われます」


 イーヴァが簡単そうにそう告げる。

 オレはホッとした。


 さすがはイージーモード。ファミコン時代RPGのRTA並の所要時間。

 めんどくさがり屋のオレにはうってつけだ。

 あんま長いと、途中で飽きちゃうからな。

 よし、ちゃっちゃとクリアしちゃいますか。


 そう思い『攻略ガイド』をパラパラめくろうとしたが、ページ同士がくっついているのか、最初のページしかめくれなかった。


「あれ?」

「ネタバレはだめだよ〜〜」


 リスティアの説明によると、ネタバレ防止のために、「次にやるべきこと」までしか読めなくないという、ムダに凝っている仕様だそうだ。


 ともあれ、オレが次にやるべきことは――。

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