28 エピローグ
最終話です。
見慣れた天井だ。
「……帰ってきたのか」
住み慣れたアパートの薄汚れたベッドに寝っ転がって放心したまま、オレはしばらくの間動けなかった。
ベッド脇のデジタル時計に目をやる。
午後8時。日付も替わっていない。
バイト先でうたた寝したのが午後2時頃だった記憶。
だいたい6時間経過してるから、計算は合う。
ほんとに異世界に行ったんだろうか?
それとも夢を見ていただけなんだろうか?
そればかり気になって、「バイト先がどうなったか?」という問題はすごくどうでもよかった。
あらためて自分の格好を確認する。
昼間のバイト時と同じ格好――Tシャツ&デニムパンツ――そのままだ。
持ち物は――――やっぱりない。
異世界で預けたはずのスマホ、財布、家の鍵、みんなない。
バイト中はポケットに入れてたはずなんだけど…………。
なにか、異世界に行ったと証明できる品はないかと、ポケットをひっくり返すが、ポケットの中は見事に空っぽだった。
「うおおおおおおおお、めんどくせええええええええ」
なくした貴重品の数々。
それにかかる手続きのことを考えると、とたんに面倒くさくなって、俺はベッドに倒れ込んだ。
「世界を救った勇者様に、この仕打ちはあんまりだぜ…………」
打ちひしがれ、本気で凹む俺。
「はあ、ほんとにやったんだよな?」
未だに現実感がない。
俺が世界を救ったのか?
たった半日じゃ勇者やってたって実感がまったくない。
ほとんど後ろついて歩いてただけだもんな。
でも――最後はちゃんと俺がトドメを刺したんだよな。
魔核に剣を突き刺した感触はちゃんと両手に残っている。
「明日からどうしよ」
疲れたから、今日はもうこのまま寝ちゃえ、とそう思った時――。
ピンポーン。
間の抜けたチャイムの音が狭い部屋に響いた。
誰だよこんな時間に。
通販は頼んでいないし、某国営放送か?
いずれにせよ、今はそんな気分じゃない。
ベッドに寝転びシカトだシカト。
ピンポーン。
しつこいヤツだな。
こっちは異世界救ってきて疲れてんだよ。
オレは枕で遮音し、居留守を続けた。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ええーい、うるさいなあ。
でも、出ないでシカト続けてたら、あっちもそのうち飽きるだろ。
そう思い、オレは居留守を続行。
ドンドンドンドンドンドン。
今度はドアを叩き始めた。
なんだよ、おい。
オレがなんか悪いことしたのかよ。
「お届け物です〜」
女の声だ。
若い女の声だ。
普段だったら、喜んで飛んで行くところだけど、今は失恋したてで傷心中。
とても、そんな気分にならなかった。
つーか、なんか聞き覚えがある声だな……。
「あれ〜、いますよね〜? 出ないんですか〜?」
じっと息を潜め、居留守を継続。
「じゃあ、開けちゃいますね〜」
ガチャガチャガチャ。
「おい、こらっ――」
鍵をガチャガチャする音に、さすがにオレは飛び起きて、玄関に向かう。
しかし、オレが触れる前に、ドアは開かれた。
「こんばんは〜お届け物です〜」
「なっ!? はっ!?」
目の前に立っている人物を見て――オレは固まった。
「あれ、どうしたんですか? わたしの顔になにかついてます?」
「……………………リスティア!?」
「はい、そうですよ。リスティアちゃんがお届け物に参りました〜」
そう、ドアの外に立っていたのは大きな鞄を手に下げたリスティアだった。
完全無欠のドレス姿、まごうことなきキングダム王国第一王女がそこにいた。
「なっ!? どういうこと!?!?!?」
「だから〜、勇者さまが忘れ物したから、わざわざ届けに来たんだよ〜」
「忘れ物? って、もしかして!?」
「はい、そうですよ」
リスティアが鞄から取り出したのはオレが居世界においてきたと思っていたスマホ、財布、家の鍵の貴重品3点セットだった。
「うおおおおおおおおおおお」
オレは飛び上がって喜んだ。
こんなに嬉しいことは中々にない。
一気にネガティヴな思考がどっかへ飛んでいった。
「いやあ、リスティア、ほんとありがとう」
「いえいえ〜」
「わざわざ届けてくれるとは思わなかったよ。ていうか、よくこっちに来れたな」
「ええ、ちょっと神様に頼んで」
「はっ!? マジ!?!?」
まあ、神様ならそれくらいお安い御用なんだろう。
なんにせよ、貴重品が返ってきたのは助かった。
よし、これでオレの冒険も無事に終わったわけだ。
リスティアともっと話していたいところだけど、そうすると余計に別れが辛くなる。
リスティアの心の中には惚れた相手がいるんだ。
綺麗サッパリお別れしよう……といきたいところだけど、ひとつだけ気になったことがある。
「なあ、リスティア。さっき鞄からオレの鍵を取り出したよな?」
「うん。そだよ〜。それがどうしたの?」
「じゃあ、どうやって鍵開けたんだ?」
「合鍵だよ」
「合鍵ぃ!?」
「うん。ほらほら」
リスティアはどこからか取り出した合鍵をフリフリして見せつけてくる。
「いつの間にそんなん作ったんだよ」
「ゴラスに作らせたんだよ〜」
「あっ……」
確かに思い当たるフシがある。
鍵職人ゴラスの頬を札束でぶん殴って『究極のカギ』をゲットした後、オレは一人外で待たされた。
その時はきっとオレに見せられないお説教(婉曲表現)でもしているのかと思っていた。
まさか、その間にそんなことしてたとは……。
まあ、5分もかからずに現代日本のカギを複製できちゃうあたり、腐っても凄腕鍵師なんだな。
その腕だけは評価できる。
人間的にはサイテーなヤツだったけど。
「はいっ」
オレは手のひらを差し出し、カギの返却を要求する。
「はいっ」
リスティアはワンコがやるみたいに、お手をしてきた。
「いやっ、そうじゃなくて。返してよ」
「え〜、やだ〜」
リスティアが可愛らしく渋る。
しゃあねえな。
どうせ、リスティアはあっちの世界に帰るんだから、合鍵を悪用されることもないだろう。
鍵の疑問も解消したことだし、さっさとお別れするか。
「ありがとな、リスティア。気をつけて帰るんだぞ」
「いやいやいや、違うでしょ〜」
「ん? なにが? 忘れ物届けに来たんだろ?」
忘れ物はすでに受け取った。
これ以上ここにいる理由はないだろ。
「ここは、『あがってお茶でも一杯どうだ?』って場面でしょ〜」
プンスカと膨れ顔のリスティア。
「いや、だって、それはマズいだろ」
男の一人暮らしに上がり込むのは問題だ。
「だって、その…………」
「もう。そうやって話を最後まで聞かないの、勇者さまの悪いところだよ」
叱られた。
年下の女の子に叱られた。
「もう、上がっちゃうよ〜」
オレが制止する間もなく、リスティアはオレの部屋に入り込んでしまった。
「おっじゃましま〜す」
「じゃあ、そこ座れよ」
仕方ない。
追い返すのもなんだし……。
オレは椅子を指し示した。
だけど、ルンルン気分のリスティアはベッド近くに鞄を置くと、そのままベッドへと華麗にダイブを決める…………。
「わ〜、勇者さまの匂いだ〜」
オレの枕に顔を埋めるリスティア。
国民が見たら卒倒しそうな痴態を晒している。
「なんの用なんだ?」
リスティアのフザケた態度に騙されてはいけない。
リスティアはそんな単純なヤツじゃない。
わざわざ雑談するためにこっちの世界に来たんじゃないだろう。
なんかしらの思惑があるはずだ。
オレは少し警戒する。
オレが椅子に腰を下ろすと、リスティアも上体を起こしベッドに座り込んだ。
「だから、最初に言ったでしょ?」
「最初?」
「お届け物です〜」
「それなら、もう受け取ったけど」
「もうひとつあるでしょ〜」
「もうひとつ?」
なにか、忘れてきたものあったか?
オレが持って行ったのは、あの貴重品くらいだったけど……。
リスティアはそれには答えず、違う質問で返してきた。
「ねえ、勇者さま、なんでさっさと帰っちゃったの?」
「そりゃあ……………………」
失恋したから、帰りました。と正直に言える勇気はオレにない。
思わず、言い淀んでしまう。
「わたしの話はまだ終わってなかったのに〜。人の話は最後までちゃんと聞かないとダメだよっ」
また、言われた。
「なんか、すいません」
腑に落ちない点もあるが、とりあえず謝っておいた。
クレーマー対処と同じだ。
とりあえず謝って、相手の語りたいように相槌を打っておけば、それで大体解決する。
「もう」
ちょっとご立腹気味だった。
「あのね、さっきの話の続きを言うね」
「うん」
「好きな人が出来たって言ったでしょ」
「ああ」
あらためてその事実を突きつけられると、胸が痛い。
分かってはいたけど、まだ割り切れるほどの時間がたっていない。
「ヒマを見つけてはその人のことを見てたの。最初はパッとしないかなって思ったんだけど、見ているうちにだんだん惹かれていったんだ」
「…………ああ」
相槌を打つだけでも心が苦しい。
「その人はね、決して無理しないの。最初はただの物臭なのかなって思ったの。でも、違った。その人はね、優しいんだよ。優しすぎるんだよ。誰かと争って何かを手に入れるくらいなら、それを諦める。誰かを傷つけてまで、自分が幸せになりたいと思わない。それに無理して何かを手に入れようとしない。自分の身の丈にあったものしか求めない」
「……………………」
「自分の手に負えないものはキッパリと諦めるんだよね。その代わり、自分の手に収まることはきっちりとやり遂げる」
「……………………」
なんで好きな子が他の男について語るのを聞かなきゃいけないんだろうか。
聞いているだけで、気分が悪くなる。
「勇者と正反対だよね」
「勇者と? オレのこと?」
「ううん、勇者さまじゃなくて、一般論の話。勇者さまはそうじゃないでしょ?」
「まあ、たしかに」
いわゆる『勇者様』とリスティアの語る男性像。
どちらかといえば、オレは後者のタイプだ。
「みんなね、勇者になると変わっちゃうんだ。勇者をやっていくうちにどんどん勇者に染まっていく。勇者のように考え、勇者のように行動する。まあ、それくらいじゃないと、世界を救ったり出来ないんだよね」
「役割が人格に影響するってやつか?」
スタンフォード監獄実験か。
普通の人でも看守などの役割を与えられると、その役割に合わせて行動してしまうって話だったと思う。
「そうだね。みんな勇者になっちゃうの。わたしはそれが嫌だった」
「でも、それはしょうがないんじゃないか? 世界を救うにはそれくらいじゃないと務まらないんじゃないか」
「うん。わたしも心配だった。だから、万全の準備をしたの。そうしたら、ちゃんと勇者さまはやってくれた」
「オレ?」
「最後まで勇者になることなく、魔王を封印し世界を救ってくれた。それに契約に関しても、わたしのことを第一に考えてくれたの」
いつの間にかオレの話になっている。
どういうことだ?
「だから、やっぱりこの人はわたしの好きな人だなって思ったの」
「えっ!? ちょ、まっ――」
どういうこと?
ほんと、どういうこと?
リスティアは居住まいを正して、口を開く。
「わたしは勇者さまのことを愛しています。どうか隣においてください」
リスティアは三指ついてプロポーズしてきた。
いったいどこで覚えたんだ?
いや、そんなこと気にしている場合じゃない。
「えっ!? はっ!? だって、好きな人が出来たって……」
「はい。あなたのことです」
「ええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
リスティアは上目遣いでじっとこっちを見つめる。
少し潤んだその瞳は見ていると吸い込まれてしまいそうだ。
「でも、ずっと見ていたって言ったよね? 今日が初対面じゃないの?」
「それも神様にお願いしたんです」
「えっ!?」
「神様の力であなたの生活を度々見ていたんです。この一年間」
「…………」
「だから、あなたにとっては初対面でも、ワタシにとっては一年間待ち続けた大切な相手だったのです」
「まじか…………」
「はい。まじです。ですので、どうかよろしくお願いします」
まさか、まさか、まさか、まさか!!!!!
じっと見つめ合う。
リスティアの潤んだ瞳がオレを見つめる。
オレの答えはひとつしかない――。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
お互い頭を下げあって、顔を見合わせる。
どちらともなく、笑い出してしまう。
今まで張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れた。
「でも、なんでオレ?」
「理由はさっき言ったとおりだけど――」
ああ、さっき言ってたな。
そん時はまさか自分のことだとは思っていなかったけど……。
「――ひとつに絞るなら、この人なら絶対にわたしを幸せにしてくれると思ったから。決して高望みせず、その代わり手に入れたものを大切にしてくれる、そう思ったから」
だったら、最初からそう言ってくれよと思う。
あっちの世界で、「好きな人がいる」って誤解するような言い方するから、遠回りしちゃったじゃないか。
いや、早とちりしたオレが悪かったのかも。
「なんで、向こうでオレが尋ねたときは素直に答えなかったんだ?」
「だって、あの状況で答えたら、シズクがあっちに残っちゃうかもしれないと思ったんだもん」
「あっ、確かに」
「どうしても、こっちの世界に来たかったんだもん」
そっか。
でも、離れ離れにならなくてホントよかった。
神様に感謝するしかない。
「今、名前で呼んだよな? オレのこと名前で呼んだよな?」
「うん、そ~だよ。シズクって呼んだよ。それがどうしたの?」
「どうしてって…………」
そう。あっちの世界にいる間、リスティアがオレの名を呼んだことはなかった。
呼びかける時はいつも「勇者さま」だった。
「勇者さまと姫さま」の関係は終わったってことか。
これからは「シズクとリスティア」の関係だ。
「でも、いきなりこっちの世界に来たって、いろいろと問題あるだろ、戸籍とか…………」
「それなら、大丈夫だよ。神様にお願いしてなんとかしてもらったから。じゃーん、お嫁さんカード〜」
そう言ってリスティアは鞄から取り出した運転免許証を見せつける。
本物そっくりの出来栄えだ。
生年月日は…………オレより年下だ。
そして、住所は……………………ここじゃん!
「てゆうか、なに、そのお嫁さんカードって呼び方は?」
「勇者さまがあっちに来た時いろいろ勇者アイテムを手に入れたでしょ? だから、それに合わせて、いろいろ作ってみたんだよ〜」
「じゃあ、他にもあるのか?」
「うん、たとえばね〜、お嫁さん装備シリーズ〜」
リスティアが鞄から何やら取り出す。
「お嫁さんの鎧〜」
ドレスの上からエプロンを身につける。
「お嫁さんの兜〜」
頭には三角巾。
「お嫁さんの盾〜」
左手には鍋蓋。
「お嫁さんの剣〜」
そして、右手にはお玉が握られていた。
完全武装のお嫁さんスタイルだ。
「おお、スゴい」
「でしょ〜、似合ってる〜?」
「ああ、似合っているよ。いいお嫁さんって感じ」
立ち上がって、クルッと1回転。
エプロン姿を見せつけてくる。
まさに新婚ホヤホヤのお嫁さんと言った感じで、笑顔を咲かせている。
「でも、リスティアは家事とかできるの? あっちじゃお姫さまやってたんでしょ?」
「特訓したんだよ〜。だから、大丈夫。じゃ〜ん、お嫁さん攻略ガイド〜」
そう言って鞄から取り出したのは、料理本と家事本だ。
日本語で書かれている、普通の本だ。
何箇所もドッグイヤーされ、読み込まれた形跡が残っている。
「そういえば、日本語バッチリだね。それも神様のおかげ?」
「ううん。それは自力。一年間頑張ったんだよ〜。だから、日本語も料理も家事もバッチリだよっ!」
リスティアは自信満々に胸を張る。
そういえば、リスティアは努力の子なんだよな…………。
魔王攻略を進めながら、そんな努力までしてたのか…………。
それも全部オレのため。
ここまで惚れられたんなら、オレも覚悟を決めるしかない。
リスティアはこっちの世界で身寄りのない立場だ。
オレが幸せにしてやるしかない!
「まだまだあるよ、お嫁さんグッズ」
「なになに?」
「じゃーん、お嫁さんリング〜」
リスティアが小箱から取り出したのは指輪だった。
「これダイヤ?」
「そだよ〜」
「本物?」
「本物だよ〜?」
「準備いいね」
「でしょ〜」
「もしかして、それって――」
オレはその小箱に見覚えがあった。
『シティー』で『トルマリン・リング』を入手した際に、ダンディーな商人から受け取っていた小箱だ。
「そだよ〜」
「やっぱりな」
あのとき、本来支払うはずのトルマリン・リングの値段は1,000万ゴールドだった。
それをわざわざ多い1,300万ゴールドにしたのは、この指輪を買うためか。
領収書の額面は1,300万ゴール。
300万ゴールド横領して、この指輪をゲットしたわけだ。
したたかというべきか、本人はケロッとしている。
「ねえ、嵌めて」
「あ、ああ」
リスティアから渡された指輪を眺める。
リスティアが取り出した指輪には大粒のダイヤが乗っていた。
本物だとしたら、とてつもない金額になりそうだ。
それにこの状況で出してきたってことは……。
緊張で手がプルプルと震える。
白くすべすべなリスティアの左手を掴み、そっと指輪を薬指に嵌める。
「わ〜、うれし〜〜〜」
飛び跳ねて喜ぶリスティアの姿を眺めていると、こっちまで嬉しくなる。
照れくさく見つめ合うオレとリスティア。
リスティアの頬が赤くなっているけど、オレもきっと真っ赤になっていることだろう。
「じゃあ、お返しね」
リスティアが見覚えのある指輪を取り出した。
「はい、手を出して」
「ああ」
オレもリスティアの前に左手を差し出す。
薬指に嵌められたのは、さっきまで装備していた『勇者の指輪』だ。
これで婚約ってことか……。
半日前には想像もつかなかったな。
まさか、こんな可愛いフィアンセができるとは…………。
「でも、良かったのか? こっちに来ちゃって。もう戻れないんだろ?」
「あ〜、それなら大丈夫だよ。これで連絡取れるし」
リスティアが鞄からなにか取り出す。
「お嫁さんスマホ〜」
「そんなんまであるのか。それ、どうしたの?」
「サーちゃんに作ってもらったんだよ〜」
サーちゃん。魔法使いのサーラのことか。
そういえば、魔王封印後になにか受け取っていたな。
「サーちゃんの魔道具作成能力はスゴいからね〜。シズクから預かったスマホを元に作ってもらったんだよ」
「へー、すごいな。ちょっと見せて」
「いいよ〜」
リスティアから受け取ったスマホを観察する。
地球産のスマホと区別がつかない出来だ。
「魔石のチカラで動いているから、中身は別物なんだけどね〜」
「ほー、そうなのか」
「うん」
「じゃあ、これであっちとも連絡取れるのか?」
「うん、そだよ〜。それに帰りたくなったら、神様に頼むから平気だよ」
「そっか、それはよかったね」
「うん」
それを聞いて、俺もホッとした。
今は良くても、ホームシックになるかもしれない。
その時に帰る手段があるなら安心だ。
「しばらくは帰るつもりないけどね」
エヘヘと笑うリスティアが可愛い。
「それで、お嫁さんシリーズはもうおしまい?」
「後はね〜、最後にこれがあるよ〜」
リスティアが一枚の紙を取り出す。
「お嫁さん契約書〜」
「婚姻届か……」
リスティアが手渡してきたのは、記入済みの婚姻届だった。
後はオレが名前やら必要事項を記入すれば、いつでも提出可能な状態の婚姻届だ。
「べつに、今すぐじゃなくってもいいからね。お互いのことをもっと知り合って、シズクが納得してからでいいからね」
「そうだな。オレのことを知ってリスティアが幻滅するかもしれないしな」
「それはないよ〜。だって、この一年間シズクのことはいっぱい見てきたから」
そういえば、神様の力を借りて、オレのことは観察していたって言ったな。
「リスティアは神様の親しいのか?」
「まあまあかな、シズクほどじゃないけどね」
「オレ? なんで? 知り合いに神様はいないぞ」
「あっ、そっか、シズクは知らないんだっけ」
「なに?」
「ワタシが言ってる神様って、シズクのバイト先の店長さんだよ」
「あのジジイが!?!?」
「そだよ〜」
店番をオレに任せっきりで、パチ屋に入り浸っているあのジジイがまさか神様だったとは……。
なんでオレが勇者に選ばれたのか。
なんでバイト中に召喚されたのか。
なんでリスティアがオレのことを観察していたのか。
色々な疑問が一気に氷解した。
すべてがあのジジイの手のひらの上ってのは少し癪に障るが、こんな可愛いお嫁さんと出会えたんだから、許してやるか。
「改めてよろしくな、リスティア」
「うん、こちらこそ」
ベッドに腰掛けているリスティア。
オレはその隣に腰を下ろす。
ほんのりと上気したリスティアの顔が間近に迫る。
どちらともなく目を閉じて、顔を近づける。
そして、オレとリスティアは長い口づけを交わした――。
これで「小さなつづら」を選んだオレの冒険の話はお終いだ。
お姫さまは勇者と末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
そういう未来になるように、オレはこれからも頑張っていく。
勇者になって世界を救うことより、一人の女の子を幸せにすることの方が難しいかもしれない。
だけど、これはオレが自分で選んだつづらなんだ。
オレはこれからもこのつづらを背負って歩いて行く。
小さくて重たい、このつづらを。
(完)
最後までお読みいただきありがとうございます。
お楽しみいただけたでしょうか。
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ヒロインは殴りヒーラー。
第1部完結。
総合2万ポイント超え。
日間ハイファン最高15位。
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是非読んでみて下さい!




