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27 戦いを終えて

「死ねえええええええええええ!!!!!」


 走ってきた勢いそのままに、剣を魔核に突き刺す。

 今度は弾かれることなく、ズブリと魔核に入り込んだ。

 大した抵抗もなく、剣は根本まで刺さる。


「グギャアアアアァァァァァァ――」


 断末魔のごとき叫びを上げ、魔王が動きを止める。

 光を放っていた『勇者の剣』が、その光で魔王の身体を包み込む。


「やったのか?」


 言ってから、「ヤバいっ、フラグ立てちゃったか?」と不安に思ったけど、杞憂に終わった。

 しばらくしてその光が消えると、魔王の身体は先程よりも太く明るく輝く鎖で雁字搦めに縛り上げられていた。


「やった〜、さすが、勇者さま〜」

「よくやりました、シズク様」

「さすがです、勇者殿」

「いぇいです、勇者様」


 みんなが駆け寄ってきて、ハイタッチを交わす。

 オレは改めて確認した。


「これで終わったんだよな? もう魔王は封印できたんだよな?」

「うん〜、そだよ〜〜」

「はい。シズク様。もうご安心下さい」


 ふうううぅぅっぅぅ。

 オレは大きく息を吐いた。

 自分が成し遂げたんだって実感が湧いてくる。


「あー、つかれたー」


 リスティアは早速の早着替え、全身鎧のフル装備からラフな格好へと替わっていた。

 オレも『勇者シリーズ』装備から布の服へ換装。

 すぐさま、リスティアがオレの胸に飛び込んでくる。


 一段落がつき、おれはもう一度横たわる魔王を見やる。

 最初に見た時よりも強く輝く拘束の鎖。

 先程まで邪悪な光を放っていた魔核はもう輝きを失っている。


 やったんだ。

 オレが魔王を封印したんだ。

 オレ一人の力じゃない。

 みんなの助けがあったから、成し遂げることができたんだ。


 たしかにイージーモードだったんだろう。

 頑張ったのも最後だけだ。

 それも最初から本気になってたら、あっさり封印できたんだろう。

 だけど、オレには中々にキツい戦いだった。

 それでも、無事クリアできたんだ。


 今までの人生、なにかを成し遂げたことなんてなかった。

 メンド臭いことからはすべて逃げ、楽な道を選んできた。

 そんなオレがやり遂げることができたんだ。


 オレは自分がひと回り成長した気がした。


 オレが感慨に浸っていると、イーヴァが話しかけてきた。


「我々はすぐに帰還して、このことを王都に伝えます。シズク様と姉上はいかがなさいますか?」

「んー、ちょっと勇者様とお話してくー。ね?」

「ああ」


 オレもリスティアとは話がしたかった。


「それでは、お先に失礼します」

「失礼いたします」

「失礼しますです」


 三人と別れの挨拶を交わす。


「あっ、そうだ。これ出来たです」


 去り際にサーラが片手サイズのなにかをリスティアに手渡した。

 リスティアは「さんきゅー」と、それをさっさと『収納』にしまったので、それが何だったのかまでは分からなかった。


 三人は王都へと戻っていった。

 魔王の間に二人残された、オレとリスティア。


 魔王の問題は片付いた。

 だけど、オレにはもうひとつ問題が残っている。

 オレとリスティアの関係だ。


 オレはこの後、どの選択肢を選ぶのが正解なのか……。


 向い合い、じっと見つめ合う。

 話したいことはいっぱいあるんだけど、なにから話していいか。


「なあ、さっきの質問だけど…………」


 いざ再び切りだそうとすると、緊張してしまう。

 いつものオレだったら、深く追求せずにお茶を濁しておいたかもしれない。

 だけど、先ほどの戦闘の余波で興奮していたオレは、思い切ってリスティアに問いかけた。


「リスティアはどうしたいんだ?」


 オレの質問をリスティアは真正面から受け止めた。

 そして、しばらく考えこむように沈黙する。


「あのね、勇者さま」

「おう、なんだ」


 口調は軽いけど、目つきは真剣だ。

 オレも真面目な態度でリスティアに向きあう。


「わたし、嘘ついてたんだ」

「嘘?」

「うん。勇者さまの召喚が遅れた理由。うっかりしてて忘れたって言ったけど、あれ嘘なんだ」

「…………」

「本当はわざとすっぽかしたんだ」


 リスティアはいたずらっ子みたいに小さく舌を出す。


「この世界が滅んでもいいと思っていたのか?」

「……………………」

「そうなのか?」

「うん。そうだよ」

「どうして……?」

「勇者さまが言うように、こんな世界なんか滅んでいいやって、最初はそう思っていたの」


 やはり、そんな予感はしていたんだ。

 この世界に対して、リスティアはあまりにも投げやり過ぎる。

 この世界に対して、まったく未練がないように感じられるんだ。


「でも、途中で考えが変わったんだよね」

「なんで、また?」

「……へへへ、ないしょ〜」


 リスティアは肝心なところではぐらかす。


「でもね、だから、頑張ったんだよ。勇者さまがギリギリで来ても間に合うように。全力で頑張ったんだよ」


 イーヴァの話からも、実際のリスティアの強さからも、それは十分に伝わってきた。

 今回世界を救った一番の功労者は、間違いなくリスティアだろう。たとえそれがマッチポンプだったとしても。


「ああ、わかってる。リスティアの力がなかったら魔王は封印できなかっただろう」

「ううん。違うの。魔王を封印できたのは勇者さまがいたから。わたしはサポートしただけ」

「オレは求められた勇者を演じた。大勢の群衆の前で演説もしたし、最後に魔王の封印もした。ギリギリだったけど、それでも、役目を果たした」


 リスティアは真剣な顔つきでオレを見つめる。

 オレも視線をそらすことなく語り続ける。


「オレと同じように、リスティアも演じてたんじゃないか? 姫さまって役柄を」

「……はははっ、そうだね。その通りだよ。勇者さまの言う通り」

「じゃあ、リスティアの本心はどこにあるんだ。オレはそれが知りたい」

「……………………」


 やはり、確信に踏み込もうとすると、リスティアは沈黙を返す。


「オレはこの世界のみんなに感謝している。その中でも、リスティア、君に一番感謝している。君のおかげで楽しい冒険ができた。ありがとう」

「こちらこそ、世界を救ってくれてありがとう。勇者さま」


 会話が途切れた。

 会話を継ごうと言葉を探すけど、いいセリフが浮かんでこない。

 このままリスティアの気持ちを分からないままなのは嫌だった。

 だけど、オレにはどうしていいのか分からない。


 リスティアが魔王の身体に歩みよる。

 魔王の前の地面に魔法陣を描き、小さな声で詠唱する。


「できたよ」


 魔法陣が白い光を放っている。


「これは?」

「帰還の魔法陣。魔王の魔力を利用して作ったの。ここから勇者さまがいた元の世界に戻れるよ。どうする?」


 最後に突きつけられた選択。


 元の世界に帰るか?

 それとも、ここに残るか?


「あまり、時間がもたないから、早めに決断してね」


 悩ましい問題だ。

 元の世界に帰るってのは、いわば「小さなつづら」だ。

 リスティアやカワイイ女の子たちのハーレム、そして、こちらの世界で得られるだろう、地位や名声、財産や権威など、それらを失うことになる。

 そのかわり、元の世界での代わり映えない日常を手に入れられる。


 対して、ここに残るってのは「大きなつづら」だ。

 魔王を封印し世界を救った勇者として、欲しいものがすべて手に入るのだろう。

 その代わり、元の世界での生活を諦めなければならない。

 それに、この世界で勇者として残るということはそれなりの重責を負わねばならないだろう。


 オレはどうすべきなのか…………。


「ひとつ聞いていいか?」

「なんでも聞いて」

「キングダム王国第一王女リスティアは勇者シズクを愛している。間違いないな?」

「うん。勇者さま愛してるよ〜」

「じゃあ、ひとりの女の子として、君はオレを愛している?」

「……………………」


 気まずい沈黙が流れる。

 否定されたなら、簡単だ。

 さっさと「小さなつづら」を持って帰るだけだ。

 いい思い出ができたと思って、元の日常に帰ればばいい。


 だけど、もし肯定されたら……。

 オレは、この先、しんどい道を歩いていかなければならない。


 沈黙が続く。

 耐え切れなくなった、オレから先に口を開いた。


「なあ、リスティア、オレと一緒にあっちの世界に来ないか? 王族だった今までみたいに贅沢はさせられないけど、オレとあっちで楽しく暮らそうぜ」


 言ってしまった。

 無茶苦茶なのは自分でも分かっている。

 でも、もし、リスティアがオレのことを好きでいてくれて、この世界に未練がないなら、是非とも彼女を連れて帰りたい。

 それが本心だ。


 オレはこの短い旅を通じて、リスティアに惹かれていった。

 奔放なお姫さまなようでいて、それ以外にも様々な一面を持っているリスティア。

 コロコロと変わる彼女を見ているうちに、もっと彼女のことを知りたい、もっといろんな一面を見てみたい。

 そう思うようになっていた。


 だからこそ、契約で縛られた関係でいたいとは思わない。

 自由であるがままの彼女と一緒にいたいと思ったんだ。

 だから、この世界ではなく、あっちの世界で彼女と一緒に過ごしたかったんだ。


 オレが選んだのは「大きいつづら」よりも、もっと大きい「特大つづら」かもしれない。

 異世界人を連れて地球に帰るなんて、正気の沙汰じゃないかもしれない。

 だけど、オレはそうするのが正解な気がした。

 リスティアと過ごしているうちに、そうしたいと思うようになった。

 いや、召喚された最初からそう思っていたのかもしれない。


 オレだって勇者に憧れる男の子だ。

 困っている女の子がいたら、助けたくなるじゃないか。

 幸せそうじゃない女の子がいたら、幸せにしてあげたくなるじゃないか。


「さあ、リスティア。君の気持ちを聞かせてくれ」

「さっきも言ったけど……途中で気持ちが変わったの」


 目をそらさず、ゆっくりと語り出すリスティア。

 今度こそ、彼女の気持ち――その核心にせまれるのか。


「最初はこんな世界滅んじゃえって思ってた。それで、わたしが死んじゃっても構わないって。でも――」


 オレはゴクリと唾を飲み込む。

 その先を聞きたいような、聞きたくないよな――そんな葛藤が胸を締めつける。


「――でも、途中で気持ちが変わったの。好きな人ができたから……」


 ドキンと心臓が大きく跳ねる。


 そうか。そうだったのか。

 だったら、オレはまったくのおじゃま虫だ。

 ははははは。


 契約を盾にして、リスティアに迫ったりしなくてよかった。

 それに、「リスティアがダメだから他の子で」ってわけにもいかない。

 どっちも三下のやられ役向けの選択肢だ。

 オレはそこまで厚顔無恥じゃない。

 オレは勇者なんだ。

 たいして活躍しなかったけど、勇者なんだ。

 だったら、勇者らしく格好良く退場したいじゃないか。


 できれば、リスティアともっと一緒に過ごしたかった。

 だけど、まあ、しゃあない。

 良い思い出ができたと思って忘れよう。


 自分で選んだイージーモードなんだから、しょうがない。

 どっかのテーマパークで半日遊んだと思えば、十分に得るものはあった。


 可愛い女の子と仲良く旅ができた。

 本物のドラゴンとの戦闘を見れたし。

 群衆相手にハッたり演説ぶっこいて、大受けして気持ちよかったし。

 フェニックスに乗って、空の旅も楽しめたし。

 『シティー』でのかけっこも楽しかったし。

 他にも『研究所』やラゴスさん家行ったし。

 悪魔城も魔王城ももぬけの殻だったけど、散歩道としては中々のもんだったし。

 最後に一番美味しい、魔王へのトドメもさせたし。


 文句なしのアトラクションだった。

 貴重な体験ができて良かったよ。


 でも、もし、もう一度機会があるなら、今度はノーマルモード選ぶよ。


「んじゃ、オレは帰る。姫様も幸せにな」

「へっ!? ちょっ!?」


 オレはさっさと別れを告げ、魔法陣に乗る。

 いきなりだったからか、リスティアが驚いた声をあげる。

 でも、これ以上は蛇足だ。


「ちょっと待って、勇者さま」

「ばいばい」


 一方的に別れを告げる。

 これで、いいんだ。

 これで、よかったんだ。


 魔法陣が発動したようだ。

 オレの身体を白い光が包み込む。


 そのとき、オレの頭にはひとつのことが浮かび上がった。


「やべ、貴重品預けっぱなしだ」


 スマホも財布も家の鍵も最初に着替えたときに預けたままだった。

 今さら悔やむけど、後の祭り。

 オレはそのまま意識を失った――。

いよいよ次回、最終回です。

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