26 決戦!!
――残り時間0:19。
リスティアが一撃とともに吼える――。
「神々の導き――――」
封印を解かれたばかりの魔王は、白いオーラを纏った槍の鋭い一撃を躱すことができない。
魔王の身体にリスティアの持つ槍が深々と刺さり――。
「爆裂――――」
爆ぜるッ!!!
リスティアの攻撃はしっかりと魔王にダメージを与えたようだ。
しかし、魔王は怯まない。
両腕をブンブンと振り回しながら、上体を起こし、ブロロロロロォォォォと吠えてから、二本足で立ち上がった。
デカい。
その身長はオレの3倍以上あるだろう。
まさに、見上げるような巨体だ。
魔王がその巨体から振り下ろすような攻撃を放ってくる。
ターゲットは先程一撃を入れたリスティアだ。
まだ体勢を直しきれていないリスティアに魔王の巨大な拳が迫る。
しかし、ラーヴルがその間に入り、大盾で防ぐ。
「不撓不屈――」
ラーヴルがスキルを発動させると、大盾は白く輝き、魔王の拳を受け止めた。
ドゴォオオンと物凄い音と衝撃が広間に伝わるが、ラーヴルさんも大盾もノーダメージなようだ。
一撃を放って隙だらけの魔王に対し、二人の後衛から魔法が飛ぶ。
「黒き雷鳴――」
「白き稲妻――」
白黒二つの光の奔流が二人の杖から魔王に向かって驀進する。
絡まりあった二つの光の流れがひとつになり――。
「雷轟――」
――魔王の頭部に直撃。
魔王はギャアアアアと苦しそうな叫びをあげる。
それからも、魔王との戦いは一方的だった。
10分ほど戦いが続いた。
魔王は、斬られ、刺され、魔法で灼かれ、全身血まみれであった。
最初の頃の暴れるような動きも弱まり、今では緩慢な動きでなされるがままのサンドバック状態だ。
ちなみに、この10分間、オレは突っ立っていただけだ。
立ってイーヴァからの合図を待っていただけだ。
勇者って一体…………。
そう思うけど、オレ抜きで十分に圧倒してるんだから、オレが出るまでもない。
というか、むしろ、オレが参加しても足を引っ張るだけだと思う。
そう思わせるだけの完成されたコンビネーションだった。
個々が強いってのもあるけど、みんなが上手くフォローしあっているからこそ、このワンサイドゲームが成立するんだろう。
オレが入ったってかき回すだけだ。
だけど、そろそろオレの出番だ。
魔王が十分に弱ったら、オレが魔核に剣を突き刺さなければならない。
オレの仕事だ。オレだけにしかできない仕事だ。
オレは緊張したまま剣を構えてタイミングを見計らっていた。
その時――。
「シズク様、今ですッ――」
イーヴァの掛け声に合わせ、オレは駆け出す――。
散々に攻撃され、魔王は膝をついている。
飛び上がらなくても届く位置に魔核が見える。
走りながら剣を真上に構え、ガラ空きの魔核目指して走る。
魔王の両腕はリスティアとラーヴルが抑えてくれている。
魔王の下にたどり着き、オレは魔核めがけて力いっぱい剣を振り下ろす。
フォームは滅茶苦茶だ。ただ、全力で、力任せに剣を叩きつけた。
カキィィィイイイン。
甲高い音とともに剣が魔核に弾かれた。
「はっ!?」
思わずオレは立ち竦んでしまった。
魔王が大きく口を開ける。
魔王の口から3つの炎弾が吐き出されるのが、スローモーションみたいにゆっくりと見えた。
ひとつ。
ふたつ。
2つの炎弾はイーヴァが張ってくれたバリアが防いでくれた。
しかし、バリアは炎弾と相打ちで消えてしまう。
そして、みっつ――。
ドォォォォォォオオオオオオン。
3つ目の炎弾がオレに正面から激突。
オレは激しく吹き飛ばされた。
宙を舞い、部屋の隅まで弾き飛ばされた。
バフのせいか、装備のせいか、ダメージは微量だ。
痛みもせいぜいビンタされたくらい。
しかし、オレの頭の中はひどく混乱していた。
「なんでオレの攻撃が通じないんだ?」
それだけじゃない。
なんだ、あの炎弾は。
「あんなの何発も喰らったら死んじゃうだろ」
今のはバフと装備のおかげで、大した傷ではなかった。
でも、それがいつまでも大丈夫だという保証はない。
オレは恐怖に支配されていた。
今まで軽い気持ちでいた。
どうせイージーモードなんだから、と楽観視していた。
だけど、たった一回の魔王の攻撃。
死を感じさせる炎弾を一発喰らっただけで、オレはすっかりビビってしまった。
「ムリだろ…………」
オレになんかできるわけない。
オレに勇者なんて務まるわけがない。
オレが世界を救うなんて不可能だ。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
逃げ出したい。
魔王が炎弾を連発してくる。
先程オレが攻撃したせいか、魔王はオレも敵と認識したようだ。オレに向けても炎弾が飛んでくる。
しかし、それがオレに届くことはなかった。
リスティアが槍で、ラーヴルが剣と盾で、イーヴァとサーラが魔法で、オレを守ってくれるからだ。
「シズク様ッ」
イーヴァが詠唱の合間に、短く叫ぶ。
魔王の攻撃は一層激しくなっている。
だけど、オレは動けずにいた。
必死に戦う四人を見ながら、立ち竦むだけだった。
四人の動きがさっきより悪くなっている気がする。
オレが足を引っ張っているからだ。
それが分かっても、オレは動けない。
リスティアが近接で魔王とやり合っている。
腕の攻撃をラーヴルと連携してさばきながら、いくつもの炎弾を叩き落としている。
しかし、すべては躱しきれなかったのか、炎弾のひとつがリスティアに直撃する。
「リスティアッ!!!」
思わずオレは叫ぶ。
「いててて、でも、だいじょーぶだいじょーぶ」
苦痛に顔を歪めながらも、リスティアは軽口を叩く。
違う、当たったんじゃない。
今のは自分から当たりにいったんだ。
オレに当たらないように。
自らを盾にして防いでくれたんだ。
オレを庇うために、身体を張ってくれたんだ。
「ちっくしょおおおおおッ!!!」
オレは走り出した。
怯えたまま走りだした。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
逃げ出したくなる気持ちを押さえつけ、必死になって魔王の下へ駆けつける。
デカい。
やっぱりデカい。
でも、やらなきゃ。
オレは剣を振るう。
無茶苦茶に剣を振るう。
だけど、魔核には傷ひとつ付かない。
「なんでなんだよ…………」
炎弾が飛んでくる。
リスティアが斬り落とす。
炎弾が飛んでくる。
ラーヴルが大盾で防ぐ。
炎弾が飛んでくる。
サーラの魔法が迎撃する。
炎弾が飛んでくる。
イーヴァのバリアが受け止める。
炎弾が飛んでくる。
炎弾が飛んでくる。
炎弾が飛んでくる。
炎弾が飛んでくる。
炎弾が飛んでくる。
炎弾が飛んでくる。
炎弾が飛んでくる。
炎弾が飛んでくる。
みんなに守られ、炎弾はオレに届かない。
だけど、オレの攻撃が魔核に届くこともなかった。
へっぴり腰で振るう剣では、傷ひとつ付けることができなかった。
「なんでだよ、なんでだよ、なんでだよ。なんで傷つかないんだよ」
いつ炎弾でダメージを受けるかもしれないという恐怖に、必死に振り絞った勇気もどんどんとすり減っていく。
逃げ出したい。
どうせ、オレにはムリなんだ。
勇者なんてガラじゃなかったんだ。
残り時間は3分もない。
もう間に合わないじゃないか。
心が折れかけたその時、リスティアと目が合った。
リスティアはフッと笑みを浮かべた。
まるで「もういいよ、終わりにしていいよ」と言っているかのように。
オレは全身がカッと熱くなった。
違うだろッ!!!!!
怒りに任せて、自分の頬を全力で殴りつける。
ドスッと鈍い音がして、口の端から血が垂れる。
どうやら、口の中を切ってしまったようだ。
だけど、そんなの関係ねえッ!
オレは契約したじゃねえか。
魔王を倒すって誓ったじゃねえか。
確かに、無理矢理やらされた契約だった。
でも、契約内容を知った後も、嫌だとは言わなかったじゃねえか。
断るチャンスはいくらでもあった。
でも、それをしなかったんだ。
だったら、やるしかないだろう。
契約通りにコイツを封印するしかないだろう。
今まで楽な道ばっかり選んできた。
これまでの人生も、こっちの世界に来てからも。
だったら、ここ一番でやるしかないだろ。
カワイイ女の子たちが頑張ってるんだ。
ここで頑張らないで、いつ頑張るんだよッ!
ここで逃げたら、一生逃げ続けるハメになる。
そんな人生まっぴらゴメンだ。
今まで生きてきた中で、一番の本気を出してやるんだッ!!!
「すまなかった。ちょっと本気になるわ。サポートよろしく」
リスティアの笑顔が輝いた。
今までのとは違う、今日最高の笑顔だった。
「勇者さま、がんばれ〜」
「おうっ!」
ガッツポーズで余裕を見せてやる。
Vサインが返ってきた。
「では、一斉に攻撃しますので、その隙にお願いします」
「ああ、頼んだ」
イーヴァが指揮を取り、4人が同時に攻撃態勢に入る。
「行きますッ」
シズクが杖を掲げ、サーラがそれに合わせ、リスティアが槍を突き出し、ラーヴルが剣を構える。
「雷轟――」
「神々の導き――」
「致命な一撃――」
四人の攻撃が重なる。
魔王は倒れ、魔核を無防備にさらしている。
――よしっ、今度こそ。
この一撃で終わらすつもりで、気合を入れる。
『勇者の剣』が眩い光を放つ。
なぜか、上手く行く気がした。
オレは駆ける。
すべての思いをこの剣に乗せて――。
「死ねえええええええええええ!!!!!」




