24 決戦前
――残り時間1:07
魔界入り口付近。
視界の端に魔王城をとらえながら、オレとリスティアは適当な倒木に腰を下ろし、並んで会話をする。
「ねえ、勇者さま〜?」
「ん?」
リスティアの綺麗な横顔。
髪を結い上げ、むき出しになった白いうなじに色気を感じて、オレはドキッとしてしまう。
さて、魔王戦前にわざわざ二人っきりで話したいとは……一体どんな話題なのだろうか。
「魔王を倒したら、どうしたい〜?」
「どうって……」
「最初に契約したでしょ?」
「ああ」
オレが魔王を封印し、その見返りとしてリスティアと結婚できる。
簡潔に言えば、この通りだ。
「わたしじゃなくて、イーヴァやラーヴルでもいいし、他の女の子でもオッケイだよ〜」
まさかの選び放題だと!?!?
「それに一人じゃなくてもいいんだよ〜。わたしを一番にしてくれるんだったら、他の子が何人いても、わたしはオッケーだよ〜」
しかも、ハーレムの許可付き。
男なら一度は夢見るハーレム。
それが叶うなんて……。
「勇者さまは、もちろん、わたしを選んでくれるよね〜」
ニッコリと微笑むリスティア。
だが、その笑顔の意味がオレには分からない。
リスティアはどういう気持ちなんだろうか?
リスティアはオレに対して好意を示している。
それこそ、好感度MAXを振り切るほどの。
だが、それが本当の思いなのか、なんらかの下心ゆえなのか、オレには分からない。
それに、もし、リスティアの好意が本当だとしても、それがオレに向けられたものなのか、それとも、勇者に向けられたものなのか……。
そこら辺がはっきりしない以上、簡単に「リスティアを選ぶ」ことはオレにはできない。
そして、もうひとつ。
「なあ、魔王を倒したら、オレは元の世界に戻れるのか?」
「うん。それもできるよ〜。魔王を封印したら、魔王の魔力を利用して、元の世界へと通じるゲートを発動できるからね」
「そっか……」
正直、元の世界への未練がある。
このまま、「この世界にとどまって、ハーレムエンド」を選んででいいのか、悩むところだ。
「勇者さま。少し真面目な話をしても宜しいでしょうか?」
「うっ、あっ、えっ、…………ああ」
いきなり口調が変わったリスティアに、狼狽えてしまった。
いや、口調だけではない。表情や態度も今日初めて見るほどの真剣なものだった。こんな一面もあるんだな…………。
オレはいきなりの豹変に少し驚いたけど、彼女のマジな雰囲気に合わせて態度を改める。
「勇者さまはこの世界はなにかおかしいと思いませんか?」
「おかしい?」
「ええ。ここは、勇者さまの世界とは根本的に異なる原理が働く世界なのです」
「うーん…………」
パッと思いつくのは、魔法とかモンスターとかだけど、そういうのは根本的な違いとは言えないだろう。
魔法はテクノロジーのひとつだし、モンスターも害獣の一種だ。
本質的な違いとは言えないだろう。
そもそも、なんでリスティアはこんな質問をオレにするんだろうか?
オレが異世界人だからか?
それとも、オレが勇者だからか?
……………………はっ、それだ!
「分かった。勇者と魔王だ」
「そうなのです。この世界には勇者と魔王が存在します。では、なぜ存在すると思いますか?」
「うーん……………………」
勇者と魔王が存在する理由……。
そんなこと考えもしなかった。
地球の生物だったら、存在する理由は簡単だ。
自然淘汰と適者生存。
利己的な遺伝子の気まぐれで、上手く環境に適応出来た種が生き残った。
それだけ。
言い換えれば、たまたまだ。
だけど、勇者と魔王は――。
勇者も魔王も特異だ。
繁殖によって増えるわけではない。
勇者はオレみたいに異世界から召喚された存在だし、魔王は数千数万年も生き続ける存在。
なぜ、そんなのが存在するか?
これに対する答えは、オレにはひとつしか思いつかない。
「神様が望んだから?」
「はい、そうです。勇者も魔王も神が望んだがゆえに、この世界に君臨するのです」
どうやら、正解だったようだ。
リスティアは優秀な生徒に向ける教師のような笑みをオレに向ける。
「この世界は『勇者が魔王を倒し、姫を手に入れる』――その物語のために創り出された世界なのです」
姫さまもメイン・キャストってわけか。
「この世界は魔王が誕生して以来、もう何万年もそれを繰り返してきました。終わりのない物語を」
「だから、魔王は死なないのか」
「そうです。魔王は時限付きの封印しか出来ません。魔王が死んだら、物語はそこで終わりですから。この世界も終わりになってしまいます」
「なるほどね」
神によって創られた劇場。
オレのいた世界とは違って、明確な目的を持って神に創られ、運営される世界。それがこの世界ってわけか。
「ここは、この世界は牢獄なのです。神によって創られた牢獄で、わたしたちは永遠の囚人なのです。我々この世界の人間は物語のための舞台装置に過ぎません」
いままで遊び気分で浮かれていたけど、こうやって聞かされると、いかに自分が重大な立場にいるのか、改めて認識させられる。
「なあ、もし、オレが魔王を封印しなかったらどうなるんだ?」
「それはワタシにもわかりかねます。でも、きっと、この世界は滅びるでしょう。失敗した物語に存在価値はないでしょうから……」
「……………………」
ゴクリと唾を呑む。
「じゃあ、意地でも封印しなきゃだな。問題は、魔王を封印した後に、オレがどうするかだな」
「ええそうですね」
リスティアは静かにオレを見つめる。
静かな湖面のような瞳からは、彼女がなにを考えているのか伺うことができなかった。
「なあ、リスティア」
オレは彼女の名を呼ぶ。
「リスティアはどうして欲しいんだ?」
「……………………」
黙りこむリスティアにオレは続けて問いかける。
「王女としてじゃなくて、リスティア個人としては、オレにどうして欲しいんだ?」
「……………………」
またしても、返ってきたのは沈黙だった。
言わないのか、言えないのか。
どっちなのか、オレには分からない。
「もしかして、滅んで欲しいのか、この世界に?」
「……………………」
これもまた、答えがなかった。
しかし、答えがないのが答えだとも言える。
リスティアがどう考えているのか、非常に気になる。
できることなら、もっと追求したい。
だけど――タイムアップだ。
「さあ、魔王を倒しに行こう。話はその後だ」
オレはリスティアに手を伸ばし立ち上がらせる。
魔王封印まで、残り1時間を切っていた――。




