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23 魔界入り口

 ――残り時間1:18


 転移ゲートを抜けた先は小さな石造りのほこらだった。

 そこを出ると、あたり一面荒廃しきったザ・魔界といった世界が広がっている。

 薄暗い空に轟く雷鳴、石塊いしくれにおおわれた寒々しい平地に転々と立つ枯れ果てた木々、溶岩の湖と遠くで噴火を続ける火山が不吉な明るさをもたらしていた。

 でも、そんな中でなによりも威容を誇っていたのは眼前にそびえ立つ禍々しい巨大な城だった。


「でも、これからどうしたらいいんだ?」


 ここまでの道筋は『攻略ガイド』に詳しく説明されていたが、この先は最終ページに「魔界攻略、30分。魔王城攻略、30分」と簡単に書かれているだけだった。

 普通のRPGでは、魔界で色々とフラグを立てなきゃ魔王城に入れないのが相場だ。


「ラーちゃん、おつー」


 5メートルくらいある巨人のむくろが3体横たわり、そのかたわらに全身鎧に身を包んだ一人の女性兵士が佇んでいる。

 リスティア声をかけたのはその女性だった。

 あっ、見覚えある人だ。

 最初に城で会った騎士の人だ。

 オレたちの姿を確認した彼女がこちらに駆け寄ってくる。


「リスティア殿下、予定通りに任務完了いたしました」


 落ち着いた様子で報告した彼女は、姫さまに小冊子をうやうやしく手渡した。姫さまはさっと目を通して「うん、ごくろさま~」と彼女に声を掛けた後、それをオレによこす。


 『勇者さま専用攻略ガイド Vol.2 ー魔界攻略編ー』


 表紙のタイトルにそう書かれたそれは、最初に受け取った『攻略ガイド』よりも薄く、10ページほどで、いかにも急ごしらえといった体だった。

 『攻略ガイド2』の中身は二部構成だった。


 第一部は「魔界攻略編」で、魔王城へ至るために必要な様々なイベント――ボスモンスターを倒したり、アイテムをとったり――が順番に並んでいたが、すべてのイベントに赤くマル済とチェックが入っていた。


 第二部は「魔王城攻略編」で、魔王城の詳細な地図が描かれていた。

 地図の各所にナンバリングがされていて、対応する番号ごとにトラップやゲートキーパー的モンスターの説明が別記されていた。ただ、これらすべてにもマル済とチェックが入っている。

 しかも、城門から太い赤線が伸びていて、それを辿って行くと赤マル「魔王」と書かれている場所にたどり着くようになっている。


「要するにこれって……」

「うん、そうだよ〜。別働隊が魔界攻略しておいたから、後は勇者さまが魔王を倒すだけだよ〜。それで終わりだよ〜。ねー?」


 姫さまは女性兵士に同意を求めるように顔を向けた。


「はい。恙無つつがなく攻略済みでございます」


 いぇーい、遂に後をついて歩く仕事すらしなくて済んだぜ!!!

 勇者(他の人が全部やってくれます)って、どうなのよ?


「あ、そうそう、彼女はラーヴル」

「近衛隊長のラーヴルと申します」


 ラーヴルさんは握手のために右手を差し出してきた。

 ドキッとしたオレは赤くなりながらも、なんとかそれに応じる。


 ラーヴルさんは姫さまに負けず劣らずの美人さんだった。

 姫さまが水だとすれば、ラーヴルさんは火だ。

 燃えるようなショートの赤髪。

 鋭利な刃物のような切れ味を感じさせる顔立ち。

 スリムに引き締まった肢体。

 謹厳実直な騎士といった印象だ。


「彼女が別働隊を率いてガンバってくれたんだよ〜。ほんとご苦労さまー」

「いえ、当然の勤めでございます」

「ラーヴルは我が国一の騎士なんだよ〜」

「いえ、殿下にはとても及びません」

「もう、真面目なんだから」


 いえいえ、とあくまでも謙遜するラーヴルさん。

 間違いなく実力者だってのが伝わってくる。


「もういっそのこと、ラーヴルさんに魔王を倒してもらっちゃったほうがいいんじゃない?」

「そういうわけにはいかないんだよね〜。魔王だけは勇者さまじゃないと倒せないんだよ〜」


 姫さまの説明によると、他の人間でも魔王にダメージを与えることはできるが、最終的には勇者が『勇者の剣』でトドメを刺さないと魔王を封印することはできないそうだ。


「でも、間に合ってよかった〜。ほんとにギリギリだったんだよ〜。勇者さまが召喚された時にはまだ魔王城の封印も解けてなくて〜」


 オレと姫さまがのほほんと行動していた4時間ちょい。

 その間に、ラーヴルさん率いる別働隊は封印を解くアイテムをもつボスモンスターを倒し、門番の三体の巨人を打ち倒し、人海戦術で魔王城を攻略し、大慌てで『攻略ガイド2』を作成したそうだ。


 言われてみれば、『攻略ガイド2』は書式もそろっていないし、誤字脱字もちらほらあったし、ところどころ手書きで修正した箇所もあった。

 わがまま姫さまに無茶振りされて、ラーヴルさん含め別働隊の人たち大変だったんだろうな。


「それでは、私は配置につかせていただきます。勇者殿もご武運を」

「あっ、だったらイーちゃんも一緒に行ってなよ」

「えっ、でも――」

「先に行っててねー。わたしは勇者さまとお話してから行くからー」

「…………わかりました。時間がありませんので手短にお願いします、姉上」

「承知いたしました」


 リスティアは「いてらー」と二人に手を振る。

 颯爽と魔王城へと向かうラーヴルさんの後ろ姿はやっぱりカッコ良かった。


「も〜、勇者さま、デレデレしちゃって〜」


 オレがラーヴルさんに見惚れていると、姫さまはへそを曲げたようにほっぺを膨らませた。


「いや、別にそういうわけじゃ……」

「さっきも赤くなってたし〜」

「あれは慣れない状況に焦っただけで……」

「そんなにラーヴルがいいなら、わたしじゃなくてラーヴルを選んでもいいんだよ?」

「……選ぶって?」

「魔王を倒したら、わたしの身を勇者さまに捧げるって約束したでしょ。今ならまだ間に合うよ、ラーヴルにしておく? ラーヴルはわたしと違って尽くすタイプだから、勇者さまのどんな欲望も満たしてくれるよ〜。絶対服従だよ〜」


 確かにラーヴルさんは魅力的な女性だ。

 そんな彼女がメイド姿で「ご主人さま〜」とか猫耳姿で「ごろにゃーん」とか……。

 うん、ヤバ過ぎる。

 ギャップ萌えが過ぎる。


 でも、そうじゃない。

 出会ってから短い時間だけど、オレは姫さまに惹かれていた。

 姫さまを選べば尻に敷かれるのは目に見えている。

 ワガママいっぱいで散々苦労させられるだろう。

 だけど、オレはリスティアともっと仲良くなりたい。

 リスティアをもっと知りたい。

 オレにまだ見せていない彼女の本質を見せて欲しいんだ。


「でも、おかげで時間に余裕ができてよかったな。さっさと魔王倒しちゃおうぜ」

「やだ」

「はいっ!?」


 姫さまはその場に座り込んでしまった。


「せっかく時間できたんだから、勇者さまとおはなしする〜。じゃなきゃ、わたしここから一歩も動かない〜」


 前言撤回。

 うわー。なにこれ。めんどくせー。いみわかんねー。


「せっかく、ラーヴルさんたちが頑張ってくれたんだぞ。世界がかかっているこの非常事態になに悠長なこと言ってんだ。『うさぎとかめ』とか『五分前行動』とか教わらなかったのか? ほら、さっさと行くぞ」


 姫さまの態度にちょっとカチンときて、つい、キツイ言い方になってしまった。『うさぎとかめ』や『五分前行動』がこっちの世界で通じるかは知らん。


「大丈夫だよ〜。後は魔王倒すだけだもん〜。勇者さまがサクッと倒してくれるもん〜」


 なにその全幅の信頼。

 最初から疑問だったけど、姫さまは勇者としてのオレを完全に信じきっている。

 出会った瞬間から好感度MAXだった。


「それにさ〜、そもそも別働隊に頑張ってもらったのは、勇者さまとお話する時間をつくるためだし〜」

「へっ!? そうなの?」


 うわ、ラーヴルさん報われねー。

 まさか、姫さまのチョー個人的理由でやらされてたとは……。


 まあ、でも、これがイージーモードってことなのかな。

 きっと『攻略ガイド』に書いてあったように30分もあればちゃんと魔王攻略できるんだろ。


「予定の時間までだぞ」

「わ〜い、やった〜。さすが勇者さま〜」


 仕方なく隣に腰を下ろしたオレに姫さまがまたまた飛びついてきた。

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