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21 究極のカギ

 ――残り時間2:18


 殺風景な部屋だった。

 外見通りの狭い部屋で、家具も最小限。

 『王立モンスター研究所』の女教師さんがいた部屋みたいだが、しかし、この部屋は中年男の一人暮らし感にあふれる小汚い部屋だ。


 こんな誰もいない森の中で、ひとり薄汚れた生活を送るこの男。

 伝説の鍵師とまで呼ばれるほどの技能を持ちながら、それを活かすこともなく、くすぶっている。

 いったい、どんな男なんだろうか?


 リスティアとゴラスは小さなテーブルに向かい合って座る。

 椅子は2つしかなく、汚れたベッドに腰を下ろすのもためらわれたので、オレはリスティアの後ろにつっ立って話を聞くことにした。


「あいにくと客に茶を出せるような生活はしてないのでな」

「そんなもの必要ないわ」


 二人とも睨み合うように厳しい視線をぶつける。

 しょっぱなから険悪な滑り出しだった。

 リスティア相手にこんな強気にでれるとは、さすがは一流の職人というべきか。

 きっと、自分の気に入った仕事しか頑固職人タイプなんだろう。


「望みはなんだ?」

「アナタの最高傑作、すべてを開けると言われた『究極のカギ』。それをちょうだい」

「…………」

「もってるんでしょ?」

「……ああ、確かにワシが持っておる。なにがあっても、あれだけは肌身離すことはなかった」

「じゃあ、ちょうだい」

「…………」


 リスティアのゴラスへの態度はぞんざいだった。

 出会いざまに、いきなりビンタかましてたし、そもそも、着陸方法からして強引なものだった。

 とても、伝説の職人に依頼に来た態度とは思えない。


 王族ゆえの傲慢さだとは思えない。

 『シティー』の宝石商(ジェントルさん)への態度も十分に偉そうだったけど、このゴラス相手の場合はちょっと違う。

 うまく説明できないけど、なにか攻撃的なトゲトゲしさみたいなものが伝わってくる。

 嫌悪か? 軽蔑か? 怒りか? 怨恨か?

 いずれにしろ、凄腕職人に向けるものとしては適切とは思えない。

 なにか個人的な因縁でもあるのだろうか……。

 さっきまであんなにゴキゲンだったのに…………。


「もちろん、タダでとは言わないわ」

「ヌシに儂の欲しいものが支払えるのかな?」


 ゴラスは「どうせ、できやしないだろう」とリスティアを小馬鹿にした態度だ。

 可愛い女の子だと思って舐めきってるんだろうか?

 つい「あなたが話してるのは、隣国のお姫様で、しかも、人類最強さんですよ」って教えたい衝動に駆られるが、じっとガマン。

 この後、間違いなく、「ずっと姫さまのターン」だろうからね。

 そのとき、偉ぶっているこのオッサンがどんな顔するのか、今から楽しみだ。


「さっきも言ったでしょ。アナタがなにを望んでいるのか、ワタシは知っているって」

「ほう、ずいぶんと偉そうな口を利くようだが、どこまで本当なのやら。まあ、この場所まで辿り着けたことを評価して、話だけは聞いてやろう」

「ザクヤ商会」

「…………………………………………そっ、それくらいで儂が動じるとでも?」


 いやいやいやいや、メッチャ動揺してますやん。

 顔も真っ青になっちゃってるし。

 なんか、プルプル震えてるし。

 冷や汗もダラダラっすよ?


 虚勢を張ってるだけだって、オレにもバレバレなくらいの乱れっぷりだった。

 さっきまでのエラそうな態度はどこにいったんだよ、ってツッコミたくなるくらい、情けないまでの狼狽えっぷりだった。


「儂の仕出かしたコトの大きさを考えれば、噂くらいは『シティー』中に広まっておろう。市井の者でも知っているであろうザクヤ商会の名をヌシが挙げたところで、なんら不思議はない。それくらい誰でもできるわ。その程度であるなら、これ以上話す必要はないな。とっとと帰るがよい」


 なんか急に饒舌になっちゃったよ。

 それに、いきなり「帰れ」とか言い出したけど、自分に都合が悪くなったから話を終わらせようとしてるだけだよな?

 分かりやすすぎるだろ、このオッサン。


 伝説の職人って呼ばれるくらいだし、リスティアとも張り合おうとしていたし、最初は少し敬う気持ちもあったけど、一気に小物感が全開だ。ショボすぎる。


「ミリアちゃん」

「なっ!?」


 リスティアが挙げた名前に、オッサンの顔が驚愕に染まった。


「彼女、今でもものすごく怒ってたわよ?」

「……………………」


 オッサンは怯えた目でリスティアを見る。

 まるで、救いを求めるように。


「ワタシなら、なんとかしてあげられるわ」


 リスティアはひと抱えもある重そうな袋をドンと机に叩きつける。

 口の空いている袋からは何枚もの白金貨がこぼれ落ちる。

 おっさんの目がいやらしく輝いた。

 おっさんはゴクリと生唾を飲み込んだ。


「ミッ、ミリアちゃんはっ、ゆっ、許してくれるだろうか」

「ええ。商会にも話を通してアンタの一件を白紙に戻してあげるし、ミリアにも言い聞かせておくわ」


 その言葉を聞いたおっさんはハッとした様子で椅子から飛び降り、

床に膝をついて見事な土下座をぶちかました。


「なにとぞ、なにとぞ」

「契約成立ね」


 リスティアはゴミ虫を見る目でそう告げた――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 要件を済ませたオレたちは、あんなゴミ溜めに長居は無用とばかり、ゴラスの家を早々に後にした。

 ちなみに、オレは「勇者さまはちょっと外で待っててね」と先に追い出され、リスティアが外に出てきたのはそれから5分ほどたってからだった。

 中でどんな恐ろしいお説教が行われていたのか、怖いから想像しないでおこう。


 すべてを開けると言われた『究極のカギ』。

 その制作者を知ってしまえば、がっかり感がハンパない。

 だけど、姫さまがいうにはその性能は文句なしだそうだ。

 そういえば、地球でもあったな。マンガや小説なんかで、作品は素晴らしいんだけど、ツイッター炎上させたりと、本人がアレな人だって知ってがっかりしたこと。誰とは言わないけどね。


 まあ、ともかく、オレたちは『究極のカギ』をゲットして、無事に【ミッション7】をクリアしたわけだ。

 『攻略ガイド』も残すところ最後のミッションだけだ。

 ちなみの、そのミッションはというと――。


【ミッション8】 悪魔城を撃破せよ(所要時間30分)。


 ということで、フェニックスに乗って目的地の悪魔城を目指しているわけだけど、今までの移動中ずっと視界に入っていたくらいデカい。

 ちょうど大陸の中央に位置するソコまで、フェニックスだと10分くらいかな。

 ちなみに『攻略ガイド』に描かれているのは、またしても落書きだ。

 かろうじて建物と魔物っぽいナニカが書かれているのが分かる程度。

 うーん…………。


「あそこに行くんだよな?」

「そだよ〜」


 さっきまでの不機嫌ぶりが嘘のようなリスティア。

 桃色髪がふわりと風になびく。

 これから敵の本拠地に乗り込もうってのに、ピクニックにでも出かけるかのような軽いノリだ。

 まあ、今までが今までだったしな。

 オレもそう気構える必要ないか。


「それにしても、ヒドかったなあのおっさん」


 最初はエラそうにしてたくせに、最後は泣いてすがりつく有様だった。

 あそこまでいくと、むしろ、同情したくなるレベル。


「いったい、なにやったらあそこまで落ちぶれるんだ? 凄腕の鍵職人なんだろ?」


 魔王攻略における文字通りキーアイテムの製作者だ。

 普通に仕事してれば、大層な御身分ごみぶんだろうに。あれじゃ、ゴミ分だ。


「んーとね〜、アイツはね〜、どうしようもないくらい、救いようのないくらいのね〜、ドスケベオヤジなんだよ〜」


 リスティアは心底不快そうに語る。

 彼女の話によると、あのおっさんは仕事は確かで数年前までは『シティー』でマジメに仕事に打ち込んでいたそうだ。

 それが良い年して女遊びにハマってしまったのだと。


 それまで大してお金を使わず溜め込んでいたし、仕事柄、裏社会との繋がりもあった。

 そこを『シティー』の裏社会を牛耳っているザクヤ商会に付け込まれたのだ。

 おっさんは良い年して覚えた女遊びにハマり、仕事もそっちのけでザクヤ商会の経営する娼館に入り浸りになり、湯水のように貯金を溶かしていったそうだ。


 ザクヤ商会としても、ここまでのつもりはなかったそうだ。

 自分たちとの繋がりを太くし、多少でも娼館にお金を落としてもらいたいくらいの気持ちだった。

 しかし、おっさんは予想を超えて、女遊びという泥沼にハマり込んでしまった。

 一等地に豪邸が建てられるほどの貯金を使いきり、それでも飽きたらずにおっさんはツケで娼館通いを続けた。

 高利とともにどんどんとツケは膨れ上がり、そして、ついにおっさんは商会から借り入れを拒否された。


 ここで一念発起すれば、まだおっさんに目はあった。

 数年間の豪遊で多少錆びついたとはいえ、その腕は比類なきもの。

 仕事に真剣に撃ちこみ質素な生活を送れば、十年もかからずに借金を返済できただろう。


 しかし、おっさんはその道を選ばなかった。

 退廃しきった自堕落な生活をぬけ出すことができなかったのだ。


 しかも、その上、おっさんのお気に入りでナンバーワン娼婦のミリアにストーカー紛いのつきまといを始めたのだ。

 自分のことを愛してくれているミリアちゃんなら、窮地に陥った自分を助けてくれる。そう信じて後を追い回したのだ。

 しかし、残念ながらというか当然というか、ミリアが愛していたのはおっさんではなく、おっさんの落とすお金だった。

 けんもほろろな態度のミリアに、おっさんのつきまといはどんどんとエスカレートしていく。

 耐え切れずミリアは顔役であるザクヤ商会に助けを求めた。

 しかも、悪いことにミリアは商会の重役の情婦オンナだった。

 こうして、おっさんはザクヤ商会から指名手配され、取るものも取らずに『シティー』から逃げ出した。

 臆病者のおっさんは、追っ手の噂を耳にする度に、『シティー』からどんどんと離れ、行き着いた先があの山奥の小屋だった――。


 うん。まったくもって同情の余地がないな。

 オレだったら、『究極のカギ』をもらった後で、簀巻にして商会に突き出してやりたいくらい。

 でも、リスティアは優しいから、そんなことしなかった。


「約束は守るよ〜。だから、商会との因縁は一回チャラにしてあげる〜」

「へー、あんなに毛嫌いしてたのに、意外と優しいんだね」

「うん。後はアイツ次第だね〜」


 どんなクズでも助けの手を伸ばす、優しいリスティア。


「でもね。依存症は中々治んないよね〜。今度はどうなるのかな〜」


 リスティアはふふふっと黒い笑みを浮かべる。

 うん…………。

 リスティアは優しいなぁ……………………。


 

 リスティアの暗黒面に冷や汗を流したりしているうちに、次の目的地が見えてきた。

 どんな凶悪なモンスターが出てきても、隣のお方よりは怖くないはず。

 そう思って自分を奮い立たせた――。


 ――ミッション7クリア――

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