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20 伝説の鍵師

 ――残り時間2:29


 長い間祈るようにしていたリスティアが、ようやく顔を上げた。


「あれっ、どうしちゃったの、勇者さま〜?」

「いや、軽く振ったつもりだったのに、予想外に重い話だったから……」

「重い話〜?」

「いや、だって、そうだろ」

「ん〜、勇者さまがどう勘違いしてるのかわかんないけど、そんなだいそれた話じゃないよ〜」

「いやいやいや、魔王は絶対に倒せないで度々蘇るんだろ? そんでその度に世界は滅亡の危機に瀕するんだろ?」

「そだね〜。10年から20年くらいの周期かな〜。短いと数年とかってときもあるよ〜」

「おい、なんか簡単に言ってるけど、そんなに頻繁に滅びかけてるのかよっ!」

「ん?」

「『ん?』じゃなくてっ!」


 思ってた以上にしょっちゅうピンチになってる世界だった。

 怖え世界だなと思うが、リスティアは理解できないといったふうに首をかしげている。

 その仕草もカワイイな、オイ。

 じゃなくて、当事者である現地人のリスティアがなんでそんなに他人事みたいな態度なんだよっ!


「あ〜、わかっったああ〜〜」

「なにが分かったんだよ」

「勇者さまは誤解してるよ〜」

「誤解? なんだ、オレが間違ってるのか?」

「うん、そだよ〜。たしかに、勇者さまが思っているように、大昔は大変だったみたいだよ」

「じゃあ、今は違うのか?」

「うんうん。魔王の封印は頻繁に解けるってって言ったでしょ?」

「ああ、言ったな。だから、大変なんじゃないか? 気の休まる暇もないだろ」

「人間だってそんなにバカじゃないよ〜。何度も繰り返されるんだったら、学習もするし、ちゃんと対策も練るんだよ〜」

「まあ、そうだな」

「今じゃあ、魔王への対処法も確立されてるし、別になにも難しいことないんだよ。王家には、手順書も伝わってるくらいだしね〜。ちょっと勇者が頑張ればらくしょーなんだよ〜。勇者さまの世界の言葉でいえば『何度もクリアしたゲームをもう1回やるくらい簡単』なんだよ〜」


 冷静に考えれば、そうだよな。

 数百年に一度とかだったら、ノウハウも蓄積されないし、魔王の脅威を知らない世代だけで対処しないとならない。

 対岸の火事がごとく油断しているだろうし、火事場泥棒がごとく自分の利益のために足を引っ張るヤツらもいるだろうしな。

 だけど、十数年くらいの短い間隔だったら、話は別だろう。

 「ワシは今回で4回めじゃよ」と自慢するジイさんとかいるもんな。


「てゆうか〜、むしろ、お祭りみたいなものかな? 異世界から勇者がやって来るし、『普段苦しめられている魔物ざまあ』みたいな感じで、民衆も大喜びだよ」


 なんか、オレが知ってる魔王復活と全然違った……。

 どうりで、この世界の人々から悲壮感が伝わってこないわけだ。

 王城の屋上で演説したときも大盛り上がりだったし。

 彼らにとってオレは世界を救う一縷(いちる)の希望なんかじゃなくて、お祭りにやって来たゲストの芸能人みたいなもんだったのか……。なんか微妙な気持ちだ……。


「じゃあ、なんでさっきはあんなに真剣そうに話してたんだよっ!」

「その方がおもしろいから?」

「面白くねーよっ! いや、ちょっと面白かったけど。でも、ムダに緊張しちゃったじゃねーかっ! つーか、疑問形で言うなっ! ちょっとイラッとくるから」

「えへへへ〜」


 他のヤツだったらぶん殴ってやりたくなるドヤ顔をしているリスティアだったけど、カワイイから許す。


「でもね〜、今回はちょっと事情が違うんだよね〜」

「ん? 楽勝じゃねえのか?」

「ほら、今回はいつもと違って、封印が解けるまでギリギリの猶予しかないからね〜。手順書にあること以外にも、やることがいっぱいあって大変だったんだよ〜」

「いや、それ、自業自得じゃねーかよ」

「あはははは」


 さも「今回は苦労しました」みたいな態度のリスティアだけど、それもすべて一年前の勇者召喚の儀式をすっぽかしたリスティア本人のせいだ。

 いくら、定例化したこととはいえ、そんな大事なこと忘れるか、フツー?

 世界がかかってるんだぞ?


 まあ……地球でも同じようなもんか。

 いや、ほんと、慣れって怖いな。

 慣れて油断してると、考えられないようなミスを犯しちゃうもんな。

 オレも油断せずに気をつけていこう。

 勇者に慣れる前に終わっちゃいそうだけどな。


 自業自得とはいえ、リスティアが尋常じゃない努力をしてきたことは、イーヴァや女教師さんの話からも明らかだ。

 本人は軽い調子で「大変だったよ〜」と言っているが、それは彼女なりの照れ隠しなんだろう。


 普段はカルい雰囲気でフザケてるようなリスティアだけど、実は努力家だったり、いきなりシリアスになったり、ドSだったり、いきなり甘えてきたり、なぜかオレへの好感度がMAXだったり。

 ホント、掴みどころのない女の子だ……。

 その掴みどころのなさが彼女のみりょくでもあるのだが、いったいどれが彼女の本当の顔なんだろうか?


「あっ、勇者さま〜、そろそろ着くよ〜」


 まあ、リスティアにからかわれたりもしたけど、理性を保つという当初の目的は果たせた。

 結果オーライということにしておこう。


   ◇◆◇◆◇◆◇


「ふーちゃん場所わかるよねー」

「きゅい」


 『古代遺跡』を出発して約10分。

 あたりは完全に人里離れた森の奥。

 空から見る限りは、道らしい道も見当たらない。

 本当にこんな場所に人が住んでいるんだろうか?

 そうだとしたら、鍵師さんとやらは、確実に人間嫌いの偏屈ジイさんだろう。

 厄介なオツカイを押し付けられなきゃいいんだけど……。


「きゅいきゅい」


 どうやら、フェニックスが目的地を発見したようで、ゆっくりと旋回しながら減速し、緩やかに高度を下げていく。


「あー、あそこかー。じゃあ、派手なヤツ、裏手に一発キメちゃって―」


 木々に覆われていて、オレにはなにも見えなかったけど、リスティアはちゃんと見つけたようだ。

 とある場所を指差して、フェニックスに指示する。


「きゅい」


 フェニックスはひと声上げると、その口を大きく開き、巨大な炎のブレスを放った。

 視界一面が真っ赤に染まる。

 続けてフェニックスは翼を大きくはためかせると、暴風が吹き荒れた。


 暴風の勢いに耐え切れずに、オレは目を閉じる。

 突如、落下するような浮遊感が襲いかかる。

 内臓が浮き上がるような不快感がしばらく続く。

 バキバキとなにかをなぎ倒すような轟音の中――ズシンとした衝撃に身体が揺らされる。


 ――音も衝撃も収まった。なんとか落ち着いたようだ。

 目を開けたオレは、フェニックスが地面に降り立っていることに気づいた。

 辺り一面木々に囲まれた森の中。

 よく見れば、木々の間を縫うように一件の木造小屋が建っている。

 そして、オレたちがいるこの場所だけが、ポッカリとした空白地帯だった。


 さっきまでこんな場所はなかった。

 無理矢理に急造された空白地帯。

 周囲には焦げ臭い匂いが充満している。


 ようやくオレは状況を理解した。


 あの小屋に鍵師が住んでいるのだろう。

 しかし、周囲は木々に囲まれていて、フェニックスでは着陸するスペースがなかった。

 そこで、まずは炎のブレスで木々を燃やし尽くしスペース確保。

 続いて、翼の暴風という力技で鎮火して延焼を防ぐ。

 最後に、燃え残った木々をフェニックスの体当たりで粉砕しながらの強引な着陸。


 といったところだろう。


 相変わらずやることがムチャクチャだ。


「なっ、なんなのだっ、今のはいったい?」


 小屋から慌てるようにしてジイさんが飛び出してきた。


 まあ、ビビって当然だよな。

 着陸時の衝撃のせいか、今でも小屋が揺れてるもん。


「こんにちはー」

「…………」


 フェニックスの背から飛び降りたリスティアがジイさんに挨拶する。

 オレたちに気づいた爺さんは、完全にフリーズ。

 大きく目を見開いたまま、固まっちゃった。

 リスティアの声は届いていないようだ。


 リスティアに続いて、オレもフェニックスの背から降りる。

 彼女みたいにカッコよく飛び降りるのは怖かったから、背中伝いにおそるおそる這って降りるカッコ悪い方法だが……。


「あのー」

「…………。……………………せっ、聖獣さまっ!?」


 返事のないジイさんにリスティアが再度声を声をかけた。

 しかし、ジイさんは目もくれない。

 ようやく、頭の回転が追いついたのか、フェニックスの正体に気がついたようで、その視線は聖獣に釘付けだ。


 二度目の問いかけも無視されたリスティア。

 三度目の問いかけをするのかと思いきや、ジイさんに向かってツカツカと歩み寄り、大きく振りかぶった平手打ちをブチかました。


「きこえてますかー?」

「あ、ああ……」


 尻もちをついたジイさんは目をパチクリさせながら、今日もイイ笑顔なリスティアを怯えたように見上げている。


「アナタに用があって会いに来たのよ。どんな扉も開けることができる伝説の鍵師と呼ばれたゴラスにね」


 見下ろすリスティアに見上げるゴラス――。


 しばし見つめ合ったまま対峙していた二人だが、やがて、ゴラスは「フンッ」と息を吐き、埃を払いながら立ち上がった。


「ワシの方はなんの用もない」


 ゴラスは踵を返し、小屋に戻ろうと歩き出す。


「知ってるんだけどね。アナタがこんなトコロに引きこもっている理由も、アナタがなにを望んでいるのかも」


 リスティアの投げかけた言葉に、ゴラスは歩みを止める。

 しばらく沈黙を保ってから、やがて、ゴラスは振り返りもせずに口を開いた。


「さっさとついて来い」

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