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19 ミッション7

 ――残り時間2:35


 『古代遺跡』を後にしたオレたちは、次の目的地へ向けて北西へ飛んでいく。


【ミッション7】 伝説の鍵師から『究極のカギ』を入手せよ(所要時間30分)。


 どうやら、次のミッションはアイテム入手のようだ。

 よくあるゲームだと、この伝説の鍵師やらはワガママで、「カギが欲しかったら〇〇してこい」みたいなオツカイやらされるんだよな。

 途中で中ボスを倒さなきゃいけなかったり、あちこちを走り回されたり。

 単純なミッションだけど、場合によっては結構面倒くさかったりする。


 『攻略ガイド』の地図を見ると、伝説の鍵師さんは『古代遺跡』からかなり離れた場所に住んでいるようだ。

 『王都』や『シティー』との位置関係から判断するに、5分や10分では着かなそうなんだけど、オツカイこなしてる時間あるのかな……。


「なあ、次の場所まで結構時間かかりそうだけど、大丈夫なんか?」

「うん。だいじょうぶだよ〜。へいきへいき〜。わたしに考えがあるから〜、まかせといて〜」


 リスティアは自信満々に胸を叩いて、任せてアピールしてくるから、オレは余計なことを考えるのは早々に諦めた。

 大丈夫だ。だって、イージーモードだし。

 ここまでのことを思い出しても……うん、考えるだけムダだな。


 そういえば、さっきの頭ナデナデの一件から、リスティアとの距離がかなり縮まった。

 精神的にも、そして――物理的にも。


 リスティアは今、もたれかかるようにしてオレの胸にその身体を預けている状態だ。

 柔かくって。温かくって。いい匂いがして。

 オレの理性が悲鳴を上げている。


 平然とした顔で普通の会話をつづけているが、実際のところ、心臓はバクバクだし、手汗もヌルヌルだし、下半身もスゴいことになってる。

 上目遣いでこっちを見つめるリスティアにはオレの内心なんかモロバレなのかもしれないが、彼女がなにも言わない以上はオレもこの仮面をかぶり続けるしかない。


 この幸せな時間がいつまでも続いて欲しい反面、早く開放してくれないとヤバいと焦る気持ちも大きい。

 気を紛らわすためにも、ここは会話が必要だ。是非とも必要だ。

 会話が途切れた瞬間、オレはビーストに変身する自信がある。いや、自信しかない。

 なんでもいいから急いで、話のネタを探さないと……。

 回らない頭を必死で回して、なんとかオレは会話の糸口を見つけ出した――。


「なあ、ちょっと気になったんだけど、訊いてもいいか?」

「うん、なんでもきいて〜。勇者さまだったら、ワタシの恥ずかしいヒミツだって教えちゃうから〜」


 リスティアは蠱惑的な微笑みを向けてくる。

 だから、そういうの、たとえ冗談でも、今のオレにはキツイからやめて欲しい。


「こほん。さっきのメタスラの話だけどさ」

「うんうん」

「アレもっと増やせなかったのか?」

「ん?」

「いやさ、あんな簡単にメタスラ増殖できる薬あるんだったら、わざわざ『トルマリン・リング』を取りに行かなくても良かったんじゃないか? その方が時間短縮できたんじゃない?」


 たしかに『トルマリン・リング』は取得経験値が10倍になるっていうぶっ壊れアイテムだ。

 でも、モンスター自体を増殖可能な上、一網打尽にできる毒薬があるんなら、単にメタスラをさっきの10倍に増やせば、それでいいんじゃね?

 などと素人ながらに考えたわけだ。といっても、真剣に考えたわけじゃない。

 薬の性能上不可能なのかもしれないし、それだけ大きな設備を作れない等の困難があるだけなのかもしれない。

 パッとした思いつきにすぎない。今のこの状況で、気を紛らわせればいいだけだ。


  案の定、オレの浅はかな考えは、すぐにリスティアに否定された。


「ああ、それムリムリ〜」

「そうなのか。理由は?」


 よし、会話が広がりそう。いい流れだ。


「ひと言で言うとね〜、個体上限数だよ」

「個体上限数? なにそれ?」

「んーとねえ、モンスターってのは魔王の魔力によって生み出されるんだよ。それでね、時間が経つにつれてドンドン増えていくんだけど、種族ごとに割り当てられている魔力が定まっているんだよ。だから、最大でもその魔力の範囲内までしか増えないんだよ。それが個体上限数だよ〜」

「ああ、なるほど。理解した」


 まさに、ゲームみたいなシステムだな。


「じゃあ、そこまでメタスラを増やすのは不可能ってことか」

「そだね〜。あの量も結構ギリギリだったし。魔王の封印が限界まで弱まっている今だから可能な方法だったんだよ〜」

「魔王の封印が関係あるのか?」

「うんうん。封印が弱ると魔王が使える魔力が増えるから、個体上限数が上がるんだよね。だから、世界中にモンスターが溢れちゃうんだよ」

「じゃあ、とっとと倒しちゃわないとなっ」

「うん、勇者さま、がんばってね〜」


 あら、なんか、綺麗なかたちで話がまとまってしまった。

 次の話題をなにか探さないと……。


「あっ、でもさ、なんでわざわざあの街(シティー)に寄ったんだ? 貴重なアイテムなのかもしれないけど、リスティアだったら取り寄せるなり、国内で入手したりできたんじゃないか?」


「古代遺跡に近い『シティー』じゃないと、高品質なヤツは急ぎで手に入らなかったんだよね〜。それに、自分の国じゃちょっとマズい理由もあって……」

「マズい理由?」

「へへへ〜」


 露骨に誤魔化された……。


 思い返してみても、ジェントルさんから『トルマリン・リング』を購入した際のリスティアの行動は不自然極まりなかった。


 向こうが提示した金額より高い金額で購入したし(逆なら分かるのだが)。

 「ひとつお願いがある」と耳打ちしてたし。

 オレが尋ねても、はぐらかしたし。

 『トルマリン・リング』の他にも、小箱を受け取っていたし。


「あん時、なに話してたの?」

「えへへ〜、わるだくみだよ〜」


 ふわぽよな表情でリスティアは黒いことを言う。

 状況から推測するに、差額で自分用のアクセをゲットってところかな?

 アクセサリーを欲しがるところは普通の女の子っぽくて可愛いとも思えるが、やってることは横領だ。


 立派な犯罪なんだろうけど、そんなカワイイ顔して見つめられたら、許したくなっちゃうじゃないか。


 ――よし、許すッ!


 だって、オレの金じゃないしな。

 それに魔王討伐っていう大仕事に比べれば、ちょっとした横領なんて誤差だ、誤差。

 細かいことキニスンナ!


「リスティアは悪い子だなあ〜」

「えへへへへ〜」

「そんな悪い子はオシオキしちゃうぞ〜」

「ええ、オシオキされちゃうの〜〜。してして〜〜〜」


 若干セクハラ気味なオレの発言だったが、リスティアは嬉しそうに目を潤ませてきた。ノリいいな、この子。

 さっきのフェニックス調教風景を見て、リスティアはオシオキする側だと思っていたけど、意外と逆もイケそうだ。

 このノリだったら、ふざけたフリで1モミや2モミくらいは許されるのではないか?


 ――想像したら、理性が一本プチっと切れた。


 いかんいかん。それはマズい。

 色即是空、空即是色。

 煩悩退散、煩悩退散。


 真面目な話を再開しよう。


「そうだ、リスティア」


 桃色になりかけた空気を払拭するため、ワザと大きめの声で話しかける。


「な〜に、勇者さま〜」

「研究所で女教師さ……研究員の女性が言ってたけど――」

「うんうん」


 あぶね。危うくオレの脳内呼称で呼んじゃうところだった。

 だって、理想の女教師さんにしか見えなかったし。

 それに、名前も聞いてなかったし。


「勇者に関する昔の文献をあさったんだって?」

「ん〜、まあね〜」

「勇者ってそんなに何回も召喚されているのか?」


 女教師さんが言うには、リスティアは文献から勇者の経験値テーブルを解析したそうだ。

 ということは、つまり、それだけのデータが取れるほど多くの勇者がいたってことだ。


「そだよ〜」


 軽い口調でリスティアが肯定する。

 別に、隠す気もないようだ。

 今まで一度も「魔王を()()」とは言われていない。

 だから、オレも薄々は感づいていた。


 いきなりリスティアが真剣な表情になり、オレから身体を離した。

 そして、聖獣覚醒の儀を執り行ったときみたいに、厳かな声で語りだした――。


「魔王を殺すことは不可能なのです。魔王はこの世界と不可分な存在であり、魔王が死す時、この世界もまた終焉を迎える。我々にできるのは『封印』して、一時的にそのチカラを抑えこむことだけです」

「…………」

「魔王は世界と表裏一体。故に、この世界の住人である我らは、いくら強大な力を持ったとしても、魔王を封ずることは出来ません。そこで、魔王の封印が弱まり世界が危機に瀕するたび、我々は勇者召喚を行って参りました」

「…………」

「それが可能であるのは、この世界の(ことわり)の外にある者だけ。異世界より召喚されし勇者のみが魔王を封印できる唯一にして無二の存在なのです」

「…………」

「そして――」


 リスティアの語る姿はまさに、召喚の巫女と呼べるものだった。

 彼女の神聖さに圧倒されたオレは、思わずゴクリとツバを飲み込んだ。


「――今回、勇者として選ばれたのが、勇者さま、貴方なのです」


 あらためて、大役を押し付けられたものだと実感する。

 いや、オレなんかただのフツーの大学生だぞ…………。


「どうか、この世界をお救い下さいませ、勇者さま」


 リスティアは胸の前で両手を組み、祈るように(こうべ)を垂れる。

 敬虔な聖女以外のなにものでもなかった。

 気圧されたオレは、「ああ」と漏らし、コクコクと頷くことしかできなかった――。

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