18 レベルカンスト
――残り時間2:41
「ホントにカンストしちゃったよ……」
椅子に座ったままレベル999と表示されている『ステータス』を眺めても、いまいち実感が湧かなかった。
まぁ、そりゃそうだ。オレはほとんどなにもしてないもんな。
「勇者さま〜カンストおめでと〜」
「おめでとうございます」
リスティアと女教師さんがお祝いの言葉をかけてくるが、どう答えていいものやら。
「これで魔王も楽勝だね〜」
今まであまり考えずに先延ばしにしてきたけど、オレには魔王を倒すという使命がある。
『勇者シリーズ』という装備も整った。
レベリングもこれで完了した。
ほとんど他人任せで、オレ自身はなにもしていないが、それでも準備は終わったんだ。
この後も細かいお使いクエストやらアイテム入手やらはあるんだろうけど、いよいよ魔王との戦いを意識しなければならない段階だ。
まだまだ、覚悟は全然決まっていない。腹も括れていない。
でも、やらなきゃいけないんだろうな――それが勇者の仕事だから。
たしか、「魔王討伐の推奨レベルは500」と『攻略ガイド』に書いてあった。
今のオレのレベルを持ってすればダブルスコア。
数値だけ見れば楽勝なはずだ。
リスティアが「楽勝」だと言う通り、今の俺のステータスはレベルや経験値だけでなく、すべてのパラメーターがカンストしている状態だ。
これはあくまでも勇者のジョブ特性ゆえだ。他の職業ではこうはいかない。
そのジョブに関連したパラメータであっても、レベルカンスト時にパラメータ自体はカンストしないのが一般的らしい。
例えば、攻撃力が売りの戦士というジョブはレベルがマックスでも、攻撃力の値はカンストせずに850くらいまでしか上がらない。
それに対し、勇者はちゃんとカンストして999まで上がる。
防御力や素早さ、知性など他のパラメータについても同様である。
いかに勇者がチート・ジョブなのか、これだけでも分かるだろう。
このように、この世界にはパラメータをカンストさせている人間はいないわけだ――普通だったらね。
その例外が「アタマオカシイ」と評判のリスティアさん。
彼女は2ジョブ・カンストという力技で、いくつかのパラメータをカンストさせるに至った人類最強さんなのだ。
そんな彼女をパラメータだけとはいえ、今のオレは上回ってしまったわけだ。
戦闘経験ほぼゼロのこのオレが!
……………………本当に大丈夫なんだろうか?
「お疲れ様でした、勇者様、そしてなによりも、リスティア殿下」
「いや、お疲れってほどでも……」
「そだよー、ちっとも疲れてないよー」
後片付けを終えた女教師さんが労いの言葉をかけてくるが、ほぼなにもしていないオレとしては返答に困る。
リスティアも同感のようだ。むしろ、彼女は遊び感覚で楽しんでくらいだ。
「いえいえ、ご謙遜なさらずに。殿下のお力なしでは、今回のプロジェクト成功はありえませんでしたから」
「大したことしてないよー」
「ん?」
楽しそうにホースで水撒きしてはっちゃけてただけにしか思えないのだが?
「勇者様はご存じないと思いますが、是非とも知っておいていただきたいのです。今回のプロジェクトの発案者は殿下なのです」
「そうなの?」
「えへへへ〜」
リスティアはほっぺをポリポリと照れた様子だ。
オレが楽して最強になれたのは、リスティアのおかげだったのか。
「それだけではございません。この『古代遺跡』の深層にある隠しエリアでメタスラの群生地を発見したのも殿下です」
「そなの?」
「たまたま見つかったんだよ〜。運が良かっただけだよ〜」
「いえいえ、文献上でしか存在を知られていなかったメタスラを探すために、殿下は世界中のダンジョンを飛び回り、その末に、ここを発見なさったのです」
「って言ってるけど?」
「ん〜、まあ、ちょっとは、いろんなトコ、行ったかな?」
リスティアは軽くそう言うが、きっと女教師さんが言ってることが真実なのだろう。
――姉上はこう見えて、努力の人なのです。それも、とびっきりの。
そう言っていたイーヴァの言葉を思い出した。
「さらに、文献では『退治するのすら困難』といわれていたメタスラを傷つけることなく、実験に必要な数を捕獲したのも殿下の功績です」
「スゴいじゃん! 歴史的快挙じゃん!」
「功績なんて、そんな大げさなものじゃないよ〜。とっ、とってもカンタンだったし〜」
褒められ続け、だんだんとリスティアの調子がおかしくなってきた。褒められ慣れていないのか?
リスティアにとっては、たしかに容易いことだったのかもしれない。
でも、それは2ジョブ・カンストという血の滲むような努力があってこそだ。
オレみたいに他人の力を借りて、お手軽にレベルカンストしたんじゃない。
常人では到底不可能なことを、彼女は自力でやり遂げたんだ。
今まで誰も成し得なかったことを、遥か上の次元でクリアしてしまい、あまつさえ、それが『とってもカンタンだった』だと、彼女は言いのけてしまう。
レベルカンストした勇者であるオレなら、同じようなこともできてしまうのだろう。
でも、リスティアとチートなオレ、一緒になんかできないよな……。
「その上、先ほど使用しました増殖薬と毒薬ですが、どちらも殿下が主体となり王立アイテム研究所と協力して発明したものなのです。しかも、アイテム研究所の所長曰く、『ワシらは雑用を手伝っただけ、全部殿下ひとりの業績じゃ』だそうです」
「ファッ!?」
生産職まで極めていらっしゃるとか?
そういえば、イーヴァは2ジョブ・カンストと言った。
よく考えれば、これは「カンストしているジョブは2つだ」ということしか説明していない。
そう、別に他のジョブを育てていないとは、ひと言も言っていないんだ。
話からするに、生産系ジョブについても、リスティアは育て上げているのだろう。
カンストこそしていないものの、国内トップクラスを軽く凌駕するレベルくらいまでは……。
であれば、他ジョブも軒並み育てているのだろう…………。
「とびっきりの努力家」「アタマオカシイ」そう言ったイーヴァの気持ちが理解できた。
「しかも、禁書庫まで含めた王国中の過去の勇者召喚に関する文献を渉猟し、勇者様の経験値テーブルを完全に解析し、必要なメタスラ数まで割り出したのも殿下なのです」
「おい、もう謙遜すんなよ。一から十まで全部、リスティアのおかげじゃねーか」
「う〜〜〜」
自分のやったことを隅から隅まで完全暴露されて、リスティアは真っ赤になってる。
別に、恥ずかしがることじゃない。むしろ、誇るべきことじゃないか。
つーか、どんだけの時間と手間をかけてるんだよ。
女教師さんのせいで、リスティア株が爆上がりだ。
「なに、恥ずかしがってんだよ」
「だって〜、こういうのって知られずにこっそりやりたいんだもん〜」
「ちょっと、こっちおいで」
「ふへ?」
茹でダコさんなリスティアを手招きで呼び寄せる。
素直に従うリスティアがとてつもなくカワイかった。
「ありがとな、オレのために頑張ってくれたんだろ」
リスティアの頭を撫でる。
細く柔らかい桃髪が指の間を通り抜ける感覚が心地よかった。
リスティアは一瞬ビクッとしたが、すぐにそれを受け入れてくれた。
うっとりと気持ちよさそうに目を閉じて、なされるがままにしている。
今の今まで浮ついた気分でいたけど、今、オレは心に誓う――。
オレのチートは、リスティアや他の人たちの膨大な努力によって成り立っているものだ。
オレがどんなに強い力を得ようと、オレが偉いわけでもなんでもない。
偉いのはオレを支えてくれる人たちだ。
だから、オレはその人たちのためにこの世界を救おう。
楽してチート勇者気分を堪能させてもらうんだ。さっきの演説も超絶快感だった。
サクッと魔王倒しちゃうくらいのお返しはしなきゃな。
もう一度、感謝の気持を込めて――。
「ありがとう、リスティア。オレ、やるよ。勇者やるよ。魔王を倒して、この世界を救うよ」
「…………うん、勇者さま」
リスティアをギュッと抱きしめる。
オレの胸の中で、彼女は小さく頷いた。
後から思えば、この瞬間がターニングポイントだったのだろう。
今までもリスティアには好意を抱いていたけど、この時オレは本当にリスティアに特別な感情を抱いたのだ。
リスティアの本性がどうなのかははっきりしない。
でも、それでも構わない。
オレはリスティアに惚れてしまったのだ。




