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14 商業都市国家『シティー』

 ――残り時間3:35


 快適な空の旅を終えて商業都市国家『シティー』に到着。

 まあ、快適だったのはオレと姫サマだけで、全力ダッシュみたいな速度でかっ飛ばしたフェニックスは疲労困憊、息も絶え絶えに地に伏していた。

 でも、そのおかげで、予定時刻も10分巻き返して、現在5分遅れの到着だ。


 フェニックス先輩、マジおつかれさまっす!


 草原と森に囲まれた自然豊かなキングダム王国とは異なり、『シティー』は砂漠のオアシスに造られた都市だった。

 リスティアの解説によると、この街は交易の要衝であり、大陸中からさまざまな物品が集まるそうだ。空から見た感じでも、活発な市場という印象を受けた。


 フェニックスに乗ったオレたちは『シティー』の中央広場へとゆっくりと着陸する。

 ここでも歓迎されているのか、大勢の人々がオレたちを取り囲むように集っていた。


「さあ、勇者さま、いきましょ〜」


 注目の視線を集めて緊張気味のオレに対し、リスティアは慣れたもので動じる様子もなかった。さすがはやんごとなきお方だ。群衆ごときじゃ怯みもしない。

 ちょっと怯んでるオレの手をリスティアが掴み、オレたちはフェニックスの背中から地上へと降り立った。

 そこへ、ひとりの中年男性が歩み寄ってくる。

 口ひげをたくわえ、高そうな服装に身を包んだ、でっぷりとした役人みたいなおっさんだ。

 いやらしい笑みを浮かべ、揉み手をしながら近寄ってくる。その後を取り巻きA〜Gみたいなおっさんたちも金魚のフンみたいにワラワラとついて来る。

カラっとした砂漠地帯なのに、一気に不快指数が急上昇。


「これはこれは、リスティア姫殿下ならびに勇者様。このたびは――」

「急いでるから、またねー」


 リスティアがそんなおっさんの挨拶を途中でぶった切り。

 さよならとばかりに手を振る。


「えっ! ちょっ!」


 おっさんが取り乱しているが、リスティアはそんなのまったく気にしない。取り巻きズもなんか慌てて騒いでる。

 「さすがにコレはマズいんじゃね」とオレは少し心配になる。

 ここはキングダム王国じゃなくて、『シティー』だ。いくら隣国の姫さまとはいえ、いや、姫さまだからこそ、こういう外交の場面では、きちんとした振る舞いが要求されるんじゃないだろうか。

 だが、オレの心配なんか全スルーで、リスティアはオレの手を引っ張ると、そのまま駈け出した。


「ちょっと、ごめんねー、そこ通してー」


 リスティアが群衆に声をかけると、人垣が割れてスペースができる。

 その隙間を走り抜けたオレたちは、そのまま一目散に広場から立ち去った――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 人々で賑わう大通りや曲がりくねった狭い裏道をリスティアに引っ張られながら走る。

 どうやら、いろいろとショートカットしながら、都市の中心部から郊外へと向かっているようだ。


「なあ、あれで良かったのか?」


 全力疾走に近いスピードだけど、レベルアップして身体能力が上昇しているのか、難なくついて行くことができるし、話しかける余裕すらある。


「なにが〜?」


 リスティアが振り向かずに応える。

 そりゃそうだ。今現在、人混みの間を縫うようにして猛スピードで疾走している真っ最中――先導する彼女がわき見なんかしたら、大事故間違いなしだ。

 引っ張られてるオレにしても、人や物にぶつからずについて行くのにかなり気を使っているし。


「なんか偉そうな人たちだったけど?」

「うん。ぜんぜん問題ないよ〜」

「すげえ焦ってたけどね。あの人たち」

「いいのいいの。キライだもん、アイツら」

「キライって……」


 まあ、その気持ちも分からなくはない。

 あのおっさんズは男のオレでもキツかった。

 若い女の子のリスティアにとっては、なおさら、たまったもんじゃないだろう。

イヤらしい視線でリステリアを眺めてるのを隠しきれていなかったしな。

 ただ、そうはいっても、姫さまって立場よりも自分の感情を優先していいものなんだろうか。

 単なるワガママお姫様……じゃあないことを願いたい。

 フェニックスを調教してるあたり、激しく不安だけど……。


「この国はうちの国と違って、王族がいないのよ」

「うん」


 そのあたりは名称からも予想がついていた。

 キングダム王国に対し、商業都市国家『シティー』だもんな。


「この国では、国民たちが代表を選ぶの。あの人たちは国民の代表に選ばれただけ、任期の間になにをしようと、それが終われば責任を取る必要もないの」

「ああ」

「ワタシたち王族が普段エラそうにしているのは、国民のために働き、いざとなったら先頭に立って戦うからなの。たとえ、相手が魔王でも」

「……」

「でも、アイツらは違う。自分たちの利益のために国を動かし、任期が終われば知らんぷり」

「…………」

「だから、キライ」

「…………そっか」


 オレが思っていたよりも、しっかりとした考えを持っていたようだ。

 それに、その考え方にはすごく共感できた。どっかの国の政治家たちに聞かせてやりたいくらいだ。

 そして実際、リスティアは自ら魔王退治に乗り出している。その強さは先の四竜戦でも証明済みだ。

 イーヴァの話じゃないけど、あの強さを獲得するまでにどれだけの努力をしたんだろうか……。

 そんな彼女の横顔は、さっきまでよりも輝いているように見えた。


「ところで、どこに向かってんの?」

「次の目的地、宝石屋だよ〜」


 4つ目のミッションの目的は、ここ商業都市国家『シティー』に到着すること。

 だから、オレたちは既にそれはクリア済み。

 現在のオレたちは5つ目のミッションをこなしている最中だ。

 もちろん、『攻略ガイド』を見れば、そのミッション内容もわかる。

 だけど、ついた途端の「よーいドン!」だったから、そんな余裕もなかった。


 そうか、宝石屋か。

 まあ、その単語だけで大体想像はつくな。

 きっとそこで、なんかチートなアイテムゲットできるんだろうな。

 日本にいる時は、もちろん、アクセサリーなんてオサレアイテムは身につけたことなんかない。

 いや、中二的なヤツにはちょっと惹かれた時期もあったが、かろうじて一線を越えずに済んだので、黒歴史とならなくてよかった。

 だけど、ここは異世界で、オレは召喚勇者で、これから魔王退治だ!

 アクセサリのひとつやふたつ問題ない。つーか、超ウェルカム!!

 さあ、どんなカッコいいやつで、どんな能力なのか、楽しみだな。


   ◇◆◇◆◇◆◇



 ――そんなことを考えながら走り続けること約10分。どうやら、目的地に辿り着いたようだ。

 人混みを避けたり、考え事してたりだったから、落ち着いて街並みを観察する余裕なかったな……。


 到着した場所は広い敷地の豪邸だった。

 さっきの市場の喧騒が嘘のような閑静な一画に建つ、厳かで静謐な雰囲気の豪邸だ。


 厳重で立派な門扉の脇には、守衛が二人待機している。

 守衛たちは強そうであるのだが、粗野な雰囲気はなく、それなりの立場の人間なのだろう。


 もう、これだけの情報から、ここが『選ばれし者たち』専用で、パンピーお断りな場所だってことが伝わってくる。


 守衛たちはオレたちに気づくと、サッと門扉を開ける。

 誰何されたりするもんだと思ってたから、拍子抜けだ。

 さすがは姫さまパワーといったところか。


 門をくぐり抜けてから豪邸までの道を足早に進む。

 手の行き届いた立派な庭園。この辺りは乾燥した砂漠地帯なはずなのに、刈り整えられた大樹が生え並び、色とりどりの花々が植えられている。

 手間ひまかけているのか、魔法的なナニかなのかわからないけど、これきっとメチャクチャ金かかってるんだろうな。


「つーか、むちゃくちゃ広いな、この庭。最初からここに降りればよかったんじゃない?」

「まあ、どうしても時間が間に合わないようだったら、そうしてもよかったんだけど、まあ、ちょっとね〜」


 綺麗に刈り整えられた広い芝生――この広さだったら、フェニックスが着陸するのにも十分なスペースだ。

 だが、リスティアの言葉から察するに、さすがに、隣国からやって来てフェニックスで私有地に着陸は問題なのかもしれないな。

 そこら辺は、ちゃんと考えているようだ。さっきのおっさんズへの振る舞いは問題じゃないのか、っていう疑問は残るが……。


「でも、楽しかったでしょ?」

「……あっ、ああ」


 笑顔を向けられ、思わずドキッとしてしまう。


「一回やってみたかったんだよね〜。あ〜、満足満足〜」


 確かにリスティアの立場だと自由に街中を歩き回ることもままならないのかもしれない。

 現代日本の一般人なオレからしたら考えられないことだけど、高貴な身分というのも中々に不自由なものなのかもしれないな。

 それにしても、小説なんかだとお姫様がお忍びで街に出てお買い物とかあるけど、そういうのじゃなくて、人混みすり抜けて全力ダッシュがやってみたかっただとは、やっぱりリスティアはおてんば姫なんだろうか。


 本当に嬉しかったようで、すごくいい笑顔をしているな。

 元気いっぱいでポジティブなエネルギーに溢れている。

 めんどくさがりで消極的なオレとは対照的だ。

 そんなリスティアが少しまぶしく感じられた。

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