13 ミッション4
――残り時間4:10
――頑張れ、フェニックス。死ぬんじゃないぞ!
見ているこっちの心が痛くなるほど、死にものぐるいで飛び続けるフェニックス。
同情しながら隣に視線を向けると……。
――うわぁ。めっちゃいい笑顔してるよー。
「ん? ど〜したの〜?」
オレの視線に気づいたリスティアさんは、水を得た魚みたいに、それはそれは生き生きしておりました。
とてもじゃないけど、「いい笑顔してるね」とか、思ってたことを素直に告げれるわけもなし。
焦りながらも別の話題を探す。
「そっ、そういえば、オレたちどこに向かってるんですか?」
するとリスティアの表情が急に曇った。
あっ、ヤバいっ。怒らせちゃったか?
話題選択を間違えたか?
「む〜」
とほっぺを膨らますリスティア。
そんな姿もやっぱカワイイ。
「ごっ、ごめんなさい。なにかマズかったですか?」
「それ。やめて」
「へっ?」
「そのしゃべり方、やだ」
リスティアさんが怖かったから、無意識のうちに丁寧口調になってしまってたが、どうやら、それが起きに召さなかったようだ。
「ああ、そっか、ごめんごめん」
「うん」
オレが元通りのフランクな口調に戻すと、途端に機嫌が直ったのか、満開の笑顔が咲いた。同じ笑顔でも、フェニックスに向ける時とはまったくの別物だ。
うん、やっぱカワイイな。
これは、惚れてしまうかも……。
「それで、今、どこに向かってんの?」
「次の目的地だよ〜」
ああ、そりゃそっか。
言われるがままに着いて行ってるだけだから、ついつい忘れそうになるけど、今のオレは魔王を倒しに行く真っ最中だった。イマイチ当事者意識が薄いなぁ……。
王城でフェニックスを覚醒させるってのが、3つ目のミッションだった。
それを無事にこなした今、次のミッションは――とオレは『攻略ガイド』を開く。
【ミッション4】 商業都市国家『シティー』に移動せよ(所要時間60分)。
なるほど。次の目的地が判明した。
うーん。これで4つ目のミッションだけど、相も変わらず「ついて行くだけのお仕事」だな……。
それで、本来なら1時間かかるところなのだが、さっきのフェニックス覚醒の儀式でフェニックスがもたついたせいで(つーか、あんな虐待みたいなこと強要されたんだから、しゃーない)、15分ほど時間が押してる状況だ。
そのせいで、リスティアさんは激おこ。
だから、フェニックスは死ぬ気でかっ飛ばしているわけだ……。
うーん、大丈夫なんだろうか?
時間的な意味でも、フェニックスの身体がって意味でも。
まあ、多少遅れてもこの後で取り返せばいいだろうし、フェニックスって確か死んでも生き返るらしいから問題ないか。
うん。ノープロノープロ。
ちなみに、今回のミッションについて『攻略ガイド』の該当ページには、世界地図が載っていた。リアルなやつじゃなくて、ゲームのマップみたいにデフォルメされたやつだ。
しかも、各地の名所旧跡まで書かれている親切仕様。
このページだけちゃんとした旅のしおりみたいだ。
これは間違いなくイーヴァの仕事だな。
地図をよく観察してみると、4、5、6、7、8と5つの数字が振られている箇所がある。4と5は同じ場所で、街のような記号の場所だった。
その街の名前は商業都市国家『シティー』と書かれている。どうやら、ここが次の目的地のようだ。
地球の地図と同じように上側が北を指しているなら、『シティー』は王都の東側に位置していることになる。
この地図の縮尺が分からないから正確なところははっきりしないが、フェニックスの飛行速度と制限時間からすると、およそ100キロメートルってところか。
ちなみに、6と7は違う場所を指しているが、ともに王都と『シティー』の北側にある広い森の中にある。
そして、8はそのさらに北、岩山に囲まれた場所にある。
まぁ、この数字がなにを指しているのかは大体想像がついた。念のためにと、リスティアに尋ねてみる。
「なあ、地図のこの数字ってミッションに対応してるのか?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、次はこの『シティー』でなんかするのか」
「そそ」
まあ、『シティー』に到着するまでは、『攻略ガイド』で次のミッションを確認することはできないから、向こうでなにするのか分からないんだけど……。
どうせリスティアに訊いても教えてくれないだろう。
それより、今気になるのは――。
「じゃあ、この8番で終わりなのか。もう折り返しか。あっという間だな」
地図上で8番を指している場所は、人里離れた辺境の岩山に囲まれた忌まわしそうな城を指している。いかにもラスボスがいそうな場所だ。
ようやく半分か……。
感慨深いものがあるな……って、全然ねーよ!
オレなにもしてねーよ!!
言われるがままに、後着いて行っただけだよ!!!
ハッタリ演説カマしただけだよ!!!!
こっち来てから、まだ一時間しか経ってねーよ!!!!!
などとセルフツッコミを入れてから隣を見ると、リスティアはオレの方に顔を預け、ただ黙ってニコニコとこちらを見上げていた。
うわあ。ヤバいよ、この破壊力。
こんなん惚れてまうやろ。
性格とか中身が大事だって、オレは本気で思っている。
外見ばっかよくて、中身がクソなヤツはいっぱい見てきた。
だけど…………このレベルのカワイさだったら、そんなこと言ってる余裕ない。
たとえ、これが演技だったとしても、演技だと分かっていたとしても、惚れてしまうかもしれん。
いや、ほんと、カワイイは正義だ。
これで超ドビッチとか、男を弄ぶだけの悪女とかだったら、一生立ち直れないレベルの女性不信になるわ。トラウマとかって話じゃない。
でも、それが分かっていても…………。
とオレは彼女の瞳に吸い込まれるようにして、マジで恋する数秒前になってたとき、不意に――。
「きゅいいいいいいっ!!!」
とフェニックスが大きく吠えた。
「なんだっ!?」
前を振り向いたオレの視界に飛び込んできたのは、巨大なドラゴンだった。
さっき退治に行った四竜たちよりはひと回りふた回り小さい個体だが、フェニックスとどっこいどっこいの巨大なサイズのようだ。
ドラゴンは右斜め前方からこちらに近づいてくる――。
まだ距離は離れているが、ブレスなどの遠距離攻撃があるかもしれないから油断はできない。
まあ、イーヴァが貼ってくれたバリアがあるから、なにが飛んできても大丈夫だとは思うけど。なにせ、四竜の攻撃を防いだバリアだ。コイツの攻撃が四竜より強いってこともあるまい。隣のお姫さまなんか、まったく気にも止めてないし。
それに、リステリアに手玉に取られてる姿からはかわいいペットという印象しかないが、こいつも一応は聖獣だ。ドラゴンごときに遅れをとることもないだろう。
突如、ドラゴンが大きな唸り声を上げ、翼を大きく広げる。
そして、ドラゴンは――その場で急停止、慌ててUターン、全力で飛び去って行った。
うん。まったくビビる必要なかったな。
「やっぱりコイツ強いんだな」
「でしょ〜」
リスティアは自慢のペットを褒められたかのように嬉しそうな顔してる。
「そんなコイツを飼い馴らしているリスティアもすげえな」
「えへへ〜。もっとほめて、もっとほめて〜」
褒めているっていうよりは、呆れてたんだけどな……。
でも、喜んでいる姿が可愛いから、彼女の頭を軽く撫でてやる。
すると、リスティアはさらに喜んでくれた。
ヤバい、カワイすぎる。
その後も何度か空を飛ぶモンスターを見かけたが、ほとんどはフェニックスの速度についてこれなかったし、たまたま進路上にいた不幸なヤツらはフェニックスのブレスで消し炭にされていた。
おかげで、ゆっくりと空からの景色を楽しむことができる。
そんな感じでのんびりイチャイチャしているうちに快適な空の旅を終えたオレたちは、無事に商業都市国家『シティー』に到着した――。
――ミッション4クリア――




