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11 演説を終えて

 語り終えたオレは、再度剣を高く掲げた。

 場はシーンと静まり返っている。

 だが、やがて――なにかを察した幾人かが拍手を始めた。


 一度火がついてしまえば、後は早かった。

 拍手の輪はどんどんと広がっていき、あっという間に群衆は大興奮状態に包まれた。


 それを見て、オレは内心ホッと一息。

 いえい、作戦成功だ。ぶい!


 ここにいる誰もオレの演説内容を理解していない――オレも含めてだ。


 だって、適当に喋っただけだもん。

 えせドイツ語っぽい感じでカッコよく聞こえそうに口を動かしだだけだもん。


 ドイツ語カッコいいもんな。

 ムダにいかめしいから、こういった演説にはもってこいだ。

 かわいい「ちょうちょ」だって、英語では「Butterflyバタフライ」、フランス語では「Papillonパピヨン」、イタリア語では「Farfallaファルファッラ」、スペイン語では「Mariposaマリポッサ」、なのにドイツ語だと「SCHMETTERLINGシュメッターリング!!!」だもんね。絶対に必殺技の名前だよね。


 ちなみに他にも――


 蛾は「Nachtfalterナハトファルター」だし。

 みのむしは「Sackträgerザックトレーガー」だし。

 ほたるは「Glhüwurmグリューヴルム」だし。

 てんとう虫は「Marienkäferマリーエンケーファー」だし。


 「ドイツといえば中二、中二といえばドイツ」って感じだよね。

 でも、音の響きだけで気に入って使っちゃうと、どっかの豚さんみたくなるから要注意だ。


 まあ、つーわけで、もしオレ演説内容を理解している奴がいたら逆にビックリだよ。


 再度繰り返すが、オレのアドバンテージは地球産だってこと。

 コッチの人からみたら、オレこそが異世界人なわけで、だったら、オレが彼らには通じない言語で話しても、なにもおかしくはない。


 ――と何人かの騙されやすいアホ、もとい、察しのいい人たちは勘違いしてくれたわけだ。

 そうなれば、後は簡単だ。


「えっ、みんなわかってんの?」

「もしかして、わかってないの自分だけ?」

「なんかわかんないけど、オレものっておくか」


 という主体性のないバカ、もとい、空気を読んでくれるありがたい方々のおかげで、ご覧の有様というわけだ。

 『裸の王様』みたいに「ねえ、あのオニーチャン、なんでわけのわかんないことしゃべってんの?」って言い出す素直なお子様がいなくて助かったよ。


 今頃みんな、勇者様が居世界の言葉でありがたい演説をしてくれたと信じきって感動してるんだろうな……。

 だけど、隣のイーヴァには、オレのハッタリはバレバレのようだったで、こっちをジト目で見ている。

 リスティアはキラキラした瞳でこっちを見つめているけど、気づいてないんだろうか?


 いや、しょーがないじゃん。

 オレだって本当は中二感満載なカッケー演説とかキメてみたかったよ。

 だけど、中二病全開な全盛期の現役時代ならともかく、とっくに引退すませて、時折自分の黒歴史を思い出して「うぎゃー」ってなるハタチ過ぎには、ちょっと恥ずかしすぎるでしょ。


 …………ごめん、嘘ついた。


 今でも現役だわ、オレ。

 異世界で勇者やることになって心からワクワクしてるし、本気でカッケー演説キメたかったわ。

 でも、いざ実際に、いきなり「さあどうぞ」って振られたら、頭真っ白になっちゃってさあ。

 必死に捻り出そうとしてはみたけど、リスティアの演説はどんどん進んでいっちゃうし、焦れば焦るほどなにも浮かんでこないし、そうしているうちに、遂にやってきちゃったオレの出番!


 咄嗟のハッタリでなんとか乗り切るしかなかったわけだ。


 でも、これでよかった、とオレは思っている。

 どうせオレのことだ。いくらカッケー内容を思いついたとしても、いざそれを離す段になったら、カミカミでグダグダになるに決まっている。

 こんな大勢の人前で話した経験なんてないしな。

 高校時代、クラスのみんなの前でプレゼンするだけでも緊張したくらいだ。


 贅沢をいえば、「カッコいい内容をカッコよく話す」というのが理想の演説だろう。

 でも、そんなんオレには到底不可能だ。そういうのは、本当の勇者にでも、任せておけ。

 今回オレとしては、「カッコ良く話す」をクリア出来ただけでも十分に合格点だ。

 「カッコいい内容をグダグダに話し」てしまう結果になるよりは、「中身のない話をカッコよく話す」方がよっぽどマシだ。


 ということで、オレの初演説はバッチリ成功を収めたと言えるだろう。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 オレのハッタリ演説で湧いている聴衆に向けてリスティアとイーヴァが締めの言葉を述べて、出陣式とやらはお開きとなった。


「シズク様がどういうお方なのか、あらためて理解いたしました」

「期待してたのとは違ったけど〜、カッコ良かったよ〜、さっすが、勇者さま〜〜〜〜」


 壇上から降りるや、二人が感想を述べる。

 やっぱり、リスティアにもしっかりとバレていたようだ。

 だったら、好感度が下がっても良さそうなもんだけど、なぜか逆に好感度爆上げのようだ。

 呆れ顔のイーヴァの方は着実に好感度下がってるようなのだが……。


 うーん、あんなインチキくさいやり方、フツーの女の子だったらイーヴァみたいに嫌がるだろうに。

 イージーモードゆえなのか、それとも、リスティアは方法よりも結果を評価する性格なのか……。

 これまで見てきたリスティアからだと、どっちもありうる……。


 まあ、そんな感じで、オレのスピーチについてはともかく、覚醒の儀という一仕事を終えたオレたち3人はラフな格好に着替えていた。

 やっぱ、鎧とか肩凝るわ。こんなん毎日着てる騎士様とか、オレには絶対ムリだ。


 慣れない仕事で精神的に疲れたオレだったが、姫様たちの表情にも疲労が浮かんでいる。


「姉上、どうぞ」

「ありー」


 イーヴァが『収納』スキルでどこからか二本のポーションみたいなものを取り出した。

 そのうちの一本をリスティアに渡し、二人とも口をつける。


 リスティアは細い腰に片手を当てたまま、グビグビと豪快な音を立てながら、勢い良くポーションをあおる。


「くぅーーー、きくぅぅーーーー」


 ひと息で飲み尽くすと、おっさんみたいな言葉を発した。せっかくの美少女が台無しだ……。


 一方のイーヴァはあまり気の進まない様子で、小さなお口でちびちびと飲んでいる。

 そんな彼女の背後から、リスティアがガバッと抱きつき、


「いーちゃん、かわいいー」


 と両手で全身をまさぐった。

 完全に酔っぱらいのセクハラオヤジだ。


「やめて下さい。姉上」

「もう、いーちゃん、チンタラしてないで、ぐいっといっちゃおうよー。

それ、いっきー、いっきー」


 心底嫌がっているイーヴァだったけど、リスティアはお構いなしに飲ませようとする。

 セクハラに一気強要とか、サイテーすぎる……。


 ラフな格好になっているせいで、薄着の上から揉みしだくリスティアの両手が、イーヴァの身体のラインをはっきりと見せつける。

 そのおかげで、分かってしまった。

 まだ、幼い身体つきながらも、やっぱり女の子なんだなって。


 リスティアさん、グッジョブですっ!


 そんなセクハラにもめげずに、イーヴァもちゃんと一瓶飲み切ることができたようだ。健気だ……。

 「ふう」と小さく息を吐くイーヴァのことなど気にすることもなく、無抵抗なのをいいことに、リスティアのセクハラはさらにエスカレート。

 イーヴァの全身を味わい尽くすかのように両手を激しく動かし、首筋に顔を近づけてクンカクンカしてる真っ最中――。


「姉上、時間が押しております」

「あれ、そうだっけ?」

「覚醒の儀に時間がかかってしまいましたので」

「フーちゃんのせいかー」


 イーヴァから端的に告げられ、リスティアはようやくセクハラを止めた。

 そして、目だけが笑っていない笑顔をフェニックスに向ける。

 瞬間、フェニックスは怯えたように、その巨体を縮こまらせた。


「やっぱ、オシオキが必要だねー」

「きゅいいいい」


 悲しい声で、首をブンブンと横に振って、フェニックスは必死に拒む。

 聖獣の威厳が皆無だ。さっきまで畏れていたオレでも、同情しちゃうくらい。

 だけど、そんな捨て身の懇願も、無慈悲なリスティアさんにはまったく通用しなかった。


「よーし、オシオキけっていー。やったね、フーちゃん」

「きゅいいい」


 極上の笑顔での死刑宣告。

 すべてを諦めたフェニックスはうなだれてブルブルと震えているだけだった。


 このやり取りを眺めながらも、オレの頭の中には疑問がいっぱい浮かんでいた。


 今までにどんな経験をしてきたら、オシオキの一言にここまで絶望できるのだろうか?

 ここまで恐怖を与えられても、逆らう気持ちすら起こらないってのは、どういう状態なんだろうか?

 なんでオシオキを受ける相手に「やったね」と言えるんだろうか?

 それも、心の底から嬉しそうな笑顔で。


 いや、ホント、第三者でよかった。ぜったい、関わりたくないわ。

 でも、どう考えても、リスティアちゃんがメインヒロインなんだよね……オレ死んだかも。


「じゃあ、勇者さま〜、行こっか〜〜〜」

「……あ、ああ」


 動揺してたから、声が上ずってしまった……。


「んじゃ、イーちゃん、留守番よろしくねー」

「えっ!?」

「わたしと勇者さまのふたりで行ってくるからー」

「しかし、予定では私も――」

「よろしくねー」


 イーヴァが話している途中なのに、一方的に告げるリスティア。有無を言わせぬ勢いだ。


 つーか、今、イーヴァもリスティアにビビってなかった?

 フェニックスみたいに。

 すぐに元の表情に戻ったけど、チラッと怯えた顔になってなかった?


 ……いや…………勘違いだよな。

 …………たった一瞬だったし。

 うん、気のせいだ、気のせい。

 そうしておこう。オレの精神の安定のためにも……。


 まさキチです。


 いつもご愛読ありがとうございます。


 本日短編を投稿いたしました。


『ハーレム勇者と女魔王』


 です。


インテリジェンスソード好きの方には是非ともオススメの作品ですので、お読み頂ければ嬉しいです。


 また、下記リンクから他作品に飛べますので、未読でしたらこれを機にお読みいただければありがたいです。

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