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10 演説

 ――残り時間4:37


 覚醒した聖獣フェニックス。

 その姿に圧倒され立ち尽くしていると、突如――地面が割れんばかりの大歓声が響き渡ってきた。


「なんだ!?」


 驚きにオレは我を取り戻した。


「見物に集まった民衆です。あちらからご覧になれます」


 イーヴァとともに屋上の端まで行き、下を覗き込んで見ると、彼女が言うように城門前の広場は「どっかの野外フェスかよ」ってくらい大勢の人々で埋め尽くされていた。こっからだと人の頭しか見えん。


 「黒山の人だかり」って言葉があるけど、コッチの世界の人々は皆カラフルな髪色で、赤やら緑やら青やら金銀まで取り揃っており、上から見下ろすと中々の景観だった。


「スゲー人数だな」

「みな、楽しみにしておりましたので」


 娯楽が少なそうな世界だしな。

 こんな一大イベント見逃すわけねーか。


「さっき、聖獣は神の遣いだって言ってたよな。そんときは信じられなかったけど、この姿と状況を見たら納得だわ」


 地球でも宗教がらみで盛大なイベントが結構あるしな。


「なにを他人事みたいにおっしゃってるんですか?」

「そうだよ〜」


 儀式の後処理を終えたのか、こっちにやって来たリスティアもイーヴァに合わせてそう言う。

 二人とも「ひと仕事終えてスッキリ」といった顔をしているけど、疲れているのか若干やつれ気味だった。


「あれ、オレなんか変なこと言ったか?」

「聖獣もそうですが、シズク様目当てでもあるのですよ、彼らは」

「勇者さま、人気者だよね〜」

「そうなんか?」


 オレが人気者だっていう状況が、いまいち理解しかねる。

 だけど、よく考えたら、オレの立場って来日した大物外タレみたいなもんだよな。そう思えば、納得か。


「姉上、よろしいですか?」

「うん。いつでもおっけーだよ」

「それでは、シズク様もお着替え下さい」


 言うなりイーヴァは初対面時のドレスに早着替え。リスティアも同様だ。

 やっぱり、この格好だと、どっから見てもお姫様だよな、二人とも。

 オレも慌てて勇者シリーズ一式を身にまとう。ポチッとな。

 いやあ、楽だわ、この換装スキル。


「これから出陣式を行います。最初に私たちが民衆に向けて短い演説をいたします。その後、こちらで合図を出しますので、シズク様からも一言お願いいたします」

「はっ!? なに言えばいいんだ?」


 予想していなかったところで、いきなり振られたオレは慌てる。


「難しく考える必要はございません。魔王討伐に向けての勇者としての率直な意気込みを伝えていただければ、それで結構ですので」

「『リスティアちゃんラブ〜』でもいいよ〜」


 イーヴァさん、サラッと言うけど、それ、むっちゃ難しいっす。ムチャ振りっす。


 そりゃー、マジモンの勇者さんだったら簡単だろうよ。


 魔族に大切な人たちを殺され、魔王退治を決意しての旅立ち。

 長く苦しい戦いの旅を続けながら、少しずつ成長し、頼りになる仲間たちも得て、装備も段々とよいモノへと変わっていき、それに連れて、相手にする敵もランクアップ。

 時には、魔物の襲撃から村を救って、村人たちから感謝され。

 時には、魔物との戦闘で窮地に陥るも、仲間たちと力を合わせて苦難を乗り越え。

 そして――ようやく魔王と相対あいたいする準備も覚悟も万端に整った。


 ――そういう感じのマジモンの勇者さんだったら、思いの丈をブチまけるだけでいいだろうよ。

 こみ上げてくるアツい思いが勝手に口から出てくるだろうよ。


 だけど、なあ。


 ぶっちゃけ、オレ、この世界になんの思い入れもねーし。

 つーか、勇者になってから、まだ1時間ちょいだし。

 魔王がどんなヤツで、なにしてきたかも知らんし。

 姫様二人以外と会話すらしてねーし。

 後をついて行くだけの簡単なお仕事しかしてねーし。


 そんなオレになにを語れっていうんだよ…………。


 あっ、もちろん、リスティアの案はソッコー却下で。


 そんな思いのオレを余所に、二人は十段くらいの階段を昇り、お立ち台のような場所に並び立った。

 二人の登場で場が沸くが、リスティアが片手を挙げると、ざわついていた人々は静かになった。


「我が民よ――」


 群衆が静まったのを確認すると、凛とした声でリスティアが語り始めた。


「この世界に災禍をもたらす魔王の復活まで、僅かな猶予しか残されていない――」


 リスティアの演説が続いていくが、自分の出番のことが気になって耳に入ってこない。

 さて、なにを話したものか……。


「――だが、安心せよ。今、こうして王家と聖獣の間に交わされたいにしえの約定によって、聖獣フェニックスは覚醒し、真の力を取り戻した」


 リスティアはフェニックスに視線を送り、再度手を挙げる。

 その合図に従い、うずくまっていたフェニックスは巨体を引き起こし、両翼を高く持ち上げた。

 自らの雄姿を存分に魅せつけた後、フェニックスは二度三度、その翼を大きくバタつかせる。

 フェニックスが翼を動かす度に、その翼からは金色の光の粒子があふれ出し、それは光の霧雨となって、地上へ燦々と降りつけた。


 あまりの神聖な光景に、誰もが声を忘れ静まり返る中――。


「キュイイイイイ――」


 フェニックスが首を持ち上げ、天に向かって一声嘶いななくと、これまでよりも一層大きな歓声が沸き起こった。

 いつ止み終わるともしれない拍手と歓声だったが、頃合いを見計らい、リスティアが手を挙げた。


「それだけではない――」


 静まった群衆に向かい、厳かに告げる。

 出番の合図とばかり、イーヴァがこちらを見やり、ゆっくりと頷いた。

 オレはゆっくりと一歩ずつ階段を昇っていく。


 やべー、めっちゃ緊張する……。

 足とかちょーガクガクだし……。

 慣れない鎧とか着てるし、踏み外さないようにしないとな……。


 ここでコケたらイーヴァから「いらんボケするな」って冷たい視線が飛んでくること間違いなしだ。

 すでに「コケることには定評があるオレ」との評価を確立しているし、クール系美少女からの冷たい視線もご褒美っちゃーご褒美なんだけど、いかんせん、これだけの大勢の前でそれはカッコ悪すぎる。

 まじ、ガンバレ、オレ!


 ――結局、笑いの神が降りてくることもなく、無事に昇り切ることに成功した。ホッ。

 ただ、ちょっと短い階段を昇っただけなのに、この世界に来てから一番やり切った感があるのは、勇者としてどうなんだろうか……。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 お立ち台にオレが昇ると、リスティアとイーヴァは両脇に寄ってスペースを空けてくれた。

 二人の間に並び、あらためて見下ろす。


 めっちゃ、いるんすけど……。

 しかも、みんなこっちガン見……。


 心臓バクバクっすよ。


 いや、大丈夫。

 今のオレはフツーの大学生の佐久間雫じゃあない。

 見た目(装備)肩書き(ステータス)だけなら、立派な勇者様だ。

 中身が伴っていないかもしれないが問題ない。

 「人間、見た目と肩書きが9割だ」って、ばっちゃが言ってた。

 ちなみに、残りの1割は運だ。努力とかそんなん、誤差だ誤差。


 そんなふうに心を落ち着かせようとしていると、リスティアが「勇者さま、大丈夫だよ〜」と小さく声をかけてくれた。

 その凛々しく整った横顔を見ていると、不思議と気持ちが落ち着いてくるな。


 そのリスティアが高らかに宣言する――。


「我々には異世界より来たりし勇者様がついている。我らはこれより勇者様とともに魔王の下へ向かう。心配する必要など寸毫すんごうもない。勇者様であれば、魔王を封印することなど、いとも容易きこと。我ら三人、数刻後には揃って凱旋を果たすであろう。安心して待っているがよかろう」

「出発に際して、勇者シズク様より、一言賜る。静聴せよ」


 イーヴァに振られたオレは一歩前に進みでて、『勇者の剣』を抜き、高らかに掲げる。

 日光を反射した剣身がキラリと輝いた。


「我は異世界より召喚されし、勇者シズクなり――」


 名乗りを上げたオレは、ゆっくりと剣を下ろす――。


 大勢の群衆の視線がオレに集まっているのが分かる。

 少し緊張するけど、大丈夫だ。

 オレには作戦がある。

 この局面を無事に乗り切ってみせる。


 確かにオレは成りたてホヤホヤのなんちゃって勇者だ。

 幾多の修羅場を乗り越えてきた経験によって滲み出る強者の凄味もない。

 何者にも絶対に負けないという確固たる自信もない。

 多くの人々を惹きつけるカリスマ性もない。

 多くの人を救い、仲間に救われ、そうやって培われてきた人間的な深みもない。


 だけど、オレにはひとつだけ負けないところがある。

 この世界の誰にも、絶対に負けないと自信を持って言えることがある。

 どんな勇者であっても、この世界の人間である限りは、その点でオレに勝つことは不可能だ。


 オレのアドバンテージ。それは――。


 オレが地球、しかも、現代日本出身の若者だということ。


 こっちの世界の人間にとって、勇者は初めて見る、とても珍しい存在だろう。


 だけど――現代日本のオタク文化ナメんな。


 ゲーム、マンガ、アニメ、そして、ネット小説。

 これまでに一体どれだけの勇者が生み出されてきたことか。

 異世界に召喚されて魔王と戦う勇者なんて「はいはい、テンプレテンプレ」と軽く扱われるありふれた存在にすぎない。珍しくもなんともない。

 「かわいくて心がきれいな三次元の女の子」の方がよっぽどレアキャラだ。


 オレだってそんな日本で育ち、人並み、いやそれ以上にそういう文化に触れてきた。

 こういう演説のシーンでカッコよくキメるシーンを何度も見てきたし、その度に胸をアツくしてきた。

 少佐やク◯トロ・バ◯ーナやギ◯ン・◯ビの魂が、ちゃんとオレには受け継がれているんだ。


 だから――なんの問題もない。

 偉大な先人の叡智を借り、オレの全力を開放すればいいだけだっ!


 ――爆ぜろっっっ!!!! 中二魂ソウル・オブ・フォーテティーン!!!!!!!!!!!!


 オレは自信を持って民衆を見据え、堂々と力強く低い口調でゆっくりと語り始めた。


「KKdaobieh bvkoeb bkexoskeo!

 dbeoc gteocjg Kaorbi dkec JOrbieoguLJ!

 Ireoid ugeobe Dxir BBlsxib Qosi!!!

 fFdoxube bleXtg lslirG l iGex Txitpxttlwo!!!!!


 Ugex geS dogg Gxorc Gx geeS Ojge j dddS!!!

 

 I Gxiggs Druqxof LExitux!

 Geicc Gexo Fxo kee Dthsx!!


 Gxt so GoX DD!!!!!

 Gsg PO Cdcs!!!!!!!!!!!」


 語り終えたオレは、再度剣を高く掲げた――。

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