始まりの時(シンSide)その6
あと、あと一話続きます。本当に次でラストです。
殺気!
何故!? 考える前に自然と身体が動き、肩を掴んでいた二人を後ろへと力尽くで引き戻す。
突然後方から無理矢理引き戻され、二人は驚愕の声と共に体制を整えることができず、地面に尻もちをついた。
「なにを──っ!」
二人が抗議の声を上げようとすると、先程まで二人の立っていた場所を騎士の剣が通過。
シュウは自身を斬り掛かって来た騎士の腕を掴み捻り上げ剣を奪い取ると、騎士の腕を担ぎ放り投げる。
しかし、すぐさま二人を斬りつけに動いた騎士が挟む形で襲ってくる。右の騎士は剣で受け止め、左の騎士の腕を掴むことで防ぐ。
すぐさま体術を繰り出そうとした左の騎士を脚を払い転ばせ、剣の方は剣を絡め取り頭上へと放り上げる。
転ばせた騎士は動かないよう急所を踏みつけ悶絶させ、剣の方は首に手刀を落とし気絶させる。
「内の精鋭をあの一瞬で鎮圧しますか、想像以上ですよ」
値踏みするかのような視線。
そして、背後の騎士達が一斉に抜刀。
流石にこの人数を二人を守りながらは無理だ。
「二人共、皆の元に走れ」
「っ──だけど!」
「いいから走れ! 俺のことは構うな! お前達がいたんじゃ本気を出せない!」
「ですが!」
「早く行け!!」
「くっ……わかりました。行くぞ!」
離れていく二人を見て、直ぐに代官達へ視線を戻す。
「ははっ、逃がすわけ無いでしょ。反逆者は皆、捕まえるよう命令だ。さぁ行け!」
代官の命令で、騎士達が走る。
向かって来る騎士達の顔はそこまで真剣さを感じない。当たり前だ、顔見知りでは無いとはいえ騎士の練度は高い。普通ならただの村の村長が適う訳がない。要は騎士達は俺を舐めきってるわけだ。
「行かさねぇよ!」
生憎と、こちとらタダの村長じゃないんでな!
「ウオォォラ!!」
雄叫びを上げ相棒たる背負っていた剣を振り抜く。
それは、村でシュウにしか扱え無い身長程もある大剣。
シンですら満足に振るうことができない、シュウ専用の武器。
万が一に備え村人達が避難する馬車に置いておいたのが役に立った。
大振りで放たれた一撃を騎士達は簡単に盾で防御する。しかし
「うああぁ!」
防御した騎士達は、無様に悲鳴を上げながら向かって来ていた他の騎士へと吹き飛ばされ、中には気絶している者も存在する。
シュウ専用の大剣は、剣の形をしているが実際は大量の鉄で鍛えられた超重量の鉄の塊。
それをシュウは、魔法で筋力を強化して振り回す。シンプル故に、下手に防御しようものなら、シュウの筋力と剣の重量で人など簡単に吹き飛ばされる。
そんな騎士たちをよそ目に、脇からシュウを抜こうと移動する騎士へシュウは剣を振りかぶる。
「通さねぇって言っただろ」
風を斬る音と共に強烈な風圧が発生し、シュウを囲んでいた騎士達は吹き飛ぶ。
「行けー怯むな! 相手は一人だ隙をついて突破しろ!」
隊長と思われる男が命令を出すと、騎士達は広範囲に広がり、シュウを迂回する形で突破を試みる。
「させっかよ!」
ダンッ! とシュウが地面を強く踏み込むと迂回しようとした騎士達の前を塞ぐように土が盛り上がり壁となる。
さらに、壁は騎士や兵士をシュウごと囲う様に広がり、低いながらも街の門から数十メートルを封鎖。
「ここを通りたいなら、俺をどうにかするんだな!」
通常ではあり得ない光景に、騎士達は相手が魔法使いであることを察した。
魔法使いを相手できるのは同じ魔法使いだけ、それがこの世界の常識であり、非魔法使いが魔法使いに勝つすべは例外を除いて無い。
狼狽えて遠巻きにシュウを見つめることしかしなくなった騎士達に、丁度いいとばかりにシュウは剣を振り回し威嚇する。
少しでも村人達が遠くに逃げる時間を稼ぐように。
「……やれやれ、まさか、ここまで使いないなんて。さて、どうやら私が相手しないとならないようです」
たじろぐ騎士達をよそに、いつの間にか杖を手にした代官が前に出てきた。
「あまり調子に乗らない事です。下民である貴方と高貴な私では勝負にすらならないでしょうからね」
「はっ、そういうお前も元は俺と同じ下民だろうが」
お前も元はただの商人だろうに。
「……この私を汚らわしい貴様と同列に語るなど反吐が出るわ」
シュウを睨みつけた代官は杖を高々と掲げる。
恐らく、魔法の発動を補助する魔道具、シュウの場合、体外への魔力放出は補助なく可能だが、魔法使いによっては補助具が無いと外側に魔力の放出が苦手なものもおり、あれはそれを手助けする道具だ。
「見せてあげましょう。この私の力を」
代官は杖の先に魔力を集中させる。その証拠に、杖の先につけられた宝石が赤々と光り始める。
(来る!)
「ヘルファイア」
宝石の光が消えると共に、代官の周囲に数多の火の玉が出現した。野球ボール程の大きさの
「……しょぼ!」
思わず口に出してしまう程度にはほんとにショボかった。
いやいやいや、いくら何でもその大きさでヘルファイアなんて名前でその見た目、名前負けしてるだろ。何だったらさっきの補助具の光にも負けてるぞ。
「う、うるさいですね! わ、私は放出系の魔法が苦手なんですよ! 行け!」
狼狽えて叫ぶ代官が杖を振り下ろすと、代官の周囲に出現した火の玉がシュウ目掛け降り注ぐ。
「ちっ!」
いくら見た目がショボくてもアレは魔法。見た目に惑わされてはいけない。それに、見た目通りだとしてもこの数を食らったらヤバい。
大剣を盾に、身体を縮こまり、刀身に隠れるようにしゃがみ込む。
「グッ……」
身体全体を魔力で強化、襲い来る衝撃に備える。
盾にした剣からは、人が全力で突進して来るような衝撃が絶えず襲ってくる。
当たらなかった火の玉も盛大な爆発音を放ち、地面に衝突。
「いつまで耐えられますかね?」
勢いを増した代官の魔法を、剣を盾にどうにか全てやり過ごす。
そっと辺りを見渡すと、火の玉が着弾した地面は小規模の爆発が起きたかのように地面を抉っていた。
盾にした剣の衝撃からも侮れない衝撃を貰い、剣の刀身は真っ赤に熱される。
あの大きさでこの威力。やはり魔法は侮れない。
「はぁ、やはりアレでは仕留め切れませんでしたか。まぁ、試運転には丁度いいですか」
ボソッと呟いた代官は、再び杖を高々と掲げ空へ向けて魔法を放つ
「なんだ?」
シュウは代官の行動に訝しみながら観察していると、兵士や騎士達が慌てて門の前から退避し始めた。
そして、街の門が重い音を立てて開き始める。
「『ガハハハハ。ようやく出番ですかい旦那』」
「『たく、あまりにも遅いもんだから待ちくたびれちゃいましたぜ』」
「『おうおう、邪魔だ邪魔だ。踏まれたくなけりゃ道を開けな』」
口汚い下品な声が聞こえ、それと共に、重音の機械の駆動音が聞こえる。
やがて、門が完全に開いたとき、そこにいたのは、総勢10機の『魔動機人』。
「なっ……」
「『ガハハ。久しぶりじゃねぇか、えぇ! 村長さんよ』」
リーダ格であろう他の『魔動機人』とは別格の黒色の『魔動機人』が地上の兵士達を顧みず街の外へと進む。
「テメェ等、その声」
ガヤガヤと聞くに堪えない聞き覚えのある声が、10機の『魔動機人』から鳴り響く。
「『どうだ? 返り討ちにした相手が力を持って復讐しに来た感想は!』」
リーダー格の『魔動機人』のハッチが開き、中からは見覚えのある見たくない顔が現れる。
それは、代官の命で村を荒らしに来た男の一人。
後ろの『魔動機人』からも、他の奴らの声が聞こえることから、『魔動機人』に乗ってるのは代官の腰巾着達か!
色んな事が同時に起こり過ぎて、シュウの頭は混乱する。
「(違う、そうじゃ無い。大事な事は他にある)」
しかし、直ぐに気を取り直して今起きてることに集中する。
「お前達は魔法が使えなかった筈。何故、『魔動機人』を動かせる!」
そうだ、『魔動機人』は魔法使いにしか動かせないはず、なぜ奴らが
「情報が古いですね。魔科学の技術は日進月歩、国から新たに配置された『魔動機人』は、魔法使いで無くても動かせる仕様なのですよ。まぁ、まだ庶民には開示されてない情報ですがね、今回は犯罪者相手に試運転してみようと思いましてね。ついでに、私専用の『魔動機人』のお披露目と行きましょう」
魔法使いで無くても動かせる『魔動機人』そんな物ある分けが……いや、こうして目の前で現物があるんだ、ここは認めるしか無い。
「さあ、お前達、まずは逃げた奴らから始末しますよ」
そう言って代官はチンピラ達が引いてきた台車に乗り込むと、その台車に乗っている『魔動機人』のハッチを開け、趣味の悪い色のした『魔動機人』へと乗り込んだ。
「『おうよ、まずは邪魔な壁から壊すとするか!』」
チンピラ達は『魔動機人』が装備している剣を構えると、シュウの作った壁を壊しに掛かった。
「させない!」
森にさえ逃げ込めれば、幾ら『魔動機人』といえど生い茂る木々の中を進むのは至難のはず。距離を稼ぐ意味も込めてもう暫くはコイツ等に彼奴等(村人)を追わせる訳には行かない。
シュウは、壁を破壊しようと動き出した『『魔動機人』へと走るが、その前に、リーダー格の『魔動機人』が立ちふさがった。
「『馬鹿が、いくら魔法使とはいえ生身の人間が『魔動機人』に勝てわきゃねぇーだろ!』」
振り下ろされる『魔動機人』の拳。
「『潰れろ!』」
人と『魔動機人』ではその体格差はかなりの物だ。だから、『魔動機人』は地上の人間を攻撃する際、できるだけ姿勢を低くして攻撃しなければならない。さらに、人と違って自重に対してのバランスも取るのは難しいはず。だからこそ、そこに付け入る隙がある。
「邪魔だ!」
踏み込みと同時に魔法を発動。
「『うおっ!?』」
片膝ついていた『魔動機人』の支点となっていた足元を陥没させバランスを崩すと、その頭上を飛び越えるように跳躍。
「『まてっ!』」
壁を壊そうとする『魔動機人』は無視だ。狙うはあの趣味の悪い代官の『魔動機人』。代官さえ抑さえれば奴らも引くはずだ。
体験を振り上げ、代官の『魔動機人』へと斬り掛かる。
「『魔動機人』の装甲を人如きが壊せるとでも?』」
対怪獣兵器がそんなやわな訳はないが、狙うは一点『魔動機人』の装甲の隙間。ハッチを開閉する関節部。
「ウオォォっ!!」
何をしても無駄だと油断してる今なら全部の魔力を込めた一撃で、内側からハッチをこじ開けてやる。
力を込めて、代官の『魔動機人』へ剣を突き刺す。
「『させませんがね』」
代官の『魔動機人』の胸の辺りから突如として何かが連続して発射された。
咄嗟に剣を盾に防御するが途切れることのない衝撃で、そのまま地面へと押し戻される。
体制を立て直す間もなく地面に降りたシュウは、地面を数回バウンドし、転がり止まる
その際思わず獲物から手を離してしまった。
「っ……なんだ今のは」
起き上がったシュウは手放した剣を探すため辺りを見渡すと、そこは、まるで何か小さいものに穿たれたかのようにボコボコに凹んでいる大剣。
大剣を見て、シュウは発射されたものの正体が銃ではないかと考えるが、ただの銃ではここまで自身の大剣をこのザマにすることは不可能だと否定する。
「『どうですかね、新たな魔力銃の威力は? 威力は従来のもののざっと十倍。怪獣の鱗さえ貫通する威力ですよ』」
勝ち誇ったかのような声が上から聞こえ、慌ててその場を離れようとするが、上から重いなにかに地面へと抑えつけられた。
「グッ……」
「『よう、村長さん。捕まえたぜぇ』」
そのままリーダー格の『魔動機人』に掴まれ、持ち上げられる。
「離せ!」
力一杯体を力ませるが、『魔動機人』の手はビクともしない。
「『無駄な事にスタミナ使うのはやめろよ、人の力で『魔動機人』に勝てるわきゃねんだからな』」
「ガッ……」
『魔動機人』が握る力を強め、全身の骨が軋む。
すると、チンピラの『魔動機人』が一騎接近してくる。
「『隊長。壁の破壊が終わりましたぜ』」
「『おう、良かったな村長。皆が死ぬとこを特等席で見せてやるぜ』」
馬鹿にするような声音で隊長格のチンピラが笑うのが聞こえる。
「『殺すのは無しですよ。アレにも新しい使い道ができたのですからね』」
「『おっと、そうでしたな。では、半殺しと行きましょう』」
そんなチンピラを代官が嗜めると、シュウは壊された壁の外側、森の方に視線を向ける。
そこには、ちょうど今森の中へ入ろうとしている村人達の姿が見えた。
「や、めろ」
抜け出そうと力を込めるが、『魔動機人』からの締め付けが更に強くなる。
「『暴れんなって、今からが良いところなんだからな』」
他のチンピラ達の『魔動機人』がそれぞれ銃器を構える。
「『半数なら殺しても構いません。逃げる意思さえ砕ければ勝手に投降するでしょうからね。後は雑兵に任せます』」
「『了解。さぁ、盛大に撃てや』」
大経口の魔力銃を構え、代官の『魔動機人』が杖を掲げる。
「『さあ、そこで見てなさい。私に逆らった愚かさを、私を陥れようとしたその浅はかさを』」
代官の機体の上に先程までとは別物の特大炎球が複数出現。
もし仮にあれが村人達に降り注げば、大勢の被害が出るのは確実。
やらせるわけには行かないと、シュウは再び抜け出そうともがき始める。
「『諦めろ、もう遅せぇよ。総員。撃て!!』」
「止めろーー!!」
隊長格の号令と共に、残りの『魔動機人』の魔力銃が火を吹き、特大の炎球が村人達めがけて放たれた。
シュウの叫びは虚しく、放たれた攻撃は森の中に避難していた村人達へ降り注ぎ、盛大に爆発。大量の砂埃を空中に巻き上げ、空には黒々とした黒煙が立ち上る。
「『ハハハハハ。やった、やったぞ。これほどの威力これなら、私の計画は間違いなく成功する。このままおびき寄せた怪獣を私自ら討伐してあの忌々しい領主の元から開放される。そして、これから私の爵位はどんどん上がり成り上がってやるんだ』」
おびき、よせた?
「『お前たちには感謝するよ、全て私の手の上だとも知らないでのこのこ街に来てくれたんだからな。私の悪事を領主へ告訴しようとしてると知った時はどうしてやろうかと思ったが、この私の踏み台になってくれたんだからな』」
おびき寄せた、だと?
「テメェ、まさか。俺達の村が見つかったのは、全部テメェのせいか!」
怒りに身を任せた後先考えない魔力強化。今まで強固に握られていた『魔動機人』の手をシュウは無理矢理こじ開ける。
「『無駄だぜ。村長さんよ』」
「ぐあっ!!」
握っていた『魔動機人』が、両手で掴み始め、開きかけた手は直ぐに元へと戻る。それどころか、更に強固に握られ体はピクリとも動かなくなってしまった。
「一体、どうやって……俺達の村に」
「『魔寄せの香。いくら村長さんでもこの名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないか? 怪獣の好む魔力を放つ特殊な香だ。それをあんた等の村の近くにな置かせて貰ったんだよ』」
「巫山戯るな! 其れがどんな物かお前たちが知らねぇはず無いだろ! 国で禁止どころか大陸で禁止されてる品物だ。一歩間違えれば怪獣の大暴走。国が滅ぶかも知れないものだぞ」
「『だからこその試作機なんだよ。確かに今までなら絶対数の少ない『魔動機人』だったからこそそれは禁止されてたが、既に魔法使いの特権は無くなった。『魔動機人』が有るからこそ魔法使いは重宝されてたが、今となってはただ『魔動機人』を長く動かせるだけのただの人だ。それに、今までは少数しか作れなかった『魔動機人』はこれから量産体制に入る。今回の作戦は試作機の優良性を世界に知らしめる事が目的なんだ。高位の怪獣を討伐出来るとなれば最高位が出てこない大暴走なんてもう怖くはないんだよ』」
こいつ等は勘違いしている。高位の怪獣といえその強さはピンキリだ。なのに、わざと大暴走を起こす気なのか
そんなことの為に俺たちは……そんな、くだらないことの為に俺達は使われたというのか。
憤怒の感情が込み上げてくる。ぶつけようのない怒りで頭がどうにかなりそうだ。
「『さて、生き残りを捕まえに行きますよ。総員、進みなさい』」
地面にいた兵士と騎士が隊列を組み、森へ向けて進み始める。
あの爆発だ、生きていたとしても重症だろう。放っといても死ぬ筈なのに何故。
『魔動機人』が先導し、騎士達が街と森の中間に来たその時だった。
突然。今まで砂埃が舞い、黒煙が立ち昇っていた森の入り口から莫大な魔力波が襲い来る。
「『な、何事ですか』」
慌てた様子の代官の声。
魔力波に当てられて尻餅をついた兵士達。
そして、魔力波により、砂埃と黒煙が吹き飛ばされ、見えたのは白銀の『魔動機人』。
両腕に巨大な盾を装着し、聖騎士の様に輝く白銀の装甲。
その赤い目は真っ直ぐにこちらを凝視しており、その神々しさに目を奪われる『魔動機人』が、背後の森を守るように堂々と立っていた。
何時まで過去編やってんだろ……




