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第4話 チュートリアル前のチュートリアル 〜前代未聞の集団ゲーム転生〜


 

 この村に生まれてプレイヤーとしての我を通しつつ、村人として馴染む努力までしなきゃならなくてもう……とにかく一生懸命だったので時々忘れそうになるんだけど…


 …うん。ここはゲームの世界だ。


 さっきランニング中に登場した村人達はみんなNPC…うーん…NPC…であるらしい。


 ホントにね。信じられないほど、リアルな訳ですよ。NPCと呼んじゃうのが失礼に感じるくらいにね。


 そしてどうやら、この村には僕以外のプレイヤーはいないようだ。僕はまだ、僕以外のプレイヤーに遭遇したことが無い。

 よって他のプレイヤーがどのようにしてプレイしているのか気になる所だけど、その情報は皆無。

 比較する対象がないというのは結構不安になるものだし、今の僕のプレイ状況といえば…


『チュートリアルからして既にハードモード』って感じになってる……


 あははー。……はぁ。

 

(…ホント気になるよ。みんなこんな苦労してんの?チャット機能とか無いんだよねこのゲーム……さすがリアル志向。でも不便。そして不安だ。)


  『異世界に転生する』という設定上、僕達プレイヤーの全員が脆弱な赤ん坊からスタートすることになったのだけど、そんなのゲームとしては前代未聞。よって攻略法なんてあるはずも無く…………




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「ご安心を。チュートリアル中にはスキップ機能を準備しておりますので、快適なプレイをお約束できます。」


 開発者らしき人がそう言ったのを聞いて、少し騒がしくなっていた場内が落ち着きを取り戻していく。

 この『転生システム』はこの世界でのセカンドライフをよりリアルに堪能するためにもあり、プレイヤー達が『犯罪行為などに走る前にこの世界について深く学ぶ』ための準備期間としても、必要な設定である……ということだった。

 つまり生まれてから独り立ちするまでのこの準備期間を『壮大なるチュートリアル』として提供する……ということらしい。

 ちなみにスキップ機能はプレイヤーの任意で行う事が可能というもの。


(そこまでしても興味本位で悪事に手を染める人は、いるんだろうな。)


 いや、僕のこの考えを『引きこもり特有の厭世的解釈』みたいに思わないで欲しいな。

 ゲームには遊び心が付き物だし、現代人なりのガス抜きという側面があるのも否めないでしょ?って言いたいだけで…。


 う。だからと言ってゲーム内犯罪に肯定的なわけでもなくて……うー。何を言ってるのか自分でもわからなくなってきた。


 うん。とにかく話を戻そうか。


 結論から言うと驚くことに…


 プレイヤー犯罪に対して運営側からのペナルティは原則としてない。らしい。えー…?



    因果応報。



 全てはプレイヤーの自己責任。というのがこのゲームでの運営のスタンスだ。

 つまり運営的にはよほどでなければ手を出さないけど、ゲーム内の現地人、NPCがそれを許してくれないだろうとのこと。


『それは当たり前のことでしょう?』とか言ってた。


 犯罪を犯したプレイヤーはその風土で培われた法と刑で裁かれる形だ。死刑判決を受ければあっけなく死んでしまう。死んでしまえば当然のゲームオーバー。

 あと、プレイヤー犯罪の抑止力とするためなのか、初期設定では現実世界と同等の痛覚が設定されているらしい。


「え。なにそれコワイ。」

 

 あ。心の声が漏れた。周りが冷たい視線を僕に注ぐ……スミマセン。うつむきながら『うーん……』と心中で唸りつつ、真剣に思う。


(これは、苦痛耐性のスキルとかあるなら真っ先に生やさなきゃな。)


 しかし…痛覚の件にしたってそうだけど…創造物…つまりNPC丸投げな管理体制というのも気になる。

 倫理的にも、現実の法的にも、それは許されることなのだろうか、と疑ってしまう。


 説明によるとこうだ。


『おそらくですが、この世界を深く知れば知るほど、倫理的に逸脱したプレイに思い切ることなど、そう簡単には出来なくなるでしょう。』


 何故そう言い切れるのかと言うと。文字通りの一騎当千な実力をもつNPCというのは、国ごとに、冒険者や兵や将として多数存在しているらしい。

 創造された存在と言っても、NPC達はこのゲーム世界では先人に当たるわけだから、それは当然のこと。そして彼ら強者は生半可なやりこみでは歯が立たないほど強力な存在であるそうだ。

 そんなネイティブの防衛機構に目をつけられたらゲームオーバー待ったなし。


 だから


『ゲームを楽しみたいという気持ちがあるならくれぐれも羽目を外しすぎないように』


 と何度も忠告された。

 ホント、しつっっこいくらいに、忠告された。


(………………………………………これは多分、………………あるな。)


 何がって?


(……………………………拷問。)


 だって!未開な現地の刑法に委ねるなら、あってもおかしくないでしょう拷問?うわー。やっぱり急務だね苦痛耐性の取得!


 『PK?もしくはNPCK?……したいならどうぞお好きに。……そのかわりどうなっても知りませんよ?……下手すりゃ地獄を見ることになるかもね?』


 ………先ほどの説明を別の言葉にするなら…こういうことだろ。


 怖すぎるっ


 因みにデスペナルティはない。

 というか『デスイコールペナルティ』だ。

 死んでしまえばコンティニューなしのゲームオーバー。

 ホントどこまでもリアル。

 なので、同じキャラで途中からやり直すということは出来ない。

 せっせと上げたレベルも

 身に着けたスキルも

 収集したレアアイテムも

 全てがパー。

 アイテムに関しては無になることはないけど、プレイヤーから所有権が離れ世界に還元されてしまう。


 それを考えればやはり、犯罪に手を染めるというのはリスクが高過ぎる。


 ゲームなら通常あって当たり前の『復活仕様』。

 それを撤廃したのはPKやNPCKなどのプレイヤー犯罪への抑止力であったり、無駄にリアルを追求した結果…というだけでなく、他にちゃんとした理由があるらしい。それは『これ程にリアルな世界でそうポンポンと蘇生されては、あらゆる意味で秩序が破綻する未来は免れない』ということらしい。


(うん。それは……確かにそうだ)


 軽々と死を覆して教会や王の間で復活してしまえる存在などというものはリアルに考えてみれば脅威以外の何者でもない。


『悪魔憑きだとか言って弾圧するというなら好きなだけ弾圧すればいい、』

『それでも復活し続けレベリングを重ねていけば、いずれ人外の強さへと辿り着く』

『そうなれば何も怖くない。復讐も出来る』


 …そう考える人もいるかもしれない。

 …でもきっとそうはならない。


『究極的な弾圧を受けたのち』

『弱い内にと魔法かなんかで無理矢理な隷属』

『死を想定に入れた苛烈なレベルアップを強制され』

『ヒト型最終決戦兵器として流用される』


 …のがオチだ。

 何度も言うがこれはリアルな世界を舞台にしたゲーム。

 ゲームとはいえ、そんな苛烈な手段を摂ることだって想定して然るべきだろう。リアルな世界の、しかも一国の為政者ならば。


 (自分で言ってて何だけれどこれは……)


 「怖いな。」


 また心の声が漏れた。そしてまた冷たい視線が……ちくしょうっ!

 もしプレイヤーがどうしてもやり直したいと願うならまた別のキャラクターとして生まれ変わる必要がある。

 その時は勿論、初期設定からのやり直しになるわけだけど。


「うーん。これは確かに慎重にプレイしなくてはね……」


 と僕がまた懲りずに唸るような独り言を漏らしていると周囲からの冷たい視線はさらに強化され………………僕のことはほっといてくれよっもうっ!




 ──いよいよこの長い説明会も終わりが近付いてきた。





 これから数時間後にやっとログインできるわけなんだけど……

 ログインは一斉同時に開始となるのは当たり前だが、ログアウトも一斉同時になることを予め説明された。

 なぜプレイヤー全員が一斉にログアウトするのかと言うと、『ゲーム世界の時間を凍結するタイミングを揃えるため』なんだそうだ。

 そして現実世界で何週間かしたあとまたこの施設に集合して合宿。続きからβテストを再開するのだとか。


(おお。ゲームとはいえ世界の時間を止めるとは…さすが運営(かみさま)


 またも述べるがこれはゲームであるとはいえ、“生きた世界”に潜るのだ。

 生きた世界とはプレイヤーの有無に関係なく歴史が紡がれていく世界。

 そこに多人数の“外様(とざま)”であるプレイヤーが介入するという仕様である以上、個人の都合でゲーム内の時間を歪めるのは許されないということだ。

 であるならこのようにプレイヤー側がこのゲーム世界の都合に合わすのは、仕方のないことなんだろう。

 プレイヤーが個人個人で好き勝手にログインとログアウトを繰り返すことなどは不可能。

 それぞれに合わせていちいち時間を止めることなどいくら運営でも出来るはずないしね。


 とあるプレイヤーが一人だけ、健康上の理由などで、やむをえずログアウトしたとする。そんな場合でも特別扱いなどされない。

 そのプレイヤーはログアウトしている間にもゲーム内の時間は容赦なく進み、その間、例外的ログアウトしたそのプレイヤーのキャラはゲーム世界ではオートモードに切り替わるんだそう。


 いい忘れてたけどゲームプレイ中は、『現実世界の時間はゲーム内ではかなり引き伸ばされる』らしい。


 そりゃそうか。赤ん坊からのスタートなんだから。


 一体、体感にしてどれくらいのプレイ時間になるか解らないが、年単位の纏まった時間が必要である以上、そういったゲーム環境内の時間操作は必要だろう。


(任意のスキップ機能が付いてるのはチュートリアル中の例外措置…。)


(…スキップ機能とはつまりゲーム世界にいながら、現実世界の時間速度に戻してオートモードをやり過ごすということか?)


(…うん。確かにこれなら異世界の歴史に影響はない……か。)


 そのかわり、スキップされ『空白となった記憶』はスキップ終了後に脳へと強制インストールされることになる。

 ……『強制』である以上、スキップする度にそれなりの頭痛に襲われることにもなるそうで…


 『予め御了承下さい』


 そう言われた。…この言葉。怖いよね。丁寧に頼んでるようで突き放された感じがして仕方ない。


(……そう感じるのは僕だけか?)


 そういった頭痛に関する注意事項も、手元に渡されたこの冊子の中を探してみれば片隅に記載されている。…結構な厚さの冊子だから見落としそうなのが引っかかる所だけど…、この冊子にある全ての条項に了承した旨を最終ページにある契約書にサインしたなら、βテストへの参加資格を得られるらしい。


(……いや、やっぱ引っかかるな。こんなの全部目を通してたらログイン時間に間に合わないだろ。)


 そういった『引っかかり』は他のβテスターも感じていたらしく、この説明会の後設けられた質問タイムは結構紛糾した。

 そしてその中で一番物議を醸したのが強制的演算加速によるゲーム内時間の引き延ばしについてだった。


『脳への負担はどうなるのか?』


『そんな長い体感時間をゲーム内で過ごして脳への影響がないとは考えられない。』


 当然の質問であるわけだけど……開発担当の責任者であるらしい人が出て来て『コールドスリープの技術を応用してどうのこうの』と懇切丁寧細部まで説明してくれたはいいけど、専門用語満載な話など素人にわかるはずもなく、あまり意味が無いものだった。

 その人は最後に『強制ではありせん。あくまで自由意志による参加である以上、棄権する方を止める権限を当方は持ちません。』という、譲歩を偽装した丁寧言葉でその不親切な説明を打ち切ってしまった。

 納得できなかったらしい何人かが自主的に退場することになったが、殆どの人は残った。これは…


『説明する側の熱意と根気に、質問した側がしぶしぶ折れるしかなかった。』


(……というわけじゃ、もちろんないんだろうな。)


 具体性のない、漠然とした不安や危機感では、もはや心底から溢れ出てくるこの好奇心に、勝てるわけが無かった。それが実情だろう。


(上手くやるもんだなあ)


 まあ、それも仕方がないことだ。このゲーム……どれをとっても前代未聞過ぎるのだ。

 これは人為的な──クラス単位ではきかない──超大規模人数での異世界転生と言ってもいいものなのだから。


 ゲームから逸脱したリアル大冒険が、僕らを待ってる。


 しかも現実世界の命は保証されていて……いや、それはどうだろう。それ以外全ての保証は、もしかしてないということか?


(ありゃ………また不安が……うーん。ぶり返してきた……)


 周りを見渡せばみんな若い。そうだ。若過ぎる。

ゲームとはいえこのご時世、いわゆる大人な年齢層が一人もいないというのは不自然過ぎる。なので当然そこのところも質問されていた。


 説明によると今回応募者の中、最終的に抽選というかたちをとりはしたけど、実はその前段階で急遽16歳以上19歳未満に限定することになり、それ以外の人達は除外されたらしいのだ。


『この判断を下した理由といたしましては、これはあくまでテストプレイであって、その段階であまりに先進的な専門知識を持った職人やビジネスマンの方々が介入した場合、どのような爆発的変化がこのゲーム世界の文明にもたらされるのか、想像が出来ないと判断されたからで…』


 …とかなんとか…他にも色々、長々と、勿体ぶって言ってたけども……本当に、そうか?


 大人未満の世間知らず達を集めたのは色々と追究される不都合を回避するためだったのでは?

 僕はもう既にこのゲーム会社の関係者を信用していない。


 だからついつい邪推したくなる。


 素人目で見てもこのゲームは危ういものだと分かってしまうからだ。ただそこから上手く目を逸らされてしまってるだけのことだというのも僕は解ってた。


(…まあ、それを分かった上で、僕は参加しちゃうわけなんだけれど)


 どうせ…僕なんか登校拒否の引き篭もり。この、『心の隙間』を埋めてくれるならなんだっていい。刺激的であるならあるほどいい。何がしかの変化が欲しいだけ──


 そう、これはただの自暴自棄。褒められたもんじゃないのも解ってる…とか、思ってたけど。


 まさかそれが、『あんなこと』になるとは…。


 この時の僕は、理解どころか


 想像すらしていなかったんだ……。









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