表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ライフオンライン〜ネタ枠種族の『ハードエルフ』はチュートリアルからハードモード。  作者: 末廣刈 冨士一
第四章 急転直下なチュートリアル
46/56

第40話 人外仕様のチュートリアル



( クラフト…そういやコイツのフルネーム知らないや。)


 クラフト…コイツは確かに強い。俺に出来ないことの全てが出来る。

 武具術スキルも魔法スキルも強化スキルも全網羅してるんじゃないだろうか?

 てゆうか戦闘に関するスキルはほぼコンプリート…は無理か。『統合』とか『分岐進化』とか考えたらコンプすることは多分無理だ…。

 例えば狼くんの『合気獣術』なんて絶対に無理だ。それでもこの俺すらも遥かに凌駕するほどの数のスキルを蔵していて、しかもどれもが限界まで鍛えてあるのは、どうしようもなく感じさせられる。彼我の戦闘力差は圧倒的なのは、動かしようもない事実だ。本来はな。ああ確かに。クラフト、こいつは素直に凄い。


(まあ殺すんだけどな……って…あ〜いやいや待て待て俺…)




 …なあクラフト。お前、




 生まれてすぐに『魔炉狂い』なんていう不治の病で死にかけたこと、あるか?


 それを生き抜いても魔炉の暴走は終わってなかったとか…そんな最高に皮肉が効いた状況に直面したことは?


 それを克服しないと結局は死んでしまうし、克服するにも生まれつき付与されてる不遇な【称号】に足を引っ張られる…なんてクソ過ぎる逆境に悩んだことは?


 そんな中でも生き残る術を模索しながら周囲にも認められ出した矢先に、やっとその答えを見つけたとばかり自分なりの魔力理論を打ち立てたら、今度は新たに『狂戦士化』なんていう危険を孕んでる自分に心底引いちゃったことは?


 その『狂戦士化』を恐れる役立たずな俺を簡単に乗っ取ってしまう【スキル達】の危うさに後になって気付いたことは?


 出逢う魔物は強敵ばかりだししかもそいつらを殺しちゃ駄目なんていう無理難題を、火を呑む覚悟で受け入れたことは?

 それを逆に福へと転じて強敵と書いて『とも』と呼ぶ(笑)存在にしたりとか…性格最悪なお前に出来るか?


 家族の為なら速攻で自分を犠牲にしようなんて先走るおバカで愛すべきくっそ可愛い母さんはいるか?

 いつまで経っても息子に対して子供扱いが抜けずに家族問題を一人で背負い込もうとするはた迷惑な親バカ親父に内臓が裏返るほどしごかれたこと、あるか?

 魔力を放出出来ず、魔法を行使するなんて夢のまた夢…そんな、魔法に関しちゃ無能に近い、ただ親戚であるだけの、しかも子供に毎日毎日根気よく魔法を教授してやれる…そんなバカが付くほどの真面目でお人好しでくっそエロい師匠がお前にいたかよ?


 もしかしたら自分らの命が危ないかも知れない…そんな危険を冒してまで助けようとしてくれる奇特な隣人達は?


(なあっ?そんな隣人達はお前が奪ってくれたみたいだけどなあっ?…ってイカンイカン。自分を『見失う』な……)


 …それでもな。消えなかったよ。あのすげー言葉達は…多分これからも一生。絶対に消えない。

 そんな言葉を、お前なんかが、貰った事はあるのか?貰える予定はあるのか?



 ……………そんな沢山の親心をちゃんと理解も出来ず自分がしてきた愚行や愚考に、ぎりぎりどころか完全に手遅れになったこの時点まで気付けない……そんなバカ息子だった事実を、こんな最悪な形で突きつけられたこと、お前なんかに、あるのかよ?ある訳ねえよな…














 (……なぁんてな……)



 偉そうに散々さえずってゴメンナサイ。

 ホント全てにゴメンナサイ。

 正直言うと


『ゲームだから。これゲームだから』


 そんな風に、真面目に考えずそのくせ、必死になってプレイヤーの立場を死守してただけなんだ。俺は。

 死守するために、諦観に近い開き直りでゲームに没頭して来たら、運良くここまで来れただけなんだ。俺は。

 そんな薄っペラい俺を周囲が勝手に都合良く勘違いしてくれたから、今の俺があるだけなんだよ。ホント、クソなんだよ俺は。


 だからきっと、信じることにしたんだ。

 不運を呼び込む厄介者のバッドや、

 ホントなら気味悪い存在である筈の『相棒』を。


 だからきっと、許すことにしたんだ。

 結果的にこんな手酷い現実を俺にもたらせたボンズを。


 そうしてきたのはきっと、

 俺が俺を守る為の『言い訳』だったんだ。だから。


 ……………………


 今お前を苦しめてるこのスキル。


 【人外化】って言うんだけど。


 このスキルも相変わらずの諸刃の剣ってやつでな。

 でもそれでいて、今までの『狂戦士化』とか、『【魔脳】の暴走』とはまた、違う厄介さなんだよ。

 『自分が自分でなくなる』とかじゃなくて、

 『死ぬ』?…いや違うなこれは。

 『自分が消えてしまう』感じだな。

 

 自分が消えてしまわないようにするには、常に必死になって『自分』というものを思い出そうとしてなきゃならない。ボンズみたいに延々と哲学の迷宮で迷ってなきゃならない。

 

 そうしてるとな。気付きたくないけど気付いちゃったよ。


 バッドや相棒やボンズを無理矢理信じたり無理矢理許したり…そうすることで、正当化してただけだったわ俺なんて。


 『プレイヤー』という立場に逃げ込むことの居心地の悪さを、俺はただ正当化してただけだったわ。


 そんなにしてまでこのゲーム世界にしがみついていたかっただけだったわ。

 そんなにしてまで現実の世界を恐怖してただけだったわ。どんだけクソゲーとか言って罵ってもそれでもこのゲーム世界に縋りついていたかっただけだったわ。


 情けないことに。

 直視しなきゃならない全部をなるべく直視しないようにしてきただけだったわ。


 そうなんだよ。すげーすげー臆病者だったわ。俺。


 弱い俺。ずるい俺。汚い俺。自分だけの俺。


 だからこそ解ったよ。

 こんなクソな俺だから。

 きっと俺をイジメてたヤツらも同じクソなんだって。

 そしてお前もそんなクソ仲間なんだろ?


  人とまともに関われない臆病者共。


 『やられたらやり返す』?

 『奪われるよりも奪う』?

 『弱肉強食』?


 なんだそれ。正論のつもり?


 お前(俺自身)も。

 お前ら(イジメグループ)もっ。

 お前ら(クラフトやザンダハ)も!


 嘘つくなよ。

 その歪んだ笑いとかお決まりすぎるな。

 胡散臭い。芸がない。

 今更そんなん説得力ゼロなんだよ。

 絶対ポーズだろうそれ?

 今更だな。もう惑わされない。


 でも気付いて良かった。

 怖いけどもう怖くない。

 『今まで』よりかは。


(あの質の悪い【狂戦士】くんや【魔脳】くんきっかけで教わるとはな…それをタチワルならキングオブキングスな【バッド】がさ、証明してくれたりとか…)

 

【……っうおイ!そんな不名誉な王位欲しくないんだけどっ!?】


「おう、頼むぜバッド。」


【何なんだよそのノリはもう………でも…あのジンが怒ってるんだし、怒るのも無理ないし、それが何故だがどうしょうもなく分かっちゃうし、しょうがないか…しょうがない…なんか考えるより今はやり遂げたいし。】


 ああ。全部呑み込んで全部投入しよう。

 どんだけ哲学しようが答えなんてない。

 こんなクソに殺されるとか許せない。

 だからボンズを見習おう。

 反省しても、考えても、わからないなら


 今こそ本気で反抗だ。


(この記念すべき初めての真·反抗期…)


【何それ!?真の使い方が残念すぎ…】


 うるさい!…とにかく絶対にやり遂げるぞ。バッド。


【まあいいか…うん。反抗する。僕も。】


 さあ、もう少し、【人外化】を頑張ろうか…


 俺の中の魔力を完全に分離させていく。

 純粋な体魔と純粋な精魔と純粋な空魔に仕分けしていく。


 まずは体魔の全てを『俺の中の狂戦士』に丸投げする。

 『俺の中の狂戦士』が馬鹿みたいに喜んでるのが分かる。

 『殺傷本能』が爆発的に膨れ上がる。


 その一方で精魔と空魔の全てを【魔脳】に丸投げする。

 【魔脳】が危機感を募らせ『狂戦士』を抑え込もうと手にした魔力を使い無理矢理精神を増強、全てのスキル達とリンク、スキル達を強化していく。

 『防衛本能』が爆発的に膨れ上がる。



 『殺傷本能』と『防衛本能』がぶつかり合う──



 ハードエルフというのは種族的魔力特性はアニマに似ている。体魔の化け物(フィジカルモンスター)だ。だから普通に考えれば体魔だけを振られた『狂戦士化』が圧倒的に有利。


 でも対する【魔脳】は俺に振られた空魔を使ってスキル群を率いてリンク、強化して対抗する。こうしてせめぎ合いが出来ている。


 お。【魔脳】有利…今度は『狂戦士』が盛り返し…っておお【魔脳】踏ん張るな…ほら頑張れ『狂戦士』。


 互いにもつれ合うようにして競い合うようにして増強されていく『狂戦士化』と『【魔脳】の暴走』。


 そして俺はと言えばこの二者の決着がつかないように

 『狂戦士』が不利になれば【源魔】を割り振り体魔を強化し、

 【魔脳】が不利になれば【源魔】を割り振り精魔と空魔を強化する。


 そうやって、この内なる戦いを長引かせば長引かすほど、俺という存在は倍々ゲームで強化されていく。


 無論、こんな無茶をすれば…こんな、暴走に暴走を重ねがけし続ける暴挙を許していたら、対消滅よろしく巻き沿いになった『俺という存在』も消えてしまいかねない。そんな危険も孕んでる。


 そうならないようにサポートしてくれる存在が必要だった。


 そこでバッドの登場だ。


 自覚してないみたいだったけど、コイツらFスキルという存在は強い。しかもとんでもなく。

 無自覚だろうが因果を歪めて『災厄をもたらす』なんていうのは破格の力だと俺は思う。


 因果律なんていう魔力や俺やスキルでもどうしょうもない代物を司っているわけだから、そんなバッドが弱い訳がない。


 そんなこんなで、通常のスキルとは違って面倒な手順が満載なこのスキルが【人外化】というやっだった。多分これもハードエルフ特有のスキルなんだろう。


 (意外と使えるじゃんかハードエルフ…。)


 そう。ハードエルフの『源魔の無限増殖』と『内蔵結界』がなければこのスキルは成立しない。

 【狂戦士の息子】っていう称号もそうだな。

 『四元魔力』を編み出すまで協力してくれた師匠も。

 これらを修熟するまで見守ってくれた父さんや村のみんなに…それに…本来ドワーフとエルフの間に子供は生まれないのに頑張って生んでくれた母さんも…


(ああ、結局全部だな。今まで経験してきた、出逢ってきた全部のお陰だな…)


【…てジ、ジン…そんな暢気にしてられ……っくっ……僕、僕、もう無…理…それに…それ

にジンの魔力だって…っ!】


 あ。


 ああそうだな。そろそろヤバい。いよいよ制御が危うくなってきた。

 無限増殖する魔力もその生産スピードには限界がある以上、消費スピードが上回り過ぎたら魔力枯渇を起こし制御を失う。

 バッドの力だって無限じゃない。バッドがこの戦線から離脱すればやはり制御を失う。それに…


(ああ…俺の『憤怒』…も、もう、抑え、切れないっ)


 忘れたわけじゃないんだ。

 どんなに達観してみてもこの『怒り』が消える訳がない。

 消せる訳がないじゃないか

 でも俺がこの怒りに身を任せたら?

 勿論制御を失ってしまう。


 制御を失えばどうなる?…多分この暴走し切った膨大な力に、俺は引き裂かれ、消滅?ああ…多分消滅する。きっと、バッド諸共。なんでか、それが分かる。


 でも、もう少しの辛抱だ。


(やっと捕まえたぜクラフト…)


 遂にあのクラフトを射程圏内に収めた。俺の剣がもうすぐ届く。どうしたクラフト?その余裕がないツラは。おお。やめてくれその恐怖に歪んだ顔を元に戻してくれ。『俺』が揺らいでしまう。慈悲のこころ?なわけないなだろ。これは愉悦だ。この憎んでも憎んでも憎み切れないお前をようやっと殺せるこの瞬間にはどうしても湧き上がってしまうっ!この、暗い愉悦が。そうなると【人外化】の制御がさらに危うく…


 だから、今すぐ俺に殺され────




 

 










「……なあんて♫」クラフトが嗤った…。



 ペキン…



 あ?


 母さんの良作が、俺の愛剣が…折れた。


 呆気なく。根本から。


 一瞬の隙。次の瞬間に


 シュン…


 「…う、あれ?」

 

 柄だけになった剣を持ってたはずの俺の右腕。

 それが見えなくなって…


 プシュウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……


 大量の血が飛沫いていて…


 「ガ。」


 え?


 「ガああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 絶叫………絶叫?誰の…え。俺が上げた絶叫なのかコレ?


 ドサ。


 遅れて落ちてきたそれを見てやっとの実感。


 俺は切り落とされた。これまた呆気なく。

 剣を振る為の利き腕を、

 どこまで強くなれるか、試し続ける俺に追従するうちに逞しさを増していった、その腕が、


 何で足元に……


【…!ジンっ!】


 「イ、ヒイイイイイイイイイイイイイイイイ……」


 そして第二波。バッドがかけてくれた声を無視して…なんとも情けない声。これではあのザンダハと変わらない。いや、そんなことより、これは…


(【人外化】が、暴走……っして、しま…っアガああああ!)



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ