第29話 連鎖するチュートリアル(3)危うさ
投稿遅れましたすみませんm(_ _)mm(_ _)m
雨あられと矢が降り注ぐ中、
友達の眼が、赤く赤く染まっていくのを、
ただ呆然として、見つめる。
こんな経験をした人が、僕の他に何人いるのだろう…
そんな場違いな方向へ思考を遊ばす。
現実味を全く感じないからそうなる。
あの眼は…ゴブちゃんの目で本当に間違いないのだろうか。
不思議だ。全くの別個体に見える。
アレでは、まるで、鬼の眼だ。
『許さない。』と『殺す。』
この二つの意思しか見出だせなくなってしまった、そんな非情の瞳。これが………あの、ゴブちゃんの瞳?やっぱり信じられない。納得がいかない。本当のゴブちゃんは、ああじゃない。
でも、目の前で起こっているこの現象なら納得だ。理解出来る。ゴブちゃんは今、『進化』しようとしている。
というか、今まで『進化』せずにいたこと自体がおかしいと思えるくらい、ゴブちゃんは魔物として優れた戦闘力を持った個体だった。
アレは…魔力だろうか?
ゴブちゃんの頭部からザワザワと揺らぎ立ち昇っていくものがあった。
それは胸部からも発生していてそのままザワザワと肩を経由し背中の上半分まで侵食しながら立ち昇った。
ワナワナと震える両の腕からも…ああ、脚からもだ。
…これらが実体化してしまえばゴブちゃんは…
ゴブちゃん……!
「…!ゴブちゃん!…駄目だ!」
ゴブちゃんが悲壮の運命に殉じようとしていることにようやく気付いた僕は、その胴にすがりついた。
「駄目だ!駄目だ駄目だゴブちゃん!駄目だ!戻れなくなる!
ゴブちゃんゴメン!僕!僕のせいだ!こんなになるまで放っといてゴメン!こんなことに巻き込んでゴメン!でも駄目だ!その進化に全部委ねたら…根こそぎ持っていかれる!もう戻れなくなる!ゴブちゃん!」
ゴブちゃんが変貌していく姿は ひどく悲しかった。
でも涙は出なかった。泣いてる場合ではなかったからだ。出るはずだった涙は焼かれて気中に飛ばされた。
何に焼かれた?
よくわからないモヤモヤがずっと僕の中にあった。
それが渦となってより混沌を増して…
そこから生まれた焦燥に焼かれた。
…自分で言っててよくわからない。
『どうしよう…これ、もう、取り返しがつかない…』
『しょうがないだろ。こんなのどうしようもない』
『しょうがなくなんてない。これは自分が撒いた種だろ?』
『いいや。これはバッドのせいだ。あいつもそう言ってたし』『ゴブちゃんと友達になったのは誰?考えなしに行動した結果がこれだろ』
『いやこれゲームだし』
『ゲーム?これが?』
『ゲームだろ。こんなの深刻に受け止める方が馬鹿げてる』
『でもこんな…リアル以上にままならないじゃないか。こんなのゲームじゃない』
『いいやゲームさ。そういう仕様のゲームなんだよ。誰だって怖いものが嫌いなはずだろ?なのにホラー映画を見るしジェットコースターにだって乗る。騙されたがりなんだよ。しょうもない生き物なんだから。人間は』
『なんだよその理屈』
『心当たりがないなんて言わせないよ?』
『うぐ…そうだな。そうか…そうなのか…これやっぱゲームなのか…』
『そうだよ。それにさ。完全に予測不能なゲームだなんて…それって凄いじゃんか』
『そうか。そうだよな。凄いなこのゲーム…。そうか…ゲームならゴブちゃんがどうなっても、それはしょうがないことなのか…これもドラマの一つだと受け止めるべきなんだよな…そうか…そうか…でも、残念だ。』
『…え?』
『…え?』
『いやいやいやいやいやいやいやいや…それは、嫌だぞ?凄い嫌だ。あああ?僕、ねえ僕?どどどうしよう⁉何してんだよ僕?早くゴブちゃんを助けなきゃ!』
「『いやどっちだよ!!』」
脳内でこんな馬鹿げた自問自答なんて、勿論してない。
だだ、僕の中の葛藤を会話形式で表現するならまさにこんな感じ。支離滅裂だった。でも、うん。これだけは分かった。
結局答えは決まってる。
『ゴブちゃんを死なせたくない。少なくとも、今は。』
確かに、ゴブちゃんとの関係はいつまでも続くものじゃないんだろう。いつかは決着をつけなきゃならないことだ。分かってる…いや、元々分かってたのかもしれない。
でも、それは、今じゃない。
ギュらァ…
怪しげな魔力の動き。体内に感知した。
その凝縮され魔力が形を、成して、僕、を、支配し、ようと……いやちょっと待て‼
(な…これ、狂戦士化か⁉また嫌なタイミングで……うわぁ待て待て待て待てって!)
それも今じゃないから…っ!
意識が飲み込まれる…抵抗しようとしても集中がままならない……視界の端に……降り注ぐ矢の雨……果敢にその矢を打ち払い、粗末な木の盾で弾いて逸して、抵抗しながら互いを守りつつ撤退を試みるゴブリン達……あの矢はどこから降ってくるのか…あいつらか、あいつらが、矢を……洗練された揃いの装備で身を固めた集団…あれは、騎士団か?なんでこんなとこに騎士団が……
「やめ…っ!やめろお!コイツらなんもしてないっ!何も悪くなくて!助け、助けてくれたんだ!だから…」
暴走しそうなゴブちゃんを押さえつけながら必死に声をかけるが矢の雨が止む気配はなかった。
ゴブリンが何体か倒れてる。そのまま視線を地に這わせて見れば…倒れ伏していたけど命だけは取り留めていたはずの盗賊達にも矢の雨か降り注いでいて…
(あれは…きっと死んだな…あ。そういえば商人さんと護衛さんは?…)
…と、更にと視線を泳がせ……たのがいけなかった。
こんな緊迫した瞬間に余所見なんかしてたら、どうなるか。
押さえつけていた僕の手が、いつの間にか緩んでいた。
棍棒を握りしめるゴブちゃんの手に自由を許してしまう。
人外のスイングスピード。発揮される。
気が付けばすぐ目の前に節くれ立った木の模様があって…。
すぐ目の前まで迫ってるこれは…ゴブちゃんの棍棒?
(あ……これ詰んだ。)
その時だ。僕の身体は乗っ取られた。
完全に支配権を奪われた。
でもそれは、狂戦士化の症状とはまた違う支配のようだった。
【魔脳】だ。
スキルでしかなかったはずのそれが僕の意志から完全に離脱した。そして自律した存在となって僕の上位にと君臨する。
オートマチックに淀みなくいくつものスキルを同時に発動。いくつもと言っても、いつもとは桁が違う数だ。こんな出鱈目な数のスキルを同時に……僕にこんなことは出来ない。
しかもそれら数十にも及ぶスキルを、多分一時的な効果だろうが…強化までしてのけた。
その上、それら御しがたいはずの強化版スキル達を僕なんかよりもずっと精密に操作してみせる。
そんなデタラメが出来たのはきっと、魔脳が自身を筆頭としてスキルと各種魔力を巻き込みネットワークを構築し、冷徹なほど効率化に効率化を重ねていった結果なんだろうけど…。
連鎖する、増幅する、再構築されていく。細胞レベルで変異していくような…そんな感覚。
感じるのは恐怖感?多幸感?わからない。僕はただ、魔力とスキル達が僕の内部を激しく弄くり回すのを見つめるだけだった。それ以外の自由は許されていなかった。
(でも、いいのか?)
引き伸ばされ、永遠とも思える一瞬。僕はその間、じっと見ていた。
気になるのは勝手に動き出したスキル達と魔力だけじゃない。顔面に迫りくるこの棍棒のことも忘れてはならない。
見ていた。いいのだろうか。この棍棒を放置していて、本当 に 大 丈…
(ぶがあ…あっ!)
クリーンヒット。吹っ飛ぶ僕。
本来なら破裂した水風船のように血を撒きながら粉砕されて当然の衝撃。でもそうはならなかった。
どうやら【魔脳】は回避がもう間に合わないことなどは算出済みだったようだ。まずはこの打撃に耐えるための緊急措置として、やむを得ず、僕の身体とスキル、そして魔力を乗っ取ったのだろう……と、そこまで理解して、僕は意識を手放した。
目を覚ます。
既視感。
視線を下に下ろす。足元に倒れている者を見下ろす。
既視感。
そこに倒れていたのはアンビではなかったし、ゴブちゃんでもなかった。
知らない顔だ。ヘルムが脱げていたけど、着ている鎧から察した…どうやら、僕らへと矢の雨を降らせていた騎士団の内の、一人か?周りを見回す。
どうやら間違いない。騎士団だ。全滅している。更に周囲を見渡す。ゴブリン達も倒れていた。矢が刺さってないし、斬られてない個体が殆どなのを見るに……多分、やったのは僕だ。
(あらー…。商人さんと護衛さんまで…)
矢に射られた者たち以外は…どうやら全員生きてる。樹木を背にして、地に脚を投げ出すゴブちゃんも、少し遠くに見えた。よし、死んでない…
(てゆーか…これ…どんどん深みにハマっていってる感じだよな…)
「狂戦士化の次はスキルの暴走て…」
まあ、確かに狂戦士化よりかはマシだったかも知れない。まだ誰も殺してないところを見ればね。
でも、これも暴走の一種であって、結局の『危うさ』だろう。
実際、心身魔力共に酷使し過ぎたせいで僕の肉体は既に気を失う寸前のボロボロな状態であるみたいだし。だから……
「《ゴブリン共。ゴブちゃんと仲間を連れてここから去れ。帰るんだ。里に。》」
(とりあえず、アイツラだけでも逃さなきゃね…)
と、僕は初めて、【ゴブリンキング(亜種)】の称号を意識し、ゴブリン達に命令した。
僕の手によって念入りに痛めつけられ、動けなくなったのだろうゴブちゃんも仲間達に拾われ、連れられていく…僕はその姿をずっと見送った。
一緒には帰れない。なんと言っても殺してないとは言え、騎士団の殲滅は重罪だ。やったのは…どうやら僕みたいだし、どうせ逃げる体力すらもう残っていない。なら、僕はここに残って自首すべきだろう。
そしてゴブリンの被害などなかったことを一応言っとかなきゃね。聞く耳を持ってくれるかは未知数だけど。
(は〜どれくらいの罪になるんだろ。これってやっぱ死刑になるのかな?じゃぁ僕は死ぬのか…………………………別に、いっか…どうせ、ゲームだし。ゴブちゃん達が死ぬより、ずっといい………あーでも、拷問だけはやだなー…。)
その時、担架がわりにといくつもの盾を何枚か連ねたものの上に乗せられていたゴブちゃんが、首だけを起こした。その視線は間違いなく僕を見てる。
その瞳に浮かぶのが憎しみなのか、悲しみなのか…寂寥なのか…もうすでに遠く離れていたので判らない。
判らないけど、僕はずっと見ていた。ゴブちゃんの姿が薮の中に消えても見ていた。
その気配が感知出来なくなるまで見送った。そして感知の範囲圏外へとゴブちゃんの気配が消えた時
(バイバイゴブちゃん)
僕は意識を手放した。
この小説は、ブクマ、評価ポイント、感想、なろう勝手にランキングなどなど、読者の皆様の暖かいご支援により投稿維持出来ており…
…ましたがうーん。
明日は投稿出来ないかもしれません(泣)
仕事を言い訳にしたくありませんが、
物理的に無理かもしれないので先に報告しておきます。
どちらにせよいつもいつも有難うございます。感謝感謝ですm(_ _)m
なるべく早く次話投稿出来るよう、頑張りますので、今後もご愛読宜しくお願いします
m(_ _)m




