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転生ライフオンライン〜ネタ枠種族の『ハードエルフ』はチュートリアルからハードモード。  作者: 末廣刈 冨士一
第四章 急転直下なチュートリアル
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第27話 連鎖するチュートリアル(1)災厄。


 父さんと母さんがいなくなって数日がたった。


 その間、思いの外、というか、案の定…というか…


 僕はソワソワオロオロしてバッドを心配させたり、突然癇癪を起こしてバッドを困らせたり、終いには大して意味のない思考活動に逃げ込んでバッドに諭されたりからかわれたり


 そう…大変見苦しく、情けない有り様だった。


 そして、僕はこの世界にダイブして初めて修行をサボった。まあ、じっとしてると落ち着かないのでランニングだけはしてたけどね。スキップも使ってない。父さんと母さんがいつ帰ってくるかもわからなかったからだ。

 お陰でたくさん時間が余ることになったので、その余った時間の何割かはバッドとの会話に充てられた。

 彼と実際に会話してみて分ったことは、『確かにコイツは面倒な奴なんだけど、邪気はないんだよな…』ということだ。


 彼は自分がプレイヤーに及ぼす負の影響についてよく理解はしているんだけど、それはあくまで設定上のことであって、好き好んでそうしているわけではないようだった。


 それは…ある意味、彼も被害者なのだという事を意味する。そう考えれば、コイツも可哀想な奴なのかもしれない。


 他に解ったことは、(まだ浅くしか理解してないんだけど)彼には『熟知か無知』…その両極端しかない。


 どうやら彼は僕に好かれたいと思っているようだった。


 僕のことをよく知ってもいて、更に知りたい、理解したいと意欲を示す。僕の気を引こうとアレコレ試して無駄なやり取りを試みて、その結果僕にウザがられることになっても、その反応を喜んでる。寂しがり屋なのか?


 …だけど、その反面僕以外のことには無関心で合理的。


 人間というものがどういったものであるのかよく知っているようでいて、でもそれは僕というフィルターを介してしか知らないようだったし、知ろうともしない。

 だから、僕以外の誰かを認識する際は、まずは僕の味方か敵か、もしくはそのどちらでもないどうでもいい存在か…で判断しているみたいだった。


 僕にとってそんなバッドとの邂逅は、『常識的情緒を持たない生き別れの弟と再会した』ような……なんだかよくわからないけど、不思議な感覚だった。

 これは何が言いたいのかというと、つまり僕は彼をどうしても憎めなかったということだ…そう。憎めない。

 だけど彼の全てを慈悲の心で受け止められのるかと聞かれたら…『それは無理だ』と答えるしかない。

 

 バッド……コイツは、災厄を呼ぶ。


 そして実際、災厄は訪れた。『父さんと母さんが行方不明になる』という形を取って。


 【七転八倒】のスキル注釈文によれば、彼と僕とは一蓮托生なのであり、真のFスキルに目覚めるまでは避けられぬ災厄がこれからも降り掛かる。そしてその全てを乗り越えるまで運命を共にするカレは僕にとっては疫病神でもあり、相棒でもある訳だ……ね?そう考えると微妙すぎるでしょこの関係?


 だから僕にも解らないでいた。彼とどう接すべきなのか。きっと彼もそうだったんじゃないだろうか。

 つまり僕らの関係はマイナスからのスタートだったと考えて間違いじゃないし、これからも難航しそうだ。そして二人ともそう考えていた。


 そうこう考えてる内にも災厄は容赦なく降り掛かる。


 今度は  師匠がいなくなった。


 ランニング以外の修行をサボり、家の中でじっとして父さんと母さんを待ってる間に気付いたんだ。『これは、変だ』と。

 何日も修行をサボったのに師匠が僕を訪ねてこない。あの神がかり的に勘の鋭い師匠がこの異変に気付かないわけがない。


 次の日、居ても立っても居られなくなった僕は、やっとの思いで家を離れ、師匠の家を訪ねた。狼くんには悪いけど彼には会わない最短のルートを全力疾走で駆け抜け訪ねた。


 そして、やっぱりだ。


 嫌な予感というのはなぜこんなにも当たるのか。


 玄関に鍵がかかってなかった。


 咄嗟にという感じで僕は家の中へと押しかけた。

 なんだか…師匠が慌てて家を飛び出して行った

 ……そんな痕跡が見て取れた時には僕はもう…

 これ以上なく、焦った。


 全ての部屋を確認して師匠の愛刀と魔法触媒の杖と旅装がどこにもないことを知った。

 そしてその後で、ようやく、最後の最後まで見ないようにしていたテーブルの上を……観念して確認してみれば…


「…やっぱりだよ。」


 案の定……というやつだ。そこには書き置きがあった。

 今度は一枚だけ…。


『我が愛しの弟子、ジンへ。なるべく安全に、なるべく早く、そして必ず、連れて帰る。だから心配するな。じっとして待っているのだ。かと言って修行は怠るな。技というのは簡単に錆びつくぞ?  そして切として願う。お前がこの書き置きを読まずに済むことを。────霞ケ関愛純(カスミガセキアズミ)。』


 師匠自身、父さん達を見つけてすぐにでもこの村に帰還するつもりでいたのだろう。この書き置きは念の為の保険というやつだ。最後の文章からそういった事情が伺えた。


 せめてその文の通りに師匠の願いを聞き届けたかった僕は、見なかったことにしようとその書き置きをテーブルの上…なるべく元の位置であるようにしてそっと置いた。


 でも、今思えばあれは、自分を誤魔化す為にした行為だった。父さんと師匠、この二人の腕利きが揃っていて未だ帰って来ない。何かあったとしか考えられない。事態はただの家出では済まされなくなっていた。僕はその事実から目を逸らしたかったんだろう。


 そしてトボトボと、家に帰るだけ。食べることも、身体を清めることも忘れ、その日はそのまま寝床に潜り込んだ。何も考えられなくなったからだ。そうするしかなかった。


 次の日、次の日、次の日、次の日……狂ったようにして剣を振り、走る。ランニング以外の修行を再開した。

 でも、家の中、もしくは家の周囲で出来ることに限る。それ以外はしない。父さんと母さんが帰って来た時、すれ違いになることをひたすら恐れ、そうした。

 食事などは自分で作って食べた。母さんに仕込まれてる。別に自信があるわけじゃない。腕前もそこそこだ。

 でも作った料理は想定外に不味かった。味がしない。がっかりした。

 毎日毎日、その美味しくない料理を食べては苦い顔をした。時にはわざと苦い顔をして、自分が作った料理に悪態をついた。

 なぜそんなことを?と自問したがその時は解らなかった。でも今なら分かる気がする。きっと、家族と共にしない食事に馴れたくなかったからだろう。



 そして次の日も、次の日も、次の日も、次の日も、父さんも、母さんも、師匠も…帰ってこなかった。修行に打ち込んで気を紛らわせる日々。でも今なら分かる。修行に身など、入るはずもない。アレはただ、考えることから逃げていただけだった。


 そんな日々を重ねていると、マグナさんが訪ねて来た。マグナさんは何か言っていて、僕も心配かけたくなかったので、なるべく元気よく受け答えしたつもりでいたけど、話した内容は殆ど覚えていない。でもそれはおかしい。僕には【魔脳】というスキルかあったのだから。【魔脳】には完全瞬間記憶という

、破格の性能もあって…なんで今頃になってそれに気付くんだろう?




 ──ン!───きて─!──

(ん?今、なんか聞こえた?………気の所為…か。)




 マグナさんはそんなに長くない時間話したあと、帰っていった。見送った時に見たマグナさんの背中は妙に丸まってて、肩を落としてて、何度か首を横に振っていた……それだけは妙に印象深くて、覚えている。


 また違うある日に、今度は村長から呼び出された。


 村の集会所までついて行けば、当たり前だけど村長がいて…他にもマグナさんがいて、美人さんで有名な人妻のメルさんもいて、酒場の主人のデーブさんや、農家のラタンさんや…他にも…僕が親しんだ人達が、僕を親しんでると思ってた人達が、大勢集まってて…


 ドサリ。


 お金が詰まった重い袋を渡された。『それはここに集まったみんなから集めたお金だ』とか言われた。

 『受け取れない』と言っても強引に手渡されて……何か色々言われて……やっぱり殆ど覚えていなくて…でもこれだけは覚えてる。


「明日、この町に来た行商に随行しなさい。」


 そう言われた。

 

「出てけ……ってこと?」


 これは、僕か?僕が言った?もしそうならもっと言い方というものがあったろうに…まあ、今更だけど。


 築いてきたものが見る間に崩れ去っていく感覚。


 そこからはもう、怒涛の展開だった。


 いつの間にか馬車の荷台の上で揺られていた僕。その頃の僕はスキップをしたわけでもないのに何故かこうして記憶が曖昧になることが多かった。何故かわわからな……




 ──ジ──目を──して───!───

(まただ……また誰かが……)




 周りを見渡せば行商であるのに護衛は一人しかいない。

 何故かと尋ねるとどうやら僕をあてにしてるらしい。僕の戦闘力は村人達も知る所だ。多分村長あたりから聞いたのだろう。それでか…送迎の代金は請求されなかった。

 

 その次の日のことだ。その馬車が囲まれていた。全員が同じような髭面で、同じような古傷と、同じような汚れと、同じようなボロにまみれた男達に。全員同じ人間から造られたクローンなのかと見まがいそうなほどモブ敵丸出しなソイツらは、多分盗賊だったのだろう。


 なるほど。盗賊的視点で見てみれば、まともに戦えそうなのは護衛の人、ただ一人。その上、戦う上でお荷物になる子供もいる。子供の割に高身長な僕だったけど、この馬車は彼らにとってはカモネギというヤツだ。

 『少数精鋭』を信じる強者がいるならば、『多勢に無勢。数は力』と信じる弱者もいる。 

 護衛を雇う際は『盛る』ということも必要な事なのだと、この時知った。数が揃ってれば、きっと襲われることもなかったのに。


 迫る危険を察知した途端、急にスッキリし出す僕の頭脳。


 しょうがないので僕達は逃げることより盗賊達を迎撃することにした。これは充分可能なミッションだと思えたからだ──


 

 でも


   ──その時だ。


  僕は【七転八倒】というスキルを甘く見ていた。


  災厄は容赦なく降り掛かった。


 


 この小説はブクマ、評価ポイント、感想、なろう勝手にランキングなど、読者の皆様の暖かいご支援により、投稿維持出来ております。


相変わらず運命に翻弄されまくってるジンくん。転がり落ちて強くなるんだ!作者は別にドSでもドMでもありません。昼と夜とで使い分けてる系です。




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