第20話 初恋??のチュートリアル。
僕は懲りずにまた【気配分化】を発動する。
「うらぁっ!」
怒涛の高速変則連続攻撃っ!再度展開っ!
それに対抗すべくなのかまたもや『ブ…』と狼の身体がブレて…
(出るか『合気獣術』…!くそっ…これではさっきの二の舞…)
「ギャンッ!」
(に、なるわけねーだろっ!)
「ハッハー!ヒットぉ!“必殺技破り”さらなる返し技で破ったりー!!」
(まんまと引っかかりやがったザマァだオラー!!お?ほらほら顔に出てますぜ旦那〜)
『何い?そんな馬鹿なっ!この技が破られるだとぅ?』
(って感じが物凄く……てアホか!それはこっちのセリフだわこのチート狼めっ!)
そう。僕の必殺技は一度破られてしまった。
でも、『どのようにして破られたのか』が理解出来れば、その対処も可能だ。
(ハッハッハ。必殺技破り破りだコンチクショー!ああ気持ちいい。)
さっき僕は『選択肢は少ないほど良い時もある』と言ったけども、きっとこの狼もそれを実践したに違いない。
よく考えれば単純な話なんだ。
『どんなに高速で変則的で絶え間ない連続攻撃であろうとも、身体に触れる“最初の一撃”は一度きり。』
彼はそのタネに気付いてのけた。
そして初撃のみに絞り込んで対応してのけた。
(しかしなんとも賢明な判断過ぎませんかコラ野生っ!)
だけどその対応の仕方では完全攻略とはいかない。僕はそれを即座に看破した。
彼は体表の毛先に全神経を集中して初撃を精密に感知、そして即座にそれに合わせた精密な動きで迎撃してのけた。簡単に言えばそういう事だ。
彼は僕が初撃に乗せたエネルギーを最低限の動きでいなした。いなされ行き場を失ったエネルギーにこれまた最低限の動きで彼の力を上乗せした。
そうして力のベクトルを捻じ曲げられ…結果、態勢をまんまと崩された僕は『自分の力+α』でもってして投げ飛ばされてしまった…
さっきのはきっとそういう技なんだろう。単純だが…見事過ぎる柔の技。
しかもその技を使ったのが野生の狼だと言うんだから……ホント参った。脱帽モノだ。意表を突いてくるにも程がある。
『お前ホントに狼か?』と言ってやりたい。勿論、褒め言葉としてね。
(でも考えてみれば今までも剣を弾いてたもんなコイツ。…きっと体毛操作で即対応して受け止めてたんだなアレも………カーーー…ッホンット、なんてヤツなんだろ…)
きっとあれは斬られる寸前、毛先を昆虫の触角代わりにして僕の攻撃を感知しつつ、筋肉だか魔力だか、もしくはその両方を使ってそのまま毛先を蠢動させ、迫る刃をいなしてダメージを軽減してたんだろうけど…。
これはこの狼くんが頼りとする…いわゆる『基本技』の一つだったに違いない。だがこの基本技たけでは絶え間ない連続攻撃を凌ぎ切ることはかなわなかった。
『じゃあ、初撃に対応してそのまま『体毛操作』を使ってぶん投げてしまえば、後に続く連続攻撃もリセット出来るのではないか…』そう彼は結論付けて、まんまと結果を出したわけだ。
(…でも普通そこに気付ける?つか体毛でぶん投げるとかどういう発想だよ?野生生物恐るべし。)
これは咄嗟に編み出したものではないのだろう。これは一つの技を練り上げた末に完成した謂わば『基本技の究極形』という所か…つまりアレは、彼にとって満を持しての『必殺技』だったという訳だ。
つまりですね…
『必殺技VS必殺技の第一戦目は彼に軍配が上がったのでしたの巻…』
…というわけで
『第二戦目の勝利は僕が頂きましたの巻』でテコ入れしてやりました。
(……マジ危なかったです。)
初撃が体毛に触れるギリギリのライン…彼の感知能力をギリギリまで引き付け……彼が釣られて対応してしまう…その刹那の、更に十分の一刹那の寸前で剣を引っ込める。
そして剣を引っ込める際の上半身の動きで生じたエネルギーをねじりながら即座に下半身へと伝導する。
時間にして瞬間の攻防だ。彼の投げ技が空振りするのと殆ど時差をなくしてエネルギーが収束した足先が蹴りを放った。
そうしてめでたくカウンターは成功。彼にしてみれば無防備な箇所に攻撃を叩きこまれてさぞ困惑したことだろう。名付けて、『初撃二段構えの術』!
(…まあ、要するにただのフェイントだぁね。)
相当な技術を要するわけだけどねっ
(…え?相変わらずの地味だって?……うっさいわっ!)
まあとにかく父さんに感謝だね。あのありえないくらいの……もはや『忍術合戦めいたフェイントの応酬』がここに来て活きた感じだなー。
(それと、『知識の差』だな。これも大きい)
この世界の住人には日本武術で言うところの『合気』だとか、中国武術で言うところの『化勁』なんて概念は、あったとしても、(通信技術が未発達なこともあり)僕らの世界ほどにはポピュラーなものじゃない。きっと。
というか、そもそもの『武術の方向性』が全く違うんだから無理もないこと。
なんせこっちでは人間相手の武術ではなく対魔物に特化した武術なんだから。前提からして違うんだよね。
魔力で武装すれば正拳突きでバカでかい天然石砕いちゃうという……僕らの世界では『非常識…の更に枠外』を地で行くからね。この世界の格闘家は。
(マジでこわいね。まあ一応、洗練された流派とかもあるにはあるらしいけど…)
でもそれは『僕らの世界の武術』のように、か弱い人類の中でも『さらに弱者とされる人々が同じ人間と戦う為に練磨し続けてきた武術』とは当然として辿った進化が違うのだから、その技術のデリケートさにおいては十歩も百歩も遅れたものであるはずだ。
(いや、これは優劣の問題でもない、か…)
洗練されてきた過程…というか洗練する箇所が多分全く違う。多分だけどまるで別物。多分だけどね。
だから今の技を食らってもまさか『狼に投げられた』とはこの世界の住人では、殆どの人が気付けないはずだ。
つまり僕らプレイヤー以外にはほぼ対処出来ない技だったんじゃなかろうか。
(『合気獣術』……正に必殺技と呼んで、不足無し。)
いや、僕だって武術に詳しいわけじゃないよ?なんせただのモヤシだからリアルの僕は。
うろ覚えなこの知識にしたって漫画で仕入れたモノなわけだしね。だけど、それでも、概念くらいは知ってる。
『古き時より相手の力を利用して戦う事を旨とし永く練磨され続けてきた兵法……幻と言われながらも密かに完成されていたそれを極めれば…触れただけで投げ飛ばし、致命傷を負わす事もできるという…そんな神業的武術がこの世には実在するらしい…んだとさ……へ〜…ふ〜ん……なるほどね〜……う〜ん……イヤそれ、ほんまかいな?』
って感じの、うっっっっす〜〜い概念なんだけどね。そんな頼りない知識しかなくても、『知ると知らないではやはり結構な差』だと僕は思うんだ。
実際に僕はそれをヒントにコイツの『合気獣術』の全貌を推測出来て、さらにそれを逆手に取って反撃出来たわけだし。
まあ、ともかく!
ドヤっ「むふーーー!」顔っ!
鼻息荒く、僕は言うのであった。
「人間の知恵、舐めんなよ!野生っ!」
こっちだって心血注いで編み出した必殺技なんだから。
(そう簡単に攻略させてたまるかってのっ!)
命懸けの戦闘で決め手となる技の有無ってのはホントに死活問題なんだよ……肉弾特化のハードエルフにしてみれば特に特に(泣)
だから、実は内心、
(あ〜〜密かに汗っ。マ〜ジで焦った。マ〜ジ肝冷えたわー…)
こんな感じなのでした。
(……って…ん?)
プイッ、と踵を返す狼くん。こちらとしてはまたも予想外過ぎる行動に出た狼くん。これは『またしても意表を突きにくるのか』と僕は警戒した…のだけど。
…タダダッ (……って…はあ?)
…ガザガササーーー……… … …
(…えっ…あいつ…)
なんだどうしたどこへ行く狼くん?
「もしかして…に…げた…?」
突然に藪の中へと姿をくらまし…おそらくは逃走してしまった狼くん。そんな突然の出来事に僕が呆気にとられたその時だ。
…ガサリ。
(………っな!)
狼が逃げた方角の反対側、僕の真後ろ、その藪の中から突然に気配が湧いて出た。
例え戦闘中とはいえ、僕らの感知能力を掻い潜ってここまで接近出来る者がいることに動揺を隠すことなど…まだまだ未熟を自覚する僕に、できるはずも無く…。
(これは…『逃げ遅れた』…ってことなのか…)
思い掛けない緊急事態。僕はさらにと警戒を強めた。ただ待ち構える。そうするしかなかった。
それ以外の選択肢を奪われてしまったと言う方が正しいか…それは勿論、不味い状況だ。何故なら、これは恐らく相当な手練れ。
(気配を捉えきれなかったのもそうだけど、あの狼くんが逃げるほどとなると……)
ガサガサ…
(く……っやはり狙いはここか)
問答無用に確かな足取り。気配が近付いてくる…
…ガサリ。
そして遂に明かされる…この、手練れであろう相手の正体は一体……
(ありゃー。)
その正体が明かされた途端。僕は脱力してしまったのさ…………そして…再びの緊張。……違う意味でね。
「あー!いたイタいたよオイ〜ジンがジンに会えたぜやっとオイ〜!なんで何ダの最近オイ!避けてる!?オレ避ゲられてるのかオイ!どうしてなんで?つか師匠は?師匠にもオレ避けられてる?れらてる?」
(も、…まずはそのスッゲー早口な。そこから直せ。あとお父さん譲りな『オイ』口調も耳障りだしそれらのせいでたまに差し挟むその特殊な噛みグセとかもホントなんとかしてくれ。どれも頭に響くんだよ…ホント相変わらずだなお前は。だから逃げられるんだよ狼くんに…)
もう既にひどい頭痛がしてしまってる件。
(頼むからもっとこう…落ち着いてくれ…)
ホント、どうしてこう…僕の周りにいる人はクセが凄いのしかいないんだろう。
彼女の名前はアンビ=ラコ=ライナ。
その名が意味するところは『ラコ族を祖とするライナ家のアンビ』。そう。姓が二つあるからと言って別に貴族の出…というわけではないのです。彼女はアニマ族生粋のパンピー女子だ。
この世界では獣人とか亜人とかいう言葉は差別用語なので口にしてはいけないけど……まあ、つまりはそういう事です。
ケモ耳さんです。ケモミミの俺っ娘です。つかイタっ娘です。少々…イヤ、だいぶウザいです。
「う。…やあ…アビー。久し振り。」
僕は彼女が苦手なんだ。とても。あの狼くんですら苦手としてることを僕は知ってる。
(チィっ道理で……あいつマジで逃げやがったのなー…)
そう。あの狼くんですら逃げ出す程の難敵なのだ。
ぶっちゃけた事を言うとですね。
どうやら彼女は僕の事を目の敵にしてるらしいのだけど……とにかくしつこく纏わりついてくるのだこの調子で。
もしかして僕に気があるのか?と考えたこともある。あるけど、もしそうだとしてもこのアピール圧はヒドすぎる。
あーちなみに彼女が師匠と呼んで探しているのはあの狼くんのことだ。
(それにしても……)
ラノベとかで見る『猛烈なツンデレにやたら絡まれる主人公がニヤケ困ってる噴飯モノな関係性』についてなんですが。
『恋愛偏差値逆行上等』を旨とする僕としては常々、物申したいと思ってた次第なんですけれども…
(うーん! 理解した!これは、確かに御し難いよ!)
「もし師匠が私を避けてるならお前がなんとかしろボヨイ!その前にオレなんかしたかオイ〜?というかお前だろ何かしたのは!そしてされたのオレだろがオイ!あんなケダモノ然として私のアレをバウっといていや奪っといてコノヤロウ!責任感のないオスはアメバってウチの父ちゃん言ってたズオイ!」
(アメバってなんだよ!?もしかして『駄目だ』って言いたかったのか?…もしそうなら『ほらやっぱり』と僕は言いたい。めっちゃ早口でめっちゃ『オイ』乱発するからそんなめっちゃ特殊な噛み方することに……ていうかホントそれでいいのかお前のキャラは?コッチは全く萌えないんだが1ミリも。コレほんと御し難い…ってちょっと待て!何爆弾発言かましてくれてんだこのケモムスメ?)
…いやマジで誤解招くようなこと言うな……ってあら!?…ええっ?ちょとっ!まさかここで話切っちゃうわけ?
僕の無実晴らしてから次話行ってよ!…って、え!?マジで?マジで『次回に続く』とかナシでお願いしますよ?いやちょっ…えーー……ちょ待っ……!
ドーー《次回に続く》ーーン!
だからコイツとはそんな関係じゃなくて…
ドーーー《リア獣氏すべし》ーーーーン
ヒドイやっ!
え?新キャラこれでいいのか…て?
いいんでしょうか?(笑)
でもツンデレなケモミミと従順なケモミミとか他の小説で描かれてて…しかもそれぞれみんな素晴らしくカワイイ。
作者としては二番煎じであのレベル描けるのかと聞かれたら無理ですと答えるしか、ないのです。
アズミは自分で意図せずして赤裸々になってしまう人物なので…あんな感じのままですが。
他の、スネルにしてもパッピーナにしてもこのアンビにしても、大なり小なり主人公という存在の影響を受けてあんな変キャラになってます。
今後閑話とか挟んでそこらへんは掘り下げて発表したいと思ってます。
 




