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なろう公式企画、「冬の童話祭2019」の投稿作品です。

すごく公式サイトの絵が可愛いので、どうぞそちらと合わせてお楽しみください。

昔々。


ある森に、立派な虹がかかりました。

その虹は逆さまで、珍しい虹がかかったその森は、いつしか「逆さ虹の森」と呼ばれるようになりました。


森にはいろんな動物がいます。


きつねや、くま、りす。あらいぐまや、へびだって。


***

こりすのパロは、森で一番のいたずら好き。


パパやママが「やっちゃダメよ」と言ったことをするのが楽しくて仕方ありません。


やっていいよ、と言われることの、なんとつまらないこと。こうしたらもっと楽しいのに、と思うと、止まらなくなってしまいます。


「木の高いところに登っちゃダメよ。降りれなくなってしまうでしょう?」

「どんぐりは頬袋に詰めすぎないでね。お口があかなくなって、ごはんが食べられなくなっちゃうよ。」


そんなのやってみないと分からないからやってみたいし、怒るだろうな、と思ったときにパパやママが怒るのが面白いのです。


パパやママが怒ったって、そのときは悲しいけれど、少し泣いてごめんね、とパロが言えば、いいのよ、もうしないでね、と許してくれるし、ぎゅってしてもらえば安心します。パロはまた元気が出て、いろんなことをやってみたくなるのでした。


***

今日も朝から、パロはパパとママに怒られてしまいました。頬袋に、朝ごはんのパンを詰め込みすぎてしまったのです。


今朝の朝ごはんは、パロが大好きな胡桃のパンでした。最初はお腹がすいてもぐもぐ、もぐもぐと夢中で食べていたパロでしたが、少しお腹がふくれてくると、むくむくと好奇心が湧いてきます。


(頬袋はどんぐりを詰めるものってパパが言ってたけど、パンは詰められないのかな?)


パロは、ママとパパが難しいお話をしている隙に、もぐもぐ噛んだパンをこっそり頬袋に詰めてみました。でも、少し詰め込んだくらいでは、パロの頬袋はいっぱいになんかなりません。


(どんぐりは三つしか入らないけど、パンはすごくたくさん入る!)


パロはもう夢中で、もぐもぐもぐもぐパンを噛んでは頬袋に詰め込みました。ひとつ、ふたつ、みっつ……どんどん詰め込んだパロは、もう口に入らなくなったところでやっと満足して、ごっくん!飲み込もうとしました。ところが……


(どうしよう、取れなくなっちゃった!)


パロはとても慌てましたが、よく噛んでぎゅうぎゅうに詰め込んだパンはセメントみたい。舌で押しても、指を突っ込んでも取れません。


パパとママが気づいた頃には、お皿の上は小さなパンのかけらだけ。そして、ぱんぱんに頬袋をふくらませて真っ赤になっているパロ。


「「パロ!」」

「んんんー、んー」


悲鳴のようなパパとママの声。お返事をしようとしても、頬がぱんぱんに張ったパロはうまくお話ができません。


「もう、何してるの。」


ママが怖い顔でパロに近づき、あーんと口を開けさせました。スプーンで苦労してパンを掻き出し、涙目になっているパロにお茶を飲ませます。


「パロ、食べ物で遊んじゃダメって言ってるでしょう。」

「そうだぞ。パパとママはまだごはんを食べてなかったんだ。パロがみーんなダメにしちゃったんじゃないか。」

「そうよ、お腹が空いたわ。」


二人から口々に怒られて、パロの負けん気がむくむくと湧いてきます。遊んだんじゃなくて実験だったし、パンはまだキッチンにあるのはパロも知っています。パロだって、さっきはパンが取れなくなってまずいと思ったのです。それなのに、二人で責め立てなくてもいいじゃないか。


「……パンはまだあるもん。パロ知ってるもん。」

「なんだって?」

「それに、パロ遊んでないもん!」

「遊んだでしょう!」

「遊んでないもん!!」


分かってくれないパパとママに腹が立って、パロはべーっ、と力いっぱい舌を出しました。


「パロ!」

「パロ、どうしてそんなことするの。」


パパもママも、とっても怒っています。パロは引っ込みがつかなくなって、ぷいっと反対側を向きました。


「……もういいわ。パロは反省しないのよ。ママはもう知りません。」


ママは疲れたようにそう言って、向こうに行ってしまいました。


そうじゃないのに。

そんな顔をさせたいんじゃありません。


「うわーん!!」


パロはとても悲しくなって、悔しくなって、大きな声で泣き出してしまいました。


「パロ、少しお前は自分の部屋で反省しなさい。……パパもママも、少し頭を冷やさないとな。」


パパは悲しそうにそう言ってパロを部屋に入れ、扉を閉めてどこかへ行ってしまいました。


「パパ、ママぁ。うわーん!!」


パロはパパもママも行ってしまったのがとても悲しくて、わんわん泣きました。でも、パパもママも来てはくれません。


(もう帰ってきてくれなかったら、どうしよう。)


しばらくするとそんな風に思えてきて、パロはぐっとお腹に力を入れて泣き止んで、辺りを見回しました。パロのおうちは大きな木のうろの中。パロのお部屋はふかふかの葉っぱのベッドに、大きなたまごのからや木の枝で作ったおもちゃ箱やクローゼット。でも、食べ物も飲み物もありません。


(いっぱい泣いたら、お腹すいてきちゃった。喉も乾いたよ、困ったな。)


パロがいたずらをするので、おうちの食べ物や飲み物は、パロの手が届かないところへ隠されています。パロはうーんと唸って考えました。


(そうだ。窓から外へ出れば、なにか見つかるかも。)


この前パパとお散歩に行ったとき、――そのときはちゃんと玄関から出てパパと手を繋いで行ったのですが、パロはたくさんどんぐりも見つけたし、大きな池でお水を飲むこともできたのです。パロの小さな頬袋にはどんぐりは三つしか入れられなくて、ママにお土産にすることができたのはほんのちょっぴりだったけれど。


(なんとかして、窓から外に出よう!)


パロは、おもちゃ箱を三つ重ね、その上によじ登りました。しかし、窓まではほんの少し手が届きません。


(あと、もうちょっと。)


一回降りたパロは、更に枕を二つ、その上に乗せました。


(……届いた!)


パロは窓枠に手をかけて、身を乗り出しました。


(うわっ、高い!)


下を見ると、落ちている胡桃の殻が、まるでパンくずのように小さく見えます。窓の真下はふかふかの葉っぱの間からごつごつした木の枝が覗いていて、当たったらとても痛そうです。パロは目がくらんで、思わずバランスを崩しました。


(うわぁー、落ちるー!!!)


パロは、ぎゅっと目をつぶりました。


***

ぽすっ、と柔らかな衝撃があり、パロはそっと目を開けました。どうやら、運よくごつごつした木の根の上でなく、ふかふかの木の葉のじゅうたんの上に落ちたようです。


(ふー、よかった。でも、ここからどうやって池まで行ったらいいんだろう?)


パロは辺りを見回しました。赤くて美味しそうな実をつけた草や、きれいな黄色の花の咲いた背の低い木があります。でも、パパと一緒に池まで行ったときに見た景色とは違うような。


(それに、あのときパパは、草の実はお腹いたくなるのがあるから、食べちゃだめって。)


そう言われて逆にどんなものなのか気になったパロは、そのときパパの目を盗んで道ばたの草の実をちょっとかじり、パパにとっても怒られたのですが、――それよりも黒っぽくて汁がいっぱい詰まってそうで美味しそうに見えたその実のまずかったこと!渋くて苦くて、もう草の実なんてぜったい食べるもんか、とパロはひとつお勉強したのでした。


(とにかく、木の周りを回ってみよう。)


池がどこにあるか見つけないとどうしようもありません。パロは記憶にある景色を探して、まわりの様子をよく見ながら少し進んでみました。


(あっ、ここ……かな?)


細い道が森のなかに向かっています。なんせ、この前お散歩に来たときはまだ葉が色づくくらいで元気だった森が、今は葉を全部落として冬支度を終えようとしています。見える景色も記憶とはずいぶん変わっていて、パロにはいまいち自信がありません。


(でも、きっとそう!)


心を決めて、パロは道を歩き出しました。


***

どれくらい歩いたでしょう。


パパもママもいなくて、一人で歩く道のなんと恐ろしいこと。風が吹いて葉っぱがガサガサと音をたてるとびくり。大きな木の実がドサッ、と音を立てて落ちてきたらどきり。道なりに来たはずなのに、同じところを何度も通っているような気もします。


(あぁ、もうお腹ぺこぺこ。)


パロは心細くて、もうどうしたらいいか分からなくなってあーん、あーんと大きな声で泣き出してしまいました。


「おやおや、どうしたの?りすの坊っちゃん。」


突然、歌うような声がどこかからしてきました。パロはきょろきょろと辺りを見回しますが、みえるところには誰もいません。


「ここよ、ここ。上。」


優しい声音に、パロは上を見上げました。頬にある模様がきれいな茶色の小鳥が、小さくてくりっとした目に優しい色をたたえてパロを見下ろしています。パロはぐっと腕で涙をぬぐうと、なんとか声を絞り出しました。


「ぼ、ぼく……おうちを出て、お池にいこうと思ったの。でも、道を間違っちゃったみたい。」

「それは困ったわね、どうしましょう。この近くにお池はないわ。お池は、3つも橋を渡ったずーっと向こう。」


パロは途方にくれました。池にたどり着けばお水もどんぐりもあると思ったのですが、そんなに遠いんじゃたどり着けそうにありません。それに、こんなに歩いたかしら。きっと、その池はパパと行った池とは違うように思えます。


「どうしよう。ぼく、たくさん歩いて、お腹ぺこぺこ。」

「あら、大変。おばさんのごはんをあげてもいいけど……」


そういうと、小鳥はぴゅっ、とすごい勢いで枝から飛び立ち、すぐに戻ってきました。くちばしには芋虫。パロはびっくりして叫びました。


「ぼく、ぼく、虫さんは食べられないよ!」


小鳥はうん、と小さく頷くと、ごっくん!自分の顔ほどもある大きな芋虫をひと呑みしました。パロは、おばさんの可愛らしい見た目からは想像のつかない豪快な食べっぷりに呆気に取られて、小鳥を見ていました。


「やっぱりそうよねぇ。坊っちゃんはなにが食べたいの?」


パロは、我にかえって慌ててお返事を考えました。


「ぼく、ママの焼いてくれたパンが好きなの。でも、お外に出たときはパパとどんぐりも食べるよ。」


ほんとは、お散歩に行ったときに一度だけ、まるごと1つのどんぐりを食べたことがあるだけです。パロはまだ小さいので、いつもはパパやママがごはんを作っていてくれていました。


「そう、どんぐりね。……それならちょっと待っててね。」


そういうと、小鳥は今度はゆっくりと飛んでいなくなると、またすぐに戻ってきました。小さなどんぐりをひとつくわえています。小鳥はパロの前にどんぐりを置くと、パロに食べるよう言いました。


「雨上がりにキラキラして見えたから思わず拾ってきたんだけれど、なんでも取っておくもんね。これでいいならお食べなさい。」

「おばさん、ありがとう!」


小さなどんぐりに、パロは夢中でかぶりつきました。かなり前のものなのか、この前パパと食べたものよりずいぶん固かったけれど、でもどんぐりはどんぐりです。もぐもぐ、むしゃむしゃと、パロはあっという間に食べてしまいました。


「あぁ、おいしかった。」

「そりゃあよかった。わたしのところにはもうどんぐりはないから、あとは自分で探してみなさいな。お池のほうに行ってみる?」


食べたのはほんの一粒のどんぐりでしたが、小鳥のおばさんと話したことでパロはずいぶん元気になっていました。小鳥のいう池がパパと行った池かはわかりませんが、もしかしたらそうかもしれませんし、違ってもほかの動物に聞けばわかるかもしれません。パロは勢いよく答えました。


「うん!」

「じゃあ、この道をまっすぐ行って、分かれ道を右。そのままいいくとすぐに小川にぶつかるから、そこにかかっている橋を渡ってすぐに左よ。あとは橋はあっても一本道だから、困ることはないと思うけど。もし何かあったら、ホオジロのマリーの名前を出しなさいな。小さな鳥なら少し手助けをしてくれるはずよ。」

「おばさん、ありがとう!」


パロは、小鳥……マリーにぺこっと頭を下げると、再び道を歩き出しました。

お読みいただきありがとうございました。


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