エピローグ
――それは、セミファリア王国の王都にある王城でのこと。中心に東屋がある庭園には、ある伯爵家当主の姿があった。身長をゆうに超える背の高い植え込みが、迷路のように立ち並ぶ小道を、彼は王城の使用人と共に歩いている。偶然だろうか、三人いる使用人は、その全員が女性であった。
「アークフェリア伯爵、そちらは行き止まりになっております。東屋に向かうには、こちらの道を進む必要があります」
「あ、そうだったのですね。お教えいただきありがとうございます」
先頭をきって歩いていたアークフェリア伯爵家の当主――カイリ・アークフェリアは振り向くと、にこやかに笑って礼を言う。その笑みを受けた女性たちは何ともない風を装って、カイリから視線を外した。
ここ数日の軟禁生活のなかで、カイリに対する王城の使用人たちの評判は、これ以上ないほどにまで高まっていた。というのも、他の貴族がストレスや不安から、王城の使用人に対してキツイ態度で接するなか、カイリは「あなた方も毎日大変でしょう」と気遣う言葉をかけ、彼ら彼女らの悩みや相談事を快く聞いて、アドバイスをしていたのだ。
家から放逐されたため、王都や王城で姿を見ることが無かったのではないか、とカイリを危険視していた使用人たちの評価があがるのも自然な流れであった。それに、前評判が少しばかり悪かったおかげで、その良い評判がより使用人たちの間に浸透したのだ。
「ですが、行き止まりを見てみたい気もしますね。『帰る前に王城を見て回りたい』などという我儘に付き合ってもらっているのに、大変申し訳ないのですが……少しだけ見てきてもよいですか? 一人で行ってすぐに戻ってきますので」
カイリの言葉に、使用人たちは顔を見合わせると代表の一人が頷いた。
「ありがとうございます。すぐに戻ってきますね」
そう言葉を残して、カイリの姿は立ち並ぶ木々の中に消えた。カイリの姿が見えなくなってすぐ、使用人たちは再び顔を見合わせると談笑を始める。
「今のお言葉、聞きました?」
カイリに頷いた使用人の代表が、振り返って話題を振る。
「ええ」
「ええ、好奇心が旺盛な方なのですね。それに、年若く、地位も高く、お金持ち、容姿もよく、私たちの悩みも聞いて下さる。加えて――」
それに答えるのは、残りの二人だ。三人は最後の一言の前に一瞬だけ目配せをする。
「「「――可愛らしい」」」
三人の使用人は皆、カイリに対して好感を持っている者たちであった。この三人は、カイリが王城を見て回る際の付き人を探していたルーカスに志願して、この役目を担った者たちなのだ。
三人の談笑が盛り上がってきたころ、使用人たちが待つ場所までカイリは戻ってきた。
「お待たせしました。それでは、東屋の方まで行きましょうか。私が先頭だと、また道を間違えてしまうかもしれませんし、今度はどなたかに案内してもらっても構いませんか?」
「「はい、承知いたしました!」」
「……っ」
戻ってきたカイリは、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。カイリに好感を持っている使用人たちの反応は先ほどと同様、多少の毛色は違うものの皆、好感触なもので一致する――はずであった。




