第二章24話 『冒険者②』
魔法で障壁を張っていた者は、ティアリスと隣にいた執事がこの場から離れるのを見届けると、「はぁ」と息を吐きだした。そして、障壁に弾かれてもなお健在な大蛇に視線を移す。
大蛇は再び鎌首をもたげており、今にも再び飛び掛かってきそうだ。
『まさか入れ替わってすぐに襲われるとは思わなかった。追っ手にここまで接近されているなんて、魔法を使われるまで全くわからなかったよ』
「やはりエスト様の魔力感知や素人の索敵ではなく、別の方法を確立する必要がありそうですね」
『日中はルトも気軽に出てこられないしね。……お嬢様たちはそろそろ張ってきた結界に入ったころかな』
エストは金糸で幾何学模様が施された黒色のローブを羽織っており、その隣にはリウが浮かんでいる。あの夜と同じく魔法でつくった分身とはいえ、エストが攻撃を受けたことが相当気に入らないのか、リウの大蛇へと向ける視線はひどく冷たい。二人がそんな会話をしていると、
「――っ!」
ついには大蛇が二度目の攻撃に移った。大蛇は一度目の攻撃と同じように、エストに飛び掛かる。エストはそれを横に転がり、ギリギリのところで躱した。大蛇が通り過ぎた宙には、黒い靄が残留しており、いかにも触れてはいけなさそうな、不気味な気配を放っていた。
「エスト様、次は右後ろです!」
さきほどは攻撃を終えた後、次の攻撃までの間に時間をとっていた大蛇だが、今回はそうではない。草木を分けて、木陰などの死角からエストに攻撃を仕掛けては再び身を隠し、すぐに攻撃を仕掛けてくる。
大蛇を操る術者は、最初の攻撃を防いだ障壁をみて相手が魔術師であるという確信を得たため、エストに大魔源を集めたり、魔法陣を構築したりする時間を与えないようにしているのだ。
「それでは、私はアイツとその術者を今すぐに潰せるよう一旦戻ります。周囲の警戒が出来なくなるので、あの時みたいな味方を巻き込む攻撃や死角からの攻撃には一層気を使ってくださいね」
今までエストの死角を補い、大蛇が飛び出してくる方向を伝えていたリウは、エストに態勢を立て直す時間が出来ると、一礼してその場からユラリと消えた。
「(さてと、どうしようかな。早く方針を決めないとジリジリと追いつめられるぞ)」
リウに死角を補ってもらえない分、今まで以上に辺りを警戒して、飛び出してくる大蛇の攻撃を躱しながら、エストは相手の観察を続ける。
「(相当精度が高い魔法だな。宮廷魔導士級かそれ以上の実力を持った人が術者であることは間違いがない。第三位階の上限ぎりぎりまで魔法の力を引き出している。今の王国には大国と戦うような戦力が揃っていないという話だったけど――)」
回避する直前まで自分がいた場所を、物凄い速さで通り過ぎていく大蛇をみて、「やっぱり自分の目で見てみないとわからないことも多いな」とエストは言葉を零す。第五位階までの使い手がいると言われている魔法、その第三位階の魔法をみてエストがこのような感想を漏らしたのは、彼が口にした「魔法の精度」が関係している。
魔法の位階には、それぞれの最大出力、最低出力が決まっているのだ。各位階の出力を仮に数値へ置き換えたとしたら、第一位階であれば一から十の範囲、第二位階であれば十一から二十の範囲と考えることができる。
その位階ごとに定められた範囲のなかで、魔術師は魔法を行使している。第一位階の場合、出力が一に満たなくても、十を超えていても魔法は発動しないというわけだ。こうした原理から、魔術師は自分が行使できる位階の最大出力を出す、つまり精度を高めることに拘り、魔法の修練の一つとしている。
魔術師が魔法の精度に拘るのは、位階があがるごとに魔法を発動するまでの時間が伸びたり、魔法を行使した際の疲労が大きくなったりするためだ。後者の疲労に関しては、いつかの三人組の一人のように、激しい頭痛や気怠さなどの症状が現れる。
これらのことから、素早く魔法を発動しなくてはいけない、何度も魔法を発動しなくてはいけないなどといった場面では、平凡な第二位階の魔法よりも、精度が高い第一位階の魔法の方が優れている場合もあるのだ。しかし、魔法の精度を高めることはそう簡単なことではない。とくに、位階の上限寸前まで魔法の力を引き出すためには、
「(才能や練習が必要なことはもちろん、最低でも一つ上の位階を習得してないと難しい。……魔法が発動した時に感じた起こりは第三位階闇魔法のものだ。その上限を引き出しているということは、この術者は最低でも第四位階の魔法が使えるということ、なんだよな)」
木々の間を縫って大蛇の攻撃を回避しながら、エストは難敵への対応を考えこむ。このように、エストがいつもよりも相手への対応策を考えるのに時間をかけていることには理由があった。
「(いま死ぬのは都合が悪いから、何の情報もなしに第四位階まで使える魔術師に突っ込むのは避けたいし、敵の正体を確認しておきたいから、ここから魔法を打ち込むっていうのも……。そうなると、使える魔法は相手の動きを止め――)」
大蛇の攻撃を避けながら、この状況を脱する作戦を考えていたエストは、直前の自分の発言から気がつくことがあったようで、「――あ、そうか」と呟くと、
「(強力だから見分けがつかなかったけど、向こうも同じことを考えていたのか。この考えが合っているかは一か八かだけど、今の状況を変えるには一番いい作戦だよな)」
そう決心すると、ちょうど頭上から覆いかぶさるように飛び掛かってきた大蛇を躱し、その勢いを殺さないままエストはある方向に向かって一直線に走り始めた。
エストのその動きに驚いたのは、木陰に隠れていた“三人”。一人は敵が自分の方へと一直線に向かってきた大蛇を操る術者だ。残りの二人は、
「――っ。やっぱり他にもいたみたいだ。全員で三人か」
走るのをやめて立ち止まると、エストは自分の右足に刺さっているナイフを引き抜く。エストは王城で投げナイフを収納していたホルダーを手放しているため、今はそれを装備していない。つまり、いま右足から引き抜いたのは、エストの進行を阻むべく木陰から飛んできたナイフで、文字通り身体に刺さっていたものだ。
エストがその場に立ち止まった直後、木陰からは二人の男があらわれた。一人はエストより少しばかり背が高く、身体のあちこちに様々な種類・大きさの得物をぶら下げている。もう一人は老齢であるためか、腰が曲がっており、その手には短槍を握っていた。
「……」
つい先ほどまでのエストは、「新手が現れたら、魔法を使って速やかに排除しよう」と考えていた。敵の情報を得るのに、何人も残しておく必要がないとの考えからだ。しかし、敵であるはずの二人を見て、それらの考えは頭の中から綺麗さっぱり吹き飛んでいた。エストは茫然と立ち尽くしている。
「後衛の場所を正確に掴んでいるようだ。……どうやら優秀な魔術師らしい。少しのあいだ任せるぞ!」
エストが今すぐに向かってこないことを確認した老齢の男は、隣の男に声をかけるとこちらに背を向け、再び森の中へと消えた。
「(どうしてこんなところに、この二人がいるんだ!? もしかして、二人はアークフェリア家の……)」
エストが考えを巡らせていると、相手の男が「ハハッ」と笑った。エストの意識を自分に向けさせるのが目的なのだろう。
「カッシンの爺さんは接近戦に弱い姉貴の護衛に向かっちまったが、さあ、さあ、さあ、始めようか。逃亡者。俺はウアズ。ガナウの冒険者だ。腹が鳴る前には帰りたいから、とっとと掛かってきやがれ」
相手に向かって、どうしてか名乗った男――ウアズは背負った大剣ではなく、腰にぶら下げている短剣を手に持って戦闘態勢をとる。しかし、すぐに襲い掛かってくるようなことはしない。
「なぜ自ら名乗るのかとでも言いたそうな顔をしているな。そのおかしなフードで、お前の顔は真っ黒に塗りつぶされているが、どうしてか俺にはわかる!」
「(姉貴、ということはあれが、あのリートさんの魔法。まさか、あんなに強力な魔法が使えたなんて。あの魔法から逃れつつ、この場から逃げるか、三人を気絶させるかしないといけないのか。さっきので魔法が使えることはバレているから正体を現すこともできないし、ウアズさんやリートさん、ギルマスを完全に戦闘不能へと追い込むこともできないからな。……そういえば、あの人が話しているところを見るのは初めてだな)」
エストは自分がウアズやリートたち、ガナウ冒険者ギルドの面々の実力を見たことがなかったなと思いながら、これからどうするべきか考えこむ。幸いにも、その最中にウアズが突っ込んでくることはなかったが、
「遅い。よし決めた。爺さんからは様子を見ろと言われたが、俺から行く。――行くぜ、俺の飯代になれやぁ!」
エストが考えを巡らせている間も一人で喋っていたウアズは、痺れを切らしてエストの方へと向かって駆けてきた。ただ、瞬動や脚力を強化する類のスキルは使っていないのか、それとも使えないのか、身に着けた武器をジャラジャラと鳴らしながら一般的な速さで近づいて来る。
「(不意にウアズさんの身体に魔法が当たらないように、武器を壊さない程度の位階に留めないといけないな)――“第二位階光魔法”、――“武器創造”」
エストは構築した魔法陣の中から、光でできた短剣を引き抜くと、自分からもウアズとの距離を詰める。相手が望んでいる間合いに持ち込ませないためだ。
「(……リートさんが宮廷魔導士級の強さを持っているかもしれないんだ。たとえ、あのウアズさんが相手でも気を引き締めないと)」
「武器を出すか。とりあえず、命拾いしたな!」
「――?」
ウアズが何を指してそう言っているのか、エストにはわからない。というより、彼が話す言葉の真意を、エストは今までで一度も、すんなりと理解できた試しがなかった。
直後、エストはまっすぐに突っ込んでくるウアズの短剣を躱すと攻撃に移るが、彼には当たらない。ウアズはエストの攻撃を躱すと、隙を見て次の攻撃を繰り出してくる。
二人は躱し、捌き一進一退の攻防を繰り返す。
「(スキルを使っていない普通の力だ。上手いけど、力が同じ位であれば捌ききれる。あとは隙を見て昏倒させることができれば……。あとの問題はこちらに前進しているリートさんと――)」
「――なるほどな。お前、俺と本気でやり合う気はないな。踏み込みがかなり浅いぞ」
エストの攻撃をギリギリのところで躱したウアズは、後ろに飛びのく。そして、そのすぐ横を掠めるように、先ほどよりも小柄な蛇が姿を現す。
「(――“起こり”で、わかってはいたけどっ)」
小さいものの、その数は先ほどより多いため、危険度合は変わっていない。もしくは高まっている。数十の蛇が絡み合いながらエストのもとへと迫る。エストは手に持っていた短剣を霧散させると、
「――“第三位階光魔法”、――“光壁”」
一瞬のうちに魔法を発動させる。その速度は、ギリギリのところで常識的なスピードといえるものだった。エストが自分の前方に障壁を張って無数の蛇の進行を遮断すると、障壁の脇から人影がかなりの速さで飛び出し、右肩に向かって短槍を突き出してくる。
「――っ!?」
エストは上体を傾けることで槍を躱そうとする。ローブを掠りながら通過した後、槍の刃部が引き戻されていくその刹那にエストは考える。
「(瞬動からの突きか。ダメだ。普通に魔法を使っていたら、人数差や火力で負ける。申し訳ないけど、魔法薬は買ってもらおう。狙うのは足元。――“第四位階光魔法”、――“光槍”)」
「――!」
詠唱も魔法陣の構築もなかったにも関わらず、光の槍がエストの足元に現出する。そして、それはギルマス――カッシンの足に掠るように射出された。
カッシンがその魔法の存在に気がついたのは、まさに自らの身体に触れる直前であった。当然、スキルを使っても避けるのは難しく、今後の動きが制限されるような事態となるのは必至であった。しかし、カッシンに触れた光の槍はその場で、
「(――っ! ギルマスの身体に当たった魔法が霧散した!? まさか第四位階の魔法を無効化できるほどのスキル保持者なのか!)」
エストはカッシンから離れるように、後ろへと飛びのく。カッシンが追撃を仕掛けてくるような気配はなく、彼は目をパチパチとさせて自分の足元と短槍、そしてエストへと順に視線を向け、茫然としている。
エストに追撃を仕掛けてきたのは、未だ姿を見せていない姉と、大蛇と共に突っ込んでくる弟だった。
「(……蛇には第四位階。――“第四位階光魔法”、――“武器創造”。 念のため、ウアズさんには第二位階の魔法で……)」
エストの手元に光で構成された両刃の剣が現れる。ウアズはエストの手元に突如として現れた剣に驚くが、その足が止まることはない。ウアズはエストへ攻撃を加えるために、最後の一歩を踏みこむ。その足に向かって、側面から魔法――光で構成された槍が放たれる。
「――っ! 爺さんに撃ったやつと――って第二位階かよ! んなもん効かねぇよ」
ウアズは自分の近くで魔法が発動したことで一時足を止めたが、彼の身体に触れた魔法は霧散していき、それ以上の効果はみられない。
ウアズに魔法を放った直後、バックステップで距離を取っていたエストは、先行して突っ込んでくる大蛇を躱しつつ、その首を剣の一振りで落とす。
「(これで、ウアズさんも中位以上のスキル保持者であることは確定。あとは、どの位の魔法まで無効化するのかというところか。――!)」
エストが次に使う魔法を算段していると、その周囲をキュルキュルと音をたてながら、紐状のモノが三重四重と周回していることに気がついた。それは、エストの身体を拘束しようと急速に迫ってきている。
「(これは……もしかして、リートさんがいつも腰につけている鞭か! 魔力が通っているから、簡単に切れるかも判別がつきにくい。でもいつの間に――)」
一度、剣を捨てて、鞭で出来た輪の中から脱出したエストの頭に浮かぶのは、先ほど首を落とした魔法で身体が構成された大蛇だ。
「(あの魔法自体、鞭を媒介に発動していたのか。……こんなことができるということは、あの鞭は魔法の付与に特化した武器――魔器!)」
エストは再度、第四位階の光魔法で剣を創り出すと、駆けてくるウアズに備える。
「そらっ、そろそろ終わりにするぞ!」
気迫を込めてウアズは短剣を振り下ろすが、それをエストが剣で防ぐと、「パリンッ」という音と共にウアズが持つ短剣の刃部が砕け散る。しかし、その様子にウアズが驚くようなことはなく、彼の腕は短剣の柄を握ったままエストの右手に向かって振り下ろされる。
「――【交替】」
「――なっ!」
ウアズの掛け声が聞こえた瞬間、彼は短剣の柄ではなく、直前まで背中に背負っていた両手剣を手にしていた。その軌道は先ほどまでと変わらず、エストが剣を持つ右手に向かって振り下ろされている。
エストは剣を霧散させ、すぐに横へ転がって回避行動をとるが、
「――【交替】」
両手剣は地面に叩きつけられる前に、ウアズの腰にあった十字のロングソードへと変わっていた。両手剣を振り下ろしていた勢いは、剣が変わったことで完全になくなっているのか、剣は態勢を落としたウアズによって、しゃがんでいるエストを追う形で横なぎに振るわれる。しかし、次に驚くことになったのは剣を振るうウアズだった。
「――っ、面白れぇ、初めて見た。このままだ!」
剣の軌道上にいるしゃがんだエストを守るかのように、何本もの光で出来た槍が、地面の近くから上に向かって突き出し始めたのだ。ウアズが振るう剣に当たった槍は端から「パリン、パリン」と砕け散っており、その勢いを完全に止めることは出来ていない。
「(あの剣……精度が低いと第四位階の魔法でも折れないのか)」
自分の実力を下回っている魔法によって傷を負うことがない、毒などに耐性を持つというのは、スキル保持者が有する強みである。一方で、多くのスキル保持者が抱えている問題もある。それは、スキルの効果は武器の耐久性に反映されないということだ。
いくら強いスキル保持者であっても、誰しもが手に取ることができる量産品の剣では、真価を発揮できないのだ。この問題は、強いスキル保持者であればあるほど、大きな問題として認識されている。
エストはウアズの剣が自分のもとへと到達する僅かな間に、精度をできるだけ高めた第四位階光魔法の両手剣を創り出すと、自分の身体を守れるように地面へと突き刺す。その直後、「――ガンッ」という強い衝撃とともに、エストは自分の身体が浮き上がったのを感じた。ウアズの力は、先ほどまでとは比較できないほど強く、スキルの恩恵を受けていることが明らかであった。
「――っ」
両手剣を離さないまま、宙に舞ったエストは何度か地面を転がると、すぐに態勢を整えて立ち上がる。宙を舞っている間、エストの両手首はおかしな方向に曲がっていたが、立ち上がる頃には元通りに戻っていた。ウアズがそれに気がついた様子はない。しかし、
「はーん、なるほど、なるほど。お前、慣れているな。受けること、避けることに慣れているな。スキル保持者と戦うことに慣れているな。かといって、そんなよくわからない魔法で俺の剣が受け止められるとは思ってもみなかったな」
膝を落としていたウアズは態勢を戻しながら、うまい具合に受け身をとったエストを見ていた。その背後にはリートが発動した「――拘束」によって、構築された一匹の大蛇が鎌首をもたげている。
「(三人ともかなり強い。……でも、まさか、あんな小さな村で簡単な依頼を受けていた人たちが、神鉄級の冒険者や宮廷魔導士ほどの実力を持っていたとは思ってもみなかったな。こんなに強いなら、戦闘不能に追い込むつもりで魔法を使って丁度いいぐらいだ。)」
エストはそんなことを考えながら、そう言えば彼らの冒険者プレートを一回も見たことが無かったことを思い返していた。
『――リウ、ここからは他属性の魔法も使っていこう』
エストが自分の中にいるリウに念じ、これから本格的に動き出そうとしていた。その一方で、ウアズはというと、
「なんだよ、爺さん、武器を下ろせって。これから本気で――」
「いいから、下ろせ。もしかしたら、儂らが戦うべき相手ではなかったのかもしれぬ。その確認を今から、儂一人でおこなってくる」
後ろから現れたカッシンによって、戦闘を止めるように促されていた。
「リート、お主もこいつを消してよいぞ」
その言葉の直後、ウアズの背後にいた大蛇が霧散する。しかし、完全に警戒を解いたわけではないのか、姿は見せない。
「お主らはそのままそこにおれ。不用意に近づいて来るなよ」
そう念を押すと、短槍を手にしたカッシンは、ゆっくりとエストのもとへやって来る。
「(そういう作戦か。はたまた、本当に何かの確認だけなのか。判断が難しいな)」
エストは手に持っていた両手剣を霧散させると、新たに短剣を創り出す。その様子はカッシンにも見えていたはずなのだが、彼は何の反応も示していない。カッシンは、エストの目の前で立ち止まると小さな声で、
「やはり、そういった小回りのきく得物がお好みなのですか、エスト様は」
といった。




