エピローグ
少女は魔法が嫌いだ。
魔法が嫌いなのは、努力してそれを使えるようになったところで、自分の臨まない相手に贈る嫁入り道具にしかならないからだった。
少女の家は有り体に言ってしまえば、国の中心に深くかかわる大貴族だ。そんな家に“望まれぬ子ども”として生まれてしまったことで、自分の運命は決まっていたのかもしれないと少女は思う。
少女が人から貰うのは、政敵を押さえる道具としての価値を高めるための教育や作法という名の装飾品。
少女の行動はほとんど全て、自分以外の誰かに管理されていた。
彼らは思いつく限りの装飾を、政略道具である少女に施した。そして、どうやらその過程で少女が魔法の潜在的な才能を持っていることに気がついたらしい。魔法は誰しもが使えるものではない。その才能がない者は一生かかっても使うことが出来ないとさえ言われている。
彼らが飾りつけのメインに魔法を据えることは最早、決定的だった。
少女は魔法を学ぶための施設に送られた。そこで、少女は魔法という特上の装飾を自らに施す。顔も名前も知らない誰かのために。
少女が今まで受けた教育と作法は自分の意志に関係なく、ただ教えられるものだった。
けれど魔法は――“心の底から使いたいと思わないと使えるようにはならないものだ”
だから、少女は魔法が嫌いだった――“あの魔法を見るまでは”
◇◇◇
「失礼します」
念の為にと、未だに厳重な警戒態勢が敷かれ、メイドたちが慌ただしく屋敷の廊下を行き来している中、使用人の中で最も落ち着いている者が屋敷の主の部屋を訪ねた。
「アルトリウスに向かわせたエストからレストリア様宛の手紙が届いています」
「内容は……この前の、だろうな」
「はい、おそらく」
レストリアは座ったままで、ガレスから手紙を受け取ると内容を確認する。
「……、……、ふむ、そうか」
レストリアは読み終わった手紙を机の上に置く。しかし、その内容を口に出すことはしなかった。
「聞き忘れていたが、私がレグナントに行っている間の屋敷の様子はどうだった? 報告はもう聞いているのだろう?」
「はい。一つを除いて普段と変わりがなかったと報告がありました」
「一つ?」
ガレスは黙ってうなずく。
「レストリア様と私が、王都を離れてすぐに二人の自称冒険者が訪ねてきて、エストの行き先を訪ねてきたそうです」
「それで?」
「しつこく食い下がったらしいですが、追い返したと」
「その対応で間違いはない」
レストリアはイスに深く寄りかかる。
「……話の中にあった『自称』というのは?」
「ガナウの冒険者だと言い張るのですが、プレートを付けていなかったそうです」
それを聞いたレストリアはつまらなさそうに「そうか」と零す。興味を失ったようで、それ以上その話を聞こうともしない。
「ガレス、もう聞きたいことはない。しばらくの間、一人で考えたいことがあるから、お前はその間に別の仕事をしておいてくれ」
「はっ」
ガレスは音を立てずに部屋から出て行く。その目線が一瞬、机の上に置かれた手紙に向いたのは、おそらく気のせいではない。しかし、レストリアはその視線には気がつかなかった。
ガレスが部屋から出て行ったことで、部屋の中は静寂に包まれる。
「成功を掴むための手段は多く用意しておいた方がいい。そう思って、奴との契約が切れるまでは、あれをどうにか有効活用しようと、魔導学園に通わせてみたはいいものの。遂には、その時は訪れなかったか。必要な情報がそろった今となっては、あれが魔法を習得してようが、いまいがその価値はなくなった」
レストリアはなんとなく再び手紙を手に取る。
「価値はなくなった、か。――この男が生きていたら、何と言ったかな?」
ご愛読ありがとうございました。




