プロローグ
少女は魔法が嫌いだ。
魔法が嫌いなのは、努力してそれを使えるようになったところで、自分の臨まない相手に贈る嫁入り道具にしかならないからだった。
少女の家は有り体に言ってしまえば、国の中心に深くかかわる大貴族だ。そんな家に“望まれぬ子ども”として生まれてしまったことで、自分の運命は決まっていたのかもしれないと少女は思う。
少女が人から貰うのは、政敵を押さえる道具としての価値を高めるための教育や作法という名の装飾品。
少女の行動はほとんど全て、自分以外の誰かに管理されていた。
彼らは思いつく限りの装飾を、政略道具である少女に施した。そして、どうやらその過程で少女が魔法の潜在的な才能を持っていることに気がついたらしい。魔法は誰しもが使えるものではない。その才能がない者は一生かかっても使うことが出来ないとさえ言われている。
彼らが飾りつけのメインに魔法を据えることは最早、決定的だった。
少女は魔法を学ぶための施設に送られた。そこで、少女は魔法という特上の装飾を自らに施す。顔も名前も知らない誰かのために。
少女が今まで受けた教育と作法は自分の意志に関係なく、ただ教えられるものだった。
けれど魔法は――。
少女は魔法が嫌いだった。
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