第一章14話 『それぞれの帰還報告』
セミファリア王国の王城は、国の中心地である王都の最北端に位置している。これだけを聞くと、北側から敵に攻めこまれた際、すぐに落城しそうだが、実際はそうはなりにくい。
王城の背後――北側は、切り立った崖になっており、直下には川が流れている。対岸は王城から見ると、かなり低い位置にあり、たとえスキル保持者であったとしても外からの侵入が非常に難しく、天然の防壁となっているのだ。
また、川を越えた先には深い森が広がっており、そのしばらく後ろの方には幾つにも連なる山々が見える。道が通っていない王城の真北から王都に攻め入ることは、困難を極めることは明白であった。
――そんなセミファリア王国の王城にて。
「では、今日はここまでにしておこう。皆、直接王城に寄ってもらって悪かったな。長旅の疲れを十分に癒してくれ」
この国で最も権力がある者の言葉に、円卓に座っていた数名の男たちは頭を下げ、順番に部屋から出ていく。
最後まで部屋に残っているのは、二人だけだ。それは、最も豪華な椅子に座る者とすぐ真横の席に座る者。二人とも年齢の割には若く見えると、周りからは評判になっている。
「悪いな、レストリア。君に残ってもらったのは、あの話について詳しく聞きたかったからだ」
「はい、承知しております」
「……今は二人しかいないのだから、昔のように軽い口調でも大丈夫だぞ? ここでは私のことをレオと呼んでも誰も咎めまい」
「いえ、誰が耳にするかもわかりません。王よ、どうかこのままでお許しください」
レストリアの言葉を聞いた王は、「ふむ」と顎に手を当てる。
「まあよい。私たちは幼いころからの友人なのだから、いつでも以前のような口調に戻しても構わない。……そのことさえ伝わっていればいいのだ」
セミファリア王国、当代の王――レオノール・セミファリアは、幼馴染であるレストリア・アークフェリアを見て告げる。レオノールの髪はその全てが白髪だが、これは年齢のせいではない。セミファリア王国の王族は代々、白髪もしくは銀色の髪をしているのだ。
「それで、レストリア。またか?」
「はい」
「貴族家当主の変死が短期間の間に四件。今度は魔獣の目撃例がない安全な森における魔獣複数体の襲撃か。あまり騒ぎにはしたくなかったが、そろそろ私たちのように関連付けて考える者も出てきそうだな。レストリアはこれらの事件、どう見ている?」
レオノールはこめかみに手を当てる。
「穏やかな海で船が沈み溺死、街中で起きた火災に自分から巻き込まれて焼死、他家の舞踏会に参加した際、偶然見かけた窃盗犯に口封じとして殺害される。そして今回起きた、魔獣の生息しない森における魔獣の襲撃。もし、これらを関連付けて考えるなら、死亡した全員が王と親交の深い貴族家当主ということから、謀反を企てている者がいる可能性が高いと考えられるかと」
一つ一つは不幸な事故として、片付けられる。しかし、短期間に関連ある人物が四人死んだとなると話は変わってくる。
「先日、君も街道ではここ数十年のあいだ全く見かけなかった盗賊に急襲されたし、やはりその可能性は高いか。……王とは上手くはいかないものだな。どれだけ努力をしても、決して国民全員の意志を反映することはできない」
「……」
部屋が静まる。
「君が助かって本当によかったよ」
「これも、エストという少女のおかげです」
「エストか。私の方から特別報酬を出すことも考えておかないとな」
「私が言えることではありませんが、彼女も大変喜ぶかと思います」
それは良かった、とレオノールは安堵の笑みを浮かべる。
「私はそういった少女の未来を守るためにも、“他国と手を取り合ってこの国を争いのない平和な国にしないといけないな”。……さて、話は以上だ。レストリア、疲れているのに残ってもらって悪かったな」
「いえ、お気になさらないでください。それでは私はこれで失礼いたします」
レオノールに頭を下げてから、レストリアは部屋を出ていく。そして、部屋の中に残っているのはレオノール一人になった。
「……」
レオノールは窓から眼下に広がる王都を眺める。国民一人一人の表情をここから見ることは出来ない。しかし、活気だっている雰囲気を感じることは出来る。
「私は、彼らの笑顔を守りたい。その家族を守りたい。その知り合いを守りたい。その――。それが私にとっての理想の王政であり、この国の目指すべき未来だ」
今、一台の馬車が王城から走り去っていく。
「レストリア、……君にはこの国がどのように見えているんだい?」
静寂に包まれたこの部屋で最も古い友人に囁かれたその言葉は、答える者なく虚空へと消えていく。
◇◇◇
「おかえりなさい。お父様!」
「ああ、ただいまセレナ。いつからここにいるんだ? まだ肌寒いのだから、こんなところにいると風邪をひいてしまうよ」
「ガレスさんに王城からたくさんの馬車が出てくるのを見た、と教えてもらってからです。ですがから、まだ外に出たばかりなので風邪をひく心配はありません」
レストリアは強がる娘を見て表情を崩すと彼女を連れて、玄関前から屋敷の中へと移動する。セレナの髪はレストリアと同じ黄金色だ。
「それで、お父様。長期間のお仕事でしたけど、どちらまで行かれていたのですか?」
「今回は、王国西部にあるシャルティ大森林の近くまでだよ」
「わぁ、すごいですね。それって王国の一番端っこまでということですよね」
セレナは目をキラキラさせながら、父親に尋ねる。
「んー。本当はシャルティ大森林も王国の領地になるから、正しくは最西端ではないのだが、大森林は魔獣の巣窟になっていて未開拓地域だからな。そう言った方が、正しいかもしれない」
「……大森林には入れないのですか?」
セレナは首を傾げる。
「そんなことはないぞ。“一の森”と呼ばれる大森林に入ってすぐのところは魔獣が弱いからな。そこまでなら入れる。しかしだな、そこより奥――“二の森”からは宮廷魔導士でも倒せない魔獣が住んでいるから入れないのだ」
「えー、宮廷魔導士の方々でも無理なのですか!? ……それならしょうがないですね」
「ああ」
二人は大広間に到着する。
「あ! お母様!! ガレスさんの言っていた通り、お父様が帰ってきました」
セレナはお母様と言っていた女性に走り寄る。
「まあ、ふふっ。……おかえりなさい、あなた」
「ただいま、シャーリー」
シャーリーと呼ばれた女性とセレナは、血がつながっているのが一目でわかるほど顔立ちが似ていた。しかし、シャーリーの髪色は、レストリアとセレナよりも少し薄い金色をしている。
「メイドたちが、もうそろそろ昼食ができると言っていましたよ」
「そうか、じゃあ食堂の方へ行こうか」
レストリアとセレナ、そこにシャーリーを加えた親子三人は食堂へと向かう。その光景はまさしく家族と呼ぶにふさわしいものだった。
◇◇◇
王都から西に伸びる街道、そこから少しそれたところを、九人の人影が歩いていた。その先頭を歩いているのは、真っ赤な髪をした女性だ。その女性は身軽な恰好をしていて、腰には一本の剣をぶら下げている。
「はー、やっと見えてきた。あのボロッとした門がなつかしー」
「ちょっと、アマリア。蛇行しながら歩かないでよ。邪魔なんだけど」
「じゃあ、サイズが私をおぶってー」
「いやよ、私も疲れているんだから。そんなに歩きたくないならリーダーに背負ってもらえばいいじゃない」
抱きついてくるアマリアを引きはがす女性は、彼女と同じパーティーに所属する冒険者――サイズだ。
サイズは紫色をした長髪で、また背丈ほどの大杖を持ち、修道服を着ている女性だ。眼鏡をかけているからなのかはわからないが、真面目そうな雰囲気を纏っている。
「私こそいやよ、あんな変態。私は男の人だったらエスト君がいい」
「あなた、本当にエスト君が大好きね。仕事中もずっと彼の話だし」
アマリアのパーティーは、リーダーの“脳筋ガリオーク”、サイズ、アマリアの三人で構成されている。
「リーダーの扱いがひどすぎだよな。……俺、リーダーだよな?」
上半身裸の男はそんな二人の姿を見ながらポツリと言葉を漏らす。だが、その声に反応する者はだれ一人としていない。
そんな三人の後ろに続くのは、
「おい、マルセト。今回の報酬は結局どれくらいだったんだ?」
「そうですね。……たしか大金貨が五十枚だったはずです」
マルセトは見た目が二十歳ほどの、いわゆる好青年というのに見える男性だ。
「おぉ! じゃあ早速戻ったら一緒に飲みに行くか。その金、今のうちによこせ」
「いいですが、前みたいになくさないでくださいね」
マルセトは、見た目が十二歳ほどに見えるリーダーに、大人しくお金が入った小袋を手渡す。ちなみにこのリーダー、ここにいるマルセト以外の者からは、“ちびっ子”やそれと似た意味の呼び名で呼ばれることが多い。また、前回の討伐依頼をかけて行われた指相撲の勝者でもある。
「“変態グリーン”」
「……」
「“変態グリーン”」
「……その呼び方はお願いだからやめて下さいませんか?」
「“変態グリーン”?」
「そんな可愛く疑問形で言っても。……ああ、もういいですよ。はい、なんですかイキシアさん」
“ちびっ子”、マルセトのパーティーに続くのは、ステッキ含め全身が緑色に包まれた“変態グリーン”をリーダーとする四人組のパーティーだ。
「なぜ私たちより、あの二人の報酬が少ない? 全パーティー同額では?」
「おそらくですが、あの“ちびっ子”が酒代に報酬を全額投入するのが目に見えているので、マルセトさんが半額ほど誤魔化したのでしょう」
「……なるほど」
イキシアは無表情だ。イキシアはサイズと同じく、背丈ほどの大杖を持っているが、サイズが白塗りのそれを持っているのに対して、イキシアは黒塗りのものを持っている。
「あの二人、ほんっと見た目と中身のどっちをとっても、同い年には見えないよな!!」
二人の後ろから大声が響く。
「ウアズさん、そういうことは本人に言ってあげなさい。きっと、喜んでくれますよ」
“変態グリーン”は振り返り、人の悪い笑みを浮かべる。ウアズは背中や腰に、長さや形が異なる剣を何本もぶら下げた青年だ。
「ええ!? 嫌だよ。俺、まだ死にたくないし」
「なら、人の陰口は言わないことです。この駄犬――ぁ、間違えました。この駄弟」
ウアズと呼ばれた青年の横を歩いていた女性が、ウアズの頭にげんこつを落とす。その女性はあずき色の腰にまで届く髪を二つに分け、それぞれで三つ編みにしている。また、腰にはまとめた鞭を装着している。
「痛ってぇな。陰口は悪かったと思っているけど、いきなりげんこつはないだろ、姉貴」
「そうですよ、リートさん。言葉だけでは、こちらの言うことを全く聞かないとはいえ、げんこつはよくありません。特にウアズの頭には。これ以上にウアズが馬鹿になったらどうするのですか? 彼がこれ以上馬鹿になったら、あなたの私生活に支障をきたしますよ」
四人パーティーの残りの二人、それがリートとウアズの姉弟だった。
「……確かに。それなら頭はやめて、これからはお腹にしておきますね」
「えぇ!? リーダー、姉貴に何とか言って――」
「お腹なら安心ですね」
「えぇっ!?」
「……うるさい」
大声を出すウアズに対して、イキシアは振り返りもせずに冷たく言い放つ。
この個性が強い三パーティー、九人がガナウ冒険者ギルドに所属しているメンバーであり、ギルドを破壊した九人でもある。
彼らは長期の依頼を終えて、ガナウに帰ってきたところだった。
「よーし、とーちゃーく!!」
アマリアを先頭に、九人はガナウの冒険者ギルドに顔を出す。それは、依頼達成の報告のため――というだけではなく、一年ほど前から顔を出すようになった新人冒険者に会うためでもあった。
「ギルドマスター、ただいま。引き受けてくれた依頼は無事に終わったよ。……エスト君はまだ依頼? それとももう食堂の方に行っちゃったかな?」
代表してアマリアがその新人冒険者――エストの居場所を、目つきの悪い老人――ガナウのギルドマスターに尋ねる。
「これを置いていったぞ」
「え? 何これ、手紙? 私に……じゃなくてみんなに?」
アマリアはギルドマスター――ギルマスから受け取った手紙を広げて読む。
「……、……、…………はぁぁぁぁぁ!?」
アマリアの絶叫がギルド内に響き渡る。
「見せて」
近くにいたイキシアが手紙を覗き見る。
「……そういうこと」
イキシアはアマリアとは違い手紙の内容を見ても叫ぶことは無かったが、いつもより声が少し低いあたり、彼女は静かに怒っているらしかった。
二人の様子に残りの七人も不穏な空気を感じる。
「二人ともどうした? その手紙に何が書いてあったんだ?」
尋ねたのは“脳筋ガリオーク”。
「エスト君が、エスト君が……いなくなっちゃったー!!」
涙混じりのアマリアの声は、ギルドの外にまで響き渡るのだった。
◇◇◇
「なんだよ。死んじまったわけじゃないのか。心配して損した感じだぜ。マルセト、飲みに行くぞ! 何だか、今日はいつもより飲みたい気分だ」
そう言うと、小さい人影がギルドから出ていく。
「はぁ、寂しいなら、そうと言えばいいのに。本当に素直じゃない方ですね。エスト君が、もし魔獣とかにやられていたら、この国は大変なことになっていたでしょうね」
呆れた様子でそう言うマルセトは、残りのメンバーに頭を下げると、すでに見えなくなった背中を追い、ギルドから出ていく。
「……で、その手紙にはどういった内容が書いてあったのですか? あの“ちびっ子”は手紙をむしり取って一人で読んだら、ああやって行ってしまいましたが」
「……エスト君は、冒険者の資格を返上して、この町から出て行ったらしい」
魂が抜けているアマリアの代わりに“変態グリーン”の質問に答えたのはイキシアだ。
「え!? 何で!? あいつ故郷にでも帰ったのか? それならあいつの故郷に今から行けば……って、あぁ!! ……そう言えば俺あいつの故郷知らな――」
「……駄弟、話はちゃんと最後まで聞きなさい。絞めますよ?」
リートの言葉にウアズは「ひぃぃぃぃ!?」と情けない声を出す。
「……すみませんが、手紙の内容は後で教えて下さい。この駄弟が、存在していると、話が先に進まなそうなので、私は外に出ます。――さぁ、行きますよ」
にこりと笑ったリートはウアズの首元をガシッと掴むと、ズルズルと引きずってギルドから出ていった。
二人が外に出て行ったすぐあと、誰かが家畜でも逃がしたのか、外から「ふごっ、ふごー」と何かの鳴き声がギルドの中にまで聞こえてくるが、それを指摘する者は誰もいない。ギルドの中は、示しあったように静まったが、
「き、気を取り直してイキシアさんの話を聞きましょうか!」
サイズの呼びかけに残っていた者たちは目を見合わせる。ギルドの外で行われているであろう“何か”のことは気にしないことにしたらしい。
「――? ……ん、じゃあ話の続き」
一連の騒動の間、こっくりこっくりと船を漕いでいたイキシアは目を擦ると、話を再開する。
「エスト君はどうやら新しい仕事を見つけたらしい。それで、その仕事がここにいては出来ない仕事だから町を出て行った。話は以上。……皆一人一人に手紙も残っている」
イキシアはそう言うと腕を枕代わりにして机に突っ伏す。その後に聞こえてきたのは「すぅ……すぅ……」という寝息。
「なるほど、そういうことでしたか。無事なようならなによりですねぇ。それにしても、彼女は相変わらず寝るのが早いですね……。イキシアさんとアマリアさんのことは女性であるサイズさんに任せても?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、私とそこの隠れて泣いている男は、三パーティー分の依頼報告をギルマスにしてきますので」
“変態グリーン”はエストが残した手紙を読んで「泣いてねぇ、これは男泣きだ」とよくわからないことを言っている“脳筋ガリオーク”を連れてカウンターの奥へと向かう。
「あ!! そうよ。その手があったわ」
突然、アマリアが再起動を果たす。
「どうしたの?」
「サイズ、これからしばらくの間は依頼の予定なかったよね?」
「ええ」
それを聞いたアマリアはガッツポーズをする。
「私、エスト君を探しに行くわ。手紙には行先が書いていなかったけど、私の勘によると王都のアークフェリア邸に行けば、何とかなりそうだし。……あ! でも、レグナントとか森の中も探した方がいいのかな?」
それを聞いたサイズは呆れてため息をつく。
「探しに行ってどうするのよ。一生懸命働いているエスト君に迷惑がかかっちゃうでしょ」
「え……ほら、あれよ。『偶然会っちゃったねー』的な感じで?」
サイズはジトーとアマリアを見る。
「……はぁ、どちらにしてもあなたを一人で行かせられないわ。もしあなたがどうしても行くというなら私が――」
「私が行く」
サイズの言葉を遮ったのは、今まで熟睡していたイキシアだ。
「一つのパーティーから二人抜けるのは良くない。それに“オーク”一人になる。私なら一時的にパーティーを抜けても、あと二人、“変態”とリートがいるから問題はない」
イキシアの声量は普段と変わらなかったが、不思議とその言葉はいつもより覇気があるように感じられる。
ウアズの存在が、忘れられていたがそこは誰も指摘しない。
「でも――」
「問題ない」
「いや――」
「問題ない」
普段と変わらない何の感情も映していない顔で、イキシアはサイズの瞳をじっと見つめる。
「……はぁ」
サイズはイキシアを説得することを諦める。
「……確かにイキシアさんが言うことも一理あるかもしれないわね。じゃあイキシアさんにアマリアのお守をお願いするわね」
「子どもの世話は任せて。それに必ずエスト君は捕まえてくる」
「子どもってなによ、子どもって。私とイキシアは同い年じゃない! それに『捕まえる』って、エスト君に迷惑かけちゃうでしょ!」
「……」
「ちょっと、イキシア。聞いてるの?」
アマリアは、なにも答えないイキシアに近づく。すると、
「すぅ……」
「って、寝てる!?」
アマリアは人が話してる途中に寝るなぁ、とイキシアの頬を引っ張っている。しかし、イキシアが目を覚ます気配はない。ガナウを出発する前から前途多難なことが予想される二人組だった。
「ああ、エスト君。問題児の二人を組ませて、あなたに差し向けてしまった私をどうか許してください。……でもしょうがないですよね、どうせ私にできることなんて――」
サイズはイスに座ったまま、両手を合わせ祈りの姿勢をとっている。彼女の目からは光沢が消えており、口からは「わたしなんて……」という言葉が呪詛のように繰り返し漏れ出ている。
「サイズー、イキシアが私の話を……って、こっちではサイズが真面目なお姉さんから“ダメダメお姉さんモード”になってる!? 元に戻ってよ、サイズ!」
「私なんて、私なんて、私なんて、……、……、……、」
アマリアがサイズを軽く揺さぶるが、彼女の呪詛は途切れない。
「リーダーたちはまだ帰って来ないし……。リートさんだ! リートさんを呼んでこよう!! 私一人だと、この場がもたない!」
アマリアがドタドタと走ってギルドから出ていく。ギルドの外では、
「え!? ウアズ、四つん這いになって何やってるの? お金でも落とした? あと動くと首輪から出ている鎖の音がうるさいから、動かないで」
「ぷぎぃ!!」
「……? ああ、猿ぐつわで喋れないだけか。まあ、いいや。リートさんどっち行ったかわかる? ――……向こうね、ありがと」
「ふごっ! ふごっ!! ふごごっ!!!」
ジャラジャラと鎖の音が町中に響き渡る。ウアズの首元から伸びる鎖は近くにあった馬車と建物につながれていた。
◇◇◇
――ギルドの中、カウンターの奥にある部屋では。
「あはははは、音や会話から察するにどうやらウアズは放置されたようですね」
突き刺さるのはギルドマスターの鋭い目線。
「……」
「……」
見つめあう、“変態グリーン”と目つきの悪い老人。
「すみません、私の方から全員に騒ぐな、大人しくしろと注意しておきます」
「必ず言っておくのだぞ」
先に折れたのは“変態グリーン”だった。ギルドマスターはそれを聞いて頷く。
「……まあ、無駄だと思いますが。ほらっ、私の報告は終わりましたよ。次はあなたの番でしょう。いつまで泣いているのですか!」
「お、おう。俺からは――」
今から“脳筋ガリオーク”の依頼報告が始まるところだった。
ご愛読ありがとうございました。