8、元勇者はティルヌーンにばれないようにこっそりと復讐を再開させる
デルドラッドの片隅・パン屋
「お父さんっ」
「アドリーヌ、無事だったか!」
パン屋の主人は娘の小柄な体を抱きしめた。俺は二人の姿を眺める。
「良かったですね、パン屋さん」
「ああ、ありがとうございます!ユウキ様、そして、魔王様には感謝しても感謝しきれません」
領主、すなわち太守の豪邸に拉致されていた美少女たちは全員解放した。辱めと虐待を受けていた彼女たちの心の傷は深い。それでも、肉親との再会に喜びを隠せないようだ。
「いえいえ、私もあの領主の行状は許し難いと感じましたので」
「あの貴族、ペリーヌ様はどうなりましたか」
「牢にいますよ」
「ユウキ様、私の手でペリーヌを拷問させて下さい。娘を虐待されて、平気ではありません。復讐したいのです」
主人が怒りで顔を赤くしながら、言った。俺は顎に手を当てる。
「それは。ご主人様・ティルヌーン様に反対されていますので」
「そんな・・・・・・」
「お気落としなく。連れてこい」
手錠をされた金髪の美少女が連れてこられた。ペリーヌだ。密偵の少女にがっちりとガードされ、魔法は使えないようにしてある。
「牢には密偵の女の子にペリーヌに変装してもらっています。たっぷりとかわいがってあげましょうよ。ただし、ティルヌーン様には内密でお願いしますね」
「さすがはユウキ様です!おい、小娘、覚悟しろよっ」
主人がにやりとして、ペリーヌを恫喝する。
「ひっ、怒鳴らないでくださいませ」
ここに及んでも生意気な口を聞くとは見上げた根性だ。
「お父さん、ダーツ遊びしよ。ねえ、ペリーヌ様ァ」
アドリーヌが笑みを浮かべると、ペリーヌの耳元で囁く。
「ペリーヌ様のお美しい肌が穴だらけに。くすくす。とーーーてっも楽しみです!」
「ひい、あ、あ、あ、お、お許しをっ」
呼吸困難に陥ったようにペリーヌが言う。ペリーヌの言葉にアドリーヌは嗤う。
「大丈夫だよ、私も悪魔じゃないから」
そう言うと、アドリーヌはペリーヌの髪を引っ張ると、パン屋の中に消えていった。馬鹿にしていた庶民に報復されるんだ。ペリーヌの高慢な鼻もこれで折れるだろう。
*****
豪邸に戻ると、イレ―ヌが出迎えてくれた。まるで男のように武装している。虐待から回復していないので、頬はまだこけていて、痛々しいものだ。
「ユウキ様、私も今回の戦闘に連れて行って下さい」
「駄目だよ。君は魔法があまり使えない。危険だ」
魔法の飛び交う戦場でイレ―ヌの力ではすぐに殺されてしまう。あるいは人質に取られたら、厄介だ。
「ミルファさんの村を大虐殺した時、十四歳の女の子を嬉々として殴っていたのがノ―ル将軍です。村人たちに恐怖を味あわせてから、殺す。殺人と暴行が趣味の狂人です。あの男は生かしておいてはいけません。ユウキ様」
イレ―ヌの瞳は怒りに燃えている。善人だと思っていたノ―ルも悪人だったようだ。プリシラの王国には本当にろくでもない人間たちばかりが集まって来るんだな。