7、元勇者、強敵ノ―ル将軍と戦うことになる
「デルドラッドが陥落、だと!」
将軍の一人が大声を上げて、叫んだ。ここは王宮の重臣たちの待機室だ。居並ぶ王国の重要人物たちはそれぞれ優雅に紅茶を楽しんでいるところだった。だが、アルバンス侍従長のデルドラッド陥落の報告にみな、一様に驚いた表情をしている。
「まさか、魔族が反抗してくるなど、有り得ぬ」
「奴らは魔族の本拠地・魔王城に立て籠っているはずだ。・・・・・・先手を打ってくるとはな」
「魔王は恐ろしい力を持っている。このまま、首都まで進撃してくる気か」
将軍や貴族の男たちは深刻そうな顔を作る。
「西方のクラットランド連合に力を借りねばならぬかもな。あそこには大魔道士がいると聞く」
「慌てることはございませんよ。このノ―ルが魔王の尖兵を蹴散らしてご覧にいれましょう」
老人達の言葉を遮って、若手の将軍・ノ―ルという男が声を上げた。覇気にみなぎり、落ち着き払った態度だ。二十八歳になるノ―ルは魔法や剣の腕に覚えのある優秀な男である。
「うむうむ、ノ―ル将軍、よろしくお任せしましたぞ」
長老の貴族が言うと、皆も賛同する。
「お任せを。我が精鋭騎馬軍団にかかれば、魔王の部下など、何ほどのこともありません」
ノ―ルはにやりと笑うと、長老たちに一礼した。
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「これで俺も太守か」
デルドラッドの太守の部屋に俺は入る。ティルヌーンが背後からついてくる。デルドラッドの六十万人の都市住民は俺の支配下に入った。これで俺も一国一城の主ってわけか。
「ユウキ、やりましたね。次はどうします?」
「次は南下し、都市ホルクエットを狙います。王国の領土をがりがりと削ってやりますよ」
俺は一息つくと、贅沢を凝らしたソファに腰かける。
「ですが、その前に人心の掌握をします。ペリーヌを使って、ショ―を行います」
俺はもう復讐すると、決めている。ミルファたちを死に追いやったプリシラとその仲間たちを許すことはできない。楽には殺さない。たっぷりとかわいがってやろう。
「それは・・・・・・私は反対ですね。人間と魔族との共栄を目指すのが私の目的です。復讐するためではない」
ティルヌーンの言葉に俺は驚くことはない。ティルヌーンの優しい性格は俺を部下に加えてくれたことでわかっている。
ここは荒療治が必要だろう。ティルヌーンの考えも改めなくてはならない。
「わかりました。ではペリーヌは牢につないでおくことにしましょう。さて、次の作戦ですが・・・・・・」
俺は冷静さを装いながらも、ティルヌ―ンをどうやって復讐に巻きこむかを考えていた。
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「ノ―ル将軍か」
俺はつぶやくと、密偵の少女を見た。少女はこくりとうなずく。
「はい。王都より、デルドラッドに進軍しております」
ノ―ル・フュンネル、浅黒い肌の若い将軍で強い。レベルも十五魔将に匹敵する強者だ。しかし、性格は沈着冷静で悪いイメージがない。
「ティルヌーン様、お力を借りてよろしいでしょうか」
「もちろんです。人間相手には負けませんよ」
ティルヌーンが大きな胸を張る。俺は唇をかむ。厳しい戦いになりそうだ。