5、勇者は復讐を始める
「リグレッドめ、遅いな」
イレ―ヌ元公爵令嬢を痛めつけるように命じていたリグレッド兵長がなかなか戻ってこない。軍装に身を包んだ将軍が苛立ったように言った。領主キ―リエが揉み手をしながら、近寄る。
「ガルダ城の攻略が急務というのに、無能めが。足を引っ張りおるわ」
「そうですよねえ~、私もそう思います~」
「しかし、イレ―ヌか。あの美姫を欲しいままにして良いとは大神官も太っ腹であるな」
将軍が鼻の下を伸ばす。将軍には十代の娘がいるはずだが、粗野なこの男は下卑た妄想に浸っているようだ。
「イレ―ヌは大罪人ですから、ま、殺すのだけは勘弁してやりますか」
領主もにやにやと笑う。
「さて、将軍。急ぎますわよ」
ペリーヌが将軍に声をかけた。
「これはペリーヌ様、これから宴にございますれば、少々のご猶予を」
将軍の態度が変わった。ペリーヌは貴族令嬢であり、この王国を代表する勇者だ。力関係は歴然としている。一万人の大部隊を率いる将軍といえど、ペリーヌのほうが力が上なのだ。
「宴、ねえ。まあ、男は馬鹿な生き物としか思えませんわ。下賤な庶民と交わるなど、私には理解不能です」
大広間には商人の娘たちが兵たちの相手をすることになっている。皆、見目麗しい少女ばかりだ。
「まあまあ、近辺の村を襲ってしまわぬように兵たちの獣欲を解放してあげませぬと」
「ふーん、そういうものですか」
ペリーヌの周りの若者たちが笑い声を上げた。
「何がおかしいんですの?」
「いえ、ペリーヌ様がおかしくって」
「はあ?」
ペリーヌはパーティーメンバーの一人・盗賊のスケルツに詰め寄る。
「私を侮辱しているんですの。あなたも貴族の端くれなら、庶民に気を遣う馬鹿らしさをわかっているはずですわ」
「違いますよ。ペリーヌ様は兵たちに蹂躙される女の子たちのことを虫ケラほども気にかけておられない!洗脳されるとこうも人が変わってしまうものかと、我々は腹を抱えているのです」
「洗脳?元から私はこういう性分でしてよ。庶民など虫ケラ同然。殺してもいくらでもかわりがいますわ」
「そうですよねえ。庶民のために心を砕き、税を安くし、常に民に寄り添わんとした公爵令嬢様はもういない。クックック」
「はあ。わけがわからないですわ」
相手をするのも嫌だというように肩をすくめるペリーヌをパーティーメンバーのイケメン騎士たちは顔を歪めて笑う。いや、嗤う(わらう)。
「それでは私も参ろうか」
将軍がそう言うと、扉がひとりでに開く。
「おお、気が利くではないか。誰だ、魔法で扉を開けたのは」
「俺だよ。外道」
将軍の足もとに首が転がった。
「ふ、副将軍がああ、あ、あ、あ・・・・・・」
「あんたの右腕だったか。女の子にひどいことしてたから、生きてる価値なしとして殺した」
「馬鹿なっ。魔道士部隊がいるはずだ。それに精強無比の魔法騎士団も」
「ん?殲滅したが何か?」
「し、信じられるかあ。ど、どうせ嘘だろうっ。我が最強の部隊が貴様ごとき若造にィ」
「将軍、久しぶりだよな。俺の前ではいい人ぶってたが、これが本性かよ。失望したよ」
「そ、その声はユウキ様!?」
将軍はまじまじとユウキの顔を見る。将軍の顔が見る見るうちに青くなっていった。




