4、勇者は虐げられるイレ―ヌ元公爵令嬢を助ける
俺は館長の礼を言うと、ティルヌーンのところに急いで戻る。
「ティルヌーン、イレ―ヌを助けたい」
「イレ―ヌですか。かわいそうに王国では虐殺者として、各地の見世物になっているそうですね」
ティルヌーンは目を伏せた。ティルヌ―ンにとっても無関心ではいられないことらしい。
イレ―ヌは軍隊を率いて、ミルファの村を殺戮した。女は強姦され、イレ―ヌの悪名ぶりは轟いた。
「イレ―ヌ・・・・・・気の強いあいつがこんなことになるなんて。クソッ、今すぐにでも助けたい」
イレ―ヌと俺は親しい仲ではない。それでも人格が高潔な少女だった。領民にも人気があったはずだ。決して虐殺者として皆から糾弾されるような人物ではない。
一刻も早くイレ―ヌを助けなければならない。
*****
元公爵令嬢・イレ―ヌは膝を突き、光のない瞳で周りを見た。イレ―ヌの衣服は物乞いのそれと変らない。
「おー、馬鹿になっちまったか?何も喋らねえ」
「兵長、お嬢様にお食事を用意してきました。新鮮な焼き立てパンですぜ」
兵長の男がにたりと笑う。王族のイレ―ヌを馬鹿にすることが彼らの日課になっていた。
「おう、助かるぜ」
パン屋の主人がぺこりと頭を下げる。
「聞いたぜ、あんた、娘を貴族に拉致されたんだってな。看板娘をよお。貴族もひでー奴らだぜっ」
パン屋の主人が唇を噛む。
「そんな貴族の娘がいるぜ。しかも村人五百人殺したクズだ。何でも人妻を脅して、豚と交尾させた挙句、殺したってんだからよお。ヒヒ・・・・・・ほら、鞭使うか」
「・・・・・・はい」
主人はパンをちぎると、無理やりイレ―ヌの口にねじ込む。
「この鬼め、フローラを返せえぇぇぇっ」
そして、思い切り、鞭を振るう。イレ―ヌはまともにその鞭を受けた。
「い、痛いィ」
「思い知ったか、このクズが」
八つ当たりであったが、イレ―ヌは土下座して、上目遣いに主人を見る。
「このっ、みじめで馬鹿な頭の弱いイレ―ヌにたっぷりとお仕置きをください。貴族は家柄だけの王国のお荷物です」
「おっさん、こう言ってるんだし、こいつぐちゃぐちゃにしちゃえよ。いいぜ、女王陛下から殺す以外は何をしてもいいって言われてるからよ」
「ふうーーーーーっ、ふうーーーーーーーっ」
主人は興奮しているようだ。
「まずは服を脱げ。その汚らしい体を俺に見せろ」
兵長が言うと、兵たちがイレ―ヌを捕まえる。イレ―ヌは抵抗もしない。
「助けて。ユウキ様・・・・・・もうやだよ・・・・・・」
「ぶわっはっはっは。ユウキか。魔王に殺されて、骨も残ってねえへボ勇者に期待するなんて、イレ―ヌ様は頭がおかしいんでちゅかーーーー?」
馬鹿にしたように兵長が笑うと、兵たちも笑った。そして、笑顔のまま、兵士が胸を貫かれ、絶命する。背後からユウキが現れた。
「魔物より醜いな。あんたらは」
「ひいいいいっ、死んだはずじゃあ!」
「おっとその声、兵長のリグレッドだな。イレ―ヌに嫌われていた無能が。仕返しのつもりか」
リグレッドの顔が青くなる。
「黙れ、罪人を痛めつけて、何が悪いっ、人殺しだぞ、この女」
「確かにな。でも、殺させたほうがより巨悪だ」
部下は逃げ出したようだ。勇者ユウキの名はそれほどに強い。
「来て下さったんですね。もう駄目かと思いましたよ」
涙ぐんだイレ―ヌの顔は少し笑みを浮かべていた。俺は微笑する。
「待たせたね。イレ―ヌ。さて、リグレッド兵長、勇者ペリーヌの居場所を聞きたい」
「あ、あが・・・・・・」
腰の抜けたリグレッドはその場にへたり込んでいた。
*****
「さーて、魔族討伐に乗りだしますわよっ」
金髪のペリーヌは大声を上げた。領主キーリエはダ―ツを放つ。
「や、やめてくださいィ、お、お助けを」
壁に縛り付けられたメイド姿の可憐な少女が的になっていた。腕や足にダーツが突き刺さり、痛そうだ。
「アハハッ、あなたはパン屋の娘だそうですねえ。このド庶民が。あなたは我々貴族のおもちゃとして一生泣き叫んでいれば、いいんですわ。おーほっほっほっほ」
腰に手を当てたペリーヌは高笑いする。残忍な勇者は人を痛めつけることが大好きだ。