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3、勇者、魔王城を見学する

俺は稲葉さんと一緒に魔王の城に来ていた。


「ティルヌーン様、勇者を蘇生させました。ユウキはティルヌーン様の配下にしてください」

「いいよー」

「ありがとうございます」


 ノリが軽い。何なんだ、この悪魔。俺はティルヌーンを見た。年は十六歳くらいではっきり言ってかわいい。胸の当たりは膨らんでいて、女性らしさをアピールしていた。


「ヘギュラストは反対するだろうけど、魔王様の許可もらっちゃうもんねー」


 ヘギュラスト、というのはあの冷酷そうな女だろう。人間牧場とか、怖いこと言っていたな。


「魔王様は私たち魔族には優しいの。人間には容赦しないけどね」


「取り次いでいただき、感謝致します」


 俺は取りあえず、頭を下げた。


「それじゃあ、ちょっと待っててね」


*****


 私は魔王様の宮殿に向かった。魔王様は大勢の魔族メイドに取り囲まれている。


「ティルヌーンでございます。魔王様。魔王様は元勇者ユウキを部下とされませんか」


「ティルヌーン、何を血迷ったことを言う。我の敵ぞ」


「そうですよ。ティルヌーン。ヘルギュラスト様の人間牧場にレティシアを送ったではないですか。レティシアと一緒にユウキも牧場送りにすべきです」


 口を出したのは十五魔将の一人・ポワレットだった。ヘルギュラストのシンパで性格も悪く、残忍だ。人間と共存を目指す私にとって、邪魔な魔族の一人でもある。


「レティシアをダシにして、ユウキを使うのです。プリシラの側にいた人物ですよ。利用しない手はないか、と。愚考(ぐこう)致しますが」


 魔王様は顎に手をやった。


「フム」


「これから王国との死闘で魔族にも犠牲者が出ます。その数は出来る限り少なくしませんと」


「・・・・・・分かった。ティルヌーンよ、勇者を配下に加えよ。しかし、失敗すればお前を非力な人間の身分に落とし、牧場送りにする。失敗は許されぬ」


「はっ、必ずや任務を遂行してみせます」


「では手始めに勇者ペリーヌを倒せ。ペリーヌは西方のガルダ城の攻略に取りかかっている。要衝(ようしょう)だ。ここを守り切る」


「はっ」


 やはり魔王様は頭が良い。私は勇者という駒を手に入れることができた。生意気なポワレットとヘルギュラストの面子を潰すことが出来る。


 ポワレットが悔しそうに唇を噛んでいた。いいザマだ。


*****


「ガルダ城には魔将の一人・ドルガーダがいるの。ここは戦略的に重要よ。王国の商業都市・デルトラッドが近くにある。王国はガルダを占領し、一気にここまで攻め込むつもりね」


 ティルヌーンはあっさりと魔王の許可を取り付けて来た。すごい、としか言いようがない。頭も良く回る。このような人材が魔族の側にもいたのか。


「勇者ペリーヌって強いの?」


 ティルヌーンが聞いてくる。


「強いですが、僕よりは弱いですよ。レベルも500前後のはずです」


 ペリーヌは貴族令嬢出身の勇者でプライドが高く、庶民出身の勇者を見下していた。人の恨みを買いやすいタイプだ。敵も多い。


「ドルガーダのレベルが400くらいだから、一発で即死ね」


「そんなに低いんですかっ、魔族というのに」


「そうだよ。人間を見下して、鍛錬(たんれん)をさぼってるからね。高いのは私たち十五魔将と魔王様くらいだよ。だって、みんな魔導書も読まないし、勉強してないからね。人間のことを見下して、部下に威張る小物ばかり。圧倒的な力を持つと、魔族も油断して、堕落しちゃうのよね」


「魔族は強いとばかり思っていました」


「誤解だよ。まともに機能してるのは魔王様くらい。魔王様も内心呆れてるんじゃない」


 俺は魔王の姿を思い浮かべた。確かに四年の冒険の間、魔族はあっさりと倒せた。それには魔族側の事情があったのだ。道理でプリシラが余裕なわけだ。プリシラは悪女だが、レベル5000程度の魔術師や賢者を側において、権力を誇示している。悪女だが、有能な政治家である彼女にとって、今の魔族など、自分の権力維持のための補完装置に過ぎない。


「まあ、難しい話はこれくらいにして、魔王城を案内するよっ」


 ティルヌーンは俺の腕を引っ張ると、彼女の豊かな胸部が俺の体に触れた。柔らかい。俺だって年頃の男子だ。女の子に近づかれて、胸の動悸(どうき)が激しくなった。


*****


「なぜ私の目の前で食事を。ティルヌーン先輩」


 ポワレット、という紫髪の小柄な女の子がジト目でこちらを見て来た。かわいくてアイドルみたいな容姿だ。


「ほら、ユウキ君はもう魔族の仲間だもん。仲良くしなくっちゃ」


「人間が仲間、ですか。牧場で飼ってしまえばいいのに」


 不服そうに言うポワレットちゃんは食事を終えると、皿を片づける。


「私は魔導図書館で勉強がありますので、これで失礼します」

「まあまあ、私たちもこれから図書館に行くから」

「な、何で人間が図書館にっ、前代未聞ですよ」


 ティルヌーンがポワレットに顔を近づける。


「あんた、事態が飲み込めてないのね。私たちは砂上の楼閣(ろうかく)に立っているのよ。ユウキ君から知恵を拝借しないと、私もあなたも終わりだよ。プリシラが本気を出せば、私もあんたも奴の奴隷になる」

「へ・・・・・・そんなまさか」


 ポワレットが怯んだ。ティルヌーンさん、怖いな。目がマジだよ。


「人間にさせられて、毎日拷問(ごうもん)三昧(ざんまい)の生活よ。そんなの耐えられる?」


「私が人間に・・・・・・ひっ」


 ポワレットの顔がサ―――ッと青くなった。魔族を人間にする魔法もある。そんなことになれば、彼女はただのか弱い女の子だ。


「分かりました。図書館にご案内致します」


 勘念したようにポワレットは言った。


*****


 魔族の図書館は人間のソレと変わりはない。ただ、異形の者たちがうろうろしている。中にはアンデッドもいた。


「もう魔王様がユウキ君のこと、通知してるから、みんな驚かないの」


 ティルヌーンが耳打ちしてきた。


 ポワレットは難しい魔導書を置くと、メモを取り始める。随分と熱心だった。努力家なのだろう。


「そこの者、ユウキ、であったか」


 アンデッドが話しかけてきた。


「はい」


「私は館長のシュリノぺデウスじゃ。人間はかつてこの図書館をよく利用してくれた。今は対立関係に入ったがな」


 アンデッドなので、表情はわからない。だが、穏やかな人格であることはわかった。


「こちらに来たまえ」


 俺は館長に従って、その場を離れた。館長は書庫に俺を案内してくれた。その奥に館長の部屋がある。


「これを見て欲しい」


 示されたのは水晶だった。


「商業都市・デルトラッドで行われた見世物じゃ。この子とそなたは知り合いではなかったか」


 水晶には屈強な兵士たちに囲まれて、見ずぼらしい女の子が歩かされていた。物乞いと変わない粗末な服は彼女が高貴の血筋だとはとても思わせない。鞭でぶたれたのか、体中傷だらけだった。頬もこけ、十分な栄養もとっていないのだろう。後ろ手を縄で縛られ、槍でせき立てられる。


 首には「私は村人五百人虐殺の極悪人です」と書かれてた札がぶら下げられていた。


「イレ―ヌっ、何てひどい」


 俺は言葉を失った。物乞いに見える少女は侯爵令嬢にして、俺の婚約者イレ―ヌだったからだ。


読了ありがとうございます。ブックマークいただけると、やる気が出て、更新の励みになります。

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