1、勇者召喚
「王女殿下、召喚の儀、整ってございます」
メイドの言葉に王女・プリシラ・オルフェイスはうなずく。プリシラは美しい金髪の髪と綺麗な翡翠色の瞳を持っていた。王の第七王女である彼女は十三歳、あどけないなかにも聡明さを瞳には感じさせる。プリシラは召喚の間に足を踏み入れた。そこには魔法使いたちが揃っている。
「王女殿下、勇者召喚の儀、はじめても宜しゅうございますか」
ベテランの魔法使い・ヴォルテ老人が伺いを立てる。白い顎鬚を長く伸ばした長老はプリシラの魔法の師でもあった。
「はい。はじめて下さい。魔族を打倒すほどの勇者。異世界より出でて、我らオルフェイス一族の守り神とならんことを」
プリシラは仰々しい振る舞いを見せた。
(やった!やりました!これで私が次の王位継承者ですわ)
心の中ではプリシラの喜びは頂点に達していた。プリシラにとって、兄や姉たちの勇者パーティーは歯がゆいものだった。社交界での立ち振る舞いは洗練されているものの、実力はなく、見栄を張るだけのポンコツ勇者パーティーばかり。魔法詠唱さえ、できないような低レベルな魔術師も増えた。
(まあいいですわ。魔族討伐は私の功績に致しましょう)
王女プリシラは内心ほくそ笑む。プリシラは手をかざした。
「出でよ、導きの勇者!」
プリシラの声を合図に魔法使いたちが一斉に詠唱をはじめた。魔法陣がまばゆく光る。
「ここはどこ?あなたたちは?」
そこには見るからにあどけない少年が立っていた。目が悪いのか、分厚い眼鏡もかけている。
「ものすごいよわ・・・・・・ではなく、ようこそ勇者様。ここはあなたにとって異国に当たる場所。私はオルフェイス王国の第七王女・プリシラです」
「お、王女様・・・・・・はじめまして。僕は日本人で賀茂祐樹っていいます」
弱冠、緊張しながらも少年は自己紹介をした。プリシラは早速、ステータスを見る。すべての能力がレベル1.だが・・・・・・
(魔術適性9999ですって・・・・・・それに能力上限も極めて高い。これは天才・・・・・・ですわ)
鍛えれば、伸びる能力。プリシラは顔に出さなかったが、内心、ほくそ笑む。
「私は人の能力値を見通せる翡翠眼の能力を持っています。ユウキ、あなたの能力はとても素晴らしいです。勇者になっていただけませんか」
「勇者、僕は元の世界では必要のないゴミカス扱いでした。そんな僕を必要としてくれるのなら、喜んで」
ユウキは笑みを浮かべた。プリシラは少年を品定めするのをやめる。
「王国は魔王の軍勢に脅かされています。ユウキ様、あなたの力でこの王国の民をお救い下さい」
プリシラの言葉は真剣味を帯びている。プリシラの前に魔術師の少女が進み出た。レティシア・アルケゴール。貴族令嬢出身のレティシアはこれまた笑みを浮かべる。
「姫様、勇者召喚の儀、成功おめでとうございます」
「ありがとう、レティシア。ああ、勇者様、こちらはレティシア、あなたのパーティーに加わる魔法使いですよ」
「よろしくお願いします。勇者様」
にっこりとレティシアが微笑む。お嬢様らしく、気品に溢れ、神聖視される程、心の清らかな少女。
(私の部下で最も優秀な魔法使いですからね。せいぜい私のために働いてもらいますわ。勇者様)
プリシラは相変わらず、にこにこ笑ったままだったが、目は笑っていない。