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第78話 彼女は、彼の事を忘れたことはない。

さて、調子に乗って"死ぬ気で2兎追う"とかほざいてみたが、正直全然皆目追える気がしない…。

というのも、どういった接し方が正解なのかが分からないのである。


いや…だってほら、俺友達いないし…?こんな風に考えたこととかないし?ぶっちゃけカッコつけて口にしてみたら、ワンチャンどうにかなるんじゃね?みたいに思う時とかあるじゃない?ない?ないですか、そうですか…。


「はぁ…」


今日も今日とて学校の昼休み、ひとり虚しくパンをかじりながら溜息をはく。神城と仁井園の2人は、恐らく原田と一緒なのだろう。 


入学当時を振り返ると、振り出しに戻っだけに過ぎないが、なかなかどうして、自分が嫌いになるくらい、寂しさというものを痛感してしまう。


そもそも、何故人は人を求めるのか、何故欲しがるのか…どうにか理屈立てて自分を納得させようとするが、うまくはいかない。


そんなことを考えていると、神城が一人教室へ戻ってくる。


ついこの間までは、俺の席を通る時声をかけてくれたそいつは、俺を素通りしてしまう。


何が理由なのか、なぜこうなったのか…なんとなく彼女を目で追うと、一度席についた神城が立ち上がり、コチラへとやってくる。

ってえ?なに?まって、何?なんですか!?色々と心の準備とかできてないんですけど?!


そして彼女は俺の前に来るとこう言うのだ。



「七五三田、私達の事避けてる?」



……え? 


いや、イヤイヤ、避けてない。むしろ求めてる。口が裂けても声には出せないが、そう言った気持ちが先行し、逆に言葉が出なくなる。


「いや…えっと、」


「…七五三田、あのね、この間真理子とも話したんだけど、私達が、トモカと一緒にいるから、話しかけづらいのかな?とか、その…逆に話しかけづらいよねって…」


「…」


「だってさ、嫌がってるかもなのに、無理矢理こっちに巻き込むのは違うくない?」


嗚呼、そうか…と。


「ほら、七五三田って、人付き合いとか苦手そうだし…」


伝わる、伝わらない。そんなのは当たり前なのだ。


言わないで、ただ待っていて、現状を打開できるわけがない。言わないで、ただ見ていて、伝わるわけがない。


俺がどうだからああだとか、神城と仁井園が楽しそうだからとか、現状が過去に戻っただけだとか、何かと理由をこじつけて、一人悩んで、藻掻いて…


"関係"と言うものはいつだってそうだ。


無くそうと思えばいつでも無くせて、作ろうと思ったときは、いつでも…なんてことはありえない。


何事も作ることのほうが時間はかかるし、壊す事のほうがずっと早い。俺は自分で壊していたのだ。


壊すことから始めたほうが早いから、今、現状をどうにかするのではなく、俺がしなければならなかったのは、"継続"だったのだ。


そして、その継続する為の手段が、会話だ。


人は思っている事を言葉にしないと伝わらない。めんどくさいで無くしてしまうものは、あまりにも多すぎる。


怖がって立ち止まってしまえば、もうそこからそれは動かないのだ。


だから、俺はまず神城に「ごめん」と言った。


ちょっと呆気にとられた顔をする神城は、その後、すぐに笑う。


「何急に?どうしたの?」


その笑顔を見て、壁を作っていたのは俺自身なのだと改めて理解した。ほんと、同仕様も無い大馬鹿野郎である。


「いや、なんか…自分がアホだなと思ってな…」


「え…?じゃあなんでごめん?」


全ては独りよがり、思ったほど事態は深刻なんかじゃないのかもしれない。自分で気づかないうちに、自分を追い詰めて…これなんて言うんだっけ?セルフネグレクト…?いや、ちょっと違うか…。


「いいんだよ、なんとなくな、その…久しぶりだから会話の仕方がわからないんだが…」


「えー…どんだけ人と喋ってないの七五三田…」


「どうだろう?1年ちょっと物語が動いてなかった的な…?むしろ初めて会話をするくらいの気持ちまである」


「いや、意味わかんないし」



何気ない日常、何気ない会話。たぶん、一番簡単で、一番難しい…。冷え込んできた今日この頃…だが重かった気持ちが、少しづつ溶けていく。


たぶん、もう大丈夫だ。


だから、俺は神城に言った。



「ありがとう」



まぁ、心の中でなんだけどね。





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