表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/81

第77話 人は一度手に入れると、すぐに次が欲しくなり、それを手放せなくなる。

【七五三田 悠利】


あれから、数日がたった――。


あの日から、昼食になると、原田が先に神城と仁井園に声をかけるようになり、なんとなく3人でランチを摂ることが増えた。


結果……


「はぁ…」


いや、なんでため息なんかついてんの?俺。別に飯くらい一人でいいだろ。むしろ一人最高じゃね?

だって一緒に食べるやつのこと気にしなくてもいいし、なんだったら食べ方をちょっと雑にしたって、相手に不快感をあたえたりもしない!

やばい、もうこれは自由。昼食と書いたフリーダム。


「……何言ってんだ」


妄想を口にして自分で、自分に呆れる。いや、まぁ、実際自分の気持ちには気づいている。

今現在、自席にてパンをカジッている俺であるが…散々ぼっち最強とかほざいておいて、寂しいのだ。


でも、そんなこと口が避けても言えないっ!だって、なんかダサいじゃん!? 久しぶりに一人で飯食ってたら、俺…なにやってんだろ…?みたいに思っちゃったり、なんか妙に寂しさを感じてしまう。


最後の具も何もないパンの最後のひと口を口にほうりこみ、咀嚼して飲下す。


それからテーブルを片付けると、俺はそのまま寝る体制をとった。と、三人が談笑をしながら戻ってくる。


そして、神城が席につき、仁井園も鞄に巾着袋をいれる。それからまた原田のとこへ行きおしゃべりを始めた。すると必然的に神城にも声がかかる。


神城は少し俺を気にしてから、でも声をかけるわけでもなく二人と合流する。それを薄目で覗いて、ふと、思う。



嗚呼…これ、実は理想系なんじゃないのか?


この、神城や仁井園との関係が始まる前、神城からの依頼…と言うか相談は、そのグループの中にいたいと言うような内容だった…。直接的にそう言ったわけではないが、嫌われて気にしていたのだから、裏を返せばそう言うことだろう。


「なら…このままで…」


そう呟いた瞬間、肩をつつかれる。


「なぁ…七五三田くん、どうしはったん? 最近…」


その声に振り返る。するとそこには本仮屋が立っていて、少し不安そうな表情をしていた。


「…どうした…って、なにが…?」


「え、っと…聞いていいんかな…?その、なんで最近神城さんや仁井園さんと一緒におらんのかな?って…」


「…あぁ…まぁ、別に…なんつうの? あるべき場所に戻ったと言うか…」


何があるべき場所に…だ。本当は二人と話したいくせに…。


「そうなん? いや…なんか変な感じの空気っていうか、そんな感じしたんよね…せやから、喧嘩でもしはったんかな…って」


「いや、別になんの問題もないぞ」


「ならええんやけど…あ、そや、来月の図書委員―――」


***


「ただいま」


学校も終わり、自宅へ戻る。すると、いつもの「おかえり」が聞こえてきた。


「菜衣子、ただいま」


靴を脱ぎながら、今しがたリビングから出てきた妹へ二度目の帰宅報告。すると菜衣子は、俺を見るなり


「不穏な香りがしますな…」


「……何言ってんのおまえ」


「いや…悠利くん、顔に書いてあるよ」


「は?何がだよ」


「寂しいですって顔に書いてあるよ」


いや、コイツ何言ってんだ…?てか、エスパーかよ。


「なんで俺が寂しいんだよ」


「最近、美羽ちゃんも、真理子さんも家にこないし、悠利くんから女の子の匂いがしないし、ま、なにがあったかとか野暮なことは聞きませんけどね」


さすがおとなえさん。空気を読みなさる…。


「ま、菜衣子。大人になると言うのは失っていくってことなんだ」


そう、今までもそうだった。別に今更どうしたという話だ。神城と仁井園は原田と楽しくやってる。

原田はあまり俺をよく思っていない。

なら、俺が去るべきなのだ。


そうすれば全てが元通り。


良かったじゃないか…。


俺の学園生活に、少しだけ光が指した瞬間があった。それだけ。


その光が閉じた。それだけ。


階段をあがり、鞄を机に投げ、ベッドに倒れ込む。


本当に、おこがましい。俺はクソ野郎だ。


何度も今がベストだと自分に言い聞かせるたびに、二人の顔がちらつく――ッ!


分かっていたことだ、こんな生活は続かない。


いつかは大人になり、この苦しい瞬間さえも"思い出"と言って心の引き出しからたまに出すくらいになる。


神城の望んだ結果だ――。


仁井園の選んだ結果だ――!


なのに、どうして俺は………。


人という生き物は強欲だ。望んだものが手に入ると、直ぐに次が欲しくなり、手を伸ばし、掴み取ろうとする…っ!


そして、得たものを失う時…勝手に傷つき、勝手に喪失感に打ちひしがれる…。


そこに"悪者"なんていないのだ。


原田は望み、手に入れ、何もしない俺は、失いつつある。それだけ…。



何度も何度もそう言った女々しい感情が、心の奥からまるでコップから溢れ出た水のように零れ落ちてくる。


「もとに戻る事が、こんなに恐ろしいとは……」


呟いて、自覚する。


嫌だ、失いたくない…っ!


神城の家で食べたご飯、仁井園と見た花火、ボランティア、勾玉作り、中庭での会話、その全てが無に帰る感覚――。


神城と仁井園が俺に話をしてこない理由。


それはきっともうわかっている。


今の彼女達の青春(セカイ)に、俺は異物となってしまっている。


原田という人物から俺が取り上げ、取り返され、きっとそう言う空気が出来てしまっている――。


と、コンコンと部屋のドアが叩かれる。


俺が返事をすると、妹が入ってきて、開口一番にこう言った。


「悠利くん、二兎追う者は一兎も得ずって言うんだよ」


え…なにそれ怖い。エスパー?俺が悩んでるような内容をニアピンでかすめてくる。


が、主語も、脈絡も無いその言葉が、妙には引っかかる。


「どうせ、美羽ちゃんも、真理子さんも、構ってくれなくなってふてくされてるんでしょ?」


いや、何ナノこの子…。まじ怖いんだけど…エンパス?エンパスなの?いや、なんかそれは違うか…。


「なんだよ急に…」


「だって、最近悠利くん、全然二人の話しないし、妹としては、なんか悠利くんがやらかして、嫌われちゃったのかな…?とか思わなくもないけど、やっぱ、お兄ちゃんが元気ないのは寂しく感じたりもするのですよ」


そう言ってベッドに腰掛けた…。


「…。」


「……。」


「なぁ、菜衣子…」


「なんだい?」


「おまえさっき、二兎追う者は一兎も得ずって言ったよな…」


「うん」


「さすが、妹…当たらずも遠からずでさ…実はそんな感じで考え込んでた」


「そう」


「でもな、本当に二兎追う者は一兎も得ないと思うか?」


話し始めながら、思う。


「どういう事?」


きっと、これは俺のエゴで…めちゃくちゃ我儘で…。


「俺はそうは思わないんだよ」


でも、なんか…たぶん。自分の中の決意の様なモノで―――。


「…ふむ、どうするの?」


まずは、嫌われることから、始めよう。


建物だってそうだ。新しいモノを建てたいなら…まずは壊すことから…始めなければならない―――ッ!










「簡単だよ…死ぬ気で二兎追うんだ…ッ!」








この言葉を言ったあと、菜衣子はダサっ根性論じゃん、と言って笑った。




でも、言った俺は、なんだか、少し気持ちが晴れ…前を向けるような気がしたのだった。












エタってないんかーい(´・ω・`)きゅぴーん

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ