第72話 恩ある人に物事を頼まれると、めちゃくちゃ断り辛い。
面会時間も終わりに近づき、俺達は少しだけ談笑をしてから病室をあとにする。
エレベーターで下の階へ向かい、すれ違う人を見ながら、この人達も大変だな…とかThe 他人事を思いながらロビーを歩いていると、神城の鞄から着信音が聞こえた。
神城はわたわたと鞄からスマホを取り出す。
すると仁井園が
「アンタ病院では電源きるかマナーモードにしときなさいよ」
とからしからぬ言葉を発し、神城が「ごめん、そうだよね」とか言って、手でごめんなさいをもう一回すると、急ぎ足で病院から出ていき、着信に応答した。
俺が仁井園を「まっじめ〜」とからかうと、仁井園は
「は?常識でしょ」
とド正論で返す。と言うか、そんなガチに返されたら単純に俺ただの悪者なんですけど…。そして、神城の後を追うように歩き、病院から出ると、神城が
「…いや、無理だよ…私そう言うの参加したことないし」
と、何か頼まれごとをされている風な会話が聞こえてくる。
「…えー…うん…うん…でもなぁ…」
と呟いて、何故か俺を見る神城。助けを求めるような目に気づいた仁井園が、「どうしたの?」と神城に尋ねる。すると神城は電話口を抑え、「えっとね…その…」と答えづらそうにして、俺達が頭にクエスチョンマークを掲げるように首を傾げると
「その、合コンに誘われてまして…」
と何故か申し訳なさそうに言う。
それを聞いた仁井園は、
「行きたくないなら行きたくないってちゃんと言えば?」
と言う。しかし、神城は何かあるのか、なかなか返事をできない様子だ。ならばと、仁井園が神城にスマホを渡してと手を伸ばす。
だが、さすがに第三者である仁井園がいきなり断ったら、後々に面倒そうなので、俺がそれを静止する。
「いや、おまえが断っちゃ駄目だろ」
「は?なんでよ? 美羽困ってんじゃん」
「いや、まず何故神城が困ってるかだろ、行きたくないけど、断りづらい理由があんだろ、たぶん…わかんないけど…」
「は?わかんないなら言わないで、だいたい七五三田が止めたら…」
と言いかけて、仁井園は口をつぐむ。
「は?なんで俺が止めんだよ、そんな個人の自由奪う権利なんか俺にはないだろ」
俺がそう言うと、何故か神城はムスッとした顔をして、
「行く」
と答えた。
「ほら、選ぶ権利を持つ人間が答えだしたぞ」
「ほんっと、七五三田って馬鹿。ウルトラスーパーアルティメット馬鹿」
は?なぜそこまで言われなきゃならんのだ。ちょっと仁井園さん?お口がすぎますよ?
「おまえな、それは言い過ぎ…」
俺の言葉を遮るように、仁井園は神城に尋ねる。
「ねぇ、アンタそれでいいわけ?」
仁井園に言われ、神城は少しだけ沈黙したあと。
「…ど、どうしよう…行くって言っちゃった」
と、仁井園にすがりながら、今しがた出した答えに速攻で後悔しはじめる。って言うかじゃあなんで行くとか言っちゃうんだよ。
そんな思いで二人を見ていると、何故か女子二人がコチラを見て、
「「七五三田のせいだから」」
と声を揃える。何これ。どんな理不尽だよ…。
✳✳✳
「……で、マジでなんで俺達、神城の合コン尾行してんの?」
とある休日の昼下り、俺と仁井園はいやいや参加することを選択した神城を、見守ろうと言う話にもっていかれ、ここ重要である。そういう話になったのではなく、そういう話に"させられた"と言うのが、仁井園さんが俺より主導権を握っている証拠だ。まぁ、予定とか別になんもないから良いんですけどね…。
とまぁ、そんな感じで神城を見守ることになり、目的地であるカラオケへと向かう神城について行っている。
「てかおまえも暇だな…」
俺が言うと、仁井園はわりと真剣に
「いや、てか、七五三田は美羽が他の男とイチャついていいわけ?」
とか、ぶしつけに尋ねてくる。良いも何も、俺にはそれを拒否する権利など存在しないし、合コンと言っても学生同士なのだ。すぐすぐどうとか…
「七五三田さ、マジ合コン舐めてるとやばいからね?マジでヤバいヤツっているから、それで泣いてきた子沢山見てるしね」
えぇー…いきなり不安を煽るようなこと言ってくる。ん?なんで不安なんだ?いや…、まあ確かに、神城可愛いし、胸もデカい。ぶっちゃけ絶対相手からしたら当たりだろう。
………。
「クソッ、余計なこと言いやがって」
俺が仁井園に言うと
「アンタスイッチはいんの遅すぎ」
ちなみに、神城には遠くで見守っとくと言う話をしたらしい。それ受け取り方によっては家にいるからなんかあったら、呼んでくらいにしかならないと思うんですけど…。
相変わらず仁井園は言葉足らずだとか思っていると、神城が、目的地のカラオケ店の前についた。そこには数人の女子と男子がおり、神城を見つけると、幹事であろう女子が
「もう、美羽おっそーい」
とか言ってハグをしている。周りの男子は神城を見てざわつく。
その中の一人が神城に、近づき、
「もう好きです。付き合ってくださいっ!」
と言って90度に腰を曲げ、まっすぐと手を伸ばす。いきなりの洗礼に神城は戸惑いながら、
「え、えっと…まだ話とかしてないし…」
と苦笑いをしていた。すると周りが「速攻で告るとかウケるんだけどっ」「マジでいきなりで、うまくいくわけねぇじゃん」とかゲラゲラと笑っている。
……正直俺は、苦手な空間である。
そうして、話を少ししてから彼ら彼女らは店内へ、そして俺たちも店内へと向かうべく受付をする。
そして、部屋に通らされてから仁井園が言う。
「……ってか、これ美羽がどの部屋にいるかわかんなくない?」
「……確かに」
部屋がわからないと言うことは、何が起きても何もできないに等しい。
……あれ?これ駄目じゃね?




