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第71話 人は過去には戻れない。

病院に入ると、清潔感のある独特の香りが鼻をかすめた。


『…九十九くん、アポなしだけど、来てよかったかな?』


『正直、あまり歓迎はされないだろうね…でも、これを逃したら、たぶん咲来さんに、伯李のこと、一生知ってもらえないかもしれないから…』


『…そっか』


私はそう小さく返した。


それから、九十九くんは慣れた足取りで病院内を歩いていく。そして、とある病室の前に辿り着いた。


病室の前に立ち、九十九くんがノックをしよるとすると、ちょうど病室の扉が開く。すると、中には伯李がいて、九十九くんを見ると、『来たんだ』と一言こぼし、そのまま後ろに立つ私へと視線を向ける。


そして、それが私だと気づくと、露骨にめんどくさそうな顔をして、九十九くんの胸ぐらを掴み、彼だけ病室へと引っ張りこまれた。


引っ張りこまれる瞬間、九十九くんは『おわっ!?』と驚いた声を出したが、伯李はお構いなしに、ドアをゆっくりと閉めながら、視線で『そこ動くなよ』と私に伝えて、二人は中へと消えた。


そして、すぐにドアの向こうからこもった音で伯李が九十九くんにギャーギャーと文句を言っているのが聞こえてくる。


(やっぱ、さすがに彼女の世界に立ち入りすぎたかな…?)


考えると、余計なお世話だろうし…と、今更ながらいろいろなことを考えていると、ドアが再び開かれた。


中から二人が出てくる。そして、伯李は私に予想通り


『余計なお世話なんだけど』


と言った。そして、その後にため息をついて、いつもの造った伯李で


『咲来さんさぁ〜、人にお節介しすぎるとぉ、嫌われちゃうよ〜?』


だから私は悪びれる事なく言い返す。


『うん、そうだね、でも、これが私だし、私のやり方……』


私は伯李の目を見る。



『私の貴女への復讐』



その言葉に伯李は少し戸惑い、『あっそ、じゃあ勝手にすれば』と言って歩き始める。


ここで彼女が怒らないのは、きっと、過去の私へのやり方に自分自身、うしろめたい気持ちがあるからだろう。自覚があるからこそ、先程の私の台詞に返す言葉がなかったのだ。ただ、自覚があり、言葉を返さないということは、その過去を悔いていたり、反省している可能性は高い。


言葉には出さないが、ひょっとしたら―――。


そんなことを思い、私は伯李と九十九くんについて行った。


それから少しだけ街をぶらりする。九十九くんオススメのカフェへ行き、伯李と九十九くんの絡みを見ると、伯李は本当に自然体で彼と接しているんだとつくづく思った。


続いてゲームセンターへいき、伯李が以外とぬいぐるみとか取るのがうまいことを知る。


そして、ひとしきり遊んだあと、九十九くんが自転車を取りに行っている間、伯李から話かけてきた。


『ねぇ、今日、なんで病院に来たの?』


『ん…? あー、それはね、九十九くんと話をしてて、彼が伯李を知りたいなら会っといたほうが良いって…』


私がそう言うと、伯李は


『あのデカブツ…』と言ってはがゆそうな顔をする。


それを見ると、なんだかおかしくて、私は軽く笑ってしまう。


『ふふ…』


『なに笑ってんの』


『あはは、ごめんごめん、なんか、伯李って、いろんな表情もってるんだなって…』


『は…はぁ? な、何が? 普通でしょ、人間なんだから』


『そりゃそうだけどさ、ふふ、なんか、安心したよ』


少しだけ笑ったあと、伯李は自ら親について教えてくれた。


『お母さんさ、"トーシツ”なのよ』


『トーシツ?』


『そう、統合失調症…まあ激しいものではないんだけど、何年か前からね、人に見られてるとか、外に出たら危ないとか言い出してさ、はじめはふざけてるんだと思って相手にしなかったんだけど、ある日家に帰ったら……その、穴という穴を塞いでたんだよね…』


『え?穴って?』


『あのほら、ネジとかで開いたやつもそうだけど、タンスの隙間とかもね、ティッシュつめこんで、”見られるから”って、この時は流石に怖かった…それから少しづつ悪くなって、ある日から私に暴力をふるうようになっちゃってさ、そんでハサミ持ち出されたから焦って九十九にね…連絡したら、アイツ風呂上がりなのか髪も乾かさないですっ飛んできてさ…それでその場はなだめてもらって、それで病院いったら、私にまた暴力するかもしれないから…って、でもお母さんもそこは理解してくれたから、そのまま入院したの』


話を聞いて、私は言葉に詰まる。どんなセリフを彼女は求めているのだろう?


そんな私を見て、伯李は言う。


『ね、超重いでしょ、この話』


『え』


『私さ、私のエピソードってこんのんばっかなの。男騙したら犯されそうになったとか、馬鹿みたいな……』


話をしながら、伯李は少しづつ涙を流す。


『こんな……こんな、馬鹿みたいなじんせっ……どこで、間違ったのかとかもわっ…かんないしっ…! うっ……ひっく…学校とかっも、もぅ、ほんっ…!ほんっとは…!行きたくないっ! だって辛いもん! みんな私嫌いだしっ!! でもどうすればいいかなんてわかんないじゃんッッ!!』


堪えていたものが、一気に崩れ落ちる。


耐えていた痛みが、一気に流れる。


途中から、伯李は文脈も、主語もおいてきぼりで、思ったことを全部吐き出していく。


「こんなセカイ、求めてなかったッッ!!」


その、一つ一つが、ちゃんと伯李の苦しみで、悲しみで……。


そして、散々吐き出したあとに落ち着いてきた彼女は、最後に私にこう言った。



『しょ、小学校のとっ…時、ご、ごめんね? わたっ…やり方…!わかんなくって…!』



✱✱✱


【七五三田悠利】



「とまぁ、こんな感じで私と伯李は仲を深めましたーって、なんか仲を深めましたって、変だね」


咲来はそう言って笑う。


「まぁ、なんだ…おまえが精算できてんなら、俺から言うことは何もない…」


なんもないが、仁井園いなくなった時とかバリバリ怖い方といましたけどね、ちょっと伯李さん? 大丈夫なんでしょうかね?大丈夫なんですよね? 


「悠利はさ、なんかあった?」


「なんかって?」


俺が聞き返すと、咲来はにんまりとしながら


「彼女できたとか?♪」


瞬間、病室のドアがガタガタッ!と揺れる。


「……風?」


そう言う咲来に、俺は


「見せたいものがある」


と言ってドアを開いた。


すると、


「わわっ!?」と神城が転びそになり、入り込んできて、仁井園はしっかりとドアの前に立ち、何も悪いことはしていませんけど?みたいな空気を醸し出している。いや仁井園さん、バレバレだからね?神城と二人して聞き耳立ててたのバレバレだからね?


ともあれ、二人を病室へ招き入れ、咲来に合わせる。


すると咲来はによによと笑いながら


「あらー♪ 悠利くん、これはこれは」


と親戚のおばさんみたいなリアクションをする。


「えと、えと、はじめまして、神城 美羽です」


「名乗れば?」


ちょっと仁井園さん?! 


「あ、白野 咲来です」


名乗る咲来をジロジロと見る。なので俺は言う。


「仁井園、おまえ何マウントとろうとしてんだよ」


言われて気づき、仁井園は


「む、昔からの癖よっ! その、悪かったわ…感じ悪くて、あたしは仁井園よ、仁井園 真理子、よろしく」


一通り挨拶が終わり、俺が二人を


「知人です」


と紹介すると、二人から総ツッコミを食らう。


「いや友達でしょ!そこは!」


「ほんとだよ!ほんと七五三田の羞恥心!」


神城さん、言いたいことはなんとなく伝わりますが、羞恥心は別に悪口ではないです。





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