第68話 旧友と再会すると、嬉しい反面何話したらいいかわからなくなる。
「……咲来……」
俺が名前を呼ぶと、彼女はこちらを見て
「久しぶり、悠莉…」
と言って少し微笑む。
当たり前だが、大きくなった咲来は、さらさらの黒い髪を風になびかせ、少し大人びた顔になっている。
「……」
俺が言葉選びに迷っていると、咲来から先に話しかけてきた。
「……悠莉、身長伸びたね」
「……まぁ、数年もたてばな…」
「ふふ、そうだね……」
会話はそこで一度途切れる。そして一瞬の静寂のあと、咲来は急に頭を下げた。
「悠莉、ごめんなさいっ!」
唐突な謝罪に俺がビックリしていると、続けて咲来はこう言う。
「あの時、ちゃんとお別れの挨拶できなかったからっ! それに、なんの連絡も……」
その言葉で俺は察した。
嗚呼……そうなのだ。コイツはコイツなりに悩んでいたのだ。意味深な言葉を残して去ってしまったこと。
理由はわからないが、それから連絡をしなかったこと。
この数年間、俺と同じように、ずっと過去に囚われていたのかもしれない。
「……いや、その…なんだ、あの頃は、おまえも精神的にまいってただろうしな……それより、その……俺の方こそ……」
"ごめん"と言おうとして、言葉につまる。
本当に、俺の謝罪は、謝罪になるのだろうか?あの時、あの瞬間、咲来を守れず、八方美人になりさがり、自信の環境を悪化させないことを優先した…。
あの時、俺がもっとコイツは悪いヤツじゃないと声を大にして言えていたなら、今とは違った世界があったかもしれない……。
それを出来なかった俺の謝罪は……。
悩んでいると、察したのか、咲来は言う。
「……悠莉、大丈夫。 悠莉は悪くないよ…あの頃はああ言う時期だったんだよ、それに、私が引っ越したのは……」
「……?」
「私が引っ越したのは、私の病気のせいだから」
「病気……?」
「うん、私ね、小さい頃から心臓が悪かったの。そりゃ、毎日辛かったし、悠莉にも申し訳ない気持ちでいっぱいだったよ…。無理させてるの、分かってたし」
「……いや、あの時、俺が…」
「ふふ、悠莉は昔から変わらないね」
「……は? 変わったぞ」
「そう? 変わらないよ」
「いや、ほら、世の中の汚さとか知ってきたし、なんなら人の事を騙すこととかも覚えた」
「ふふふ、でも覚えただけで、ろくに騙せもしないんでしょ」
「…っぐ…!」
「あはは、ほらね、変わらないよ、やっぱり悠莉は優しいままだ」
「……ほ、褒めてもな、なんも出ないからな」
「ふふふ、うん、知ってる」
「……そ、そうですか」
「うん」
……相変わらず、よく笑うヤツだ。そこに昔の、俺の前から消える前の咲来はいないように思える。きっと、俺がいろいろ体験したように、コイツもいろいろ体験してきたのだろう。その過程があって、今、笑えているなら…それは、きっと咲来が成長し、いろんな事を理解できるようになったからだ。
「……それで、いろいろ聞きたいことがあるんだが…」
「……うん」
「その、まず、橘とは…なんで…?」
「ああ、伯李? あの子とは高校で再会したの」
「……その、大丈夫なのかよ」
「あー……うん、今はね、あの子もいろいろあって、今では友達……? と言っても、私だけしかそう思ってないかもだけど」
そういって咲来は困ったように笑う。
「……いや、どうだろうな……結構おまえのこと、気にかけてるみたいだったけどな…」
「え? ふふふ、そっか……」
「……おぅ…てか、わざわざ俺の連絡先仕入れる為に、姑息な真似するくらいには、おまえの事気にかけてるだろ」
「あははは、確かに、そうだねー…あの子も不器用だから…」
「……まあ、そうな、本人は自分出来る子みたいな感覚でいるけどな」
「そう言うとこ、ちょっと可愛いよね」
……話を聞いていて、本当に咲来と伯李は和解したのだと思った。きっと俺なら、あんな目に合わされたら、ずっと恨み通すだろう。絶対に和解なんて有り得ない。
それが可能だったのは……きっと、この、白野 咲来と言う人物が、それだけ寛大であり、優しいからだ。
そんなことを考えていると、咲来が言う。
「……不思議?」
「……まぁな」
「ふふふ、正直、私も不思議。でもね、悠莉、世の中は運命ってのがあるのかもしれないよ」
「どう言うことだよ」
「うん、私ね、転校してきたとき、彼女を見たら、凄く嫌な気持ちになった。すごく、すごくね? 心臓がぎゅーってなって、また……って、不安になったの」
「まぁ、だろうな…」
「でもね、あの子、その時私の事どころじゃなくて…」
「……」
「その時は、あの子が、私側だった」
「……伯李が? アイツがその…」
「うん、あれだけ立ち回りのうまい子だったのに、周りは敵だらけみたいになってて、クラスは違ったんだけど、私のクラスにまで噂が回ってきててね、いろいろ言われてたよ、援交してるとか、薬やってるとか、男に媚びてるとか」
「……それ、だいたい合ってんじゃねぇの」
「こら、悠莉、そんなこと言わないの」
「……すみません」
「まあ、でも…あんな感じだからね、確かに噂は仕方ないのかもしれない……でも、ある日ね、私が昼食のパンを買って戻ろうとしてた時、伯李ね、非常階段のとこで泣いてたの」
「え、あの橘が?」
「うん、そこからかな……私と伯李が関わり出したのは……」
そういって、咲来は橘 伯李の置かれた状況を語り出した。




