第63話 全然期待とかしてないヤツが好成績をおさめると、そいつはダークホースと呼ばれる。
……さて、嘆いていても仕方ない。仁井園が何故アイツらについていっているのかと考えると、少し焦りのようなものを感じるが、まずは冷静に考えなければならない。
そもそも、つぶれたボーリング場って言われても皆目見当がつかない…。ってか、本当なんでアイツ自分のいるとこわかってるていで話してんの?そんなことを考えていると、先ほどから横にいた神城が声をかけてくる。
「…七五三田、その、なんかあったの?」
「え?」
「いや、なんかすごい珍しく真剣な表情だから……」
いや、珍しく真剣てなんだよ、俺はわりといつでも真剣ですよ。……うん。たぶん、きっと?……あんま自信はないけど…。
「えっと……聞いたらダメなヤツなのかな?」
神城は少し困ったように笑いそう言う。……聞いたらダメと言うか、仁井園の気持ちを考えると、これは話していいものなのかがわからない。……しかし、正直"つぶれたボーリング場"と言うのを探すのには、時間がかかりそうだ。人手はあった方が良いだろう。でも、仁井園のいるような危険なところに神城をつれていけるか…?俺が悩んでいると、神城が
「えっとね、七五三田…」
「ん?」
「そのね、私には今二人に何があってるのかわからないし、邪魔しちゃいけないのかもしれない……だから、もし邪魔なんだったら言ってくれたら、ちゃんと素直に帰るよ。……でもね? もし、もしも二人が困っているのなら、私も力になりたい……私には何も出来ないことなのかな?」
神城のその言葉を聞いて、俺は改めて思う。
そうだ、神城 美羽と言う人間はこういうヤツだ。たまに無神経なことを言ってしまったり、怒ったりするけど……前に仁井園と公園でも話したように…こいつは、こういうヤツなのだ。
優しいヤツなのだ。だが、やはり、だからこそ、神城を今からいくような危険な場所へはつれていけない。
「…神城、ありがとな。だが、おまえを連れてはいけない」
俺がそう言うと、神城は少しショックを受けたような顔をする。そして、
「そ、そっか……そうだね、ごめんね、余計な……」
「いや、神城、君は勘違いをしているよ」
「……へ?」
***
学校を出て、全力で帰り道とは逆に走る。道行く人々が何事かと振り替える。
『……神城、おまえは連れてはいけないが、力を貸してほしい……その、この辺でつぶれたボーリング場ってどこにあるかわかるか?』
『え…? それってジョイパ…?』
『……いや、パスタ屋じゃなくてだな』
『え?なに言ってんの七五三田、それはジョリパ、ジョリーパスタでしょ? 私がいってるのは、ジョイナス・パーティーって言う、高校はいる前くらいにつぶれた、ゲーセンとかもある複合施設だよ』
『……いや、バカ、わざとだよわざと』
俺は目線をそらしながら照れ隠でそう言う。すると、神城は少し笑って真剣な顔をした…。
『七五三田……真理子をお願いね……』
『……おう』
―――――とまぁ、そんな感じでつぶれたボーリング場を聞いた俺は、全力で走ってそこへと向かう。別に…足が早いわけでもないし、昔の俺ならきっと…そんな危険な場所まで、しかも走って他人の為なんて考えられなかっただろう。
それでも、今は知ってしまった―――――。
1人でいるよりも、他人といた方が気持ちがはずむこと。
1人でいるよりも、そいつらといた方が嫌なことを考えないですむこと。
1人でいるよりも、暖かいこと。
1人でいるよりも、心強いこと。
………仁井園は、今、1人だ。ならば、きっと強がっていても心細いはずだ。これは俺の憶測にすぎない。それに、仁井園自信が俺になにも言わなかったのだ……邪魔かもしれない。それでも、理屈や先の事なんかどうでもいいと思えるほどに、友人と言ってくれた彼女を――――――
――――――俺は救いたいッ!!
「はぁ……はぁ……ここか…」
俺はマップアプリを見て確認する。するとちょうど
「"目的地は、左側です。お疲れ様でした"」
とアプリに労われ、俺はスマホを閉じて、その施設を見上げる。見たところ三階建てくらいで、立体駐車場もついているようだ。
「さて……で、この施設の何処にいるんですかね……」
呟いて、これから起こるであろう自信への出来事を想像してしまう。俺は頭を降り、「ま、慣れてることだろ」と自分を励ますと、中へと足を踏み入れた。
***
【仁井園 真理子】
連絡がきたのは、七五三田達と昼食を終え、教室へと戻ろうとした時だった。1通のメッセージが私に届いた。
《真理子、今日の15時までにジョイパに来い。じゃないと家いくからな》
とうとう恐れていたことを、言われてしまった。終わりにしたい一心であたしは一言、《わかった》とだけ返す。この事を七五三田に、伝えようか?と思ったけど、何から何まで頼ってしまっては、彼に依存してしまいそうで……あたしは一度自分で話をしようと決め、教室でお弁当箱をなおすと、すぐに学校を出た。
すると、その直後にもう一通……知らない相手からLINEが届く。
《真理子ちゃん、ジョイパ行く前に、三丁目の歩道橋に来て》
《だれ?》
あたしがそう返すと……
《橘 伯李でーす♪》
***
【七五三田 悠莉】
とりあえず中へと入る。秋風が吹き抜け、薄暗い廃屋内に小さな物音をたてる。
「……いや、ちょっと、怖いんですけど…」
何?肝試しなの?てか、あれだけ騒がしそうな連中がいるはずなのに、静寂がすぎるんですけど……だいたい、悪の拠点と言うヤツは、ファンタジーとかだと、山賊とかが焚き火囲んで酒飲んでギャイギャイ言ってるいるようなものだが、いかんせん誰もいないような感じである。
俺は不信感を抱きつつ歩みを進めていく。
「てか、これ場所違うんじゃないのか……?」
そんなことさえ考えだし、階段をあがって二階へと上がる。すると、かつては賑わい、カップルや友人、家族なんかがこぞって玉を転がしたであろうボーリング用のホールが目の前に現れた。そして、その受付近く……
「橘………伯李……」
俺が呟くと、橘が気付き、こう言う。
「あ、七五三田くん、おっそ~い」
「なんでおまえがここにいるんだよ」
それと………
「九十九……」
「やぁ、七五三田くん」
辺りを見渡すが、他に人影のようなものはない。
(仁井園は…?)
状況が飲み込めない……。
「俺は内田とか言う人に呼ばれてきたんだけど…てか、仁井園は?」
俺がそう言うと、橘はニコニコとしながら
「あー、もうその人達はいないよ、伯李がおっぱらっちゃった♪」
「…は?」
どういうことだ?聞こうとする前に九十九が答える。
「伯李が警察を呼んだんだよ…それで、事情を聞くのに彼女はつれていかれた」
「は? マジで言ってんの?」
「そうだよ~、伯李が助けてあげたんだから♪」
「……仁井園は無事なのか?」
「あたりまえじゃん、だって私だよ?」
いや、だから心配なんですけどね……。てかなんで俺はちょっとホッとしてんだ……そう考えたとき、胸がチクリと痛んだ。
「ねぇ、七五三田、ヒーローは駆けつけるのが遅すぎるね♪」
「…何が言いたいんだよ……」
「別に? まあ、七五三田みたいなのが、なんの策も弄さずに丸腰で来たってのがちょっと意外だっただけ……」
「……逆に、どんな準備したら良かったんですかね…」
「伯李みたいに頭を使って、自分じゃなくて警察にいかせればいいいじゃん♪」
もちろん、そんな事は考えた。むしろその後の民事裁判までちょっと意識してたからね、まあ、それをしなかったのは……たぶん、仁井園は大事になるのを避けたがると思ったからだ。しかし……悔しいかな、確かに俺はここに来て謝ることしかできなかっただろう。
もしも、仁井園になにかあったら?
もしも、謝るだけではすまなかったら?
考えれば、考えるほどに、橘が正論を言っていると自覚させられる…。
じゃあ……なぜ、俺はそれをしなかった……?
仁井園が、大事になることを避けたいと思っていると勝手に想像したから……?
神城に、仁井園を頼むと言われたから……?
いや、違う……俺は無意識に恐れたのだ――――。
仁井園 真理子の意思に反した対応をし、彼女に"嫌われてしまう"可能性を……。
今、手にしてしまった…環境を、温もりを…失ってしまうのではないか?と、恐れたのだ。
と言うことは…つまり、それは……
そんなことを考えていると、橘に言われる。
「ねぇ七五三田…当ててあげようか? 七五三田がそうしなかった理由…」
「……っ」
「それはね、君が自己中心的な人間…だからなんだよ♪」
他人に言われ、はっきりと浮き彫りになる自分の欠点……。白野 咲来の時から、自信で痛いほどに戒めてきたはずの欠点…。
そうだ、俺は一見、他人の為に動いているように見えるが、それは……自分の利益の為だ……。俺は、あの時から…何一つ変わってなどいない……最後に守りたいのは…
「自分……なのか…」
呟いたあとに見た、橘は夜風に髪を揺らし、今しがた上った月に照らされ、少しだけ…妖艶に見えた……。




