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第55話 そして青春(セカイ)は動き始める―――。

【七五三田 悠莉】


――――『白野 咲来さんって知ってる?』


神城の口から出た、まさかの幼馴染みの名前に、一瞬思考が追い付かない。そして、名前を聞いた瞬間に……


あれだけ気にしていた咲来の事を、最近は思い出さなくもなっていたことを、思い知らされる。


「え…っと…」


なんで神城がその名前を知っている?まさか知り合いなのか?咲来の居場所も知ってるのか?じゃあその場所を聞いてみる?聞いてどうする?俺はどうしたい……?俺は――――



―――――白野 咲来に会ってどうしたい――――?



いろんな事が頭を駆け巡る。きっと、現実では僅かな時間……それでも、俺の頭は、いっきに思考する。と、


「えと………七五三田…? ごめん、大丈夫?」


神城に呼ばれ、ハッとする。瞬間、菜衣子も俺の顔を覗きこむ。


「悠莉くん、顔色悪いよ……?」


「いや……そんなわけ……ないだろ…普通だよ…」


脈が早くなり、かるく冷や汗をかいている……それは自分でもわかる。わかるのだが、何故そうなったのかがわからない。白野 咲来は幼馴染みであり、橘 伯李とは違い、出会っても「よ、久しぶり」くらいに声を掛け合える存在……そんな、当たり前の旧友……そのはずなのに、何故だ?


何故俺は……白野 咲来に、"恐怖"を覚えているんだ?


忘れていた罪悪感…? いや、忘れていたか……?俺は本当に忘れて"いた"のか?


神城と言う存在、仁井園と言う存在、それらに甘えて………無意識に"忘れよう"としていたのではないか――――?


そんな風に考え、神城の質問にいつまでも答えられずにいると、神城が


「えーっと………ほんとにごめんなさい、私、こんな風になるとは思わなくて……」


そう言って、どうしたら良いのかわからないと言った様子だ。違うんだ神城……おまえは何も悪くない。何も悪くないんだよ……


「いや、なんだ……その、うまく言えないんだけど、神城からその名前が出るとは思わなくてな……ちょっと驚いただけだ」


話をしていると、過去に菜衣子に言われた


『美羽ちゃんは、咲来ちゃんの代わりにはならないよ』


あの言葉がフラッシュバックする。菜衣子の言った通り、俺は……神城に咲来を重ねていたのかもしれない……容姿に似ているところはないし、性格だって違う……


だが、1つだけ似た状況があった。それは………


仁井園 真理子との対立だ。彼女もまた、"仲間外れ"にされていた。咲来もそうだ。


俺は、そんな神城を救うことで、咲来への罪悪感を埋めようとしていたのではないか――――?


ならば、この……神城に対しての信頼や、安心感は……?



初めて、『友達』と思えたあの感覚は………?


「神城………」


「は、はい……」


「おまえは俺の……その、なんだ……と、友達……だよな?」


「え…………う、うん」


俺と神城のやり取りを見ていた菜衣子が


「いや、それなんの確認? 悠莉くん意味わからなすぎるから…咲来ちゃんで動揺しすぎ」


「ば、バカ野郎! お兄ちゃん動揺とかしてないから、超COOL、ごめん、発音が良すぎた」


「――っぷ、なにそれ、ははは」


神城が笑う。凍り付こうとしていた空気が、ゆっくりとほどけていく……これはおとなえさんグッジョブ。神城の笑顔を見て、少し謎の安心感を得た俺は、神城に話の続きを促す。


「白野 咲来……咲来は俺の幼馴染みであり、初めての友人なんだ。その、なんで神城が咲来を知ってるんだ?」


「えっと……伯李さん……だっけ?」


「橘……」


「うん、あの子がね、七五三田に言ってみてって……その、白野 咲来さんが、帰ってきてるって……」



俺は、もう一度固まった。


(帰ってきてるって…どう言うことだ…?)


***


【橘 伯李】


『おはよー』『はよー』


高校に入学して間もない頃。挨拶を私にするヤツはいない。だけど、そんなのは問題じゃない。だって高校なんて私の未来への通過点にすぎないから。周りがどう言っていようが関係ない。私は私の道を行くのだ。しかし――――


―――ドンッ


『あ、ごっめ~ん 伯李ちゃんいたんだ~? うざすぎて視界から消えてた』


わざと私の机にぶつかり、私のモノを落とす女子、そしてそれを面白そうに笑う奴ら。


『ぶはっ、なにそれウケんだけど』


私は黙って落ちたものを拾い、机にあげると、こう言う。


『えー、なにもいないのにモノ落ちたんだけど、ポルターガイスト?伯李超こわ~い』


『は? おまえ何シカトこいてんだこら、腐れビッチが』


そう言って私の胸ぐらをつかむヤンチャな女子。だから私は言うのだ。


『誰を敵にまわしたか教えてあげるね♪』――――。


数日後、彼女は私に"敬語"を使うようになった。簡単なことだ。


人間には二種類いる。自分を傷つけられて嫌がるヤツ。または、自分の"せい"で他人が傷ついて嫌がるヤツ。私はそれを知っている。彼女は後者だった。だから彼女の弟に手をまわしたのだ。人間は賢い方が強い。


喧嘩は力だけではなく、頭の良い方が勝つ。これは私の持論だ。それから私は、コネややり方でどんどん周りを掌握していく。そして、数ヶ月後には、逆らうものはいなくなった。そんな居心地のいい世界に、一人の転入生がやってきたと噂を聞いた。


どんなヤツか把握しておく必要がある。そう考えた私は、その子のクラスを覗いてみる。すると――――。



『ふーん……懐かしい~…帰ってきたんだ…白野 咲来……』




そう呟いた私は、この時、この白野 咲来に大きな借りを作り、救われることになるとは……思ってもいなかった――――。












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