第52話 世の中とは、自分の周りだけで回っているわけではなくて、他所でもいろいろおきている。
………気まづい。公園のベンチに座り10分ほどが経過した。橘と神城は未だ戻らず、となりの九十九とか言うヤツも、はじめは自己紹介をしていたが、俺とでは会話が弾まないらしく、なにか考え事をしているような感じで、溜め息ばかりついている。ちょっと幸せ逃がしすぎじゃないんですかね?そんな事を思っていると、九十九が口を開く。
「……七五三田くんは、あの子と付き合って長いのか?」
「……あの子?」
「ほら、君がつれてた」
「……え? ああ、神城か……神城とはそんなんじゃないぞ」
「へ? そうなのか、見た感じ彼女かと思ったよ」
え、マジで?俺もとうとう陰キャから、一般男性的な認識をされるようになったのだろうか? っていや、陰キャも立派に一般男性ですからね?まぁ、なんだ。ここは見栄張っても虚しいだけなので、しっかり誤解はといておく。
「いや、ほんと、違うから」
俺がそう答えると、九十九は少し困ったような顔をしてこう言う。
「……怒ってる?」
「え?」
「え?」
***
【神城 美羽】
あの時―――
夏期のボランティア活動の時、彼女は七五三田に酷いことをした。そんな子と一緒に……
「なんで私ここにいるんだろ……」
私がそうこぼすと、自販機でジュースを物色しているその子は
「なにそれ哲学? ウケるー」
と言いながら、炭酸の強いジュースを選んでボタンを押した。ガコン、と、ジュースが出てきて、それを彼女が拾う。そして彼女はその場でそれを開けると一口飲んだ。
「……ふぅ、あー、もうほんとめんどくさい。つぐみしつこすぎ……ってか、ねぇ、えーと……」
彼女は私をみて、なんと呼ぼうか悩んでいる様子だ。しかし、この間の事を思うと、素直に自己紹介をするような気持ちにはならなかった。そんな事を考えていると、彼女は私の胸元をみて
「おっぱいちゃん、おっぱいちゃんは…」
とか言い出した。私は咄嗟に
「神城」
「え?」
「名前、私は神城 美羽だから、おっぱいちゃんじゃない」
「え?……あ、そ。てか早く言いなよおっぱいちゃん」
「だから……っ!」
いやダメだ、ここで彼女のペースに巻き込まれてしまうと、なんか疲れてしまう気がする。そう考えた私は、ため息をついて、「で、なに?」と話を変える。すると彼女は
「いや別に、貴女って七五三田と仲いいんだなぁ……と思って」
「……だからなに?」
「アイツキモくなーい? なんか暗いし、猫背だし、頭モジャモジャだし、たまにニヤニヤしてるし」
………ごめんなさい七五三田、100%の否定が出来ない……っ!
「そうかもしれないけど、私は別にそんな事気にしないし」
「え? 周りがどう見てるヤツだからとか思わない? 普通は思うでしょ? はくりはあんなの絶対無理、よく隣歩けるよね」
なんだろう?何故そこまで七五三田が言われなきゃならないんだろう?……なんか、昔からの知り合いみたいだけど……絶対に良い関係性ではなかったはずだ。そんなのは彼女の七五三田の扱い方を見たり、話を聞いたらすぐに分かる。それに七五三田は確かに少しおとなしいかもしれない……でも………だからこそ、私は胸を張って言わなければならい。
「私は七五三田の隣が好きだから、別に気にならない」
「……え? 嘘でしょ? まさか、おっぱいちゃん、七五三田の事好きなの?」
幾度となく自分自身に聞いてきた質問をされる。答えなんてわかりきっている。私は彼の事が――――
「好きだよ」
軽々しくこの子にこんなことを言うのは、危ないかもしれない。でも、彼女があまりにも彼を否定するので、私は彼を肯定してあげたかった。守りたかったのだ――
「うわ、マジ?ライクじゃなくてラブの方? マジ?」
「そうだよ」
「えー……七五三田だよ? つか、男なんて星の数ほどいるじゃん、芸人も35億とかいってんだよ? はくりは絶対あんなスペック低いのなんかより、もっとエリート選ぶけど、おっぱいちゃん可愛いし、おっぱいちゃんもそうしなよ」
「それはあなたが勝手に選べば良いよ、私は何億とある星の中でも、その星がいいの。他の星じゃダメなんだよ、七五三田 悠莉って言う、暗いし、猫背だし、頭モジャモジャだし、たまにニヤニヤしてるような人だけど、怖くても勇気を出してくれて、ちゃんと守ってくれようとする………私は、そんな七五三田がいいんだよ、だから、あなた……伯李ちゃんが七五三田をバカにするのは、正直不愉快だよ」
私がそう言うと、彼女は
「……へぇ…そう」
とこぼしただけだった。もうちょっとなにか言われるかと思ったけど、そのあとはすぐに「戻ろうか」と言って踵を返した。
***
【七五三田 悠莉】
「で、えっと……」
「つぐみでいいよ、七五三田くん、同い年だろ」
「……九十九は橘とあんな感じになったんだ?」
「ははは、七五三田くんってよくひねくれてるって言われるでしょ?」
「……で、なんであんな感じになってたんだよ」
俺がそう言うと、九十九は「ははは」とかるく笑って、少し間をおき、話を始めた。
「ちょうど三日前だ。伯李は……学校で殺されかけたんだよ」
「…………え」
なのそれこわっ! 思ってたのよりだいぶシリアスな話題ぶちこまれてきたんですけど、こわっ!なに?痴話喧嘩とかじゃねぇのかよ、民事どころか刑事事件ばりの内容なんですけどそれ。お巡りさんここです!!




