第49話 自分で思っているより、我々は自分の事をよく知らない
「お、おまえ一緒にお風呂入ろって……」
俺が冷静にそう言うと
「え……悠莉くん何言ってるの……きもい」
「え七五三田何言ってんの……きもい」
酷くない?言い出したの神城じゃん!
「いや、普通に考えてそれはないよ悠莉くん、しかも少しニヤニヤしてたきもい」
「そうだよ七五三田、私はなえちゃんに言ったんだよ? きもい」
酷くない!? てか、そんなニヤついてましたかね?俺的には超冷静に事にあたったつもりなんですけどね……………そんなきもかったかな?
「ば、バカ! 冗談にきま、決まってるだろ!」
「あ、今右に目そらした」
「あ、それ美羽ちゃんも気づいてるんだね」
「え? うん、だって七五三田……嘘つく時に、視線を右にながすんだもん」
「え? マジ?」
いや、マジか…自分で気づかない仕草を相手が知っていると言うのは、なんかちょっと見透かされてるようで複雑な気持ちではあるが…って見透かされてんだろコレ。そんなことを思っていると、菜衣子が
「ね、悠莉くん分かりやすいよね」
「うん、あと七五三田ってくしゃみをするとき、一回『ふっ』て言うよね」
「……いや、さすがにそれな…」
俺が否定しようとすると、菜衣子がすぐにわって発言をする。
「あー! するする! 『ふっ』てなんか吸う音だよね?」
え、マジかよ、全然知らねぇわ…自分の事なのに……
「そうそう! さすがなえちゃん! やっぱ気づいてたんだね! じゃあさじゃあさ――――」
―――で、何分人の癖の話題でもりあがってんですかね? かれこれ10分ほど二人できゃっきゃ♪しておりますが、お腹もすいたし、お風呂も早く行きなさいよ、お湯覚めちゃうし…
そう考えていると、ようやく談笑に一段落ついたらしく、笑ってた二人は揃って「はーっ!」と満足げにいってから、「じゃあ私達お風呂はいってくるね」と言って浴室へと向かっていった。女子って不思議、こんな陰キャでもりあがれるなんて…
***
【神城 美羽】
なえちゃんと一頻り盛り上がったあとに、お風呂へとはいる。脱衣場で服を脱いでいると、胸元に視線を感じ、私はなえちゃんを見てみる。すると
「……どうしたら………そんなおっぱいになれますか……?」
なえちゃんは自分の胸を両手で隠しながら、羨望の眼差しっぽいモノを向けてそう言ってきた。
「……えっと…」
こう言うとき、ちょっとだけ困ってしまう。
「年……を重ねれば……?」
「……ほんと? 私調べたら、思春期から成人期で大体の大きさが決まるって書いてたのね? だから、早い内に対策とってないと、うちのお母さんはBカップだから、遺伝の影響受けちゃうんじゃないかって思ってて……影響事態は3割~4割らしいんだけど、確率的に言えば、30%以上はそうなるかもしれないってことでしょ? だから美羽ちゃんみたいにしとけば大きくなるんじゃないかって……」
「へ、へぇー…そうなんだ」
(こ、これが七五三田の言っていた"おとなえさん"なのかな…? めちゃくちゃ博学って言うか、達観?してるって言うか…なんかすごい)
「――――やっぱりエストロゲンが…って、美羽ちゃん聞いてる?」
「へ?! あ、うん女性ホルモンのことだよね?」
そんな話をしたあと、二人で浴室へとはいる。なえちゃんが「背中流したげる!」と言ってくれたのでお願いすると、一生懸命に洗ってくれた。その姿をみていると、先程のなえちゃんが嘘のように可愛く見える。
そのあとは、私もお礼にとなえちゃんの頭を洗ってあげた。そして二人で湯船へと浸かる
「「はー……」」
二人でゆるいため息をはく。
「……てか、思ったんだけど、美羽ちゃんってさ」
「ん? うん?」
「悠莉くんのことすごい見てるよね」
――――ドキッ
なえちゃんの一言に、心拍数があがる。
「そ、そうかな?」
「うん、だって普通人の事ってそんな見ないじゃん?」
「そ、そんなことないよ! ほら、人間観察とかする人いるじゃない?」
「美羽ちゃん、違うよ、だって美羽ちゃんの趣味は人間観察じゃないでしょ?」
「わ、わかんないよ? 実は人間観察が趣味かも!」
「じゃあ、今日買い物行った時にレジに並んでいた人の中で、3つ前の人の靴の色は何色だった?」
「え………」
「見てないでしょ? その人がすごく個性的であるとか、なんとなく下向いて視界に入ったとかなら、それこそ"なんとなく"覚えてたりはするだろうけど、美羽ちゃんみたいに"悠莉くん…七五三田は"って発言が出きるってことは、何回もその光景を目にして、確信をもって発言してるってことだから、意識して見てないと、目にも止まらないような出来事なんだよ………」
「………そ、そうかな……?」
お、おとなえさん怖いよ! 七五三田があるとき学校で言っていた
『ああ、菜衣子はな、アイツは将来弁護士かなんかになると思うわ』
「つまり、何を理由に美羽ちゃんが悠莉くんを意識して見てたか……ってとこなんだけど……」
「なえちゃん、あがろうか! 長湯するとおっぱい大きくならないよ!」
私は彼女の尋問に耐えられず、そそくさと湯船からあがる。
「ほんとに!? 美羽ちゃん待って!」
そう言ってなえちゃんはあとをついて上がってきた。
………七五三田、彼女は将来、いい弁護士になると思うよ!
私は心のなかでそう言うのだった。




