第44話 花火とは、その花火を見る時の感情によって、美しかったり儚かったり楽しかったりする。
退院してから数日が過ぎた。
ギグスやニキにお別れが言えなかったと思ったが、何やらアイツらはこっちの学校にかよっているらしく、神城と仁井園が連絡先を交換したらしい。
(どうりで偉く流暢な日本語話すなとは思ったんだよ……。)
さて、それからなのだが、本日は神城の家にお泊まり……ではなく、その前に約束していた仁井園との花火である。てか、最近思うことがあるのだが…二人は個々に俺を誘ってくる事が増えたように思う……少し前なら神城は仁井園がいるときにお泊まりの話を持ってきただろう。と、言うことはだ、神城は仁井園に聞かれたくない話があると推測できる。恐らくわざわざ呼んでまでするのだから長くなる話なのだろう。……ってそれまた仁井園がらみなんですかね?とりあえず今日、然り気無く仁井園に話をふってみるか……。
ちなみに、泊まりは菜衣子もお呼ばれしているらしい。俺なんかより菜衣子の方がうまくアドバイスとかできそうな気がする…さすがおとなえさん。
そんな事を考えていると、待ち合わせ場所であるコンビニにたどり着く。きっと漫画とかならば、待ち合わせ場所と言うものは、神社の入り口ですとか、その周辺の時計台ですとか、なんか風流な感じの、THE 夏祭り なシーンでここいらで1つシナリオ的にイベントおこりますよ感とかだしちゃうんだろうけど、生憎とこちらは町中であり、しかも河口の河川敷から港にかけて行われるそこそこデカい祭りである。当然待ち合わせは町中の涼をとれる場所となるだろう。
となるとだ、立ち読みができ、飲み物も買える。そんなスーパーオアシスコンビニが妥当なところではないだろうか?……え?普通女の子は迎えに行く?残念だがそれは既に断られたあとである。ちゃんといったよ?迎えに行こうか?って、そしたらアイツ……
『……え? いや、いい。そこのコンビニ徒歩1分だし』
と言う理由で断られました。まぁアイツの家からすぐだしね、きっと逆に気を使ってくれたのではないだろうか……?
それから、コンビニで待つこと数分、ウズベキスタンの国旗みたいな色合いのコンビニ特有のチャイムがなり、そちらに目を向けると……
「ごめん、待った?」
「………」
「いや、なんでシカト?」
「………え、あ、いや……」
「目ぇ反らすなしっ」
パシッと、仁井園は持っている巾着で軽く俺をはたく。……いや、なんと言うか……ビビるくらい浴衣の似合うヤツである。自慢の黒髪をうまく束ねて上でくくり、折り鶴の髪止めが揺れるとキラキラと輝く……浴衣は紺色に百合の花のようなものが描かれているのだが、なんと言うか……超大人っぽい。
「いや、浴衣すげぇな……」
「………え? 変?」
「いや、マジで誰かと思うほど違って見える」
「………アンタ、それ褒めてんの?」
「……超褒めてるけど」
「あっそ、ならばよしっ!」
と言って仁井園はニッと笑う。そして「行こうか?」と言うと、何故かガムを購入し、コンビニの外へとでた。
「……おまえ、コンビニのトイレとか借りたら何か買わないと落ちはつかないタイプか?」
俺は歩きながら仁井園に尋ねる。
「え、なんでわかったの?」
「いや、だって今ガム買ってたじゃん。飲み物とかじゃなくて、だからその手のタイプかな?と」
「…え、でもなんか買わないと悪くない?」
「……いや、まぁ人それぞれだからな、俺は別に買わないし」
「申し訳なくならない?」
「別に、他の日とかは買ってるし、買わないことあってもいいかな?って、だって義務じゃないし」
「……アンタ…」
「なんだよ、てか俺としては、おまえがそんな事を気にするタイプだったって方が意外だけどな」
「どういう意味よ」
……ん?あれ?これ言わなくて良いこと言っちゃった感じになってますね。いや、だってほら、普段ズケズケ行くからそんな事とか意識してなさそうと言うか…って続けちゃいそうだけど言えねぇえっ!だってこれ「おまえガサツじゃん(ニッコリ)」みたいに遭おってんのと変わらないじゃんっ!よし、ここは
「……イカ焼きとか、うまいよな」
「は? 何急に」
「いや、腹へったなって」
「……話そらそうとしてない?」
バレておりましたか……。
「まぁいいけどね、どうせ普段ガサツだからとか言いたいんでしょ」
「なんだわかってんのかよ」
やべっ、いてっ! また巾着でぶたれました。何やってんだ俺……。それから、歩くこと10分弱、なんやかんやで会場に到着したのだった。
「……てか、人多くね?」
「うわ……マジじゃんこれ花火どころじゃないかも…」
「とりあえず始まる前に食料調達するか」
「だね、喉乾いたし」
それから屋台巡りを始める。しかし人が多い……これははぐれたら面倒である。それに…
――――カランコロン
仁井園は下駄だ。俺は立ち止まり振り返る。
「ごめん、遅くて」
「…気にすんな、足がそれだと歩きづらいのは仕方ないだろ」
「……」
仁井園は目を丸くして俺を見る。
「な、なんだよ、今のは悪いこといってないからなっ」
また巾着スイングが来るんじゃないかと思い、予防線をはる。いや、別に痛くないんだけどね。
「いや、ちゃんと見てるんだなと思って」
「は?」
「いや、足元とか」
「……ああ、まぁ見てるぞ、これから共に行動するわけだからな、何かと配慮ってもんはいるだろ?……え?それがなに?どうかしたの?」
「……ちょっと関心した」
「どういう意味だよ」
「知らね」
「は? なんだそれ」
「さっきの仕返し~」
そう言って仁井園はベッと舌を出す。なにそれ可愛い。それから、屋台を回って適当な場所を見つけて座る。
「ぼちぼち時間だね」
仁井園はスマホで時間を確認すると、それを巾着になおし、空を見上げた。こうしてみると、本当にコイツ美人だな。そんな事を思いながら、俺も空を見上げる。そして、ずっともっている疑問を仁井園にぶつけた。
「なぁ、なんで今日、神城は誘わなかったんだ?」




