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第41話 男には、負けるとわかっていても戦わなければならない時がある。

「つかなに? アンタら集団で七五三田に何してるわけ?」


仁井園が言うと


「えー? 久しぶりに再会したからぁ、ちょっと話してただけじゃん、ねー?」


橘はそう言い、周りと俺に同意を求める。顔は笑顔だが、その奥には「余計な事言うなよ」とでも言わんばかりの表情も見えかくれしている。


「……再会…? それがなんで取り囲んで一人をいたぶってるような構図になってるわけ?」


仁井園の状況確認に、橘は


「……っち」


と舌打ちをして


「えー、てか、貴女あれじゃなーい? 七五三田の事かばいすぎ? なに? 好きなわけ?」


「……。」


……え? なんで仁井園黙ってんの? しかし、表情は変わらない。すると神城が


「……ねぇ、てか、なんで七五三田にそんなことするの? 私さっき見てたけど、そこの子、七五三田の背中押して、無理矢理そこに立たせたよね?」


と言って、俺に『はやくいけよ』と言った女を指差す。するとその女が


「は? つかおまえウザくね? いきなりしゃしゃんなよ、さっきまで黙ってたくせに」


と神城を睨む。……これはまずい。俺の過去の産物に神城や仁井園が巻き込まれている。こんなのは間違いだ。これを精算するのは俺だけでなくてはならない。何故なら俺がまいてきた種だからだ。関係のない二人は、俺の知人だと言う理由だけで今現在危険にさらされようとしている。


こちらは3人、相手は5人。うち男が3だ。ここで喧嘩が悪化し、もしも二人の女が男を頼り始めたら勝算はない。きっと俺なんかひとひねりだろう。でも………


仁井園も、神城も、そんな事は分かっているはずだ。分かっているはずなのに、橘 珀李とその仲間達に啖呵を切ったのだ。それが何故なのか……俺はもう分かっている。きっと、同じ状況を見たなら、ビビりまくり、超絶キョドりながらだろうが、俺も、この二人と同じ行動をとったかもしれないからだ。


そんな事を考えているうちに、話は進んでいき、とうとう橘が、俺の前に立つ男に、


「ねぇ大善(だいぜん)、この子ほんとムカつくー」


と話しかけた。直接言葉にはしていないが、これはこの男に仁井園をどうにかしろと言っているようなものだ。男は


「は? ったく仕方ねぇなぁ…」


とか言いながらも仁井園の方へと移動しようとする。その先に、仁井園がいる。彼女は表情を変えずに、腕をくみ、ずっとその男を睨んでいる。しかし、俺は見逃さなかった。彼女の指先がかすかに震えているのを――――


――――こいつを、いかせてはならない。


自分のせいで巻き込んで、自分のせいで二人を危険にさらしている…っ!そのうえ彼女達に何かあったら、俺はもうそれこそ死んだ方がましだっ…!


恐怖がのしかかり、言葉が上手く出てこない…体が動かない…っ!


怖い。


超怖い。


だが、きっと仁井園や神城は、もっと怖いはずだ。


俺は、震える膝を隠し、仁井園のもとへ向かう男の腕を掴み、コチラを向かせた。


「お、おまえの相手は俺だから…」


俺がそう言うと、男は振り返り


「…って!…あ"!? 声小さくて何言ってっかわかんねぇんだけどッ?!」


と怒鳴りちらす。


マジ怖い。なんだこれ超怖い。つかそんな大声出さなくても俺はアンタと違って聞こえるんですけどね…そんなことを思っていると、男は


「ってー…つか腕はなせやっ!」


と言って、腕をふり、振りほどこうとする。しかし、ここで離すわけにはいかない。俺の手はぶんぶんと振られ、手が離れそうになるが、咄嗟に腕を絡め、それを阻止した。次の瞬間――


―――ゴッ


と言うおとが聞こえたかと思うと、頭に衝撃が走る。そして簡単に腕をほどかれ、次は髪の毛を捕まれる。そのまま上を無理矢理向かされたかと思うと、次は右頬に衝撃が走った――――


―――ドザッ


と、俺は派手に床へと転がる。


「七五三田っ!!」


仁井園と神城の俺を呼ぶ声が聞こえる。ってか、口の中が鉄の味する。これ絶対切れてる超痛い…っ!しかも頭がじんじんと熱くなってくるし、だが、それでも、今俺が二人に言わなきゃならない事がある。


「おまえら早く逃げろっ!」


俺は精一杯そう言いながら立とうとすると、今度は無理矢理たたされ胸ぐらを捕まれる。そして男に引き寄せられ、


「おい、コラッ! 弱ええ癖に女の前だからって調子のってんじゃねぇぞタコッ!ゴルァ!」


「……はは、タコじゃなくて人間なんですがね」


ひきつった笑顔でそう言うと、男は


「あ? うるせぇボケッ!」


と、今度は腹に膝を入れられ、「ゲホッ!」と言って俺はその場にうずくまる。そのあと背中や頭を何度も踏むようにして蹴られる。


そしてその途中、大善とか呼ばれていた俺を殴る男を他の男どもが止めて、なにやら話をし、急に逃げるようにして引き上げていった。


「七五三田……!」


神城の声が聞こえる。近くに来て、俺の頭をさわる。


「ちょっ……血っ!」


今度は仁井園の声。つか仁井園さん、人間の頭は血管多いから軽い傷でも結構血がでるんですよ。てか、おまえら逃げなかったのかよ…。おまえあのまま続いてて、俺がなんもできなくなったらどうするんだよ、危なすぎるだろ…と、口にしたいが、痛くて喋れない。


「はぁ…はぁ…」


俺が一生懸命息をしていると、神城に


「七五三田、頭あげられる?」


と言われ、頭をあげる。首に痛みがあるが、動かせない訳じゃない。すると、神城が膝枕をしてくれる。憧れていたそれが、こんな形で実現するとは……


「はい、水!」


仁井園が自販機で買った水を神城に渡し、それをハンカチにかける。


「七五三田、ごめんね、しみちゃうかも」


そう言って神城はハンカチで俺の口許をぬぐった。てか、これ神城の足、血まみれになるんじゃ……とか考えていると、先生がやってくる。なるほど……神城か仁井園が電話してるのを見て、アイツらは慌てて逃げたわけか。


なんにせよ、二人が無事ならソレで良い。あとで巻き込んだことを謝らないとな……


***


「ほんとすみません…」


「いやいや、コチラも私がついていながら申し訳ありません」


うちの母と四月一日先生が交互に頭を下げる。


「それでは、私はこれで…」


「はい、ありがとうございました」


市内の病院。一応、頭も殴られたので検査の為につれてこられてしまった。動けたので救急車ではなくタクシーで来たのだが、乗り込む時にしゃべらない俺を不安そうに見ていた二人が頭によぎる。


「悠莉っ! なんで喧嘩なんかしたのっ!」


「……別に…」


「アンタそんなの苦手なんだから、上手く避けないと、これから先大変よ?」


「……わかってるよ」


立ち回り方なら知っている。歯向かわず、へこへこと頭を下げ、媚びへつらえば、相手はこんなになるまで殴らない…。そんなのは小学生の時に気づいた。これが賢い選択…最悪を最小限にとどめることのできる方法…だが、仁井園の凛々しい姿に、神城の、人を思い声をあげる姿に、俺は思い知らされてしまった。


二人が、俺にとってどれだけ大切なモノになっているのかを……


そう、これはきっと…"友情"と言うヤツだ。


長いこと避けてきて、認めたら欲しくなるそれだ――。


それから、色々と母親は準備を済ませると、


「じゃあ、菜衣子のこともあるからお母さん帰るけど、大丈夫?」


「……うん」


「あんま心配はかけないでね」


「わかってるよ」


「明日また来るから、それじゃあね、ゆっくり休みなさい」


「……うす」


こうして母は引き上げていった。一人になり、思い出すと、いっきに恐怖が押し寄せてくる。


「――っ…」


痛かった、怖かった、苦しかった。


もう二度とこんなのはゴメンだ。何故俺がこんな目に遭わなければならない、体が痛い。俺が強ければ、きっとタクシーでみたような顔を、二人にはさせずに済んだのだろう。


情けないやら、悔しいやら、腹が立つやら、申し訳ないやら、沢山の感情がごちゃごちゃと俺をかきまぜる。



……この日、こっそりと一人で泣いたのは、皆には秘密である。














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