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第40話 飛んで火に入る夏の虫、人は苦手なモノを見ると心臓が痛いくらい苦しくなる。

【七五三田 悠莉】




体調も大分落ち着き、キャンプ場に併設されている大きめの銭湯から出る。ギグスはもう少し休むと言う事なので、ニキが付き添い、俺と神城、仁井園は先に戻る話になった。


クーラーのきいた銭湯からでると、モアッとした外気にあてられ、おのおのが不満を口にする。


「うわっ…外あつっ」


「…うへー…ほんとあついね…」


「……あれだな、俺は今日銭湯で寝ようと思う」


「いや、営業時間23時までだからダメじゃん」


いや、仁井園さん冗談ですよ?なんでマジレスしちゃうんだよ、俺がアホの子みたいだろうが…。


そんなやりとりをしてから、各自テントへと戻ることにする。で、テントに戻ったはいいが暑すぎてヤバい。穏やかな虫の鳴き声や、風に揺れる草木の音さえもうざったく感じてしまうレベル。こりゃいかん、と言うことで、俺は少しあるいたところにある自販機へと向かうことにした。


時刻は21時前、眠るには少し早い気がする。つかあれだな、今日ここにいない連中はクーラーのきいた部屋でゲームしたり、テレビ見たり、夏の前に急接近した男女なんかはLINEなんかで"送る相手間違ったフリ"とかしながら話題つくりに必死になり、既読ついてからの一分一秒に全力をそそいで、少し遅く返してじらしたりとかしているのだろう。


クッソ! うらやまけしからん。 そういや学校の中庭の時計台下でいつも昼食をとっていた彼等は、どうなったのだろうか?とか、そんな事を考えていたら自販機に到着する。


俺は小銭をいれ、炭酸飲料を買いたいのを堪えて、スポーツドリンクをチョイスする。


―――ガコン


「熱中症対策…これ大事」


自分で呟いて、さっきまでのぼせてたヤツが何言ってんの?とか思う…。でも聞いてほしい、日本の暑さは毎年更新されているのだ。てかこのままだと日本どころか20年後とかには地球終わっちゃうんじゃないの?大丈夫なの?その時までには是非とも童貞は卒業していたいと思う。切に……っ!


そんなことを思いながら蓋をあけ、スポーツ飲料をぐびぐびと体に流し込む。


「……ふぅ…」


一息つくと、ざわざわと人の声が聞こえ、4~5人の人間がコチラヘと向かってくるのが見えた。俺は自販機に飲み物を買いに来たのだろうと思い、「戻るか…」と呟いて、帰り道であるその集団の方へと歩き始める。


その集団はわりとデカめの声で会話しており、かなり盛り上がっている様子で、男の「ぎゃっはっはっは」と笑う声に、「いやマジだしー」と女の声なんかが聞こえた。まぁ、俗に言うパリピ的な方々のように見える。真ん中を闊歩するそんなパリピ集団の邪魔にならないよう、俺は隅を歩く。断じてビビったからとかそんなんじゃなく、これは俺の優しさである。ほんとだよ?


そして、その集団とすれ違い数歩あるいたところで


「あー!」


と言う女性の大きめの声に驚き、俺は体がビクッとして、咄嗟に振り替える。すると、そいつは俺を指差し、


「やっぱ七五三田じゃん!」


と言ったあと、雲が流れ月明かりに照らされる。


そして、その姿を見た俺は……一瞬、息が止まり、いろんな事が頭を駆け巡り、言葉を失う。


「……―――。」


しかし、そいつは俺のそんな心情などお構いなしに話を続ける。


「やっぱ七五三田来てたんだー、昼間似てるヤツいんなぁ…とか思ってたんだよねー…ほんとぐうぜーん……ふふ、久しぶり、七五三田…」


そして月明かりに照らされ、あの頃と変わらないふわふわとした笑顔でこう言った。


「……月が綺麗ですね?」


よりによってそんな台詞…なんの皮肉だよ………




"(たちばな) 珀李(はくり)"―――――。



***



「でさー、コイツいっつも学校で一人だったんだよ?マジ意味わからなくない?」


「なに?おまえぼっちなの?」


「今もぼっちじゃん! 一人で自販機来てるしっ! はははっ!ウケるーっ!」


橘に話をしようと言われた俺は、過去の記憶から断ることすらできず、ノコノコと彼女等についていき、自販機の前で盛大に絡まれる。


「……ははっ…」


何愛想笑いしてんだ俺…くそ…マジでダサい……


「はーっ! 『ははっ』だって、ウケる」


いやウケねぇから、今のどこにおもしろい要素あったんだよ。橘の友人らしき女性が、橘よりもいじってくる。


「おい、七五三田、友達になってやるから、『わん!』って鳴いてみろ!」


おまえみたいな友人とか御免だわ…友人になるなら…俺はそう思うと、神城と仁井園の顔が浮かんだ。しかし、そんなこと言えるわけもなく、「ははは…」と愛想笑いを続ける。早く終わんねぇかな

……?


絡まれている間、橘の顔を見るたびに思う。こいつは咲来のことを覚えているのだろうか…?と。だが、この様子だと、人の人生を大きく変えた自覚はなさそうだ……そう思うと、腹もたつが、俺自身、咲来を救えなかった事と、威圧的な空気の中、萎縮してしまい、言葉が出てこない……なんとも情けない話だ…。


そして、どのくらい絡まれているだろうか?結構な時間いじられている気がするが、解放される気配はない。なんならそのいじりはエスカレートしている。橘が一人の男友達を煽り、


「七五三田になら肩パン勝てるんじゃね?」


とか言い出す。周りも「そうだ、おまえこのぼっちにも勝てなかったらダサくね?」と言い出し、空気を肩パン対決をさせる方へと運んでいく。なんなんだコイツら。って言うか、明らかにその男の方が俺より体格いいだろうが。ここで俺の"やりたくない"と言う気持ちは届かないだろう……男は「よーし、んじゃやってやるわっ!」とか謎の奮起を見せる。こうして俺も「はやくいけよ!」と女に押され、そいつの前に立たされる。


………こんなのは慣れている。小学、中学と、幾度となく経験してきた事だ。集団で個をいたぶり、優越感を得るための餌となる行為。高校が、すこしばかり特別だったのだ…大丈夫。こんなのは前も経験しただろ。自分に何度も言い聞かせる。



―――――これが終われば、解放されるのだろうか?



そう思った時だった。




「……七五三田?」



聞きなれた声が聞こえる。



「え? あ、ほんとだ。 七五三田なにやってんの?」



最近見慣れた二人が、現れる。


「……仁井園…神城……」


俺は名前を呟く、彼女達を見た瞬間に、少し安心する俺がいる。ソレと同時に、こんな場にきたら彼女達も絡まれるかもしれないと思い、


「なんでもない、おまえら早く戻れ」


と戻るよう促す。しかし、仁井園が


「いや、まだジュース買ってないし」


と言って、俺の周囲を見渡す。そして


「……それに、この雰囲気はなんでもなくはなくない?」


そう言って眉間にシワを寄せる。すると神城も


「うん、ちょっと不穏だよね」


と言って、少し顔が怒っているように見える。すると、橘が


「え?なに?七五三田、まさか女友達できたの?! マジ!?」


と言って、こちらの事などお構いなしに


「快挙じゃーんっ! 咲来ちゃんいなくなって、代わりを見つけられて良かったねーっ!」


(コイツ……ッ!)その言葉をきいた瞬間、俺は我を忘れて橘をぶん殴りたくなる。この感情が大きくなったら殺意と言うものに変わるのかもしれない……すると、仁井園がそんな事どうでもいいとでも言うように


「つか、アンタら邪魔なんだけど? ジュース買えないからどいてくんない?」


と言い、ずかずかとコチラヘ歩いてくる。すると橘が


「えー、七五三田ーこの子こわーい」


とか言う。すると仁井園が


「怖いでしょ? 男に媚売ってお山の大将気取ってる女とは違うから、アタシは」


と、またピシャリと言う。


「……は? えー? 何々? 喧嘩売ってるー?」


少しイラついたのか、今度は橘が仁井園を煽る。


「はー? えー? てめぇこそさっきっからジロジロこっち見て意味わかんねぇこと言ってんだろうが」


しかし仁井園も負けずに対応する。ってか仁井園さんスイッチ入りすぎですよ、なんでコイツこんな怒ってんだよ。









次回


仁井園 真理子 VS 橘 珀李

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